倒産法

2011年5月19日 (木)

地域別震災復興支援ファンドと事業再生手法(3)

地域別震災復興支援ファンドについていろいろ検討してきました。前にも述べましたが、いかにして早く事業を復旧させるかが被災者と被災企業復興のかぎをにぎります。あれやこれやとファンドの構造を考えるより、既存の制度を流用できればそれがもっとも手っ取りばやいわけです。そこで、独立行政法人中小企業基盤整備機構が投資するファンドのストラクチャーが使えないかを検討してみます。

中小機構が投資しているファンドの構造は以下の図のとおりです。

Saiseifund100712 

投資事業有限責任組合を組成して、そこに金融機関、地方公共団体、中小機構が有限責任組合員(LP)として出資します。投資会社も出資し、投資会社が投資事業有限責任組合の無限責任組合員(GP)として出資し、かつ投資事業有限責任組合(投資ファンド)のGPとして段度の業務執行にあたります。GPは投資ファンドの運用者であり、投資対象である中小企業に投資を行います。ファンドの組成に当たって、中小機構は投資をするかどうかの決定をするにあたり提案者(GPとなる投資会社)から提案を受けてそれを審査します。審査に合格したときにファンドが組成されます。

現在、中小機構では、創業期の企業を支援する企業支援ファンド、成長が見込まれる新事業を展開する企業への中小企業成長支援ファンド、再生に取り組む中小企業を支援する再生ファンドの3つがあります。上記の図は再生ファンドの説明図ですが、企業支援ファンドや中小企業成長支援ファンドも同じストラクチャーをとっています。

再生ファンドの場合、中小機構の出資の上限はファンド総額の2分の1で、過剰債務等により経営状況が悪化しているものの、本業には相応の収益力があり、財務リストラや事業再構築により再生が可能な中小企業が投資対象となっています。

再生ファンドの主要な要件は以下のとおりです。(以下は中小機構ホームページからのコピーです)。

1.出資対象とする組合
 過剰債務等により業況が悪化しているものの、本業には相応の収益力があり再生が見込まれる中小企業の再生を中長期的に支援することを目的とすると認められる投資を行う投資事業有限責任組合(以下「組合」という。)であること。
 投資先企業の清算に伴う短期的な収益獲得を目的とする投資や買い取った債権の転売を目的とする投資などであって、投資先企業の再生を目的とすると認められない投資を行う組合は出資対象としない。

2.組合員としての地位及び出資限度額
 機構は、組合(既存組合であることを妨げない。)の有限責任組合員として参加することとし、1組合につき、出資約束金額総額の2分の1(地方公共団体が出資を行う場合には、当該地方公共団体の出資額と合わせて2分の1)を出資限度とする。

 機構の出資約束金額は、1組合につき、60億円を超えない額とする。ただし、機構が30億円を超える出資を行う場合は、その超過額を上回る金額又は5億円のいずれか高い金額を、適格機関投資家が出資することを条件とする。

3.組合の存続期間
 機構が出資する組合の存続期間は10年以内とする。ただし、有限責任組合員と無限責任組合員との合意の上で、3年を超えない範囲内で延長可能とする。

4.出資金の払い込み方法
 出資約束金額を確定した上での「分割払い」の方式であること。ただし、機構の出資約束金額が10億円以下の場合に限り、「一括払い」であることも可能とする。

5.組合契約に盛り込むべき要件
(1)投資対象 
 投資総額の70%以上は、日本国内に本店(企業組合及び協業組合の場合は、その主たる事務所、個人の場合は、その主たる営業所)を置いて、日本国内で事業を行う中小企業者であって、次の[1]. ~ [5]. のいずれかに該当する者に対する投資であること。
[1]. 産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法施行令第15条第1項各号に掲げる者
[2]. 民事再生法又は会社更生法に基づく手続開始決定会社
[3]. 資産の時価評価の結果等から一定の要件に実質的に該当する事業者
[4]. 中小企業再生支援協議会の再生計画策定支援を受ける者
[5]. 無限責任組合員が策定支援した再生計画に基づき、[1]. から[3]. までに掲げる者から事業を承継する者

(2)投資形態
 投資事業有限責任組合契約に関する法律第3条第1項各号に規定する投資形態によること。

(3)投資先企業に対する支援
 無限責任組合員は、投資後における投資先企業の業況や事業の進捗状況等を継続的に把握するとともに、投資先企業に対して経営、技術等に関する支援を行うものとし、その旨を投資先企業との間で締結する投資契約書、匿名組合契約書等に明記すること。

(4)利益相反
 無限責任組合員は、本組合に不利益が生じないよう利益相反に配慮すること。
[1]. 無限責任組合員は、組合存続期間の2分の1を経過した日又は組合の出資約束金額の総額に占める投資総額の割合が60パーセントを超える日のいずれか早い日までの間は、組合員の事前の承認を得ることなく、本組合の事業と同種又は類似の事業を行うことはできない。
[2]. 無限責任組合員は、組合員の事前の承認を得ることなく、無限責任組合員又は無限責任組合員が運営する他の組合の既存の投資先企業は投資対象としないものとする。

(5)報告義務
 無限責任組合員は、有限責任組合員に対し、次の事項に関し報告するとともに、有限責任組合員から要請があった場合には、投資活動に関する情報の開示を行うこと。なお、[2]. については投資実行の翌月末まで、[3]. については発生後遅滞なく、[5]. については処分収入を得た翌月末までに報告を行うものとする。
[1]. 組合の半期ごとの業務執行状況
[2]. 投資実行した場合の投資先企業の概要、投資額等
[3]. 投資先企業に発生した次に掲げる重要な事情の内容等

 [i]. 投資時点で予定されていなかった、合併、株式交換、株式移転、会社分割、事業譲渡、事業の休止又は廃止、破産、会社更生又は民事再生の手続開始申立等

 [ii]. 上場承認
[4]. 投資先企業の半期ごとの収支その他の経営状況

[5]. 売却・償還等による処分収入を得た場合の当該投資先企業の概要、売却等

(6)管理報酬
 無限責任組合員が組合財産から受領する管理報酬により賄われるべき費用の範囲は、次の各号に掲げるものを基本とする。
[1]. 組合の設立費用
[2]. 投資先の発掘・審査、投資先に対する支援及び組合事業の運営に要する費用

