金融政策

2011年10月12日 (水)

経済学者は東日本大震災の広域性を軽んじているのか?

金融法務事情1931号が発売されました。同号に「東日本大震災の被災企業に対する復興ファイナンス」という論文を書いています。せひご一読下さい。

右論文の問題意識は、東日本大震災における被害の広域性と破壊の深刻性です。沿岸部500Kmにわたる主要市町村がすべて津波で被災しています。これは今まで経験した広域災害をはるかに上回るものであり、これまでも高齢化や縮小傾向があった東北経済とコミュニティーが、津波により壊滅的打撃をうけているという事実をどう受け止め、法政策に反映させるべきなのか、という問題意識です。この点、私は被災地から少し離れた場所では経済活動が正常に行われていることを前提として正常時の物差しで計ると、東北大震災の対応を決定的に誤るという認識にいたりました。この認識は数度にわたる被災地訪問と、被災事業者の現実の認識、被災事業者と支援者・政府関係者・自治体関係者・政治家等との対話、思考を繰り返した結果、たどりついたものです。

しかし、このような認識は共有されているわけではありません。それが政策を誤らせます。本年10月10日の日本経済新聞の経済教室「経済学から見た二重債務問題」をみて、経済学者でも被害の広域性、それによる経済の分断をいまだに過少評価していると痛感しました。

当該記事では、実行すべきではないローンを実行する「第2種の過誤」の問題を論じています。すまわち、「関東大震災時の震災手形の経験からも分かるように、震災後の資金繰り支援策は、それ以前から事業不振状態にある企業の延命策となる危険がある」し、実行すべきローンを実行しないという問題を防ぐ政策が行き過ぎると不良債権を増加させ、将来に禍根を残しかねないので、その轍を踏まないという原則が強調されています。政府は、この原則に忠実で、事業不振状況にあった被災企業には救済の手をのばさないという原則でしばられて行動しているとしか思えない政策ばかり打ち出してきます。

この論考の主張は、たしかに影響度が阪神淡路大震災のように幅1km、長さ20kmの限定された激災地区の復興が問題であれば、そのとおりなのでしょう。地域が限定されていますし、つぶれる企業があっても大阪などから新しい資本がはいって、やがて経済は立ち直ります。阪神・淡路大震災のその後は確かにそういう経過をたどりました(しかし、それでも元にもどるには10年近くかかっています)。

しかし、東日本大震災にこの考えを適用すれば、東北沿岸部の東相馬、相馬、名取、多賀城、東松島、石巻、女川、気仙沼、陸前高田、釜石、宮古などの主要市町村のかなりの企業は救済対象から抜け落ちます。これらの都市の経済はほぼ壊滅状態です。それまで経済的につながっていたところは、すべて分断され、小島小規模経済が点在しているだけの状況になっています。こんなところに今までの考え方を適用したら、赤字基調の企業が多い東北では大半の企業は倒産または廃業です。経済学的・政治的にそれでいいわけがないと思います。これだけの広域がやられている場合には、一時的にはばらまきとなっても復旧をさせキャッシュが回る状態まではもどしてやらないと、すべてがだめになる可能性が高いと思います。

私には、記事をかいた内田浩史神戸大教授と植杉威一郎一橋大准教授は、東日本大震災のインパクトを正確に評価しないまま従来の理論をおうむのように繰り返しているとしか思えませんが、問題は経済学者だけでなく政府・民主党がこのような考え方から抜け出せないという点にあると思われます。

林敏彦同志社大学教授は「大震災の経済学」で阪神・淡路大震災についてこう論じています。『緊急対応としていかに重要であったとはいえ、ボランティアや救援物資が作り出したのは市場経済に浮かぶ「贈与経済」という小島であった。これからの経済的復興はやはり高度に発達した市場経済によらなければ不可能である。復興の第一歩は贈与経済から市場経済への転換をスムースに成し遂げることである。』

しかし林教授はこうも指摘しています。『私が過少評価していたこともあった。震災からの復興過程では、自力復興が可能な人と自力復興が不可能な人との格差が開くという事実だった。災害は社会の最も弱い部分を攻撃する。最も弱い立場の人々が復興を遂げていくには、共助や公助の仕組みが不可欠である。』

こうして、林教授は、東日本大震災があらゆる意味で阪神・淡路大震災を凌駕しており、その復興費用は総額で33兆円をこえると推定し、零細企業が大多数の東北の実情を考慮して使途自由な復興基金を県単位で1兆円の規模で設立することを提唱するのでした。市場経済に転換するまでの緊急時期における共助、公助の対応を真っ先に実行していき、正常な市場経済への転換を促すという復興の政策として一貫している立場といえましょう。

経済教室記事は、今回の震災の規模や被災地の状況の正確な評価のうえにたっているとはいえません。いまだ非常事態であるなかで正常時の物差しで支援対象企業の範囲を絞る主張など、政策としてまったく賛同できません。今、必要なのは公助の仕組なのだということを認識する必要があると思います。

2011年9月24日 (土)

復興ファイナンスの必要性

皆さま、とてもとてもお久しぶりです。

この3か月間、何をしていたかというと、①一橋大学ロースクールでの期末レポート採点準備、②本業が意外にも忙しくなった8月、③被災地支援のための復興ファイアンスのスキーム作り、④法務総合研修所での講演準備と講演、⑤金融法務事情向けの論文作成、とそれなりにかなり忙しく、とてもブログを更新する気持ちが盛り上がりませんでした。

そのかわりといってはなんですが、Twitter(@tomoikenaga)では、600以上もつぶやきまくっておりましたので、それなりに発信はしておりました。それをみていただければ、この間の私のフォーカスが被災地復興に相変わらず集中していたことが理解していただけると思います。

また日弁連東日本大震災・原子力発電所事故等対策本部の委員にも就任し、活動を開始しました。

復興支援策がどのように展開しているかといいますと、このブログを継続してお読みいただいている方はすぐおわかりと思いますが、私の考えがかなり政府・民主党に結果として取り入れられています。これは同じようなことを政府部内でも考えていたということであったためです。ただし、私は二重ローン問題における旧債務の買取りということではなく、資本性資金注入という観点から論じていました。

政府・民主党の二重ローン対策案は、自民党・公明党らが提出し参議院で可決されている「東日本大震災事業者再生支援機構法案」と対立しており、今週からさらに民主・自民・公明の三党での協議が始まっているはずですが、スキームそのものや、買取り価格や、再生支援協議会の関与、買取り規模などの論点の溝が深く、おそらく混迷するものと思われます。

さらに本年9月2日の日本経済新聞では、岩手県で政府が進めている復興支援機構設立が、地域金融機関の買取価格は簿価か最低でも7~8割という主張により、大幅に遅れているという報道がなされました。これは政府・民主党案であっても再生支援機構法案であっても買取りがうまくいかない可能性を非常に示しており、結局は、既存債務買取りということを基軸とする限り、関係者の意見対立が深すぎてうまくいかないのではないか(買取り申請が起こらない)という懸念を強めております。

そこで、④の金融法務事情の論文では、かなり思い切って、復興ファイアンスの中でも復興基金構想や、二重ローン対策の対立点、民間資金導入のスキームについて論じてみました。これには③の復興ファイナンススキームも少しいれてみました。

復興ファイナンスといっても対象企業のサイズや、黒字基調か赤字基調か、壊滅的打撃を受けている場合の社会政策的な思い切った施策が必要か、などで、ずいぶんと様相がちがい、かなりひろい範囲のさまざまなファイアンス手法を使わなければなりません。そこまではとても紙数が少なく論じ切れませんでした。

しかし、24ページを使って被災中小企業・零細事業者向けのファイアンスを考える基本的視座から問題提起も含めて思い切った考えを述べてみました。これには④の法務総合研究所での講演「東日本大震災の経済と法」の準備の過程で理解してきたことも反映させています。金融法務事情編集部にはスペースを大幅にいただき、また締切の点でも無理をきいていただき、本当にありがたく思います。

私の金融法務事情2011年10月10日号の巻頭論文となる「東日本大震災の被災企業に対する復興ファイアンス-中小企業・零細事業者への支援策の展開-」を、ぜひご一読ください。発売は、再来週になります。

2011年6月26日 (日)

二重債務問題対応策は地域復興計画と運用次第、課題は多し

民主党復興検討委員会復興ビジョンチームが、6月10日に東日本大震災の二重債務問題への対応策を発表しました。この内容について中小・零細事業者にかかわる点についてのみ絞って、検討してみたいと思います。

民主党のこの案をうけた民主、自民、公明の三党の方向性や、現在まで出揃っている復興支援策をみていくと、現在の課題に対する効果がどの程度発揮できるのかは、地域復興計画の遂行と施策の運用に大きくかかっており、また、今までのように「キャッシュフローがない企業には再生案は検討しようがない」という考え方から逃れられなければ、清算・廃業の山が築きあげられていき、生き残れる中小零細事業者はわずかとなるという懸念が強く残っていると思います。

