内部統制・コンプライアンス

2015年10月15日 (木)

責任者、撤退ルール、責任の取り方を決めるのは経営の要

私は株式会社オートバックスセブンという上場企業の社外監査役を7年間務め、いま、8年目の最終の年を過ごしている。この間、多くの社内役員・社外役員とかなりの数の案件を経営会議や取締役会で議論してきた。それは非常に貴重な体験であり、経営に対するさまざまな見方、リスクに対するさまざまな視点があることを学ばせていただいた。この機会を与えてくれたことに、深い感謝の念をもっている。

特に私が啓発されているのは、社外取締役の島崎憲明さん(元住友商事代表取締役副社長)、同僚社外監査役の清原敏樹さん(元三井物産テクノプロダクツ代表取締役社長)、坂倉裕司さん(前GCAサヴィアン株式会社チーフ・デベロップメント・オフィサー、元日商岩井証券株式会社代表取締役社長)の総合商社(およびその子会社)の経営者出身の3名の社外役員である。

現代の総合商社は、投資会社である。その実態は物を動かすことを前提とする大小さまざまな投資活動をグローバルの規模で行っており、政治的、地政学的、法的リスクの高い国でも多数の投資経験をもっている。その投資活動に長年従事し、組織を効率的に動かし、投資を成功に結び付けるためのポイントの見極めを磨いてきた3人の意見はするどい。

彼らが指摘するさまざまなリスク管理の視点や発言は、弁護士として内部統制・リスク管理に長年取り組んできた者をなるほどと首尾させることが多々あるが、 特に、「プロジェクトがうまくいかなかったときのエクジット・ルールはどうするのか」、そして、「プロジェクトの責任者はいったい誰なのか」を決めるこ と、さらには、「プロジェクトが失敗に終わった時の責任はどうとるのか」および「失敗したプロジェクトは何が原因なのかを分析し全社にフィードバックする」というルールを定めるべきであるとの指摘は、経営責任者の経験ならではであると思う。順番に述べていきたい。

プロジェクトのエクジット・ルールを一般的に定めている事業会社は少ないであろう。しかし、案件ごとに、業績が想定どおりにいかなかった場合に、どのような条件をみたぜばエクジットするかというルールを策定することは、経営にとって重要である。その理由は、私が考えるところ、3つある。

第一は、プロジェクトに対するだらだらとした追加投資や損失の拡大を防止することである。投資を開始するにはそれなりの理由がある。またそのプロジェクトを企画し遂行する担当役員や担当部長の思い入れやメンツもある。予想していなかったリスクが発生することもあるであろう。しかし、投資継続、拡大はあくまで合理的な予測と計画のもとで行われなければならない。その検討が甘ければ取締役の善管注意義務に違反する可能性があるだけでなく、会社資産の減少につながっていく。長くほっておくと処理コストもあがっていく。ずるずると損失が拡大していくということをいくつもの上場企業が経験しているが、それは多くの場合に一度始めてしまったプロジェクトからの撤退のタイミングを見誤ったり、担当役員への遠慮があったりする場合が多いように見受けられる。それを防止するためには、投資開始当初からエクジット・ルールを定めていたほうがよい。

第二は、特にプロジェクトに相手方がいる場合には、エクジット・ルールを定めて、かつ、それが発動できるように契約書に盛り込んでおくことが必要であるという点である。例としてわかりやすいのは、製造業におけるジョイント・ベンチャーである。少し長くなるが、私の経験からこの点を解説する。

私が経験した北米における自動車部品関連の製造JV(圧倒的に北米日系メーカー向け部品の製造販売を主目的とするもの)はすでに20年から25年前の例ではあるが、JV契約にエクジット・ルールが明確化されていないものが多かった。債務超過が清算となると書いてはいるが、その前提としてJVのオペレーティング・コストを補うためのJVパートナーからの貸付ルールや追加出資ルール、債務超過がどの程度続けば清算決議をすべきなのかという点や、清算の場合の損失の分担、事業継続が必要な場合には相手方からの買い取りについての買取価格などについてのルールが、明確に定まっていないものが多かったのである。

JVの目的から日系部品メーカーは受注モデルの生産が続く限り、受注モデル向け部品の製造をやめるわけにはいかないという事情(その他、取引先との関係やローカルコンテント維持などさまざまな要素があった)がある場合が多く、相手方からどうしても持分を買い取り、生産を継続していかなければならない。そこで弱みにつけこまれ、相手方にごねられて、企業価値にまったく釣り合わない価格で買い取らざるを得ない事態がしばしば起こっていた。その結果は、追加投資額と処理コストを含めて、投資回収に20年もかかるような案件となってしまう。最悪の場合には、損失を拡大して子会社となったJVが清算に追い込まれる。それが原因で親会社本体までおかしくなり、身売りしなければならなくなった部品メーカーもあった。

このようなリスクは予想されるので、当時から清算のメカニズムや株式買取の際の処分価格の決定方法など、明確な取り決めをすべきであるとアドバイスしていたが、「これからJVをつくるときに離婚のことを考えるのはできない。」、「相手方を信頼しているのだから、そんなことは交渉できない。」と、極めて日本的な対応を依頼者からされたことを今でも鮮明に思い出す。ところが、米国ではまさに結婚するときに離婚を想定して火花をちらすような交渉を行うこともしばしばであったのだ。そのためのアイデアを米国の弁護士はもっていたが、ことごとくアドバイスは無視されたのである。

営業赤字が3年続けば清算するというルールがあったとしても、それが契約書におちていないと相手方に対して強制はできない。処分価格の決定方法もよくよく考えておかないと相手方がごねていつまでたってもうまくいかない。人質をとられているような状況だから思い切った動きができないのだ。こうしたことを防止するために、エクジット・ルールを定めて細部まで詰めて契約書に落としておかないといけない場合もあるのだ。

第三に、投資として成功なのか、失敗なのかを明確にする基準を設定することで、投資活動そのものに自律性をもたせるということである。つまり、撤退基準を明確にすれば、売上予測や一般管理費・営業利益予測は現実的か、甘くはないか、リスクの見落としはないかといった点を、企画する者が一層精査するようになり、投資活動に自律性が生まれるのだ。新規投資を企画する者は、いったんその計画を策定するとなかなか止まらなくなるという特性がある。事業に対する熱意があればあるほど、熱意が熱病になり、しっかりした見極めが十分できていないということが起こり得る。投資計画の現実性・合理性を担保するためには、エクジット・ルールを定めることをルール化する意味は大きい。

次に「プロジェクトが失敗に終わった時の責任はどうとるのか」というルールについてである。これを指摘されたときには、正直、「さすが生き馬の目を抜く環境でやってきた人のいうことは厳しい。」と思ったが、しかし、考えてみると、これはガバナンス上当たり前であり、かつ機能するルールなのだ。

失敗に終わったときに、すぐに責任を取らされて降格というルールもあるだろうし、ストライク3までは見逃してやるというルールもありうるだろう。重要なのは、このようなルールがあることで、さきほど述べた投資活動の自律性を高めることにつながるのだ。人間、誰しも投資が失敗に終わったときには、それなりの責任を問われるということが最初からわかっていれば、少なくともやるべき精査はやるようになる。もし、責任を誰もとらないということを放置しておけば、会社という組織は腐食していく。責任を取らない上司のもとで働いた人間は自分も責任をとらなくなる。ガバナンスが機能しなくなっていくのだ。

「失敗したプロジェクトは何が原因なのかを分析し全社にフィードバックする」ことの重要性もしかりだ。周囲は失敗に終わった投資活動から、自分が責任者となったときにはその失敗の轍を踏まぬためにどうすべきかという重要なポイントの理解に努めるようになる。社内に「失敗の教訓」の蓄積が起きることは、同時に「取るべきリスクは大胆にとってもいい」という自信につながるだろう。投資活動のPDCAサイクルをまわすことは投資活動の自律性を高め、成功率をあげていくことに寄与するだろう。