(7)中小企業再生支援協議会との連携
 無限責任組合員は、中小企業再生支援協議会から協力要請があった場合、投資可能な案件に関して再生計画策定支援に参画するなど、中小企業再生支援協議会との連携に努めること。

(8)その他
[1]. 組合は、資金の借入れは行わないこと。
[2]. 無限責任組合員は、出資約束金額総額の1%以上を自ら出資すること。
[3]. 無限責任組合員は、組合財産清算の努力を行った後に、なお残余の未公開株式等が存在する場合には、客観的かつ適正な時価で引き取ること。
[4]. 無限責任組合員が主催する投資委員会へ機構はオブザーバーとして出席することができることを明記すること。
[5].機構は、無限責任組合員の財務内容等の経営状況について、報告を求めることができる

この再生ファンドは、投資対象の企業の収益力があること、すなわち事業が正常な環境で運営されていることを想定して、キャッシュフローがあることを前提にしています。ところが被災企業は当該企業のみならず取引先も被災していて操業がストップしてしまっているので、キャッシュフローがないばかりか、将来の予測もできないので、この再生ファンドのスキームが使えない、というところで停滞しているようです。

そうであるならば、ファンドのスキームが将来使えるようになるために、カンフル剤を被災企業は注射して、とにもかくにも操業を再開してキャッシュの流れを作り出すことが必要です。取引先とも話して、中小企業庁の東日本大震災復興特別貸付を一緒に申請して利用すべきです。この融資は、貸付限度額が大きく、設備資金は15年以内、運転資金は8年以内の貸付期間であり、低利息、据置き期間も最大3年です。この融資を受けてまず復旧にもっていくべきです。

この融資を受けることができるのに受けない被災事業者は、そんなことをしても将来の見込みがたたず、早晩倒産するかもしれないと考えているのかもしれません。お金を借りても将来の見込みが立ちにくく、事業が不安定なのは確かにリスクです。しかし、操業ができずにそのままでいたら、廃業のリスクは日々高まるのです。前者のリスクは、操業が始まりキャッシュが流れ始め数ヶ月すれば将来の図式がすこしは描けるようになり、対応できる可能性がでてます。しかし後者のリスクには対応できません。

まわりの業者で融資を受けている人たちを見てください。少しづつ動き始めているのではないですか。従業員が働いて少しだけど厳しい状況の中で明るくなっていませんか。経営者だからリスクをとっているのです。リスクをとって希望の光をともす、そこから復興が始まります。

不幸にして、うまくいかなくてもまだ打つ手はあります。それが民事再生手続や特定調停手続であり、再生ファンドです。破産法という清算解体という法律ではなく、経営者が経営を続けながら再生をはかる民事再生法という手続があることを忘れてはなりません。また特定調停法もしかりです。

さて、地域別震災復興支援ファンドは、このようなキャッシュフローがなければ動けない再生ファンドから、さらにもう一歩踏み込んで、キャッシュフローが無い段階でも投資を行うことを構想していますし、キャッシュフローが出てきた後の再生ファンドとしての機能も想定していますが、残念ながら本日は時間切れなので(明朝、ロースクールで授業があります)、またこの続きを書きたいと思います。

2011年5月18日 (水)

東電に融資する金融機関の債権カット議論の非論理性について

原発事故の賠償をめぐる議論で、枝野官房長官が金融機関の東京電力に対する貸出債権の免除が必要との見解をのべて、各方面から厳しく批判されていることはご承知のことと思います。私も最近始めたTwitterで「おばかな官房長官が銀行株を数兆円下げてしまった」とけなしました。市場関係者からは東証の斉藤社長をはじめ、マスコミも含めさまざまな方から、思慮がないと厳しく指摘されました。

市場にかかわる者からは、枝野さんや仙石さんのような国民受けするかどうかということをのみバロメーターにものをいうのはよくないというのが共通した理解だと思ってました。(だいたいこの二人は弁護士ですから、法的に筋が通らないことをいっていることは承知しているはずで、確信犯的に市場をかく乱しているのではないかと疑いたくなります。)

ところが、市場関係者で有名な佐山展生さんがTwitterで、「東電問題は、本来リスクを取りお金を出した金融機関、社債権者、株主等が先ずそのリスクに応じた損失を負担すべき。電力株だからといって特別扱いするのであれば上場すべきでない。その認識を確認した上で、東電、安定電力供給システムのあり方につき議論すべき。企業再生支援機構の活用も要検討。」とつぶやいているのを発見しました。正直、びっくりしました。

この短い文から佐山さんの真の意図を測るのは難しいですし、誤解もあるかもしれませんが、そこにあるロジックには、やはり問題があるので議論しておきたいのです。

まず、金融機関は、なぜ原発事故で莫大な賠償責任を負った東電に対する貸付債権を免除しなければならないのでしょうか。

倒産法の秩序の下では、有効に存在する債権は倒産法秩序のもとでしか不利益に取り扱われません。すなわち、会社更生、民事再生、破産という手続の中で、担保権付債権か否かで違いはあるものの、債権額カットは一定の手続で決定されるが、法律上の優先劣後の中でも債権者平等の原則が支配するのであって、手続外でこのような取り扱いを強制することはできません。このような取り扱いはあくまで債権者と債務者の合意によるしかありませんが、金融機関にとってみれば、預金者の資産を預かっており健全な経営を行わなければならないという業法上の義務からいっても、取締役の善管注意義務及び経営判断原則からも、さらに回収不能債権には引当金をあてなければならないという事情からも、合理的な理由がなければ免除はできません。これは法律の立て付けからそうなっているのです。

それでは佐山さんのいっている「リスクをとりお金を出した金融機関」というのは何を意味するのでしょうか。金融機関は確かに信用リスクをとって貸付をしています。その貸付の判断となるのは、上場会社であれば有価証券報告書などの法定の開示書類や、貸出先からの聞き取りの情報、市場における分析等などで、さまざまな情報をベースに信用リスクを評価して与信判断を行っています。しかし、福島第一原発の津波への脆弱性のリスクや原発そのもののリスクというものは、東電の開示書類に記載されたことは皆無なのです。