まず、民主党案では、旧債務について、以下のような5つの施策が提言されています。

①中小企業再生支援協議会を核とした再生に向けた相談窓口の設置による再生支援と、中小企業基盤整備機構や民間金融機関等が出資する「中小企業再生ファンド」を被災県にも設置し、過剰債務を抱えているが事業再生の可能性のある中小企業に対して出資や債権買取り、デット・エクイティ・スワップ(DES)をふくめた支援を実施する。企業再生支援機構の活用も検討する。

②個人向けの私的整理ガイドラインを整備し、事業性資金を借りている個人事業者に対して自己破産によらず、私的に行った債務免除についても金融機関の無税償却等を可能にする。

③津波被災地においては街づくりがスムースに再開できない等の特殊事情があり、再生可能性を判断するまでの間に一定の時間を要するから、その間は中小企業の旧債務に係る利子負担軽減のスキームとともに、金融機関が返済猶予しつつ新規融資をしやすくする手当を早急に検討する。

④十分な資本的性質が認められる借入金については、金融機関は債務者の財務状況等を判断するにあたって負債ではなく資本としてみなすことができることが金融検査マニュアルに記載ずみであるが、その運用の明確化や周知徹底を図る。

⑤農林水産業の分野では、既存の融資制度を活用し、新規資金と一体での利子負担軽減のスキームがあるため、相談窓口の機能を強化し、引き続き周知徹底を図る。

このうち①から③までは、政策としてかなり前進したと評価できるでしょう。①は企業再生のプロを導入するものであり、また地域別中小企業再生ファンドのアイデアが取り入れられたことは大きく評価したいと思います。また、②は個人の零細事業者にとっては金融機関が債務免除した場合の無税償却を可能にすることで、より柔軟な再生計画が個人事業者にとって可能になりますし、③は遅々として進まない地域の復興事業全体に足を引っ張られている地域中小零細事業者の現状に対して、再生検討が可能となるまで利子負担軽減を図り、新規融資がしやするなる手当を検討するという適切なものであると思います。

全体としては、私がこれまで主張してきたことや、被災地の現状を考えて対応策が検討されているので、「施策自体には高い評価が与えられる」内容になっていると思います。ただし、この施策が本当に効果を発揮するのは、容易ではありません。

第一に指摘したいのは、「再生可能かどうかは、当該中小零細事業者にキャッシュフローがまがりなりにもあるという状態でなければ可能性を判断することはできない」というのが、今までの事業再生の考え方であり、今、事業がまったく動いていない中小零細事業者にとっては可能性は判断できないから、結局③しか意味がないということになる可能性が非常に高いという点です。被災地の現状は一歩も動いておらず、損害が一部にとどまった企業以外は、一歩も進んでいないと理解しています。石巻レポートにも記載したとおり、津波による広範な壊滅的打撃は地域企業の相当数に及んでいます。こうした企業にとっては、事業再開がないかぎり、①②を整えても現実的な意味がありません。要するに塩漬け案になってしまうリスクがあるということです。

第二は、第一と関連しますが、地域の復興整備が進まない限り、これらの施策は効果がでないという点です。被災地では津波による被災地域の建築制限が設けられており、これらの土地の利用は、やっと発表された政府の復興構想会議の「地域類型と復興のための施策」をもとに、地方自治体がそれをどのように取り入れて復興計画を迅速に作れるかにかかってきます。昨日発表された復興構想会議の提言によると、

【類型1】平地に都市機能が存在し、ほとんどが被災した地域では、高台移転が目標だが、適地確保の問題、水産業など産業活動の必要から平地の活用も避けられない。

【類型2】平地の市街地が被災し、高台の市街地は被災を免れた地域では高台市街地への集約を第一に考えるが、平地市街地をすべて移転させることは困難。平地の活用が必要。

【類型3】斜面が海岸に迫り、平地の少ない市街地および集落では、住居等の高台移転が基本。平地は産業機能のみを立地させ、住居の建築を制限する土地利用規制を導入すべきだ。

【類型4】海岸平野部では、海岸部の巨大防潮堤の整備ではなく、新たに海岸部と内陸部での堤防整備と土地利用規制とを組み合わせる。

【類型5】内陸部や、液状化による被害が生じた地域では、被災した住宅・宅地に「再度災害防止対策」を推進。宅地復旧等のための支援。

の5つの類型に分けられており、それぞれの地域において自分がどの類型に該当するかを判断して復興計画をつくることになりますが、この類型は大まかな指針にしかすぎません。

また、復興構想会議の提言ではこう述べています。

 (5)土地利用をめぐる課題

(1)土地利用計画手続きの一本化

 復興事業を円滑かつ、迅速に進めるために都市計画法、農業振興地域整備法、森林法等にかかわる手続きを市町村中心に行われるよう一本化が必要である。

(2)土地区画整理事業、土地改良事業等による土地利用の調整

 高台への集団移転など大規模な土地利用転換を伴う事業を実施する場合、住宅地から農地への転換を円滑に進める仕組みの整備を検討。

(3)被災地における土地の権利関係

 権利者の所在や境界等が不明な土地が復興に向けた地域づくりの支障にならないように、必要な措置を考慮。

 (6)復興事業の担い手や合意形成プロセス

(1)市町村主体の復興

 復興の主体は住民に一番近い市町村が基本。

(2)住民間の合意形成とまちづくり会社等の活用

 地域住民のニーズを尊重するため、住民の意見をとりまとめ、行政に反映するシステムづくりが不可欠。まちづくり会社の活用も含めて有効な手立てを総動員すべきだ。

(3)復興を支える人的支援、人材の確保

 住民の合意形成を支援し、「つなぎ」の役目を果たすコーディネーターやファシリテーターなどの人材は住民内部からの育成が望ましい。まちづくりプランナー、建築家、大学研究者、弁護士などの専門家(アドバイザー)の役割が重要。

(以上は、日本経済新聞Web版2011年6月26日版より抜粋しています。)

3か月またされて地方自治体に全部投げられた形になっており、地方自治体の方々はおそらく頭を抱えているのではないでしょうか。合意形成プロセス(2)など、被災している地域のことを話しているのに平時と同様の発想で、実に牧歌的、それがいいすぎなら理想至上主義的としか言いようがありません。また、法人に漁業権を与える「水産特区」などすでに意見対立が厳しいものまで含められると、おそらく各自治体はよほど強いリーダーのいるところでない限り、計画をまとめるのに大幅な時間がかかる可能性があります。その分だけ、地域の中小零細事業者は待つことを余議なくされますが、その間は廃業のリスクが一方的に高まるだけでしょう。

このままだと、一見よく書けている施策も、現実には整備したが閑古鳥がなくことになりかねません。そういう状況を打ち破るには、第一に地域復興計画策定を夏休み返上で8月末まであげることです。被災地域住民は強くそれを要望すべきですし、役所の方々にもほんとに頑張っていただかなければなりません。遅れれば遅れるだけ、ふるさとの復興の希望は遠のくのです。やるしかありません。各自治体の首長は腹を据えて、自分が思うベストという策を自分の首を差し出す覚悟で策定し、一日も早く実行していただきたいと思います。

第二に、旧来の「再生可能かどうかは、当該中小零細事業者にキャッシュフローがまがりなりにもあるという状態でなければ可能性を判断することはできない」という考え方を捨て去り、①②の施策を運用するほかないと思われます。すなわち、事業再生について、まず、緊急対策としての資本注入を行いキャッシュフローを復活させる運用を行うこと、地域別に設置される中小企業再生ファンドは、当初はそのような社会政策的資本注入を許す柔軟な運用を可能にするという基本的なスタンスで運用にあたり、また、地域の復興計画が遅れていればその進捗状況とできる限り中小零細事業者の再生の関係を切り離していくことを、やるしかありません(ただし、農業・漁業関係はそうはいかないというのが非常に大きな悩みですが)。経済的にも政治的にもこれは本来よろしくないことでしょうが、しかし、今の復興計画のペースにつきあっていたら、東北の多数の中小零細事業者は再生できず廃業の山になることを恐れます。