3人の元商社マンから啓発された点は大きいが、最後に私が付け加えたいことがある。それはコーポレートガバナンス・コード原則4-2「経営陣の報酬について、中長期的な会社の業績や潜在的リスクを反映させ、健全な企業家精神の発揮に資するようなインセンティブ付けを行うべきである。」、補充原則4-2①「経営陣の報酬は、持続的な成長に向けた健全なインセンティブの一つとして機能するよう、中長期的な業績と連動する報酬の割合や、現金報酬と自社株報酬との割合を適切に設定すべきである。」、および、原則4-3「適切に会社の業績等の評価を行い、その評価を経営陣幹部の人事に適切に反映すべきである。」の3点が責任ルールと同様に重要であるということである。

投資活動は中長期にわたることが多い。成功したときのインセンティブ付けは、失敗したときの責任の取り方と表裏一体である。責任ばかり問うのでは十分でない。成功のインセンティブこそ人の活力を生む。このことも経営者は忘れるべきではない。

【追記】

責任者を決めるということについて書いていなかった。誰がプロジェクトの最終的な責任をとるのかは、所管部署が複数にまたがるときには往々にしてあやふやになる。うまくいったときにはその功は我にありと主張し、うまくいかなかったときにはその責任については誰もが知らんぷりということが起こりかねない。これは、投資行動の自律性に対して決定的な障害となる。最終責任者は誰なのかを明確にしておくことは、エクジット・ルールを定め、責任の取り方を決めておくこととともに、投資行動の自律性を確立する上で極めて重要である。

あたりまえじゃないかという向きがあるかもしれないが、自社の投資について上司がちゃんと責任をとったことがあるかをよく思い出せば、考えを改める方もいるであろう。日本の組織の最大の弱点は「責任」をとらないということである。それは会社だけでなく、地方公共団体、国、スポーツ団体など、ありとあらゆるところに見られる。これを「ガバナンスの欠如」と喝破したのは、久保利英明先生であるが、まさにそのとおりである。また、最終的な責任をとるべき人間が社長であることは自明の理だが、社長が責任の取り方を知らないことも多々見られる(欧米でも引導を渡すのは社外取締役の役割だから自らとるというのは成功体験ある人間にとっては大変なことだ)。経営者たるもの、「責任」という言葉の理解が必要であろう。責任の取り方が抽象的であるわけがないのである。

2015年10月 7日 (水)

リスク管理に攻めも守りもない

よく巷にはコンプライアンスを重視することを「守りの経営」と評し、リスクを大胆にとって成長を図ることを「攻めの経営」と評する論者がいる。

法令遵守ばかりで本当のコンプライアンスの意味がわからなかった経営のもとで窒息しそうだった人々からみれば、「守ってばかりじゃ企業は成長しない。リスクを取らない企業に成長はない。」という意味で「守りの経営」と呼んだのであろう。そう考える心情は理解できる。

しかし、法令遵守は企業倫理として当たり前であり、今時、意図的に違法行為をやっても企業は儲けることを考えるべきであると思っているならば、すでに経営者失格である。まさかそういうことを考えている経営者が大多数とは思えない。

現実に、国際的な独禁法違反事件や汚職防止法違反事件で、刑事責任を追及された日本人が経営者・上級幹部も含めて30名以上米国連邦刑務所で服役している時代だ。巨額の制裁金に集団訴訟も重なり、違法行為の代償は大きすぎる。だから、どんな経営者でも違法行為の代償のおそろしさは理解できているはずだし、怖くてリスクは取れない。

そもそも、法令遵守こそコンプライアンスの本質というような「コンプライアンス経営」は、とっくの昔に否定されている。しかし、コンプライアンス疲れしている経営者には、「コンプライアンス経営」と「攻めの経営」は二律背反に映るのだろう。驚くべきことに、経営者を経験した社外取締役に就任している方の中にもそのようなことを口走る人をさまざまな機会に見かけるから、彼らが経営者であった頃の「コンプライアンス遵守」に疲弊したことがあるのであろう。

しかし、コンプライアンスの手法はつまるところリスク管理である。企業活動のさまざまなリスクを認識し、それに適切に対応していくことを、コンプラ的観点からは、リスクを認識する、或いは適切に対応することが社会常識や企業倫理からみて合理的なものであることが企業のブランド価値を守ることにつながる、といっているわけである。

企業にもさまざまなステージがある。そのおかれた状況により、取れるリスクも取れないリスクもちがってくる。だから、実は「攻めの経営」がすべての企業にできるわけでもないのだ。しかし、リスク管理の根本は企業がどのような状況で、どのような発展段階にあるかによっても左右されない。リスク管理は、企業が守ろうが攻めようが行わなければならないものなのだ。

例えば、会社にとって重要な海外投資プロジェクトがあるとする。その検討過程では、投資対象事業の現実性、将来性、収益性、当該投資を行う際の法務リスク、コンプライアンスリスク、税務リスク、必要とされる人材や確保の問題、カントリーリスク等、さまざまな観点から検討がなされ、ひとつひとつの問題点についての検討がプロジェクトチーム内でなされるであろう。その検討をへて、経営会議や取締役会に議案が上程され、取締役からさまざまな質問がなされる。あらたなリスクの指摘もある。その結果として、ある問題点について、リスクが残っているようであっても、当該リスクをとっても代替手段がある、あるいは投資を中止する、といった合意のもとでゴーサインがでることもある。

このように、リスクの認識と評価、それに対する対応についての考え方は、企業がどんな状況でも同じだ。つまり、主要なリスクはすべて洗い出し認識しなければならない。プロジェクト進行にとって大きなリスクか小さなリスクかを判断し、リスクをとっても進行させるべきかどうかは代替手段が可能か、あるいはそのリスクが発生したらプロジェクトは中止とするエクジットルールを定めておく等の方法で決定する。会社のおかれている状況によって、どの程度のリスクが取れるのかはちがうだろうが、判断のプロセスはぶれない。

だから、会社の経営状況が好調で多少のリスクをとっても投資を実行できる場合であっても、会社の業績が低迷している中、あまり無理はできないという場合であっても、リスク管理自体はまったくかわりない。「攻め」であろうが「守り」であろうが同じなのである。違うとすれば、大きくリスクを取るべきと考える経営者の信念、世界観、将来の見通し、会社の状況はそのようなリスクが顕在化しても耐えられるのか、といった諸点の見方の違いである。それらは、リスク管理の基準や手法とは別のものである。

この海外投資案件の例で、プロジェクトが当該国の政府高官に対してアンダーテーブルの現金を渡さないと進まない可能性が大という報告があったとしよう。この場合に、やむを得ない場合は渡すしかないと考える余地はない。日本の不正競争防止法で海外公務員贈賄罪にふれ、あるいは当該国や米国の海外公務員汚職防止法に該当するような行為を行うことを許せば、それを承認した取締役も同罪である(少なくとも米国では共同謀議が成立してしまう)。これをやってもしょうがないというのは「攻めの経営」ではなく、「経営者の暴走」なのである。したがって、経営者としては、最大限努力して政府高官を説得し、それでもダメならば賄賂はぜったいに渡すこともなく、また話を聞くこともなく、プロジェクトは中止とすると判断するのが当然であろう。