それでは、金融機関は福島第一原発の危険性を知りえたのでしょうか。だいたい金を借りたい東電が原発は危険だというような情報を金融機関にいうわけもなく、金融機関も知りえないことであったのが実態で、金融機関が福島第一原発のリスクを認識しあるいは認識できる可能性がありながら貸し出したということは、非常に困難でしょう。なにせ多数の原子力の専門家をそろえていた政府からして、原発は安全という立場だったのです。ですから、金融機関は他の一般債権者と同程度の認識しかなかったというべきです。つまり、一般債権者よりも金融機関が不利に取り扱われるべき理屈はなりたちません。すなわち、債権の取り扱いという意味では、福島第一原発事故で東電に対して損害賠償請求権を有している多数の福島県民や企業・団体と同じ地位にあるのです。

それでは、社債権者はどうでしょうか。社債権者も東電の信用リスクをとっているのですが、彼らが信用リスクをとるかどうかの判断の第一の資料となるのは、有価証券報告書等の法定開示書類です。先ものべたとおり、原発のリスクは開示されたことはありませんし、その他の情報で社債権者が社債購入を決めていても、原発リスクを認識して購入しているということはありえないといってしまっていいと思います。ですから、社債権者がとっているリスクは、東電と取引関係に入っている債権者と同様に、東電の倒産リスクというもの以上ではないはずであって、これまた社債権者を特に不利益に扱う理屈はたたないわけです。

では株主はどうでしょうか。株主は有限責任をおっているので、最終的には責任をとらなければなりません。しかし、その責任の取り方は法的には出資相当額を失うということなのです。、有限責任は債権者に対する支払いに財産があてられ、たとえ支払に宛てる財産が足らなくてもそれ以上の負担をかぶらないという意味です。すなわち、論理として株主は株主たる地位がなくなるという意味の責任をとる必要はあるが、それ以上ではないのです。

また、債権者を犠牲にしないという観点から株式を減資するとしても、会社法上株主総会の特別決議が必要とされ、議決権ある株主の3分の2以上の賛同がなければできないことになっています。

現状は、電力株だからといって上場規則上特別扱いをしていることはないわけですから、おそらく佐山さんは、政府の原子力賠償スキームに既存株主の犠牲を一切求めないというアプローチがあると考えているのかもしれません。

本当の問題は、原子力事業者の原子力損害に対する無過失責任を定めながら、わずか1200億円を上限とする原子力損害賠償責任保険の付保をもって賠償措置額の措置を義務付けるのみで、「政府は、原子力損害が生じた場合において、原子力事業者(外国原子力船に係る原子力事業者を除く。)が第三条の規定により損害を賠償する責めに任ずべき額が賠償措置額をこえ、かつ、この法律の目的を達成するため必要があると認めるときは、原子力事業者に対し、原子力事業者が損害を賠償するために必要な援助を行なうものとする。」とリップサービスで締めくくった欠陥法である原子力損害賠償法にあったのです。

その欠陥は、大民法学者である故我妻栄東大教授が1960年代に著したジュリストの論文で正当に指摘したとおり、原子力推進という国策をとりながら原子力損害についてはきわめて中途半端なフレームワークを打ち立てた政府と国会の対応にあったわけです。いってみれは、国の立法上の過誤及び時代の進展に対応すべき原子力損害賠償法の改正を行わなかった懈怠が、今回の困難を作り出しているわけです。東電に金を貸した金融機関は責任をとるべきであるという枝野官房長官発言のナンセンスさは、以上の検討によっても一層明白であろうと考える次第です。すなわち、同義的責任をいえば、欠陥法を放置してきた国会議員こそ全員責任をとって議員歳費を返上すべきであるといったほうが、論理一貫しているわけです。しかし、いつの時代にも決して責任はとらない政治家を抱える不幸に、今わが国は直面しているとしかいいようがありません。

2011年5月 8日 (日)

地域別震災復興支援ファンドと事業再生手法(2)

地域別震災復興支援ファンドは、どのようなストラクチャーにすべきでしょうか。このファンドの投資対象たる被災企業が所在する地域の特性を考慮すると、ファンドの資産(サイズ)もさまざまとなることが予想されます。であるとすれば私募ファンドとして地域の実情に応じたファンドのサイズを目指すべきでしょう。仙台市のような大都市であるならば資産百億円単位のファンドもありうるかもしれませんし、陸前高田市のような地域であるならば数億円から数十億円レベルのファンドサイズとなるかもしれません。要するに地域の実情に応じて、対象となる企業はどの程度あるのか、またどの程度の資本投下ができるのかを考慮して設立することになるでしょう。したがって、公募ファンドではなく、私募ファンドとならざるを得ないわけです。

金商法上の私募ということになると、適格機関投資家である銀行や資本金5億円以上の株式会社で金商法上いわゆるアマ成りを選択していない企業や、特定投資家ではない(一般投資家である)企業や個人の投資家の合計49名以下しか勧誘できないものであることになります。また、ファンドの構造はファンドの実際の運用をつかさどるため匿名組合の形態をとり、営業者として投資経験が十分ある企業ないし当該企業の設立する特別目的会社を無限責任業務執行匿名組合員とし、適格機関投資家や一般投資家には有限責任匿名組合員として出資してもらうことになるでしょう。その場合、ファンドの種となるシーズマネーはまず地元金融機関に出資してもらうことになるでしょう。複数の金融機関から一社あたり数千万円~数億円を出資してもらい、残りは地方自治体や、被災地に縁の深い企業、被災地出身の社長がいる上場企業や地元の有力な資産家に出資を求め、当初の目標とするファンドの資産を形成します。そして公募投信たるマザーファンドがこのベビーファンドに投資を行います、しかし、マザーファンドの形成には法的な問題や設立の実務上の問題をクリアするのに時間がまだかかるので、それができるまでは、ベビーファンドの資金で活動を進めていきます。