この点、それだったら二重ローンについて日弁連の提言のように免除すればという声があがるかもしれません。しかし、免除しても上述した状況が変化するわけではまったくないので、意味のないことです。また、そもそも日弁連の免除論は説得力がありません。商工中金組織金融部担当部長で事業再生分野の実務家としても名高い中村廉平さんはこう述べています。「中小企業のなかには強い信念の下に無借金経営を続けている企業や、天災によるリスクを軽減するために保険料負担を甘受してきた企業もある。阪神・淡路大震災や新潟県中越沖地震で被災した企業や、台風で被害を受けた事業者も多大な損害を被り、二重ローンを抱えて苦しんでいる。」「東日本大震災による被災という一事をもって、(法に基づいて行われる原子力問題に伴う損失補償とは別に)既存の借入金を一律に免除する特例的な金融支援策を講じれば、支援対象からはずれた事業者が強い不公平感を抱くことになり、金融機関としての信頼を維持することはできないであろう。」「債務免除は、各事業者の事業価値や事業継続可能性といった個別事情に即し、経済合理性に基づき個別具体的に判断されるべきものであり、復興のビジョンも描かれていない段階で一律の債務免除を正当化することは困難である。」(金融財政事情2011年6月6日号35頁)。まさに、中村さんの言われていることが正論です。日弁連の提言は思慮不足です。

なお、中村さんは、この論考のなかで、デット・デット・スワップ(DDS)、すなわち既存の借入金を金融機関と合意して新規借入金が完済されるまで返済されない等の劣後的条件に変更する手法を主張されています。劣後化された債務は資本的性質が認められる借入金として金融機関の区分では借入金に算入されません。上記の施策①及び④に該当するものであり、優れたアイデアですが、この考えも事業再生の「キャッシュフローなきところ事業再生なし」というドグマが前提であり、キャッシュフローがおこったのちには有効ではあっても、今、キャッシュフローがない中小零細事業者の救済にはすぐには取り入れられないことになります。またDDSを適用できる中小零細事業であっても、地域復興計画の進捗状況に影響を受けるという状況からは逃れられないと思われます。

また、施策には、どのようにこれら施策を実行するコストを負担するのかが書いてありません。中小企業再生支援協議会等の相談窓口設置は補正予算で、中小企業利子軽減については金融機関からの国による金融機関への利子補給を行う必要があるので、これも補正予算で国が負担していくことになるでしょうが、復興構想会議の提言では構想に基づく各地方自治体の財源について臨時増税措置について触れるだけであり、結局、具体策は各地方自治体にゆだねられています。あとは国からの交付金だのみというわけです。その交付金を定める補正予算も政局が混迷しており(誰のせいかはあまりにも明らか)、第三次補正予算の策定も大幅にずれこんでいく可能性があります。従来から主張しているとおり、地方自治体が進める復興計画において実施されるインフラ投資への民間資金の導入の必要性・緊急性はむしろ強まったといえます。この点に関して、マザーファンドとしての震災復興支援ファンドの設置がさらに必要になったと感じます。一刻も早く、震災復興支援マザーファンドと、地域別震災復興支援ファンド(中小企業再生ファンド)を立ち上げる検討をすすめるべきであると思います。

2011年6月 9日 (木)

石巻訪問報告 ー 政策の優先順位をつけよ!

石巻と仙台を訪問して、諸事雑事であっという間に10日近くが過ぎてしまいました。現地の訪問で得た情報は、東京で聞いていることや想像していることと違っており、そのギャップに驚きましたが、まずはこのブログをお読みの方々にも情報共有させていただきたく、ご報告します。

まず、今回の訪問の目的は、中小事業者の現状を把握し、対策を法律家として考えることにありました。したがって、被災者一般の問題については必ずしもフォーカスしていないことをあらかじめお断りしておきます。また石巻からみた政策的課題の整理となっていますが、ここで論じることは東北のそれぞれの地域に適用が可能なものとなっていると考えております。

1.被災地の被災企業の支援策は、地域ごと業種ごとに策定し迅速に実施すべきである。

これはこのブログでもある程度想定をしていましたが、やはりそうでした。ただ現実はもう少しきめ細かい考え方を要求しています。

河北新報によると、石巻は津波による被災地域において被災した4人以上の事業所が1700社以上存在、その従業員数合計は約1万8千人、年間の売上高は推定で約4500億円に上ります。仙台に次ぐ人口16万人を抱える都市、石巻は、日本製紙石巻工場を核とする製紙業、建材メーカーのノダの子会社・石巻合板、セイホクなどを中核とする建材・合板業、ヤマニシなどの造船業、石巻港を基地とする漁業・水産加工業、そしてサービス業の5つに大まかに分けられます。

このうち製紙業、建材・合板業は中核工場の復旧作業が行われており、この業種のサプライチェーンにあたる下請・関係業者も大きな設備を必要とするものではないので、中核工場の復旧の日程が決まれば、サプライチェーンにある企業も中小企業庁の東日本大震災特別融資制度(最長3年間据置、低利・長期融資)を利用して設備復旧を行うので、徐々にではあるが復興し、負債比率はあがるが大丈夫であろうという見方がされています。ただし、海沿いの堤防や港のすぐそばにあるので、建築制限などの影響がでることも考えられます。

しかし、造船業は、韓国メーカーに対抗して技術力・価格競争力もあり、受注も受け、設備もシンジケーション・ローンで高額な資金を調達して設備を更新したばかりなのに、津波で徹底的に設備が破壊されてしまっています。復旧にむけての具体的なスケジュールも出せていないようです。したがって、このサプライチェーンにある企業群もまったく見込みがたっておらず、事業者も事業のめどがたたない以上は借入も起こせない状況であるということです。時間がたてばたつほど廃業のリスクのみが高まってきます。しかも港湾沿いにあり、土地が約80cm陥没し、建築制限も9月までは行われていることから、動きをとろうにもとれない状況です。

漁業・水産加工業は、基地である石巻港の設備が津波で破壊され、陥没しています。市では代替地を探しているようですが、漁港には排水設備、廃油処理設備、冷蔵設備などの機能が必要なため、その復旧には数億円から10億円単位の資金が必要ですが、復旧は遅々として進んでいません。

サービス業については、津波の被害地域以外の地域で営業する飲食・食品業は競合店がなくなってしまったこと、救援に駆けつけている政府・県関係者、NPO等ボランティア、企業の応援者などの企業関係者等で震災特需状況であるので、被災していない地域に代替店を設けることができれば再開して、それなりの営業を行える見込みがあります。しかし、現状はすべてが見えないということで、復旧への動きは弱いという現状です。

このように業種によって状況は違うので、それぞれの業種にあったメニューを用意する必要があります。

漁業・水産加工業にとっては、港の機能を一日でも早く回復させる必要があります。零細業者及び高齢者が多いこの業種では、港の復旧が遅れれば遅れるほど廃業のリスクは高まります。自営業者が多いので、自営業者に対する復興支援策がほとんどない現状では生活費を預金から取り崩しつつ日々を生活している状況にあると想定されます。しかし、港の復旧には港を管理する国・県・市、港を運営する県や市などが出資する会社、港に通じる道路などのインフラを管理する国、県、市が、それぞれ一定の分野について権限をもっており、復旧には国、県、市などが一体として迅速な対応を行うことが必要ですが、そのような体制にはなっていないようです。その体制を作り、港の復旧の工程表を一日でもはやく示すことが第一に打たなければならない対策となります。そのための資金についても、港を運営する会社に対する資本投下の方法を同時に考える必要があり、インフラ投資の方法を固める必要があります。

造船業については、アジアの競争の中で勝ち残ってきた高い技術力・価格競争力を誇る東北の造船会社の設備復旧を国策的に行う必要があり、そのためには公的資金による特別貸付のほか、この段階(すなわち、社会政策としてキャッシュフローもなく資産もなくなった会社への政策的投資を行うべき段階)でも投資してくれる民間資金を導入するための導管を設置する必要があります。そして早く設備復旧に着手し復旧させ、受注を引き戻すことが必要です。ここでも復旧への工程表が必要です。さらに、造船所を支える下請・関連会社もかなりの被害を受けている点からみて、造船会社を頂点とした資本関係がないが一種のグループ企業とみて、サプライチェーンを構成するそれぞれの会社への資本注入も実行しなければなりません。

サービス業については、浸水地域の土地利用がどうなるかでかなり左右されます。代替地を浸水地域以外に見出すことができる事業者で被災前も営業利益がそこそこでていたものは、特別融資制度で一時も早くキャッシュフローを回復するようリスクをとれる環境をつくってやることです。すなわち、石巻全体の復興の見通しがつかないことが、事業者の復興マインドに影を落としており、「もしここで特別融資で借りても返せなくなったら終わりだ」という心理に陥っています。しかし、このような事業者はリスクをとって復旧へと向かわなかったら廃業のリスクのみ大きくなるばかりであることを、存外気づいていません。さらに、特別融資制度は元利据置最長3年という融資とはいえ資本性資金を提供するものであり、それを受けてキャッシュフローを回復させ数ヶ月~2年操業すれば、将来の事業計画もみえてくる可能性があり、もしキャッシュフローが見えて営業利益が確保できそうならば、負債比率が上がりすぎても民事再生法を利用したリストラが可能であることが見えていないことが多いのです。したがって、こういう事業者には、今回特別融資で失敗すれば終わりというわけではなく、次のチャンスもありうるということを理解させ、リスクを今とれるところにはとってもらうことが、優先的な政策目標とならなければなりません。民事再生だけでない、中小企業向けの事業再生ADRのようなものが必要です(その場合は金融機関が貸出債権を無税償却できるようにすることが肝要です)。