これに対して、この海外投資案件で対象業種について外資規制があり、業務の形態によってはそれにふれるとされる可能性があるとしよう。違法行為の疑いがあるとされる投資に出資するからダメ、というのは簡単である。しかし、詳細な検討をして、違法とされるリスクはどの程度なのか、限界的事例なのかどうか、違法とされた場合の法律違反に対する刑事処罰はなく行政処分だけにとどまるのか、類似事態が担当官のさじ加減ひとつで起こり得るのか、万一違法とされても他の代替手段をとれば違法行為が治癒でき、ダメージはコントロールできるのかといった点について十分かつ説得性のある裏付け(弁護士の意見も含む)があった場合には、違法となる可能性のあるプロジェクトをそのリスクを取って進めることは経営判断の領域の問題である。

結果的にダメージコントロールがうまくいかなくなる可能性はあるが、そのリスクをとっても投資を承認した経営判断が社会的に指弾されるものなのかは大いに疑問だ。これを指して「コンプライアンス軽視だ」という批判は、事を単純化したい一部マスコミにはあるかもしれない。しかし、コンプライアンスを重視したからこそ、リスク管理のステップを踏んで、十分検討したものであるから、その指弾を受けるリスク(レピュテーション・リスク)は低いであろう(このような検討もリスク管理の内容の一つだ)。

このように、リスク管理は会社がいい時も悪い時も必要であり、コンプライアンス経営と結びついているし、「攻めの経営」とも結びついているのだ。そこには攻めも守りもないのである。

仮に投資が失敗した時はどうなるか。これは誰が「責任」をとるかという問題である。この問題はとても大事な問題なので、また、来週取り上げることにする。

2015年10月 1日 (木)

内部監査の軽視は経営の命取りー何もみえないで経営はできない

大手介護施設を運営している会社のいくつかの施設で、虐待や暴力が明らかになり、マスコミが大きく取り上げている。この会社の川崎の施設では、怪死が相次ぎ、警察の捜査も開始されているということだ。この手の会社が社会的非難の対象となるのは当然のことだ。虐待等に加担した職員の民事・刑事の責任だけでなく、その監督者としての民事責任が問われるべきであると、法律家だけでなく一般人も考えるだろう。

私が雑誌に掲載された経営者のインタビューを読んで直ちに考えたことは、「この会社は内部監査をまったく行っていなかったのだろうか」ということだ。それにフォーカスすれば、介護ビジネスを運営する事業主体における内部監査の必要性や重要性を直ちに理解できるはずである。

介護ビジネスは、社会福祉法の規制の下に行われるものであり、都道府県知事の監督を受ける。また介護保険のもとで、報酬は公的な資金から支払われるものである。介護保険施設は所有する都道府県から指定管理者として事業主体が指定を受けることも多々ある。介護ビジネスは法律によって規制された世界なのである。

また、ホームにおける職員の介護行動には一定のルールがある。朝、何時におむつを変え、朝食をどのタイミングで出し、身動きできない施設入居者を何回どのタイミングで寝返りを打たせ、カロリーはどれくらい調節した食事を与え、あるいは胃瘻をしている施設入居者にあたえるのか、といった行動準則である。私の亡き母親も特別養護老人ホームに長くお世話になった。だからそのルールが適切に実施されることで命を永らえていただいてきたことも体感している。

したがって、介護ビジネスではルール順守により介護の質を一定に保つことがビジネスを運営する上で必要不可欠であり、介護施設における虐待、不適切な介護、施設入居者からの預り金の不適切な管理、マニュアルの不遵守に起因する事故等の防止といったことが、ビジネスを守り発展させる前提条件なのだ。

それを一律現場任せにするという発想は経営者として失格だろう。介護ビジネスにおける職員の定着率の悪さは介護ビジネスを知らない者であっても周知の話だ。精神的にも肉体的にもきつい仕事なのに、低賃金のままで、よいスタッフを維持するのは大変なことだ。職員の質を保つためのトレーニング体制も、一部大手を除き、整備している会社や社会福祉法人の方が少ないであろう。実際、特別養護老人ホームを訪れれば、介護を行ったことのない者でも痴ほう症にり患した老人の世話というものがいかに大変なのかはすぐ理解できる。だから介護に向かないスタッフが入り込んでくることも予想できるし、フラストレーションから施設入居者を乱暴にあつかう者がありうることも想定の範囲内である。

きつい、汚い(介護の現場は大変なのだ)、低賃金という職場環境で仕事を続けている介護職員にはただただ頭が下がるばかりだが、そのような介護職員ばかりではない。介護職員の人格のみに依拠した運営は、リスクの放置そのものであり、経営者の怠慢と指弾されて抗弁できるのであろうか。法的に言えば、善管注意義務違反で経営者個人の責任が発生する可能性と隣り合わせの世界なのである。そして残念ながら、小泉政権以来、政府が推し進めている政策では介護報酬はあがらないのだ。だから、施設職員の待遇改善に踏み切れない環境の中、経営者はどうやったら安全にビジネスを運営できるかに当面神経を使わざるを得ない。

その一方策としては、内部監査が有効であろう。内部監査専門の人間が現場に赴き、金銭管理、業務マニュアル遵守状況、その他異常事態が発生していないかをチェックし、現場にフィードバックしていくのである。そのことは結局、一生懸命働いてくれている介護職員を守ることにつながるのだ。人間の弱さがでたときに不祥事は起こる。そして、それが発生したときはビジネスそのものが立ち行かなくなるかもしれない。内部監査は、施設入居者を守り、介護職員を守り、そして経営そのものを守るものなのだ。

しかし、これは何も介護ビジネスに限った話ではない。いまさらながらだが、内部監査は経営に必要な機能なのだ。そのことについてはたくさんの人が語っているのだが、経営者はいったいどれくらい理解しているのか。特に、監査等委員会設置会社に移行した180社を超える上場企業で内部監査部を充実させる経営者がどれくらいいるのか。このテーマについては、次の機会に述べてみたい。

2015年1月22日 (木)

会計監査人の選解任権の変更とその対応

上場企業の社外監査役ですので、私もこのブログの読者の皆さんと同様、平成26年改正会社法により次の株主総会まで何をしなければならないかが気になっているところであり、それがこのブログでやや自分の勉強としての手控えをアップしている主要な理由ですが、本日は、会計監査人の選解任等に関する議案の内容は監査役会が決定することとされた点について(改正法344条)とりあげます。一番気になるのは次の株主総会招集通知を発する際にはどうなるかという点です。

改正法の施行日は本年
51日予定とされていますが、改正法の施行日前に会計監査人の選解任等に関する決議をするための株主総会の招集手続が開始された場合における会計監査人の選解任等に係る手続については、改正後の344条の規定にかかわらず、「なお従前の例による。」、すなわち、改正前の規定に従うこととしています(改正法附則15条)。そして「株主総会の招集手続が開始された場合」とは、株主総会の招集の決定がなされた場合をいうとされています。つまりは5月1日より前に会計監査人の選解任等に関する決議をするための株主総会の招集の決定が取締役会でなされれば、改正前に従い、5月1日以後であれば改正法に従うというわけです。

3月決算の上場企業では、例年、株主総会招集の決定は、5月の定時取締役会あるいは決算取締役会で、計算書類・事業報告書の承認とともに行われております。この実務を継続するとすれば、本年の定時株主総会に上程される会計監査人の選任議案および解任・不再任議案は、監査役会が決定し、取締役会に決定を通知して取締役会が選任議案を総会議案とする旨の決議を行う必要があります。