このファンドの投資対象は、被災のためバランスシートが大きく痛み、設備が損害を受け、キャッシュフローが入ってこなくなっている企業です。しかし、被災地にはその地域の基幹産業である業種を営む企業もあれば、基幹産業に製品・商品を供給している企業や観光・ホテル・外食のようなサービスを営む企業(「すそ野産業」と仮にいっておきます)もあるでしょう。どの業種のどのサイズのどのような企業を投資対象にするのかについては、このファンドの目的からみて、地域経済が立ち直るうえでもっとも重要な基幹産業にまず優先的に投資することが、結局は基幹産業に関連しているすそ野産業に属する企業に仕事とキャッシュが回ってくることになると考えられるので、基幹産業とならざるを得ません。

問題は、基幹産業だけでも復興に時間がかかりそうなのに、その間にすそ野産業に手を差し伸べないとすその産業そのものの存続がだめになってしまう恐れがあることです。優先順位は基幹産業でも、その周りにある産業にも投資の金がいくようなバランスのある投資が必要です。ただ、ここでいうバランスのある投資とは本来の投資の世界とちょっと違います。同一地域で、基幹産業に頼っている周辺産業に投資しても、なんらのリスク分散にはならないからです。基幹産業が倒れれば周辺の産業もだめになるというリスクの高いファンドが震災支援ファンドなのです。したがって投資してくれる団体や個人は、そのようなリスクを理解したうえで投資していただくことになります。

こうしてみると、地域の産業が復活するのに基幹産業またはすそ野産業に属するどの企業に投資していくべきかは、地域のことがよくわかっている者のアドバイスが営業者にとっては重要であることに気づきます。そのような知識経験を持っているのは、地元金融機関がまず第一でしょう。そうすると地元の金融機関は出資者であると同時に投資助言の役割もになうべきことになるでしょう。しかし、通常、地銀や信用金庫は金商法上の投資助言業登録はしていないと思われ、ファンドとの投資契約を結ぶことができないことになります。他方、地方自治体の産業振興担当部門や、事業再生事業に従事する企業で当該地域についての知識経験のあるところは、投資対象の選定について有益な助言ができるでしょう。そこで、これら団体が投資をしているとすれば、金融機関も含めた投資家たるこれら企業・団体をメンバーとするアドバイスを任務とする委員会を匿名組合の中につくって営業者にアドバイスすることが考えられます。金商法上の投資助言ということになると面倒なので、立て付けとしてはあくまでアドバイスをする委員会ということになるでしょう。

さて、ファンドの戦略は何でしょうか。正直いってリスクだらけのファンドです。戦略は、まず資本投下によって設備と雇用を確保して震災前の通常のオペレーションに戻る段階(第一段階)、次に企業として価値を高めていく段階(第二段階)、さらに投資家がexitする段階(第三段階)の3つのフェーズを検討すべきでしょう。どの程度の期間で達成していくかですが、第一段階は2年~3年、第二段階はその後3年~5年という期間でしょうか。第三段階で配当を出すには投資先企業の収益次第ですが、もしあらかじめ定める目標収益値を上回るリターンを出したら、ファンドを運営する無限責任匿名組合員に対する報酬についてボーナスを出すようなストラクチャーをもってもいいと思います。そして、高配当が現実に達成されても、設立後15年以内の配当については配当所得として算入する必要がないという祖税法上の特別措置をとれば、投資インセンティブを与えることができます。

次に投資対象となりうる企業には、どういう条件をつけるべきでしょうか。まず復興に強い意欲をもつ経営者と従業員がいる企業であることは大前提です。次に、復興によって少なくとも第一段階、第二段階の計画を描ける企業でなくてはなりません。この計画の実現可能性をあまり強く要求すると投資する先がなくなってしまいます。基本的には、被災前の売上、利益、ビジネスの成長ぶり等を考慮しなければなりません。しかしこのファンドは基本的には復興への意欲にかけるファンドなので、たとえ被災前の収益状況がよくなくても復興への希望がもてるならば対象からはずす必要はないと思います。

投資対象となる経営者は、このファンドは投資ファンドなのだということを忘れてはなりません。一定の条件を満たせば、どのような企業でももらえる公的な交付金や補助金とは性格がちがうことを、理解すべきです。投資の対象として善意あふれる投資家に答えるため、ちゃんとした復興計画を示し、それを実行することのできる強い意欲がある経営者と従業員の塊でなければなりません。そして、具体的な目標をたてることです。ある会社はファンドの第三段階での上場をめざし、またある会社はそこまでは無理でも第三段階でのROE7%を実現する、といった投資家に投資意欲をわかせるような目標がいるのです。これなくして投資ファンドは成り立ちません。被災しており右も左もまだわからない現状でこのことを語るのは厳しいかもしれません。しかし、運営にあたる無限責任匿名組合員たる企業は投資家に対して、投資について善管注意義務を負っているのです。そういう計画も語れない企業に投資できるわけもないという現実を受け止めなければなりません。

もし、そうではなく単に補助金がほしいならば、それは災害救助法23条1項7号の生業に必要な資金・現物の給付を強く国に求めていくべきでしょう。この点については、従前のエントリーでご紹介した兵庫県弁護士会が経済基盤が脆弱な事業者に対して適用すべきことを指摘しているところであります。実際、同条の生業資金の給付はファンドの投資対象とならならい事業者の最後のよりどころです。また、これまた前のエントリーで述べた震災復興基金を県が設立してその基金からの交付金を当てにすべきでしょう。ただし、阪神淡路大震災の震災復興基金やその他の制度貸付で現金交付しても、兵庫県では倒産率が震災発生2年後からは全国平均を上回っているという現実を想起すべきです。単純に現状にもどすためのカンフル剤としての現金給付や貸付だけでは、生き残ることができない厳しい現実があるのです。これを乗り越えていくためには、中小零細業者は助け合って皆でアイデアを出し合っていかなければなりません。たとえば、ファンドの投資対象となるべく、残された会社資産を利用して新たな共同事業を同業者が団結してできないかどうかなど、文字通り統合化して皆で起業していくような努力が要求されるでしょう。そのために、企業再生のプロである中小企業事業再生機構等が企業を支援しアドバイスをしていくのです。