2.地元金融機関は資金量が増加しており、運用先の確保が必要。二重ローン問題は将来起こりうるが、今の課題ではない。

金融庁の弾力的な監督指針の運用、保険会社の努力により、被災者への保険金支払いが迅速になされています。その結果、金融機関の預金量は3月に比べて20%も増加しているといわれています。今後は災害救助法及び災害弔慰金の支給等に関する法律による災害弔慰金(死亡の場合は一家族について500万円)などの弔慰金の支給が起こってきます。さらに、被災地にはまだ5%しか配布されていない1700億円の日本赤十字に寄せられた義援金の分配がおこります。被災企業に対する貸出債権の区分は当面見直す必要がないため、引当金を積む必要はありません。したがって、今後とも、しばらくは地元金融機関の預金量は増加していくものと予想されます。

他方において、廃業を決意した事業者の一部は借入金の弁済を行う方もあるようですが、多くは預金をそのままにしています。これは津波被害地域の建築制限が施行され、また、陥没地域の処置が国の復興会議の方針をうけて市レベルで決まってくるという政治スケジュールから、あるいは建築資材の確保が困難という状況から、建物の大幅立替が起こらず、せいぜい小修理にとどまっていることが理由として考えられるほか、日弁連が主導した二重ローン問題について、「徳政令」が発せられるのではないかとして様子をみている事業者も多いからであると推定されています。

地元金融機関の自己資本は当面は心配がいらず、むしろ運用が問題というのはなんともびっくりしますが、これが地元では現実に進行している現象なのです。地元金融機関の資金の運用は当然貸出が第一であって、したがって、金融機関にとっても1で指摘したような業種別の優先的対策を、日程がわかる形で工程を示してもらうことがもっとも重要なのです。中小零細企業が多い東北では、金融機関にとっては、地元中小零細企業と一連托生であり、被災事業者と金融機関の利害はこの点でまったく一致しています。

3.社会政策的投資を第一に行い、やがて純粋な投資を民間が行うための導管が必要。

復興の段階ではいまだに最初の段階にある東北にとって、今は社会政策的な投資が必要であります。たとえば造船業に対する投資、あるいは港湾設備等に対するインフラ投資を、国策として行う資金が必要です。

国の財政に十分余力があるときは、国からの交付金でこのような政策的投資を行うことが考えられますが、歳出90兆円、歳入42兆円であとは国債という借金で補っているわが国にとっては、非常な難題です。阪神・淡路大震災の復興総事業費16兆3000億円のうち、市街地整備に費やされた資金は実に9兆8300億円に上っており、これとは別にまちづくりに2兆8350億円が費やされています。道路、港湾等のインフラ整備にいかに資金が必要かが理解されるわけですが、30兆円とも36兆円とも言われている東日本大震災の復興事業費をかまなうには、民間資金を導入することが必要であることは、このブログで主張してきたところです。このためには、一日でも早い震災復興ファンドの設立が必要です。

ただし、この震災復興ファンドは第一段階では社会政策的投資を行いますので、その本質は義援金的色彩が強いです。しかしその段階を抜けて、企業にキャッシュフローが生まれて業務を1年~2年程度行い計画が見えてきたところでは、今度は投資としての事業再生が必要になるので、そのためのファンドになるという、企業の復旧の度合いに応じてファンドの性格も変わってくるという性質があるようなものでなければなりません。そのための構造はまた別のエントリーで論じますが、今、設立すべきはそのような変化していくファンドなのです。

4.事業者に対する支援策として、災害救助法23条1項7号の生業資金の交付を。

被災事業者はその規模が小さくなればなるほど、非常に厳しい状況におかれ、国からの支援策も貸付以外はないという状況です。しかし、被災者が復興に向けて立ち上がるためには、家族と一緒に暮らせる仮設住宅と働く場所が必要です。従業員は雇用保険等のセーフティネットがありますが、事業者にはなく、生活資金は預金を取り崩し、あるいは義援金を受け取るだけという状況にあります。これでは働く場所の提供が極めて困難になります。

たしかに、過去に出版された災害被災者の法律相談には、解雇された従業員の救済についての叙述はありますが、事業者が生活をどのように支えられるのかについての記述は皆無です。この点、ようやく日弁連も5月26日に声明を出し、災害救助法23条1項7号により、中小零細企業者に対する生業資金を給与すべきであることを訴えています。復興の第一段階にはぜひとも必要と思われる運用であるので、効果は予想よりも限定的かもしれませんが、業務を復旧できる中小零細事業者もでてくると思いますので、ぜひ政府は実行すべきであると考えます。

5.最後に

ー国、被災県市町村は一体となって優先順位が高い中小事業者への支援を即時実行せよ!

現在の菅内閣のもとでは、復旧に向けた対策は効果的に打たれているとは到底いいがたい状況です。早く退陣し、新しい首相のもとで国、被災県市町村が一体となって、きめ細かい対策を優先順位の高いものから次々にうっていくことを強く望みます。それが真の政治主導であり、政治の責任であると思います。

2011年5月19日 (木)

地域別震災復興支援ファンドと事業再生手法(3)

地域別震災復興支援ファンドについていろいろ検討してきました。前にも述べましたが、いかにして早く事業を復旧させるかが被災者と被災企業復興のかぎをにぎります。あれやこれやとファンドの構造を考えるより、既存の制度を流用できればそれがもっとも手っ取りばやいわけです。そこで、独立行政法人中小企業基盤整備機構が投資するファンドのストラクチャーが使えないかを検討してみます。

中小機構が投資しているファンドの構造は以下の図のとおりです。

Saiseifund100712 

投資事業有限責任組合を組成して、そこに金融機関、地方公共団体、中小機構が有限責任組合員(LP)として出資します。投資会社も出資し、投資会社が投資事業有限責任組合の無限責任組合員(GP)として出資し、かつ投資事業有限責任組合(投資ファンド)のGPとして段度の業務執行にあたります。GPは投資ファンドの運用者であり、投資対象である中小企業に投資を行います。ファンドの組成に当たって、中小機構は投資をするかどうかの決定をするにあたり提案者(GPとなる投資会社)から提案を受けてそれを審査します。審査に合格したときにファンドが組成されます。

現在、中小機構では、創業期の企業を支援する企業支援ファンド、成長が見込まれる新事業を展開する企業への中小企業成長支援ファンド、再生に取り組む中小企業を支援する再生ファンドの3つがあります。上記の図は再生ファンドの説明図ですが、企業支援ファンドや中小企業成長支援ファンドも同じストラクチャーをとっています。

再生ファンドの場合、中小機構の出資の上限はファンド総額の2分の1で、過剰債務等により経営状況が悪化しているものの、本業には相応の収益力があり、財務リストラや事業再構築により再生が可能な中小企業が投資対象となっています。

再生ファンドの主要な要件は以下のとおりです。(以下は中小機構ホームページからのコピーです)。

1.出資対象とする組合
 過剰債務等により業況が悪化しているものの、本業には相応の収益力があり再生が見込まれる中小企業の再生を中長期的に支援することを目的とすると認められる投資を行う投資事業有限責任組合(以下「組合」という。)であること。
 投資先企業の清算に伴う短期的な収益獲得を目的とする投資や買い取った債権の転売を目的とする投資などであって、投資先企業の再生を目的とすると認められない投資を行う組合は出資対象としない。

2.組合員としての地位及び出資限度額
 機構は、組合(既存組合であることを妨げない。)の有限責任組合員として参加することとし、1組合につき、出資約束金額総額の2分の1(地方公共団体が出資を行う場合には、当該地方公共団体の出資額と合わせて2分の1)を出資限度とする。

 機構の出資約束金額は、1組合につき、60億円を超えない額とする。ただし、機構が30億円を超える出資を行う場合は、その超過額を上回る金額又は5億円のいずれか高い金額を、適格機関投資家が出資することを条件とする。

3.組合の存続期間
 機構が出資する組合の存続期間は10年以内とする。ただし、有限責任組合員と無限責任組合員との合意の上で、3年を超えない範囲内で延長可能とする。

4.出資金の払い込み方法
 出資約束金額を確定した上での「分割払い」の方式であること。ただし、機構の出資約束金額が10億円以下の場合に限り、「一括払い」であることも可能とする。