この点、監査役会に選解任権等の権限が移る5月1日より前の4月に株主総会の招集と日時場所だけを取締役会で決議して、例年通りの実務を維持できると考えている意見があるようです。しかし、会社法298条は、株主総会を招集する場合には、株主総会の日時及び場所、総会の目的事項(つまり議案)、書面による議決権行使ができることとする場合はその旨、電磁的方法による議決権行使が可能な場合にはその旨、その他法務省令で定める事項を取締役会が決定することを要求しています。取締役会設置会社においては、株主総会は招集賢者が決定した議題以外の事項について決議を行えないので(309条5項)、議題は必ず決定しなければなりません。したがって、この意見の方法では、総会招集決議としては欠陥のある決議を行うことになりますし、また、上記のとおり、「株主総会の招集手続が開始された場合」とは、株主総会の招集の決定がなされた場合をいうとされていることからすれば、欠陥のある決議を行なっても「株主総会の招集の決定がなされた」といえるのか疑問が残ります。また、もしこれが可能であるとしても、適時開示ルールの関係では、株主総会の日時と場所を決定したというプレスリリースを打たないと上場規則違反になるでしょう。決議を2回に分けるというやり方では2回のプレスリリースが必要ということになります。やり方として適切なものであるとは言えないように思います。

なお、会計監査人と会社との会計監査契約は1年ごとですが、解任・不再任しない限りは、契約の更新を株主総会で決議する必要はありません。この場合、取締役会は更新の際に監査役会に意見を取るという実務を行っている上場企業もあると思っておりますが、これは厳密な意味では現行法上の監査役会の選任・解任・不再任の同意を取得しているわけではないと思います。そもそも不再任しないわけですから同意も不要です。

この再任を決定する権限について、現行法は取締役会に帰属するとしています。改正法はどうなのでしょうか。不再任にするかの権限が監査役会に与えているならば、当然再任を決定する権限も監査役会に与えられていると解釈するのが自然であろうと思われます。だとすると、会計監査人をそのまま継続する、あるいは不再任としないという決定を監査役会で行っておくことが必要です。したがって、5月1日以降に、株主総会招集の決定を行う5月の取締役会の前に、監査役会で再任の決議を行い、代表取締役に通知しておくという方法をとるのが適切と思われます。

監査役会として、再任を決定するまでどのようなプロセスを踏むべきでしょうか。会計監査人は計算書類の監査を終了して監査役会に提出するわけですから、計算書類の会計監査が終了し、監査役会が問題がないことを確認できた時点で決定するのが理想的であると思います。決算取締役会は株主総会の招集を決定するのが通常ですから、決算取締役会で計算書類・事業報告書の承認ができるならば(つまりそれまで監査役会の監査を終了することが可能ならば)、決算取締役会の前に監査役会を開催して、計算書類・事業報告書の監査を終了し、同時に会計監査人の再任を決議し、取締役会に監査報告とともに通知すればいいでしょう。

しかし、決算取締役会のタイミングで計算書類・事業報告の承認が間に合わず、その後の取締役会で承認を行っている上場企業も多いものと推察いたします。株主総会招集の決定を行う決算取締役会の前に、監査役会で再任の決議を行い、代表取締役に通知しておくという方法をとるのもやむをえないと思いますが、その場合に、監査役会が再任決定を行う基準として、それまでの会計監査人の活動からみて特に問題がないと認められることが必要でしょう。この点、会計監査人が適切な監査活動をしているかの監査役の相当性判断は事業年度を通じて観察し行いますから、会計監査人と監査役会との意見交換や情報共有の密度が高い企業ほど、その判断は楽でしょう。

2015年1月16日 (金)

社外要件の変更に伴う責任の一部免除と責任限定契約

社外取締役・社外監査役の要件が変更されたことに伴い、変更によって影響を受ける取締役・監査役のために平成26年度改正会社法では改正がなされました。

第一点目は会社法425条1項1号に定めている役員の最低責任限度額の変更です。

取締役、執行役、監査役等(以下、「役員等」という)は、その任務を行ったときは、会社に対してこれによって生じた損害を賠償する責任があります(423条1項)。職務執行を行う際に善管注意義務に違反して会社に損害を与えた場合の、役員等の個人の責任を規定するものですが、右の責任は、役員等が職務を行うにつき善意でかつ重大な過失がないときは、定められている最低責任限度額を控除して得た額を限度として、株主総会の決議によって免除することができます。その最低責任限度額の算定方法を定めるのが1号の規定で、その方法は、役員等が職務執行の対価として受け、または受けるべき財産上の利益として会社法規則113条で定める方法により算定される額(平たく言えば報酬)に一定の数をかけて得ることになっています。その一定の数ですが、現行法では代表取締役又は代表執行役は6、代表取締役以外の取締役で社外取締役でない者または代表執行役以外の執行役は4、社外取締役、監査役は2と定められています。

社外要件が変わっために、いままで社外取締役であったものが改正法施行後は取締役となる場合には、最低責任限度額が2倍に増えることになります。しかし、このような取締役は社外要件がかわったとはいっても、業務としては社外取締役と同様に特定の業務執行について責任をもっていません。したがって、経営に対する監督が期待できる一方、また自ら業務執行から発生するリスクを十分コントロールすることができる立場にはないということから、平成26年改正法では、社外取締役と同様の責任限度額とすることとするために、4をかける取締役を代表取締役以外の取締役で業務執行取締役であるものに限定しました。

第二点目は会社法427条1項に定めている責任限定契約の対象者の変更です。

社外取締役、社外監査役等(以下、「社外役員等」という)は、社外役員等が職務を行うにつき善意でかつ重大な過失がないときは、定款で定めた額の範囲内であらかじめ会社が定めた額と最低責任限度額とのいずれか高い額を限度とする旨の契約(責任限定契約)を会社と社外役員等との間で締結することができるとされています(427条1項)。いままで社外取締役であった者が改正法施行後は普通の取締役となる場合には、責任限定契約を締結できなくなりますが、業務執行を行わないことは変わらないのにプロテクションだけはずれるのは合理的でないし、人材確保の点でも責任限定契約を継続することが望ましいと考えられます。そこで、この規定についても、業務執行取締役かどうかで区別することとし、業務執行取締役等でない取締役であって社外取締役でないもの及び社外監査役でない監査役についても、会社との間で責任限定契約を締結できるように改正しました。

この点、定款において現行法に従った責任限定契約に関する規定を設けている場合に、業務執行取締役等でない取締役であって社外取締役でないもの及び社外監査役でない監査役について責任限定契約を締結しようとする場合には定款変更を行い変更登記を完了することが必要となります。したがって、平成27年5月以降に株主総会を開催する上場会社では、定款変更を定時株主総会に議案として提出することを検討する必要があります。

なお、施行日前の行為に基づいて責任が認められる場合に、施行日後の上記の定款変更により責任限定契約の利益を得させるのは会社への賠償金額の減少を招き相当でないので、施行日前の役員等の行為にもとづく責任については、改正前の規律に従うこととしています(会社法附則16条前段)。

今、あらためて最低責任限度額についてみると、社外監査役に対してはかならずしもフレンドリーな規定になっていないことに気づきますね。監査役については社内であろうが社外であろうが、他の取締役に対する信頼の原則の適用がないですし、常勤監査役に対する信頼の原則なるものも免責理論として認められていないですから、社外監査役のおっている責任の重さを痛感します。例をあげましょう。