2011年4月16日 (土)

東証、復興ファンド開発・上場の支援の基本方針を表明

このブログで主張している民間資金の復興財源へのアイデアである震災支援ファンドのアイデアを、全国倒産処理弁護士ネットワークのメーリングリストに載せました。反響は「ゼロ」!皆さん、ぴんとこないのでしょうし、このグループの性質上、私のようにどちらかというと金融に軸足を置いている方はほとんどいないし、倒産実務の処理に興味がある方ばかりで、仕組みづくりをするということになれていない弁護士が大多数であるから、しょうがないといえばしょうがないのですが、ちょっとがっかりします。弁護士の役割は、実務的処理だけでなく、支援の枠組みづくりもカバーしなければなりません。

しかし昨日、私のブログをのぞいていただいている方が数人おられる東京証券取引所が東日本大震災の被災企業・被災地支援の方針を発表し、その中に復興支援ファンドのアイデアを後押しする対応策が含まれているのを発見し、多いに勇気付けられています。もし私の主張がヒントになっているとしたら、うれしいことです。

東証の基本方針を少しご紹介します。基本方針は2本立てになっており、ひとつは『経営に打撃を受けた上場会社及び上場候補会社の上場廃止や上場審査において柔軟な対応を実施する』という内容です。もうひとつが、当ブログで私が主張していたことに関係する『震災復興に向けた資金調達に関連する金融商品の上場推進』です。

後者の方針は、①復興関連ETFの上場推進、②復興関連REITの上場推進、③復興関連新商品の開発支援の3つからなっております。①は被災した上場企業銘柄を構成銘柄とする株価指数連動ETFの組成・上場支援です。②は被災者向け賃貸住宅等を組み入れた不動産投資法人等の復興関連REITの組成・上場支援で、個人的にはこれに興味があります。街づくりと関連してきますので、開発は長くかかるでしょうが、商品としてはとても面白いアイデアであると思います。そして、③は『復興事業や被災企業の資金調達を支援する事業型ファンド(復興ファンド、インフラファンドなど)のための制度整備を進めるなど、復興事業への中長期の資金調達に寄与する上場商品の開発を支援する』とあります。

③の復興ファンドを上場する際に投資対象になる被災企業の規模をどの程度とするかは、上場ファンドのNAV計算とプライスの公正性を考えると、有価証券報告書を提出している規模とせざるをえない可能性があります。私のアイデアは、サプライチェーンを構成する中小企業、しかも非上場が多数であるということを念頭に置いているので、そのアイデアと東証の方針がどの程度重なるのかは今のところわかりません。しかし、基本的な視点として被災企業に対する資本金調達を含めた資金需要に答え、市場と需要をつなぐ商品開発を支援するという点において、発想が共通する面があり、民間資金の導入に積極的な方針を示したというところは高く評価すべきです。

このようにアイデアを出すことで、被災した企業の規模と需要に応じたきめ細かい支援策が可能となるのですから、こういう考えはどんどん出していただいて、金融業界、事業再生業界のプロフェッショナルと、弁護士、会計士、税理士等の専門家が協力し、復興の役に立ちたいと思っている大多数の国民、投資家、企業とともに、長期にわたり復興にコミットしていきたいと思います。

ただ、資金をどういれるかはまさに実務の世界でして、その点については被災企業の実態を知った上で、適切な資本・負債比率を計算し事業計画を練っていける、あるいはそれを第三者的に評価できる多くの事業再生実務家の知恵が必要です。上場企業は人も知恵も比較的あるでしょうから、中小企業にそのような支援の器を提供しなければなりません。車の両輪のようなものです。私の中小企業事業再生協議会を利用するというアイデアは、地域に密着したそのような専門家を利用するというものです。

この点、岩手県釜石市のTwitterによると、日本政策金融公庫が中小企業事業・農林水産事業向けの個別相談を開始していたり、あるいは国土交通省が「建設企業のための経営戦略アドバイザリー事業」を実施するようですが、こういう支援策もばらばらではまずいので、窓口ひとつで総合的な相談がワンストップで提供できるような体制を早く組んで被災者・被災企業が迅速に再建できるようにすべきです。こういうことこそ国がすばやくやるべきです。経済産業省は原発に追われていますが、事業再生について中小企業庁は重要なイニシアティブをとってきた歴史があるのですから、経産省あたりで統合的なアイデアをまとめていただけないものかと思います。これこそ、金融庁、自主規制期間、経産省、国交省と各自治体の横断的チームを機能的に編成すべきではないでしょうか。

2011年4月14日 (木)

復興ファンド案が浮上!やっと気づいてくれましたか。

このブログで主張しつづけている復興ファンドのアイデアが米国から出されたようです。以下、本日付日経の記事を転載します。

【日米で復興ファンド案 外相会談で調整へ、官民会議も検討

 日米両政府は13日、東日本大震災からの復興に向けた新たな協力体制について調整に入った。具体策として日米の企業が出資する「復興ファンド」の創設や、日米の官民が参加する復興合同会議設置などが浮上している。17日に来日するクリントン米国務長官と松本剛明外相との会談で合意する見通しだ。

 米国側が4月上旬に提案し、日米が詰めの協議に入っている。復興ファンドは日米の企業が出資し、被災地の復興資金として活用する。

 合同会議は両国の企業経営者や政府関係者で構成し、復興事業に関する日米協力の在り方を協議する。米国ではシンクタンクの米戦略国際問題研究所(CSIS)がボーイングなど主要企業とつくる復興支援プロジェクトが20日に発足する予定。キャンベル国務次官補(東アジア・太平洋担当)がオブザーバー参加していることから日本政府と日本経団連が参加することも検討している。

 オバマ米大統領は3月17日の菅直人首相との電話協議で「中長期的な復興も含めてあらゆる支援を行う用意がある」と表明。日本発の経済危機に対する警戒感もあり、原発事故や復興支援を重要課題に掲げている。

 14、15両日にワシントンで開く20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議でも日本の震災復興が議題となる見通し。』