5.組合契約に盛り込むべき要件
(1)投資対象 
 投資総額の70%以上は、日本国内に本店(企業組合及び協業組合の場合は、その主たる事務所、個人の場合は、その主たる営業所)を置いて、日本国内で事業を行う中小企業者であって、次の[1]. ~ [5]. のいずれかに該当する者に対する投資であること。
[1]. 産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法施行令第15条第1項各号に掲げる者
[2]. 民事再生法又は会社更生法に基づく手続開始決定会社
[3]. 資産の時価評価の結果等から一定の要件に実質的に該当する事業者
[4]. 中小企業再生支援協議会の再生計画策定支援を受ける者
[5]. 無限責任組合員が策定支援した再生計画に基づき、[1]. から[3]. までに掲げる者から事業を承継する者

(2)投資形態
 投資事業有限責任組合契約に関する法律第3条第1項各号に規定する投資形態によること。

(3)投資先企業に対する支援
 無限責任組合員は、投資後における投資先企業の業況や事業の進捗状況等を継続的に把握するとともに、投資先企業に対して経営、技術等に関する支援を行うものとし、その旨を投資先企業との間で締結する投資契約書、匿名組合契約書等に明記すること。

(4)利益相反
 無限責任組合員は、本組合に不利益が生じないよう利益相反に配慮すること。
[1]. 無限責任組合員は、組合存続期間の2分の1を経過した日又は組合の出資約束金額の総額に占める投資総額の割合が60パーセントを超える日のいずれか早い日までの間は、組合員の事前の承認を得ることなく、本組合の事業と同種又は類似の事業を行うことはできない。
[2]. 無限責任組合員は、組合員の事前の承認を得ることなく、無限責任組合員又は無限責任組合員が運営する他の組合の既存の投資先企業は投資対象としないものとする。

(5)報告義務
 無限責任組合員は、有限責任組合員に対し、次の事項に関し報告するとともに、有限責任組合員から要請があった場合には、投資活動に関する情報の開示を行うこと。なお、[2]. については投資実行の翌月末まで、[3]. については発生後遅滞なく、[5]. については処分収入を得た翌月末までに報告を行うものとする。
[1]. 組合の半期ごとの業務執行状況
[2]. 投資実行した場合の投資先企業の概要、投資額等
[3]. 投資先企業に発生した次に掲げる重要な事情の内容等

 [i]. 投資時点で予定されていなかった、合併、株式交換、株式移転、会社分割、事業譲渡、事業の休止又は廃止、破産、会社更生又は民事再生の手続開始申立等

 [ii]. 上場承認
[4]. 投資先企業の半期ごとの収支その他の経営状況

[5]. 売却・償還等による処分収入を得た場合の当該投資先企業の概要、売却等

(6)管理報酬
 無限責任組合員が組合財産から受領する管理報酬により賄われるべき費用の範囲は、次の各号に掲げるものを基本とする。
[1]. 組合の設立費用
[2]. 投資先の発掘・審査、投資先に対する支援及び組合事業の運営に要する費用

(7)中小企業再生支援協議会との連携
 無限責任組合員は、中小企業再生支援協議会から協力要請があった場合、投資可能な案件に関して再生計画策定支援に参画するなど、中小企業再生支援協議会との連携に努めること。

(8)その他
[1]. 組合は、資金の借入れは行わないこと。
[2]. 無限責任組合員は、出資約束金額総額の1%以上を自ら出資すること。
[3]. 無限責任組合員は、組合財産清算の努力を行った後に、なお残余の未公開株式等が存在する場合には、客観的かつ適正な時価で引き取ること。
[4]. 無限責任組合員が主催する投資委員会へ機構はオブザーバーとして出席することができることを明記すること。
[5].機構は、無限責任組合員の財務内容等の経営状況について、報告を求めることができる

この再生ファンドは、投資対象の企業の収益力があること、すなわち事業が正常な環境で運営されていることを想定して、キャッシュフローがあることを前提にしています。ところが被災企業は当該企業のみならず取引先も被災していて操業がストップしてしまっているので、キャッシュフローがないばかりか、将来の予測もできないので、この再生ファンドのスキームが使えない、というところで停滞しているようです。

そうであるならば、ファンドのスキームが将来使えるようになるために、カンフル剤を被災企業は注射して、とにもかくにも操業を再開してキャッシュの流れを作り出すことが必要です。取引先とも話して、中小企業庁の東日本大震災復興特別貸付を一緒に申請して利用すべきです。この融資は、貸付限度額が大きく、設備資金は15年以内、運転資金は8年以内の貸付期間であり、低利息、据置き期間も最大3年です。この融資を受けてまず復旧にもっていくべきです。

この融資を受けることができるのに受けない被災事業者は、そんなことをしても将来の見込みがたたず、早晩倒産するかもしれないと考えているのかもしれません。お金を借りても将来の見込みが立ちにくく、事業が不安定なのは確かにリスクです。しかし、操業ができずにそのままでいたら、廃業のリスクは日々高まるのです。前者のリスクは、操業が始まりキャッシュが流れ始め数ヶ月すれば将来の図式がすこしは描けるようになり、対応できる可能性がでてます。しかし後者のリスクには対応できません。

まわりの業者で融資を受けている人たちを見てください。少しづつ動き始めているのではないですか。従業員が働いて少しだけど厳しい状況の中で明るくなっていませんか。経営者だからリスクをとっているのです。リスクをとって希望の光をともす、そこから復興が始まります。

不幸にして、うまくいかなくてもまだ打つ手はあります。それが民事再生手続や特定調停手続であり、再生ファンドです。破産法という清算解体という法律ではなく、経営者が経営を続けながら再生をはかる民事再生法という手続があることを忘れてはなりません。また特定調停法もしかりです。

さて、地域別震災復興支援ファンドは、このようなキャッシュフローがなければ動けない再生ファンドから、さらにもう一歩踏み込んで、キャッシュフローが無い段階でも投資を行うことを構想していますし、キャッシュフローが出てきた後の再生ファンドとしての機能も想定していますが、残念ながら本日は時間切れなので(明朝、ロースクールで授業があります)、またこの続きを書きたいと思います。

2011年5月18日 (水)

東電に融資する金融機関の債権カット議論の非論理性について

原発事故の賠償をめぐる議論で、枝野官房長官が金融機関の東京電力に対する貸出債権の免除が必要との見解をのべて、各方面から厳しく批判されていることはご承知のことと思います。私も最近始めたTwitterで「おばかな官房長官が銀行株を数兆円下げてしまった」とけなしました。市場関係者からは東証の斉藤社長をはじめ、マスコミも含めさまざまな方から、思慮がないと厳しく指摘されました。

市場にかかわる者からは、枝野さんや仙石さんのような国民受けするかどうかということをのみバロメーターにものをいうのはよくないというのが共通した理解だと思ってました。(だいたいこの二人は弁護士ですから、法的に筋が通らないことをいっていることは承知しているはずで、確信犯的に市場をかく乱しているのではないかと疑いたくなります。)

ところが、市場関係者で有名な佐山展生さんがTwitterで、「東電問題は、本来リスクを取りお金を出した金融機関、社債権者、株主等が先ずそのリスクに応じた損失を負担すべき。電力株だからといって特別扱いするのであれば上場すべきでない。その認識を確認した上で、東電、安定電力供給システムのあり方につき議論すべき。企業再生支援機構の活用も要検討。」とつぶやいているのを発見しました。正直、びっくりしました。

この短い文から佐山さんの真の意図を測るのは難しいですし、誤解もあるかもしれませんが、そこにあるロジックには、やはり問題があるので議論しておきたいのです。

まず、金融機関は、なぜ原発事故で莫大な賠償責任を負った東電に対する貸付債権を免除しなければならないのでしょうか。

倒産法の秩序の下では、有効に存在する債権は倒産法秩序のもとでしか不利益に取り扱われません。すなわち、会社更生、民事再生、破産という手続の中で、担保権付債権か否かで違いはあるものの、債権額カットは一定の手続で決定されるが、法律上の優先劣後の中でも債権者平等の原則が支配するのであって、手続外でこのような取り扱いを強制することはできません。このような取り扱いはあくまで債権者と債務者の合意によるしかありませんが、金融機関にとってみれば、預金者の資産を預かっており健全な経営を行わなければならないという業法上の義務からいっても、取締役の善管注意義務及び経営判断原則からも、さらに回収不能債権には引当金をあてなければならないという事情からも、合理的な理由がなければ免除はできません。これは法律の立て付けからそうなっているのです。

それでは佐山さんのいっている「リスクをとりお金を出した金融機関」というのは何を意味するのでしょうか。金融機関は確かに信用リスクをとって貸付をしています。その貸付の判断となるのは、上場会社であれば有価証券報告書などの法定の開示書類や、貸出先からの聞き取りの情報、市場における分析等などで、さまざまな情報をベースに信用リスクを評価して与信判断を行っています。しかし、福島第一原発の津波への脆弱性のリスクや原発そのもののリスクというものは、東電の開示書類に記載されたことは皆無なのです。