年収1000万円の常勤監査役1名と年収500万円の社外監査役3名を考えると、

改正前の最低責任限度額

常勤監査役・・・・・・1000万円×2=2000万円

社外監査役(非常勤)・・・・・・500万円×2=1000万円

改正後に一人の社外監査役が社外要件がなくなったとすると

常勤監査役・・・・・・・・・・・・・・1000万円×2=2000万円

監査役(非常勤)・・・・・・・・・・500万円×2=1000万円

社外監査役(非常勤)・・・・・・500万円×2=1000万円

改正前の責任限定契約に関する定款規定ですが、最低責任限度額を上限とするものがかなり多いという印象で、そうだったとすると、

改正前の責任限定契約

常勤監査役・・・・・・なし

社外監査役(非常勤)・・・・・・500万円×2=1000万円

改正後に定款変更をして監査役も同様のプロテクションをえられるようにし、かつ、一人の社外監査役が社外要件がなくなったとすると

常勤監査役・・・・・・・・・・・・・・1000万円×2=2000万円

監査役(非常勤)・・・・・・・・・・500万円×2=1000万円

社外監査役(非常勤)・・・・・・500万円×2=1000万円

定款変更をすれば、常勤監査役の保護がぐっと厚くなるようです。

非常勤監査役と常勤監査役では、必然的に監査の深度がちがいます。多くの場合に非常勤監査役は常勤監査役からの情報に依存するほかありません。おっている善管注意義務の内容そのものには常勤か非常勤かで有意な差は判例上認められていないように思います。監査役は、むしろ常勤と非常勤で責任について分けて、任務懈怠の有無について常勤監査役と非常勤監査役の過失認定について差異を認める(常勤監査役に依存せざるを得ない非常勤監査役の事情を過失認定にとりこみ、常勤監査役に過失ありとされ、非常勤監査役に過失なしとされることを認める)ことがあってしかるべきであると感じます。勉強不足で判例について十分フォローしていないので、すでにそういう判例があるならばぜひご教示下さい。

2015年1月13日 (火)

社外取締役・社外監査役の要件の厳格化と実務対応

平成26年改正会社法の施行日は平成27年5月1日です。2月決算、3月決算の会社は、5月、6月の定時株主総会に影響のある改正点の対応準備を今すぐ開始しなければなりません。前回の社外取締役を置くことが相当でない理由の説明義務はその例ですが、今回は社外取締役・社外監査役の要件の厳格化が及ぼす影響とその対応を説明しておきたいと思います。

ところで、対応が必要といいながらも、今日のトピックは実は猶予が与えられているので、対応策を練るのに時間的にゆとりがあります。というのも会社法附則4条に、改正会社法の施行の際、現に社外取締役、社外監査役を置く株式会社の社外取締役、社外監査役については、施行後最初に終了する事業年度に関する定時株主総会の終結時までは「従前の例による」と定められているからです。「従前の例による」とは、改正前の要件に従うということです。

たとえば3月決算の上場会社で、平成26年6月の定時株主総会で現行法のもとで社外要件を満たす社外取締役1名(任期2年)と社外監査役2名(任期4年、監査役は定款上3名とされており、社外でない常勤監査役はその前年度に選任されていると仮定)を選任したとします。ところが平成27年5月1日に改正会社法が施行されると、当該社外取締役、当該社外監査役は社外要件を満たさなくなってしまいます。その時点で社外取締役、社外監査役ではなくなってしまうとすると、どういうことが起きるでしょうか。

第一に上場会社は、独立役員1名以上の確保を求める上場規則に抵触することになります。第二に、監査役会設置会社については、監査役の半数以上は社外監査役でなければならないとされているので(335条3項)、この規定に抵触します。そして、社外監査役の人数を満たさずになされた監査は手続的瑕疵があるとされますから、平成27年6月の定時株主総会に提出される計算書類・事業報告が適法な監査手続をへていないということになります。

なお、監査に手続的瑕疵があり計算書類・事業報告を承認した株主総会の決議が決議取消原因になるかという点ですが、監査役・会計監査人の監査をへない計算書類の承認は決議の方法の法令違反であるとされているところから見ると、少なくとも決議取消原因になる可能性は否定できないように思いますし、そもそも適法な監査をへた計算書類・事業報告の提出がないのに総会での承認があったのだから、決議は当然に無効であるという考え方もありうると思います。

こういうことになることを避けるため、改正法の要件を満たす社外取締役・社外監査役を選任するための臨時株主総会が必要となりますが、それも大変であり、また、臨時株主総会を開催するまでは、社外役員がいない状態が続いてしまうわけです。そこで、附則4条では、その施行後最初に終了する事業年度に関する定時株主総会において改正会社法の要件を満たす社外取締役・社外監査役を選任すればよいと定めているわけです。

したがって、上記の例ですと、平成28年6月の定時株主総会終了時に任期満了する改正前の要件を満たす社外取締役のポジションを、改正後の要件を満たす社外取締役を選任して埋めればいいのですが、監査役についてはちょっと厄介です。改正前の要件を満たす社外監査役2名は当然に地位を喪失しないので、社外要件を満たさない監査役が3名いることになってしまいます。社外監査役は半数以上必要なので、新たに改正後の社外要件を満たす社外監査役を新たに選任しなければなりません。つまり、さらに3名の社外監査役が必要(!)ということになってしまいます。「なんとか2名、おやめいただけませんでしょうか。」とお願いしても、社外監査役が「うん」といわなければ、最悪、定款変更で監査役会を増員し、3名社外監査役を選任、なんていう異常事態が起こります。株主や市場から呆れられないために、しっかりと準備しておく必要があります。

改正前は社外要件を満たすとされたが、改正後はみたさないとされる関係として実務的に大きく問題になりうるのは、以下のものと思われます。

第一に、「親会社等」の定義が新設され(2条第4号の2)、親会社及び株式会社の経営を支配している者として法務省令で定めるものをいうこととされました(自然人も含まれます)。そして、親会社等の取締役もしくは執行役または支配人その他の使用人は、社外取締役にはなれないことととなります。

第二に、兄弟会社(「株式会社の親会社等の子会社等」)の業務執行取締役もしくは執行役または支配人その他の使用人は、社外取締役にはなれません。

第三に、当該会社の取締役もしくは執行役もしくは支配人その他の重要な使用人または親会社等(自然人であるものに限る。)の配偶者または二親等内の親族である者は、社外取締役・社外監査役になれません。

第四に、親会社等の取締役、監査役もしくは執行役もしくは支配人その他の使用人は、社外監査役にはなれないこととなります。これは親会社等の監査役が社外監査役であっても、当該株式会社の社外監査役にはなれないということも意味します。

この点、子会社が非上場会社で監査役会設置会社である場合、いままでは親会社等の監査役や財務・経理・内部監査系の使用人が監査役を務めていたということが実務の一般的傾向であったと思いますが、この実務と真正面からぶつかることになります。対応としては、大会社でない子会社が監査役会設置会社から監査役設置会社に移行することが考えらえます。現にそうしている会社も多数あるようです。ただ、子会社不祥事がつい最近の話題であったことから、監査役会を廃止するという内部統制的にはマイナスとなる対応でいいのかという疑問が頭から離れません。監査役設置会社とするならば、親会社による内部監査や親会社監査役の子会社調査をかなりしっかり実施する対応をすべきではないでしょうか。

なお、会社法附則4条は、改正会社法の施行の際、現に社外取締役、社外監査役を置く株式会社の社外取締役、社外監査役についてのみ適用があるので、施行の際に社外取締役、社外監査役をおいていない会社はただちに改正会社法の社外要件を満たさなければならないことにご留意ください。

2015年1月 6日 (火)

社外取締役を置いていない場合の理由の開示と決議取消訴訟

改正会社法327条の2は「事業年度の末日において、監査役会設置会社(「公開会社であり、かつ、大会社であるものに限る。)であって金融商品取引法第24条第1項の規定によりその発行する株式について有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならないものが社外取締役を置いていない場合には、取締役は、当該事業年度に関する定時株主総会において、社外取締役を置くことが相当でない理由を説明しなければならない。」と規定しています。

同条は経過措置が会社法附則に定められていないので、平成27年の株主総会から適用されるものです。同条に関しては、会社法施行規則案第74条の2第1項にも、「株式会社が社外取締役を置いていない特定監査役会設置会社(当該株主総会の終結の時に社外取締役を置いていないこととなる見込みであるものを含む。)であって、かつ、取締役に就任したとすれば社外取締役となる見込みである者を候補者とする取締役の選任に関する議案を当該株主総会に提出しない時は、株主総会参考書類には、当該社外取締役を置くことが相当でない理由を記載しなければならない。」と、また、同条第3項に「第1項の理由は、当該株式会社のその時点における事情に応じて記載しなければならない。この場合において、社外監査役が二人以上あることのみをもって当該理由とすることができない。」と定められています。