前の何本かのエントリーをぜひご覧いただきたいのですが、その要旨をまとめますと以下のとおりです。

①復興費用は10年間で20兆円をはるかにこえ30兆円近くになると想定されること。

②復興のためには、最初の3~4年に10年間の復興費用合計額の6~7割を投入しないと効果が薄いこと。

③仮に復興費用の合計を30兆円と想定すると、3年間は7兆円~8兆円を投下しなければならないこと。

④しかし、予算規模90兆円で歳入が48兆円しかなく、国債を43兆円も発行する世界一の債務国日本は、追加的国債発行を続けると財政破綻に陥るリスクが高いこと。

⑤消費税1%増税でも毎年2兆円程度しかまかなえないこと。(これは本日はじめて指摘します)

⑥他方、復興のためにはサプライチェーンにある被災企業の能力の復活と雇用の確保、被災者の住宅の確保をいち早く行う必要があること。それは、東北の世界の製造業に対するポジションを守るためにも、迅速に行われるべきこと。

⑦サプライチェーンを守るためには、中小企業、さらには零細企業に対するきめ細かなケアが必要であるが、これらの企業群に対する復興支援は、緊急融資だけでは足りず、それのみだと2年後、3年後に結局は倒産してしまうリスクが過去の経験から明らかであること。

⑧したがって、これらの企業群に対しては、リスクマネーの供給が不可欠であり、融資だけでない資本注入により、生かすべきところはいかし、また、人的資源を糾合すれば再生が可能なものについては新会社設立・資本投下により、技術をもっている人間を生かす事業再生的手法を導入する必要があること。

⑨これを援助するために、宮城、福島、岩手の各地域に複数のベンチャーキャピタル型震災復興支援ファンドを設立し、既存の中小企業事業再生協議会などの器を使って、支援をしていくべきこと。ファンドには地元金融機関等からのシードマネー出資をつのるほか、金融と事業再生のプロの派遣協力、弁護士会の協力もあおぎ、地元をよく知っているプロたちによる積極的支援を行うこと。

⑩また、⑨の震災復興ファンドに潤沢な資金を投入するため、マザーファンドとして「東日本大震災復興支援ファンド」を設立し、公募により広く国民や企業からの投資を募ること。このファンドは、投資リスクが通常より高いが、いまだからこそ国民はリスクを納得して投資してくれるチャンスであること。

さらに原発事故について原子力損害賠償法により東京電力に変り政府が補償しなければならない金額も数兆円にのぼるという報道もなされているところであり、民間資金なしでは復興はできないことはますます明らかになっていると思います。

ところで、日経が東北の被災地出身の経営者の被災者への言葉を連載しています。皆さん、故郷を思う気持ちにあふれています。こうした東北出身の経営者のいる企業に、復興ファンド出資を呼びかけてはどうかと思います。かならずや応えていただけると思います。

2011年4月13日 (水)

産業の復興はスピードと大胆さが大事

阪神・淡路大震災に関する林敏彦さんの資料にはたくさんのことを教えられますが、今日は復興資金16兆3,000億円がどの年度にどれくらい使われたかの棒グラフから考えてみたいと思います。

林さんの資料によると、震災が起きた年である1994年が約1兆円、95年約5兆円、96年約2兆円、97年約1兆9,000億円と、最初の4年間に10兆円近くを投入しています。実に復興資金の65%にあたります。

阪神・淡路の復興ができたのは、最初の4年間の集中的な資金の投入があったからであることがこれで読み取れます。それでも、神戸港はアジアのハブ港としての地位を釜山港に奪われてしまいました。

東北の製造業の主力は自動車部品、半導体、ILS、精密部品という高付加価値部品です。これらの部品は日本だけでなく世界の製造業を支えていました。今、サプライチェーンが途切れたことで、日本の製造業は代替品の調達を韓国、台湾、その他の国に求めています。それだけでなく、全世界の自動車メーカーは、供給が途絶えた部品を他国のメーカーに代替させようとしています。

代替が進み固定化してしまうと、神戸港がアジアのハブ港の盟主から滑り落ちたように、東北の製造業の地位を守ることはできません。いち早く製造能力を復活させ、そこで働く人たちの雇用を守ることが、東北の復興にとってきわめて大きな意味を持ちます。

被災者の方々の生活を守るため、生活資金提供と被災者用住宅建設をいち早く推し進めることと、職場に復帰できるように製造拠点を早く回復させることは車の両輪のごとく進まなければなりません。被災者は働けるようになって生活の糧をまた自分で稼げるようになることで、生きる気力と明日への希望がもてるようになるでしょう。このことは水産業、食品加工業でも同じことです。

ところで、政府は年3兆円規模の危機対応融資を以下のとおり実行すると発表しています。

政策金融を活用した大震災
対策「第1弾」の主な内容
●危機対応策の拡充 …年3兆円規模に
低利融資融資金利を0.5%下げ。国費で利子補給
CP購入2000億円規模の購入枠を政投銀向けに設定へ
損害担保融資が焦げ付いた場合の損失の5~8割を国費で補填
●産業再生法認定企業への出資円滑化
損害担保政投銀による出資が焦げ付いた場合の損失の5~8割を国費で補填

これを見ますと、いずれも融資を引き出すための方策です。製造業でいえば第一次サプライヤー、第二次サプライヤーで比較的規模が大きいところには政策投資銀行や商工中金から融資という形で資金がでていきますが、規模が小さい中小企業には、はたしてどれくらい効果があるのかが疑問として残ります。

この点に関連して、阪神・淡路大震災の後の兵庫県の企業の震災関連倒産状況について、帝国データバンクがレポートを発表しています。それによれば震災の年の95年は全国平均に比べると倒産が少ないのに対して、翌年以後は全国平均を上回る二桁倒産が長く続いています。兵庫県内の企業は被災で大きなダメージを受けましたが、緊急融資で一時的に存続できたものの、翌年以後は復興資金の供給があっても倒産の増加は食い止められなかったというのが事実です。特に業種的にみて復興需要が期待された建設業ですら増加し続けたこと、従業員5人以下の零細企業が過半数を占めていること、地場産業である履物、繊維、食品業者が多いことが特徴で、事業規模、企業規模が小さい業種ほどダメージから逃れることが難しかったということです。