それでは、金融機関は福島第一原発の危険性を知りえたのでしょうか。だいたい金を借りたい東電が原発は危険だというような情報を金融機関にいうわけもなく、金融機関も知りえないことであったのが実態で、金融機関が福島第一原発のリスクを認識しあるいは認識できる可能性がありながら貸し出したということは、非常に困難でしょう。なにせ多数の原子力の専門家をそろえていた政府からして、原発は安全という立場だったのです。ですから、金融機関は他の一般債権者と同程度の認識しかなかったというべきです。つまり、一般債権者よりも金融機関が不利に取り扱われるべき理屈はなりたちません。すなわち、債権の取り扱いという意味では、福島第一原発事故で東電に対して損害賠償請求権を有している多数の福島県民や企業・団体と同じ地位にあるのです。

それでは、社債権者はどうでしょうか。社債権者も東電の信用リスクをとっているのですが、彼らが信用リスクをとるかどうかの判断の第一の資料となるのは、有価証券報告書等の法定開示書類です。先ものべたとおり、原発のリスクは開示されたことはありませんし、その他の情報で社債権者が社債購入を決めていても、原発リスクを認識して購入しているということはありえないといってしまっていいと思います。ですから、社債権者がとっているリスクは、東電と取引関係に入っている債権者と同様に、東電の倒産リスクというもの以上ではないはずであって、これまた社債権者を特に不利益に扱う理屈はたたないわけです。

では株主はどうでしょうか。株主は有限責任をおっているので、最終的には責任をとらなければなりません。しかし、その責任の取り方は法的には出資相当額を失うということなのです。、有限責任は債権者に対する支払いに財産があてられ、たとえ支払に宛てる財産が足らなくてもそれ以上の負担をかぶらないという意味です。すなわち、論理として株主は株主たる地位がなくなるという意味の責任をとる必要はあるが、それ以上ではないのです。

また、債権者を犠牲にしないという観点から株式を減資するとしても、会社法上株主総会の特別決議が必要とされ、議決権ある株主の3分の2以上の賛同がなければできないことになっています。

現状は、電力株だからといって上場規則上特別扱いをしていることはないわけですから、おそらく佐山さんは、政府の原子力賠償スキームに既存株主の犠牲を一切求めないというアプローチがあると考えているのかもしれません。

本当の問題は、原子力事業者の原子力損害に対する無過失責任を定めながら、わずか1200億円を上限とする原子力損害賠償責任保険の付保をもって賠償措置額の措置を義務付けるのみで、「政府は、原子力損害が生じた場合において、原子力事業者(外国原子力船に係る原子力事業者を除く。)が第三条の規定により損害を賠償する責めに任ずべき額が賠償措置額をこえ、かつ、この法律の目的を達成するため必要があると認めるときは、原子力事業者に対し、原子力事業者が損害を賠償するために必要な援助を行なうものとする。」とリップサービスで締めくくった欠陥法である原子力損害賠償法にあったのです。

その欠陥は、大民法学者である故我妻栄東大教授が1960年代に著したジュリストの論文で正当に指摘したとおり、原子力推進という国策をとりながら原子力損害についてはきわめて中途半端なフレームワークを打ち立てた政府と国会の対応にあったわけです。いってみれは、国の立法上の過誤及び時代の進展に対応すべき原子力損害賠償法の改正を行わなかった懈怠が、今回の困難を作り出しているわけです。東電に金を貸した金融機関は責任をとるべきであるという枝野官房長官発言のナンセンスさは、以上の検討によっても一層明白であろうと考える次第です。すなわち、同義的責任をいえば、欠陥法を放置してきた国会議員こそ全員責任をとって議員歳費を返上すべきであるといったほうが、論理一貫しているわけです。しかし、いつの時代にも決して責任はとらない政治家を抱える不幸に、今わが国は直面しているとしかいいようがありません。

2011年5月 8日 (日)

地域別震災復興支援ファンドと事業再生手法(2)

地域別震災復興支援ファンドは、どのようなストラクチャーにすべきでしょうか。このファンドの投資対象たる被災企業が所在する地域の特性を考慮すると、ファンドの資産(サイズ)もさまざまとなることが予想されます。であるとすれば私募ファンドとして地域の実情に応じたファンドのサイズを目指すべきでしょう。仙台市のような大都市であるならば資産百億円単位のファンドもありうるかもしれませんし、陸前高田市のような地域であるならば数億円から数十億円レベルのファンドサイズとなるかもしれません。要するに地域の実情に応じて、対象となる企業はどの程度あるのか、またどの程度の資本投下ができるのかを考慮して設立することになるでしょう。したがって、公募ファンドではなく、私募ファンドとならざるを得ないわけです。

金商法上の私募ということになると、適格機関投資家である銀行や資本金5億円以上の株式会社で金商法上いわゆるアマ成りを選択していない企業や、特定投資家ではない(一般投資家である)企業や個人の投資家の合計49名以下しか勧誘できないものであることになります。また、ファンドの構造はファンドの実際の運用をつかさどるため匿名組合の形態をとり、営業者として投資経験が十分ある企業ないし当該企業の設立する特別目的会社を無限責任業務執行匿名組合員とし、適格機関投資家や一般投資家には有限責任匿名組合員として出資してもらうことになるでしょう。その場合、ファンドの種となるシーズマネーはまず地元金融機関に出資してもらうことになるでしょう。複数の金融機関から一社あたり数千万円~数億円を出資してもらい、残りは地方自治体や、被災地に縁の深い企業、被災地出身の社長がいる上場企業や地元の有力な資産家に出資を求め、当初の目標とするファンドの資産を形成します。そして公募投信たるマザーファンドがこのベビーファンドに投資を行います、しかし、マザーファンドの形成には法的な問題や設立の実務上の問題をクリアするのに時間がまだかかるので、それができるまでは、ベビーファンドの資金で活動を進めていきます。

このファンドの投資対象は、被災のためバランスシートが大きく痛み、設備が損害を受け、キャッシュフローが入ってこなくなっている企業です。しかし、被災地にはその地域の基幹産業である業種を営む企業もあれば、基幹産業に製品・商品を供給している企業や観光・ホテル・外食のようなサービスを営む企業(「すそ野産業」と仮にいっておきます)もあるでしょう。どの業種のどのサイズのどのような企業を投資対象にするのかについては、このファンドの目的からみて、地域経済が立ち直るうえでもっとも重要な基幹産業にまず優先的に投資することが、結局は基幹産業に関連しているすそ野産業に属する企業に仕事とキャッシュが回ってくることになると考えられるので、基幹産業とならざるを得ません。

問題は、基幹産業だけでも復興に時間がかかりそうなのに、その間にすそ野産業に手を差し伸べないとすその産業そのものの存続がだめになってしまう恐れがあることです。優先順位は基幹産業でも、その周りにある産業にも投資の金がいくようなバランスのある投資が必要です。ただ、ここでいうバランスのある投資とは本来の投資の世界とちょっと違います。同一地域で、基幹産業に頼っている周辺産業に投資しても、なんらのリスク分散にはならないからです。基幹産業が倒れれば周辺の産業もだめになるというリスクの高いファンドが震災支援ファンドなのです。したがって投資してくれる団体や個人は、そのようなリスクを理解したうえで投資していただくことになります。

こうしてみると、地域の産業が復活するのに基幹産業またはすそ野産業に属するどの企業に投資していくべきかは、地域のことがよくわかっている者のアドバイスが営業者にとっては重要であることに気づきます。そのような知識経験を持っているのは、地元金融機関がまず第一でしょう。そうすると地元の金融機関は出資者であると同時に投資助言の役割もになうべきことになるでしょう。しかし、通常、地銀や信用金庫は金商法上の投資助言業登録はしていないと思われ、ファンドとの投資契約を結ぶことができないことになります。他方、地方自治体の産業振興担当部門や、事業再生事業に従事する企業で当該地域についての知識経験のあるところは、投資対象の選定について有益な助言ができるでしょう。そこで、これら団体が投資をしているとすれば、金融機関も含めた投資家たるこれら企業・団体をメンバーとするアドバイスを任務とする委員会を匿名組合の中につくって営業者にアドバイスすることが考えられます。金商法上の投資助言ということになると面倒なので、立て付けとしてはあくまでアドバイスをする委員会ということになるでしょう。

さて、ファンドの戦略は何でしょうか。正直いってリスクだらけのファンドです。戦略は、まず資本投下によって設備と雇用を確保して震災前の通常のオペレーションに戻る段階(第一段階)、次に企業として価値を高めていく段階(第二段階)、さらに投資家がexitする段階(第三段階)の3つのフェーズを検討すべきでしょう。どの程度の期間で達成していくかですが、第一段階は2年~3年、第二段階はその後3年~5年という期間でしょうか。第三段階で配当を出すには投資先企業の収益次第ですが、もしあらかじめ定める目標収益値を上回るリターンを出したら、ファンドを運営する無限責任匿名組合員に対する報酬についてボーナスを出すようなストラクチャーをもってもいいと思います。そして、高配当が現実に達成されても、設立後15年以内の配当については配当所得として算入する必要がないという祖税法上の特別措置をとれば、投資インセンティブを与えることができます。