法務省令案が公表される前ですが、327条の2の「相当でない理由」の解釈と法務省令案について、立法担当官である坂本三郎法務省参事官は次のように解説しています(商事法務No.2040号掲載の座談会「改正会社法の意義と今後の課題(上)」)。

ー 「置かない理由」あるいは「必要でない理由」というだけでは足らず、社外取締役を置くことがかえってマイナスの影響を及ぼすような事情を説明する必要があるということで考えています。

ー 社外監査役が二名いて、わが社は十分それが機能しているから社外取締役を置くことは不要ですという説明のみがされたとしますと、それは「必要でない理由」の説明にすぎないということで、それだけでは足りないのだろうと考えています。

ー よく適任者がいないということが社外取締役を置かない理由としていわれていますが、適任者がいないというだけの理由をもってしては、やはり「相当でない理由」にはならないのではないかと考えています。

ー この株主総会の説明というのは、当該事業年度まではこう考えてやってましたということですので、それで説明せざるを得ないということです。

ー 社外取締役の選任議案を提出している会社は、比較的あっさりとした説明で足りると考えています。先ほど法務省令で事業報告書の記載ということも申し上げましたが、それについても同じような扱いになると思います。他方で、株主総会参考書類については社外取締役選任議案を提出しているので、相当でない理由は書かなくてよいということになりますし、また、これまで社外取締役を置いていなかったのにこれを置くことした理由をあえて書く必要はないという方向で考えています。ただ、株主からは必ず「何で置くこととしたのだ」と聞かれそうな気はいたしますけれども、法令上は聞かれなければ積極的にいう必要はないという方向で考えています。

坂本参事官の解説を読んだときは、どう法務省令案を起案するのだろうと思っていたのですが、まさに参事官の考えを反映した起案がされたわけですね。株主からの「何で置くことにしたのだ」という質問に対しては答えなければならないのは、法314条から当然です(株主総会の目的である取締役の選任という事項に関するものですから取締役は説明する義務があります)。ただ、その説明内容は、一般的な株主が合理的に理解できる程度の説明を行う必要があります。岩原伸作教授は、前記座談会でも、その会社の環境や社内の体制、あるいはその会社における人材獲得の可能性ということ等を具体的に説明すべきであると説明されています。

次に取締役が「相当でない理由」の説明を株主総会で行わなかった場合において、取締役選任議案が継続している株主総会であれば、当該取締役選任決議について決議取消事由になりうる可能性があると、岩原伸作教授は述べられています。

それにしても、「相当でない理由」の中身になりうる説明が何かは判然としません。先の座談会では、信託銀行の方が一つのアイデアとして、「事業内容が高度に専門的な内容であり、これに精通する専門家の社外取締役候補者を探すのは非常にむずかしく、門外漢の候補者を選ぶことはかえって企業価値を損なうおそれがある。」とか、「取締役会の決議に機動性が必要であるような会社は社外取締役ではスケジュールの問題があり機動性を害することになる。」というようなアイデアを紹介されています。

なお、出席者は、全員、事業報告書に記載のとおりですといって説明を終わらせるのでは足りないと考えているようです。

この点、坂本参事官は、社外取締役選任議案が提出されている場合には、これまでなぜ社外取締役を 置いてこなかったのかというところをあっさりめに述べてもらうことになるが、それが「相当でない理由」となりそうでなくとも、社外取締役選任議案を提出しているので決議取消事由にはなりにくいのではないかといっています。社外取締役選任議案が提出されていれば説明義務がなくなるならそのような考え方もなりたつのでしょうが、しかし、そうではないので、理論的には説明がつかない感じがします。

取締役選任議案に社外が含まれているか否かで、327条の2の「相当の理由」の中身が変わるという理屈は成り立つでしょうか。確かに株主総会参考資料の記載に関する法務省令にはそのように解釈すべしと暗示するような考え方が表れているのですが、個人的には法務省令の考え方をそのまま327条の2の解釈と同様にとれるかというと、ちょっと違和感があります。「省令の規定の仕方や考え方は卵、会社法が鶏でしょ。」という感覚がぬぐえないからです。坂本審議官の発言は、社外取締役選任議案が可決されれば、実務的には、説明義務の不履行を問題として、決議を求めるべき訴訟を提起されることはほとんどないのではないかという意味程度にしか理解できないので、リスクは残ざらるを得ないと思っています。例えば、社外取締役候補者が株主にとって気にいらない人物であったりすると、「相当でない理由」の説明がなかったとして決議取消訴訟を起こすことも、理論的には可能です。

もっと大胆に、こういったらどうでしょうか。327条の2は機能的には社外取締役選任を企業に間接的に強制するための規定であるから、社外取締役選任議案が提出されている場合には「相当でない理由」は意味が変わり、当該事業年度で企業が主観的に相当でないと考えていた理由程度でも許される、と。

しかし、実際、327条の2について真正面から企業に社外取締役選任を間接強制するための目的と説明している方はいらっしゃらないようなので、同条の真の目的が社外取締役選任にあったと会社法学者が言い出すのは、あと10年くらいかかるかもしれませんね。

社外を含まない取締役選任議案が上程された事案で、株主総会参考書類に社外取締役を置くことが「相当でない理由」が記載されていない場合には、株主総会参考書類は招集通知に添付されなければならず、その記載の不備は一般に召集の手続が法令に違反する場合に該当するので、決議取消事由に該当します(会社法831条1項1号)。この場合には、その違反する事実が重大でなく、かつ決議に影響を及ぼさないものであると認めるときは、裁判所は裁量棄却することができます(同条2項)。

以上をまとめると、平成27年に株主総会を開催する上場企業(かつ大会社)で、社外取締役が現在いない企業が、当該株主総会に社外取締役の選任議案を提出する場合には、以下の通りの規制に服することとなります。

①当該株主総会で、事業年度中に社外取締役を置いていないことについて相当な理由を説明する義務がある。

②「相当の理由」の内容であるが、適任者がいないとか、社外監査役で十分機能しているという説明は「相当でない理由」とはならず、社外取締役を置くことがマイナスとなるという理由を説明する。

③しかし、その説明はあっさりとしたものでよいが、「相当でない理由」は「必要でない理由」よりもう少し会社にとってのネガティブな影響を語るものである必要がある。

④株主総会参考書類には、当該社外取締役を置くことが相当でない理由を記載する必要はない。

また、社外取締役が現在いない企業で、当該株主総会に社外取締役の選任議案を提出しない場合(社外取締役を含まない取締役選任議案を提出する場合)には、以下の通りとなります。

①当該株主総会で、事業年度中に社外取締役を置いていないことについて相当な理由を説明する義務がある。事業報告書記載のとおりというのでは説明としては不十分である。

②「相当の理由」の内容であるが、適任者がいないとか、社外監査役で十分機能しているという説明は「相当でない理由」とはならず、社外取締役を置くことがマイナスとなるという理由を説明する。

③株主総会参考書類には、当該社外取締役を置くことが「相当でない理由」を記載する必要がある。

④株主総会において「相当でない理由」の説明がない場合には当該議案について決議取消原因が生じ、決議取消訴訟の対象となる。

⑤株主総会参考書類に、「相当でない理由」の記載がない場合、召集通知に添付されるべき株主総会参考書類の記載不備と解されるので、決議取消訴訟の対象となる。この場合には、その違反する事実が重大でなく、かつ決議に影響を及ぼさないものであると認めるときは、裁判所は取消の請求を棄却することができる。