つまり、低利融資のカンフル剤はカンフル剤としかきかず、もとから体力の弱い中小零細業者は、一時的にもってもその後続けていくのが難しいということを、このデータは物語っています。

この過去の経験からいえば、融資のみでは限界があるということであり、サプライチェーンにある中小企業を守っていくためには、負債をふやさない資本注入も方法として必要であることを物語っているのではないでしょうか。私がベンチャーキャピタルのようなリスクマネーが必要だという趣旨は、そこにあります。リスクをとって大胆に出資するということを主要地場産業を中心に迅速に進めるべきではないかと思います。

政府は、復興構想会議でぼけた議論をして復興資金の投入のスピードを落としたり、細やかな手当ての検討をおろそかにしてはなりませんが、鈍感力が着物を着て歩いているような首相のもとでは非常に心もとない限りです。

2011年4月 2日 (土)

民間資金の活用と被災者・被災企業のニーズの合致は?

前回のエントリーでは民間資金をどのように集めそれをどのように配分するかを考えました。こんどは現場レベルから考えてみたいと思います。荒削りの思いつきですが、考えるきっかけになることを願って書いてみたいと思います。

被災地の現場では、大量のがれきを整理するところから再建が始まります。再生の意欲が高い経営者と従業員が一体となって復興にむけて頑張っているところが、いくつも報道されています。そういう中小企業も、大地震と津波に襲われる前には銀行や信用金庫、信用組合や農協、漁協から資金を借り入れていたと思われます。担保にとっている土地建物は津波などで失われました。底地は残っていますが、境界が動くなどしているかもしれず、その担保価値が大きく棄損されています。不動産に保険が掛けられている場合は、建物・土地の滅失により支払われるべき保険金請求権に抵当権の効力は及び、金融機関等は保険金請求権の差押・転付命令により貸付債権の回収ができます。しかし、金融機関等がすべて回収をはかったら中小企業の再建は不可能で、倒産処理する以外に道はなくなってしまいます。

被災者には一世帯に数百万円の復興支援金が給付されることになるようです。熱意ある経営者や従業員の中には、その復興支援金の一部をもちよって会社再建に使いたい方々がきっといるはずです。そういう方々を糾合して、そこにさらに資金を供給すれば、再建できるところもたくさんでてくるでしょう。また、経営者が亡くなってしまったが、従業員が生存していて、再建したいと考えているところもでてくるでしょう。既存の金融機関等の債権者との調整が必要になると同時に、復興資金が必要になります。

そこで、中小企業再生支援協議会のプラットホームを使うことが考えられます。既存の中小企業再生支援協議会をベースに「東日本中小企業震災復興再生支援機構」を10年の時限立法でつくり、そこに、リゾースを集中させ、復興のための診断と企業再生計画の支援、資金調達の支援を行わせるのです。

再生支援機構にきた被災企業は、まず被災状況の把握・説明と直近の事業報告書を提出(提出できないときは借入先の金融機関から取り寄せ)し、機構はそのまま再生ができるかどうかの初期診断を迅速にします。再生可能ならばすぐに再生計画の支援業務に移行します。再生不可能であるならば、破産処理等の処理をすすめ、金融機関の無税償却を支援します。こういう業務は弁護士なしでは無理なので、再生機構には各弁護士会が全面的に協力します。また再生支援機構には各金融機関からも金融のプロフェッショナルを派遣してもらいます。

そして、再生可能なところには、前回のエントリーで書いた震災復興公募投信であるマザーファンドから資金調達する地域の震災復興ファンドが出資してサポートしていきます。震災復興ファンドに金融機関に出資を求めるかどうかですが、なしでいくという考え方といくらか出資してらうという考え方があると思います。やはり少しは出資していただいたほうがいいでしょう。しかし、基本はマザーファンドからの出資で運用すべきでしょう。

仮に再生が無理だとしても、意欲ある経営者や従業員を生かすため、これらの方々を糾合した新会社を設立し、そこに経営者・従業員とファンドからの出資を集め、可能であれば銀行からの貸金を行い事業の再生をはかります。こういうメニューをそろえることで、すべてをなくした被災者に等しく希望を与えることができることになります。また、被災前にばらばらだったヒューマンキャピタルを糾合することも可能となります。

このスキームには、①地域の被災企業の実情に応じた迅速かつ柔軟な対応が可能、②国や地方自治体の行政の関与が限定されており、民間の力により効率的な再生業務が可能、③意欲ある被災者を資金がでないということだけで追い込まないような新会社設立等の手段が容易できること、④機構がはいることで、銀行等の金融機関もさらに余力のある範囲で貸金を行うことが可能になること、などの利点があると思います。

ところで「再生できるか」という判断は、これまでの事業再生の基準と根本的に発想を変える必要があります。経営者・従業員の意欲はこれまでになく高まっているが、設備や資本がない状態なのです。すべてをなくした人間のこれしかないという強い意欲に投資しましょう。通常の再生の基準をあてはめてはうまくいかないので、事業再生法の運用はフレキシブルに行うことが重要です。

事業再生ファンドには信用保証協会の保証がありますが、今回も同様な保証を求めていくか、保証協会で対応ができないところは、メガバンクの協力で保証をもらうということもあり得ます。

きわめて荒削りですが、意見を述べさせていただきました。金融と事業再生の知識経験、人材をフルに動員して日本を再生させましょう。コメントは大歓迎です。

2009年5月30日 (土)

マスコミの米国連邦破産法に対する誤解

ここ1ヶ月間のGM及びクライスラーの米国連邦破産法申請に関する報道をみていると、間違いが目立つ、と、一昨日に開催された事業再生機構のシンポジウムで、わが国に米国連邦破産法を本格的に紹介された倒産村の重鎮、高木新二郎先生が指摘されていたので、これを機会に一連の間違いを指摘しておきたいと思います。