次に投資対象となりうる企業には、どういう条件をつけるべきでしょうか。まず復興に強い意欲をもつ経営者と従業員がいる企業であることは大前提です。次に、復興によって少なくとも第一段階、第二段階の計画を描ける企業でなくてはなりません。この計画の実現可能性をあまり強く要求すると投資する先がなくなってしまいます。基本的には、被災前の売上、利益、ビジネスの成長ぶり等を考慮しなければなりません。しかしこのファンドは基本的には復興への意欲にかけるファンドなので、たとえ被災前の収益状況がよくなくても復興への希望がもてるならば対象からはずす必要はないと思います。

投資対象となる経営者は、このファンドは投資ファンドなのだということを忘れてはなりません。一定の条件を満たせば、どのような企業でももらえる公的な交付金や補助金とは性格がちがうことを、理解すべきです。投資の対象として善意あふれる投資家に答えるため、ちゃんとした復興計画を示し、それを実行することのできる強い意欲がある経営者と従業員の塊でなければなりません。そして、具体的な目標をたてることです。ある会社はファンドの第三段階での上場をめざし、またある会社はそこまでは無理でも第三段階でのROE7%を実現する、といった投資家に投資意欲をわかせるような目標がいるのです。これなくして投資ファンドは成り立ちません。被災しており右も左もまだわからない現状でこのことを語るのは厳しいかもしれません。しかし、運営にあたる無限責任匿名組合員たる企業は投資家に対して、投資について善管注意義務を負っているのです。そういう計画も語れない企業に投資できるわけもないという現実を受け止めなければなりません。

もし、そうではなく単に補助金がほしいならば、それは災害救助法23条1項7号の生業に必要な資金・現物の給付を強く国に求めていくべきでしょう。この点については、従前のエントリーでご紹介した兵庫県弁護士会が経済基盤が脆弱な事業者に対して適用すべきことを指摘しているところであります。実際、同条の生業資金の給付はファンドの投資対象とならならい事業者の最後のよりどころです。また、これまた前のエントリーで述べた震災復興基金を県が設立してその基金からの交付金を当てにすべきでしょう。ただし、阪神淡路大震災の震災復興基金やその他の制度貸付で現金交付しても、兵庫県では倒産率が震災発生2年後からは全国平均を上回っているという現実を想起すべきです。単純に現状にもどすためのカンフル剤としての現金給付や貸付だけでは、生き残ることができない厳しい現実があるのです。これを乗り越えていくためには、中小零細業者は助け合って皆でアイデアを出し合っていかなければなりません。たとえば、ファンドの投資対象となるべく、残された会社資産を利用して新たな共同事業を同業者が団結してできないかどうかなど、文字通り統合化して皆で起業していくような努力が要求されるでしょう。そのために、企業再生のプロである中小企業事業再生機構等が企業を支援しアドバイスをしていくのです。

2011年4月25日 (月)

地域別震災復興支援ファンドと事業再生手法(1)

このブログで何回か主張しました震災復興支援ファンドのうち、地域別に設立する震災復興支援ファンドの構造と中小零細企業への再生支援の方法について考えてみたいと思います。

漁業を例にとります。漁業に従事する方々は東北の被災地にあまたいますが、いずれも中小企業が保有し運用する漁船に雇われ漁業員として乗っているか、あるいは、個人個人で小さい漁船を所有し漁業を行っているかどちらかでしょう。

まず中小企業は、保有する船が完全にやられていると思ってよいでしょう。漁具も流されだめになっているでしょう。会社であれば、資産の部のうちの固定資産が完全にやられている状態です。借入金などの負債を考えれば、この状態では、おそらく債務超過の状態でしょう。民事再生法には、のせられません。事業そのものがとまっておりキャッシュフローがないばかりでなく、仮に事業が動き出しても、債務超過のレベルがひどく、民事再生の手続にはめるのは難しいように思います。仮に再生開始決定がでても(民事再生手続開始の要件は「債務者に破産手続開始の原因となる事実の生ずるおそれがあるとき」または「債務者が事業の継続に著しい支障を来すことなく弁済期にある債務を弁済することができないとき」です)、民事再生計画の承認に必要である再生を行えば清算価値を上回るという保障があるという要件(清算価値保障原則)を満たせないと思われます。

このような中小企業再生のためには、第一に負債の主要部分である借入金の免除により負債の部を軽くしてやること、第二に資本の部に新たな資本注入をして、漁船で修理可能なものは修理し、設備を回復し、ひと時でもはやく海にでたい従業員を海に送り出し、漁獲を確保してキャッシュを生む活動ができるようにしてあげることが必要です。第三に事業活動をささえるだけの無利息ないし低利の融資が必要です。

第一の部分の債務免除は銀行、信用金庫、信用組合、漁業協同組合などの債権者の協力が必要です。これを行うためには、債務免除により痛む自己資本に対する公的資金注入と、債務免除にかかる債権の無税償却が貸し手側には必要です。この役割は、今、政府が進めている金融機能強化法による金融機関の自己的な資本注入に頼ることになります。政府保証枠は12兆円ですから、相当の枠がありますが、これは結局、国の負担となります。

第三の部分は、公的融資、金融機関からの融資となります。これに付け加え、阪神・淡路大震災のときに考案された震災復興基金を設立し、機動性ある資金を確保してその一部を融資にまわすことも考えるべきでしょう。無利息融資の部分を増やしてやることが必要だからです。ただし、債務負担のレベルをあげると、震災後数年で耐えられなくなり、結局倒産にいたる確立が高いという事実があります。ですから、無利子の期間5年程度の融資割合を多くし、有利子負債の割合を抑えてあげるようなアドバイスが必要です。それには資本注入後、業務を再開した後のキャッシュフローと業務活動に必要な費用の予測が必要ですし、また無利子負債、有利子負債のバランス、資金繰表の作成なども必要です。

第二の部分ですが、この資本注入のために地域別震災復興支援ファンドが必要です。なぜならば、国や地方自治体の行う投資活動については、厳密な法的な意味ではないとしても投資対象となる事業は「公的な」ものでなければならないという政治的な制約があるからです。仮に公共目的がない純粋私企業に資本注入を行うことが可能だとしても、投資ができるレベルの中小企業は一定の規模以上に限定されてしまい、どの企業をえらぶのかどうかという公平性の問題がおきる可能性が大です。

それを避けようとすると、公益目的の事業を行う公営企業しかありません。しかし、何十もの私企業を母体として(というか解体して)公営企業とするしかないとすると(宮城県知事の提案はこの発想であろうかと想像しています)、公営企業としての根拠法が必要であり、しかも新設となりますから、役所主導でことが動かざるをえません。一般的な私企業を母体とすることでは公営企業とすることは難いと思います。

しかし、いくつもの私企業が被害をうけているからこそ、そこに働く経営陣と従業員の意欲に期待すべきで、被害の実情もやってきたことも違う人たちを無理に公営企業のもとに統合のは、組織が大きすぎる、チームワークをさせるまでに時間がかかる、効率が悪くなるなどのおそれがあります。餅は餅屋のことわざのとおり、事業の運営は意欲の高い民間にまかせたほうがいいと思います。うまくいくところもあれば、残念ながらうまくいかないところもあるでしょう。しかし、自助努力によって生き延びて強くなってくる企業こそ将来が担えるのです。モラルハザードをおこさないためにも、その淘汰も覚悟すべきでしょう。

また、このブログでみたとおり、国や地方自治体の財源には限度があります。地方自治体も公債を発行できますが、神戸市の実質公債費比率が震災後も改善しないのをみると、震災の影響が長く自治体財政を脅かすものであることが実証されており、なるべく避けるべきであると思われます。福島、宮城、岩手の実質公債比率は15~18%のレベルですから決して良くはありません。

ですから、地方自治体が仮に借金して用意したキャッシュは、一度、公共的な色彩を帯びた器にいれて、それから投資するほかないのです。それが地域版震災復興支援ファンドとなります。

ただ、ここで想起すべきは第三セクターのにがい経験があるということです。第三セクターの問題は、出資した自治体が補償していたことにより際限なく膨れ上がる債務について誰も止めなかったということです。しかしファンドの形態であれば、自治体はファンドを通じて出資はするが、補償はしなくてすみます。失敗すればファンドへの出資は返ってきませんが、出資額が一定程度に納まれば、自治体も耐えられます。自治体の出資比率を小さくして、民間の資金を大きくすることがポイントです。