2015年1月 5日 (月)

執行力の強化とは内部統制の強化ではないか

明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。

前回、モニタリング・モデルと会社法の取締役会設置会社の発想の違いについて、藤田論文を引用しながら指摘しました。どちらも経営に対して敵対的ではなく、企業価値の増大のために執行の企画・検討・承認・実行を強化したいという方向については、何ら変わらないことを指摘しました。

でも、企業価値の増大のための執行の企画・検討・承認・実行とは具体的にはどのようなことをさすのかを、ここではもう一度考えたいと思います。

上場企業のガバナンスが論じられるとき、企業価値の増大の定義は結構あやふやです。しかし株主が何をすれば評価するかというスケールで考えれば、それは株価の上昇であり、時価総額の増大です。

さて、株価を上昇させるためにはどうするか。もちろん業績が良くなければ株価は上昇しません。市場環境が激変すれば業績の如何を問わず、株価は乱高下しますが、株価が下落する方向に動いていても、将来の収益に期待できる企業の株価は必ずもどってきます。着実に利益を出す企業に対して市場はポジティブです。ところが、毎年ちゃんとした収益を出す企業であっても(私が役員を務めている会社はその典型です)、株主はPER、PBRなどの指標を使って同業他社との比較をしてランク付けしたりし、利益について、あるいは成長性について同業他社と比較し投資行動を決定します。また、当該事業分野それ自体がリターンが少ないといって評価を低めたりします。この場合は事業分野自体の見直しと成長力ある事業分野へのシフトを行わないと、株主は評価してくれません。

したがって、企業が常に価値を増大しているという市場の評価を得るためには、当該事業における着実な利益の確保という戦術のほかに、当該事業が収益が期待できる事業なのかどうか、もし事業自体の成長に陰りがみえたときにどうやってその壁を突破するのかという戦略が求められます。企業自体がポテンシャルを発揮しているのかどうかを常にテストしているのが市場であり、株価であろうと思います。

企業は戦略から定められる長期目標と、戦術から決定される短期の収益目標が必要で、両者についてその目標を達成するための課題を洗い出し、リスクに見合う資金と人材を投入します。しかし、長期目標は、今の経営環境の変化の激しさからみて、立案そのものが難しくなっていると感じます。10年の戦略は意味がなく、5年の中期経営計画でもその意味を問われれていると思います。

また長期目標は短期目標の積み重ねを達成して初めて実現できるので、結局は、3年程度の短期目標の実現をめざして行っていく取引、例えばM&Aならば、第一に企画・検討段階におけるM&Aの目標の合理性、M&Aによる収益予測の確実性、その確実性を揺るがすリスクの洗い出しの見極めをしっかりと行っていく力がどれくらいあるかが執行力のレベルをあらわすものでしょう。さらにそれを実行に移したのちに、実際に現れれてくるさまざまな事象に対して迅速・的確に対応できる能力が必要です。とどのつまりは、企画・実行・フォローアップにスピード感がなければなりません。

執行力のレベルは短期戦略の企画力・実行力という言い方もできますが、その中には、確実性を揺るがすビジネスリスク、法務リスクの見極めがどれくらいできるかということも含まれることは明らかです。そして実行後に起きてくるさまざまな問題への対応と、顕在化していないリスクの指摘ができるかどうかもポイントとなります。これは内部監査の仕事です。

取締役会は企画から実行に移す段階で、さまざまな角度から目標の合理性、収益予測の確実性、リスクの洗い出しができているかどうかを検討すべきですから、社外取締役についていえば、やはり経営の経験値、あるいは法務や財務といった専門性の知見の高い人材でないと牽制機能は果たせないでしょう。

また、検討段階・実行段階・実行後におけるスピード感ある対応を期待できる人材が必要となります。この意味で、法務部に弁護士をそろえたり、財務部に公認会計士資格や税理士資格をもった人間を配置することはむしろ当然であり、専門教育をうけた人間を採用していくことが当たり前にならないと、企業の執行力強化はそうそう簡単にはできません。つまりは、執行部門における内部統制の強化がすわなち執行力強化なのではないでしょうか。日本企業は内部統制というと管理部門を想起しがちですが、それはイメージに片寄があります。

人材をどうやって確保するかを考えると、やはり、日本的な終身雇用前提、新卒から人間を育てていくというやり方が限界にきているように感じますが、これはまた別の機会に考察してみたいと思います。

2014年9月 8日 (月)

モニタリング・モデルと会社法ー藤田友敬論文を読んでわかったこと

商事法務2014年7月15日号の藤田友敬教授の『社外取締役・取締役会に期待される役割―日本取締役協会の提言」を読んで』を読了した。上場会社の社外監査役の立場で実務をしつつ他の上場企業に弁護士としてアドバイスを提供してきましたが、協会のようにガバナンスの点から経営改革を促進しようとする立場の立論と、現場の感覚の乖離や会社法との乖離に、もやもやとした感じをこの6年間抱いてきましたが、この論文を読んで、自分の中で、これらの乖離の整理がなんとなくつきそうな感じがしています。

藤田論文は協会の提言について『従来の判例・学説で説かれてきた「日本的」な取締役の善管注意義務・監視義務等を前提に、社外取締役の性格に応じたニュアンスを若干加えて敷衍するものが多いのに対して、取締役会および社外取締役の役割と機能、とりわけ「監督」、「監視」の意味を、モニタリング・モデルの考え方を踏まえて再定義している点に特徴がある。』とし、協会のモニタリング・モデルは我が国において伝統的に説かれてきた取締役会の監督機能およびそこから派生する取締役会の監視義務とは、言葉は似ていてもその内容が大きくくいちがうことを指摘しています。

このブログでも、従来から米国型のガバナンス・モデルと日本型のガバナンス・モデル、そしてそこにおける取締役会のあり方について違いを指摘してきました。米国型のガバナンス・モデルがCEOを頂点とする経営陣に強力な権限を持たせ、取締役会はCEOらの選任・解任に大きな権限をもってこれを監督し、CEOは自分と会社を守るために自らの下にジェネラル・カウンセルをトップとする法務コンプライアンス機能、CFO・COOを頂点とする財務・経理・税務機能、それに営業部門のそれぞれのトップによる執行機能など、専門的知識経験を有する専門家集団を各機能に配置する内部統制を構築し、さらに、各組織に横串となるコミッティなどを設置して、組織形態をマトリックス化し、執行の企画・検討・承認・実行の業務プロセスにおけるリスクの認識と対応、情報と伝達を盤石にしようとしていす。この体制のもとでの組織の特徴は、誤解をおそれず一言でいえば軍隊に近く、スピード感ある決定と執行が可能となります。

ところが、日本では下からの積み上げ方式(あるいは役員の神輿方式)で組織の意思決定が行われてきており、この方式は本質的に変化していないものと思われます。たとえば、大型のM&Aや業務提携などは、日本の規模の大きい上場会社の中では企画部門が中心になり秘密裡に立案され、実行の過程でも業務担当取締役や執行役以下の執行部門が中心になり実行に至るまでの各種検討が行われて、社長にあげられ、取締役会への上程は一番最後となります。そこまでの過程において、執行部門の中で練り上げられていきますから、取締役会に行きつくときは、ほとんど最後の段階です。むしろ、非上場の中小企業のほうが社長の鶴の一声で大型案件の実行が決まることが多いと理解しています(ただし、米国上場企業との違いは内部統制がきわめて脆弱ですから、案件の検討はきわめて不十分である点が大きな違いです。だからオーナー系のところほど米国型のようなモデルで内部統制を作るほうがいいと感じています。)