まず、なんでチャプター11を米国連邦破産法「11条」といっているのか理解不能です。勉強不足のどこかの通信社がクライスラーの初期の報道の際にこの用語を使ったので、それ以来みな右へならえをしているようです。しかし、昔は報道機関もちゃんと米国連邦破産法「11章」といっていたのです。11章には当然何百という条文がならんでいるので、条文のことを解説するようになると困ったことになります。NHKまで、クローズアップ現代で国谷キャスターが「11条」といっているのには唖然です。国谷さん、だんなさんに聞いてくださいね(もう聞いているかもしれないけれど)。

次に、クライスラーの破産について「プレパッケージ型」とよんでいることについて、高木先生が「プレパッケージ型」というのを完全に誤解していると指摘されています。「プレパッケージ型」というのは、破産申請の前に、スポンサーをつけた再建計画を債権者に示し、あわせて債権者が必要な開示をおこなって少なくとも債権者の90%程度の賛成の議決を得てから破産裁判所に11章の適用申請を行うもので、破産裁判所は最近開示要件を厳しく見ているため、開示を嫌い主要債権者と申請前に再建計画の賛同を交渉して同意をえておくという「プレ・ネゴシエーション型」というタイプの手続きが行われているそうです(高木先生、勉強になりました)。クライスラーはこの「プレ・ネゴシエーション型」であって、プレパッケージ型ではないのに、確かにそのように繰り返し報道されています。私もプレパッケージ型という用語をつかっていたので、これは誤りということです。申し訳ありません。m(_ _)mこのことを意識してか、最近は「事前調整型破綻」といいだしているようです。でも「破綻」という用語を使っていますが、そこまでいうならば、「事前調整型再生手続」といったほうがようさそうです。

第三にチャプター11が日本の民事再生法に相当するといっている点ですが、これも法律家では疑問視する人も多いでしょうし、私もその一人です。むしろ近時始まったDIP型会社更生に近いのではないでしょうか。民事再生法では担保権は別除権として手続の外で行使が可能ですが、チャプター11は自動停止効が担保権の行使にまで及びます。 

第四に、GMの連邦破産法11章適用申請について、日経新聞が、GMの経営陣が28日に弁済日を繰り上げて弁済して適用を申請するが、理論的にこれは可能であると報道しました。このようなことができるならば偏頗弁済を理由とする否認権はどうなってしまうのでしょう???チャプター11では、申請前90日以内の弁済は、否認の対象になります。否認権の対象とならないというのならば、なぜなのかの解説をしてもらいたいです。皆さんが、こういうことができると思ったら間違いが起きます。

第五に、確定拠出型適格年金はERISAという法律で破産手続から隔離されており、適格年金であるかぎり、破産手続の影響をうけません。ところが、GMやクライスラーの報道ではこれもカットされてしまうような印象を与える報道がみうけられます。リタイアした組合員が享受している医療費についても、組合に対するファンディングを50%カットするということは報道されていますが、ERISAとの関係は一切解説されていません。

というわけで、報道機関の皆さんも私と一緒にもっと連邦破産法11章をちゃんと勉強しましょう。ベーシックはここを見れは分かります。↓

http://www.uscourts.gov/bankruptcycourts/bankruptcybasics/chapter11.html#transfer

2009年5月 5日 (火)

クライスラーの手続進行は特別?

クライスラーのチャプター11はもう倒産会社の審尋手続が開催されていると報道されています。

先日記載した手続の進行スケジュールは標準的なもので、連邦倒産法規則に定められているものですが、クライスラーの場合はプレパッケージ型の特則が適用されているようです。

連休で東京を離れており、その根拠が調べられないので東京に帰ってから調査しようと思います。

2009年5月 2日 (土)

クライスラー、ついにチャプター11を申請

クライスラーが、ついに連邦倒産法チャプター11の適用申請に踏み切りました。皆さんの関心はどのように手続きが進行していくかということにあるでしょうから、下記に簡単に記載しておきます。

申立て 自動停止効により債権消滅等の行為が禁止されます。訴訟手続はストップ。

20日以上40日以内

債権者集会  

連邦管財官(US Trustee)という行政官が主宰する、債権者による債務者に対する審尋を行うことを目的としますが、ようするに倒産会社から債権者に対する説明のための集会です。開催日の前に債権者に対する通知が必要ですが、債権者多数の場合には公告がされ個別通知はされません。申立て後に、原則として債権額上位7社の無担保債権者から構成される債権者委員会が結成されます。連邦管財官により上位の債権者から委員を受託する意思のある者が委員として選任されます。このほかに担保権付債権者の委員会、株主委員会も必要があれば選任することができるとされますが、実務ではあまり選任されないようです。

 

債権届出期間の経過

届出をしないとチャプター11の中で債権者として認められません。倒産会社が提出した一覧表に記載されていれば、原則として一覧表の提出により債権届出がなされたものとみなされます。

債権届出期限

裁判所が期限を定めます。何日以内でなければいけないということはありません。

届出債権に対する異議申立期間

異議が申し立てられると聴聞手続があります。

再建計画及びその開示説明書の裁判所への提出

申立をしてから120日間は倒産会社のみが再建計画をいつでも提出できるとされています。

 25日以上

開示説明書の聴聞手続

破産裁判所が再建計画を説明した開示説明書の適切性を判断し、適切であると判断した場合には債権者に配布するのを許可します。

 

開示説明書の配布、債権者に対する投票の勧誘

勧誘できる期間は破産裁判所が決定します。

債権者等による投票

債権の類型ごとに組織される債権者の組ごとの投票が行われ、各組ごとに投票数の3分の2以上、債権者数の過半数の賛成が必要です。

再建計画認可の聴聞手続  

再建計画の認可

破産裁判所が認可事由を満たしている場合に認可します。認可事由には再建計画が清算価値よりも多くの利益を債権者に与えることを保障しているかどうか、実行可能かどうか、再建計画により権利の内容が変更された債権者の組のすべてが賛成しているかどうか、などが含まれます。ただし、すべての債権者の組が賛成していなくても、少なくともひとつの組が賛成していれば、一定の要件をみたせば裁判所は認可をあたえることができ、これをクラムダウンと読んでいます。

建計画の履行

報告書・計算書の提出

チャプター11の終結