2011年4月16日 (土)

東証、復興ファンド開発・上場の支援の基本方針を表明

このブログで主張している民間資金の復興財源へのアイデアである震災支援ファンドのアイデアを、全国倒産処理弁護士ネットワークのメーリングリストに載せました。反響は「ゼロ」!皆さん、ぴんとこないのでしょうし、このグループの性質上、私のようにどちらかというと金融に軸足を置いている方はほとんどいないし、倒産実務の処理に興味がある方ばかりで、仕組みづくりをするということになれていない弁護士が大多数であるから、しょうがないといえばしょうがないのですが、ちょっとがっかりします。弁護士の役割は、実務的処理だけでなく、支援の枠組みづくりもカバーしなければなりません。

しかし昨日、私のブログをのぞいていただいている方が数人おられる東京証券取引所が東日本大震災の被災企業・被災地支援の方針を発表し、その中に復興支援ファンドのアイデアを後押しする対応策が含まれているのを発見し、多いに勇気付けられています。もし私の主張がヒントになっているとしたら、うれしいことです。

東証の基本方針を少しご紹介します。基本方針は2本立てになっており、ひとつは『経営に打撃を受けた上場会社及び上場候補会社の上場廃止や上場審査において柔軟な対応を実施する』という内容です。もうひとつが、当ブログで私が主張していたことに関係する『震災復興に向けた資金調達に関連する金融商品の上場推進』です。

後者の方針は、①復興関連ETFの上場推進、②復興関連REITの上場推進、③復興関連新商品の開発支援の3つからなっております。①は被災した上場企業銘柄を構成銘柄とする株価指数連動ETFの組成・上場支援です。②は被災者向け賃貸住宅等を組み入れた不動産投資法人等の復興関連REITの組成・上場支援で、個人的にはこれに興味があります。街づくりと関連してきますので、開発は長くかかるでしょうが、商品としてはとても面白いアイデアであると思います。そして、③は『復興事業や被災企業の資金調達を支援する事業型ファンド(復興ファンド、インフラファンドなど)のための制度整備を進めるなど、復興事業への中長期の資金調達に寄与する上場商品の開発を支援する』とあります。

③の復興ファンドを上場する際に投資対象になる被災企業の規模をどの程度とするかは、上場ファンドのNAV計算とプライスの公正性を考えると、有価証券報告書を提出している規模とせざるをえない可能性があります。私のアイデアは、サプライチェーンを構成する中小企業、しかも非上場が多数であるということを念頭に置いているので、そのアイデアと東証の方針がどの程度重なるのかは今のところわかりません。しかし、基本的な視点として被災企業に対する資本金調達を含めた資金需要に答え、市場と需要をつなぐ商品開発を支援するという点において、発想が共通する面があり、民間資金の導入に積極的な方針を示したというところは高く評価すべきです。

このようにアイデアを出すことで、被災した企業の規模と需要に応じたきめ細かい支援策が可能となるのですから、こういう考えはどんどん出していただいて、金融業界、事業再生業界のプロフェッショナルと、弁護士、会計士、税理士等の専門家が協力し、復興の役に立ちたいと思っている大多数の国民、投資家、企業とともに、長期にわたり復興にコミットしていきたいと思います。

ただ、資金をどういれるかはまさに実務の世界でして、その点については被災企業の実態を知った上で、適切な資本・負債比率を計算し事業計画を練っていける、あるいはそれを第三者的に評価できる多くの事業再生実務家の知恵が必要です。上場企業は人も知恵も比較的あるでしょうから、中小企業にそのような支援の器を提供しなければなりません。車の両輪のようなものです。私の中小企業事業再生協議会を利用するというアイデアは、地域に密着したそのような専門家を利用するというものです。

この点、岩手県釜石市のTwitterによると、日本政策金融公庫が中小企業事業・農林水産事業向けの個別相談を開始していたり、あるいは国土交通省が「建設企業のための経営戦略アドバイザリー事業」を実施するようですが、こういう支援策もばらばらではまずいので、窓口ひとつで総合的な相談がワンストップで提供できるような体制を早く組んで被災者・被災企業が迅速に再建できるようにすべきです。こういうことこそ国がすばやくやるべきです。経済産業省は原発に追われていますが、事業再生について中小企業庁は重要なイニシアティブをとってきた歴史があるのですから、経産省あたりで統合的なアイデアをまとめていただけないものかと思います。これこそ、金融庁、自主規制期間、経産省、国交省と各自治体の横断的チームを機能的に編成すべきではないでしょうか。

2011年4月14日 (木)

復興ファンド案が浮上!やっと気づいてくれましたか。

このブログで主張しつづけている復興ファンドのアイデアが米国から出されたようです。以下、本日付日経の記事を転載します。

【日米で復興ファンド案 外相会談で調整へ、官民会議も検討

 日米両政府は13日、東日本大震災からの復興に向けた新たな協力体制について調整に入った。具体策として日米の企業が出資する「復興ファンド」の創設や、日米の官民が参加する復興合同会議設置などが浮上している。17日に来日するクリントン米国務長官と松本剛明外相との会談で合意する見通しだ。

 米国側が4月上旬に提案し、日米が詰めの協議に入っている。復興ファンドは日米の企業が出資し、被災地の復興資金として活用する。

 合同会議は両国の企業経営者や政府関係者で構成し、復興事業に関する日米協力の在り方を協議する。米国ではシンクタンクの米戦略国際問題研究所(CSIS)がボーイングなど主要企業とつくる復興支援プロジェクトが20日に発足する予定。キャンベル国務次官補(東アジア・太平洋担当)がオブザーバー参加していることから日本政府と日本経団連が参加することも検討している。

 オバマ米大統領は3月17日の菅直人首相との電話協議で「中長期的な復興も含めてあらゆる支援を行う用意がある」と表明。日本発の経済危機に対する警戒感もあり、原発事故や復興支援を重要課題に掲げている。

 14、15両日にワシントンで開く20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議でも日本の震災復興が議題となる見通し。』

前の何本かのエントリーをぜひご覧いただきたいのですが、その要旨をまとめますと以下のとおりです。

①復興費用は10年間で20兆円をはるかにこえ30兆円近くになると想定されること。

②復興のためには、最初の3~4年に10年間の復興費用合計額の6~7割を投入しないと効果が薄いこと。

③仮に復興費用の合計を30兆円と想定すると、3年間は7兆円~8兆円を投下しなければならないこと。

④しかし、予算規模90兆円で歳入が48兆円しかなく、国債を43兆円も発行する世界一の債務国日本は、追加的国債発行を続けると財政破綻に陥るリスクが高いこと。

⑤消費税1%増税でも毎年2兆円程度しかまかなえないこと。(これは本日はじめて指摘します)

⑥他方、復興のためにはサプライチェーンにある被災企業の能力の復活と雇用の確保、被災者の住宅の確保をいち早く行う必要があること。それは、東北の世界の製造業に対するポジションを守るためにも、迅速に行われるべきこと。

⑦サプライチェーンを守るためには、中小企業、さらには零細企業に対するきめ細かなケアが必要であるが、これらの企業群に対する復興支援は、緊急融資だけでは足りず、それのみだと2年後、3年後に結局は倒産してしまうリスクが過去の経験から明らかであること。

⑧したがって、これらの企業群に対しては、リスクマネーの供給が不可欠であり、融資だけでない資本注入により、生かすべきところはいかし、また、人的資源を糾合すれば再生が可能なものについては新会社設立・資本投下により、技術をもっている人間を生かす事業再生的手法を導入する必要があること。

⑨これを援助するために、宮城、福島、岩手の各地域に複数のベンチャーキャピタル型震災復興支援ファンドを設立し、既存の中小企業事業再生協議会などの器を使って、支援をしていくべきこと。ファンドには地元金融機関等からのシードマネー出資をつのるほか、金融と事業再生のプロの派遣協力、弁護士会の協力もあおぎ、地元をよく知っているプロたちによる積極的支援を行うこと。

⑩また、⑨の震災復興ファンドに潤沢な資金を投入するため、マザーファンドとして「東日本大震災復興支援ファンド」を設立し、公募により広く国民や企業からの投資を募ること。このファンドは、投資リスクが通常より高いが、いまだからこそ国民はリスクを納得して投資してくれるチャンスであること。

さらに原発事故について原子力損害賠償法により東京電力に変り政府が補償しなければならない金額も数兆円にのぼるという報道もなされているところであり、民間資金なしでは復興はできないことはますます明らかになっていると思います。

ところで、日経が東北の被災地出身の経営者の被災者への言葉を連載しています。皆さん、故郷を思う気持ちにあふれています。こうした東北出身の経営者のいる企業に、復興ファンド出資を呼びかけてはどうかと思います。かならずや応えていただけると思います。

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