藤田論文は、日本の会社法改正の歴史を振り返っています。それによると、形骸化した取締役会を実効あらしめるために、昭和56年改正により取締役会の業務執行の決定権限とともに監督権限が明記され、昭和49年改正で監査役に与えられた業務監査権限とともに取締役の他の取締役に対する監視義務の枠組みを与え、さらに昭和56年改正で取締役会の専決権限を増加させ、これにより常務会等の下部機構に委ねられて取締役会が機能低下した事態に対処させようとしたと説明しています。なぜこれをしたかというと、「取締役会が業務執行を決定する機関であるという建前を堅持しつつ、具体的な経営事項の決定をさせることを通じて、取締役会の監督機能を充実させようという考え方」をとったからであり、これにより、「取締役会はある程度以上の重要性のある取引については個別取引ごとに具体的に取締役会で決定することを要求するものと解釈され、それに沿った運用がなされてきた。」と論じています。

このように指摘して、さらに藤田論文は、取締役会の形骸化に対する米国の改革が日本とは真逆になったといっています。すなわち、米国では取締役会は業務執行の決定ではなく、業務執行者の監督を行う機関であるという位置づけがなされ、そのためにいかにして取締役会の独立性を高めるかということが、コーポレート・ガバナンスの基本的課題と認識されていくことになり、それがモニタリング・モデルとして世界標準として受容されたと論じています。

このような歴史を垣間見ると、我々が、会社法とモニタリング・モデルとの整合性について違和感を感じている理由も明確となります。会社法の取締役会設置会社そのものがモニタリング・モデルとはちがう発想でできているからにほかなりません。唯一、モニタリング・モデルを取り入れたのが委員会等設置会社ですが、法が用意した取締役会決議事項の執行役への委任が進んでいないので(藤田論文の指摘)、委員会等設置会社であっても業務執行決定機関としての色彩を色濃く残しているのが日本の委員会等設置会社であるといえるでしょう。

どちらのモデルも経営に敵対的ではありません。米国型も日本型もつねに執行の企画立案、検討、決定、実行の能力を高めようとする点ではまったく同じであり、それぞれに長所も短所もあります。

それではどこが違うのか。ここからが私見ですが、大きな違いは、3年―5年後に時価総額をたとえば何倍にするといったような大きな経営目標の立案とそれに向けた執行を迅速にできるかどうかという観点からみると、日本型モデルは見劣りするということであろうと思います。

米国企業には企画部門というものはありません。しかし、大型のM&Aは日本よりずっと盛んであり、自分が必要なビジネスならば、あっというまに買収で付け加え、また効率が悪いと判断するビジネス部門は売却するか整理するかして常に企業の中に新陳代謝をおこしています。自分のビジネスのポートフォリオをつねに見直し、入れ替えをするのに、日本のように取締役会までもっていって、あまり実情を知らない社外取締役に一生懸命説明する必要もないわけです。ビジネスをよく知るCEOあるいはビジネス部門のトップが、管理系部門の支援を得ながら迅速に検討し実行できます。このスピード感の違いが大きいと思います。米国とドイツの日本法人でシニアのポジションで働いた知見、今の上場会社の社外監査役としての、あるいは上場会社の弁護士としての知見の双方から見て、それこそが違いなのではないかと感じます。そして失敗が若干あっても、それを許してやるというシステム(IndemnityやD&O保険およびそのコストなど)も向こうのほうが上です。

だから日本でスピード感を保ちながら攻めの経営ができているところは、日本型ガバナンスモデルに何らかの工夫をしているはずです。まず、執行の企画立案能力がよほどいいにちがいないと思います。そこに対するCEOの影響力も強力であり、またCEOの理解力、構想力、カリスマ性も備わっているような会社でしょう。そのような会社は日本企業の風土では独裁者的色彩が強まっていると見えるし、実際そうなのでしょう。そのような会社の取締役会では、強いリーダーであるCEOが個々の取締役を凌駕する説得力をもって乗り切っているか、あるいは、個々の取締役の役不足か、大きく分ければそのどちらかになるのでしょう。つまりは、他からみると取締役が監視義務を果たしているのかどうかがみえにくいし、もし見落としがあったときには個々の取締役は監視義務違反に問われるリスクが少し高いのかもしれません(もっとも最高裁の動きは個々の業務執行取締役に対する信頼の原則の適用を広く認めるようになってきていますが。それに訴訟が全然少ないからリスクが顕在化する割合もぜんぜんちがいます)。

ただし、米国型と決定的にちがうのは、もしそのような経営者が計画実行を失敗し、あるいは重要なリスクについて十分な注意を払わないままに大きく失敗して企業価値を棄損し、あるいは将来の企業の成長に黄色信号をもたらしたときに、その経営者に対してだめだしするガバナンス機構がないということです。日本ではそれは経営者の自制、銀行からのプレッシャーなどによって交代がおこっているように思います。もちろんまったく自制がないままにいすわってしまう経営者もいるわけですが。

非オーナー系上場企業では、その成長について構想が違うから、成熟したマーケットで現在のポジションと業績をそこそこ継続すればいいと考えているところは、モニタリング・モデルなんてまっぴらごめんということになるでしょう。経営者の企業成長に対する構想力と実行力が、経営経験のある社外取締役らに非常に試されてしまうわけですから、そんな環境で経営者としての力を試されるのはたしかにしんどいことでしょう。

しかし、日本企業が問われているのは、ミクロ的意味の内部統制もさりながら、マクロ的意味でのガバナンス、企業価値増大のガバナンスという点であり、それがここ10年叫ばれているわけですから、モニタリング・モデルに対する期待値が投資家からあがるのは無理もないことです。

そして安倍政権のもとでも、経済活発化による企業価値の増大が政策の成功不成功を決めるということになってくるわけですから、ガバナンスに対する関心が強くなるのは当然のことなのです。日本経済を停滞させている一因は成長を止めている日本の大企業群にあると政権内部で見ている人がいるはずです。そこにメスを入れなければ成長がありえないならば、経済政策も成功せず政権も維持できない。そうであるならば、政治は必ず制度をいじることになるでしょう。ガバナンス改革は本当の意味でまったなしに入ってきたと思います。

2014年6月18日 (水)

会社法改正案―社外取締役を置かない場合の説明・開示義務

現在国会審議中の会社法改正案は、衆議院を通過し、現在、参議院で審議中です。今週で国会が閉幕になるので、はたして参議院を通過するのか心配になります。

さて、今回の会社法改正では、社外取締役を置かない上場会社は、株主総会において「社外取締役を置くことが相当でない理由」を説明しなければならないという第327条の2が新設されます。また、当該株主総会に提出する事業報告書にもその理由を記載しなければならなくなります。

国会で会社法改正案が採択され、施行が来年41日となったと仮定すると、そ れ以後に開催される株主総会において提出される「社外取締役を置くことが相当でない理由」を事業報告書に記載し、かつ株主総会で必ず口頭で説明しなければならないということになります。改正案附則2条が改正会社法の施行直後から改正規定が適 用になると定めていること、および、第327条の2について適用時期の経過措置がもうけられていないことからこのようなことになるので、それを避けるためには本年度株主総会において社外取締役を選任しておかなければなりません。

ここでいう「社外取締役を置くことが相当でない理由」ですが、従来、取引所の開示規則で「社外取締役を置くことが相当でない理由」としてしばしば使われている「社外監査役がいるので十分機能しているから」というのは理由にならないとされ、法令違反となると説明されています。

また、社外監査役ですが、社外性の要件に変更がでて、2親等以内の親族は社外性の要件をみたせなくなっている点も留意が必要ですね。

 上場会社で社外取締役が一人もいない会社は、今年6月の定時株主総会で社外取締役を選任しないと、来年の定時株主総会で上記の理由の開示をおこなわなければならなくなることになりますが、はたしてそのことに気付いている会社はいくつあるのでしょうか。

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