金融商品取引法

2011年4月 7日 (木)

東日本大震災被災上場企業に対する開示規制の特別措置

すでに新聞報道でもありますとおり、金融庁や東証・大証は東日本大震災により被災した上場企業に対する決算発表及び有価証券報告書の提出遅延についての特別の措置を発表しておりますので、それについてまとめておきたいと思います(特に注をつけない限り東証・大証とも同じ方針です)。

まず決算発表については、地震災害により速やかに決算の内容の把握・開示することが困難である場合には、「45日以内」などにとらわれる必要はなく、決算内容が確定できたところで開示するとなっています。

決算発表の時期が大幅に遅れる場合には、その旨及び開示時期の見込みが立つようであればあわせてその旨を開示することを検討することを依頼しています。

なお、この点について、東証は決算開示予定を集計して報道機関に提供して記者会見等の受入を準備するよう要請しているので、登録した開示予定に変更が生じた場合には、直近の開示予定を報道機関に公表てきるようにTargetを用いて予定連絡の変更登録を行うべきこと、また、地震災害により決算予定日の見込みが立たないときは、実務上支障のない範囲でかまわないので、「未定」と記入し、見込みが立ち次第、変更登録するなどの対応を検討されたい、としています。

決算短信における業績予想については、本地震災害により業績の見通しを立てることが困難な場合には,決算短信及び四半期決算短信において,業績予想を開示する必要はないとしております。

次に、有価証券報告書又は四半期報告書の提出遅延についてでですが、金融庁のホームページでは、本来の提出期限まで提出すべき有報及び四半期報告書については、6月末まで、3月決算の企業については有報提出時期は9月末までに提出すればよいという方向で、特別措置を定める政令を整備する予定であることが発表されています。臨時報告書については、地震という不可抗力により臨時報告書の作成自体が行えない場合には、そのような事情が解消した後、可及的速やかに提出することで、遅滞なく提出したものと取り扱われることとなるとしています。

上場廃止基準の適用についてですが、東証・大証とも、上場会社が有価証券報告書又は四半期報告書の提出を遅延した場合に監理銘柄に指定し、上場廃止基準に該当するか否か確認することとなっておりますが、当該特別措置の適用を受けた上場会社に対しては,特別措置に関する政令で定める期限を有報等の提出期限とみなして適用することとしています。また,有報等を本来の提出期限までに提出できず,特別措置が適用されることとなった旨を開示する必要はないとしています。

意見不表明を受けた場合の上場廃止基準の適用については、本地震災害により、上場会社の財務諸表又は四半期財務諸表等に添付される監査報告書又は四半期レビュー報告書において意見不表明等が記載されることとなった場合、監理銘柄指定及び上場廃止の対象とはならず、またその旨の開示も必要がないとしています。

時価総額基準による指定替えや上場廃止については、東証はこちらのページ大証はこちらのページをご覧下さい。大証についてはこの記事を書いた時点(4月7日午後零時)では、東証のとったような措置を行うことは発表されていません。

2011年3月22日 (火)

こんな時に忘れがちなインサイダー取引規制

大災害にあったときには、各企業さんとも損害の把握と企業活動の一日でも早い回復に目が向くでしょう。それは極めて当然のことですが、インサイダー取引規制ではちょっと注意してもらいたいことがあります。

金融商品取引法166条2項2号は発生事実を知って有価証券の取引を行うことを禁止しております。発生事実には、「災害に起因する損害」が含まれています(同号イ)。ただし、軽微基準があり、「災害に起因する損害の額が最近事業年度の末日における純資産額の3%に相当する額未満であると見込まれるとき」は重要事実とはなりません(有価証券等の取引等の規制に関する内閣府令50条1号)。物的損害においては、損害額はその物の再取得額ではなく、帳簿価額を基準に算定されるということになっております。保険による補てんは一切考慮されません。

上場企業の子会社について災害に起因する損害が発生したときも、まったく同じ基準で重要事実とされています。当該上場企業が発行する株を、会社関係者又は第一次情報受領者が右重要事実を知りながら取引するとインサイダー取引違反になります。

現状で把握している損害のレベルが、前事業年度の純資産額の3%に届くかどうかを注意してください。損害額の程度は概算でもいいので適時計算されるべきでしょう。重要事実であることの認識が、社内でちゃんとされているかどうか、重要情報としての管理が徹底されているかどうかもチェックしてください。

また、主要取引先との取引の停止も発生事実とされています。主要取引先とは、前事業年度における売上高または仕入高が売上高の総額または仕入高の総額が10%以上である取引先をいいます。立法担当官の解説によれば、「取引の停止」とは取引が停止されたことをいい、その原因を問わないとされています。一時的中止が該当するかですが、ある部品の仕入先が当該部品の製造を中止した場合は取引の停止となると解説されているところをみると、一時的中止はこれに該当しないと思われます。しかし、取引再開のめどもたたないような場合には、極めて微妙です。

してみると、これらの発生事実が発生した上場企業がどのていど当該発生事実を「公表」するかによってインサイダー取引になるかが変ってまいります。TDnetによる公表は、2以上の報道機関に対する公開後12時間の経過の方法によるよりも、公表の効果発生が早いのでこれを利用すべきでしょう。

なお、東証のほうでも損害の状況をいち早く適時開示するよう要請がでていると理解していますが、これは投資家への情報という側面もありますが、うっかりインサイダー取引を防止するためでもあります。

2011年3月 7日 (月)

内部統制ワーキンググループ報告書

日本取締役協会の内部統制ワーキンググループで検討しました『内部統制報告制度等の論点と提言』が発表されております。不肖、私が座長を務め、まとめるのにとても苦労をして、ようやく提出にこぎつけた報告書です。

商事法務2011年3月5日(NO.1925)のニュース欄にもその要旨が紹介されております。グループのメンバーにも大変ご苦労をかけた労作ですので、いろいろな方に読んでいただき、今後の内部統制報告制度の改善に役立てていただければと思っておりますので、ぜひご一読下さい。

なかでも、今回の研究で感じましたのは、取締役諸氏の内部統制報告制度の理解と評価がどうなっていくか、です。個人的には、ビジネスマンには評判がいつまでたっても芳しくないこの制度が、企業の財務報告の信頼性に係る内部統制の強化につながっていると思っており、昨今の海外子会社の不祥事の発見はまさに制度導入によって会社の統制が海外子会社まで適切に及んでいくときの一時的病理現象であり、PDCAのサイクルが回りはじめているポジティブな表れと思っております。

執行部門に権限委譲し迅速な意思決定を可能にするために必要な制度であるという認識には、なかなか至らないのが残念ですね。異論は多々あるでしょうが、長きにわたり企業不祥事と付き合っている私としては確信があります。

2010年9月 4日 (土)

日本内部統制研究学会大会第3回年次大会で話します

いよいよ月曜日に日本内部統制研究学会第3回年次大会が、東京・市ヶ谷のアルカディア市ヶ谷(私学会館)で行われます。私は統一論題「内部統制報告制度による企業価値向上-制度のさらなる進化に向けて」に報告発表者、討論者として参加します。

企業会計審議会で審議が行われている内部統制報告制度の改善の論点にはあえて踏み込まず、企業価値向上のための内部統制報告制度とはいったい何をイメージしているのか、というところから、コーポレート・ガバナンス論、監査役の監査、独立取締役の機能などとリンクさせて、大きな視点で「企業価値」の向上のための内部統制報告制度の機能をいかに向上させるかという点について報告するつもりです。

私としては、とかくテクニカルな議論に陥りやすい内部統制報告制度を、コーポレート・ガバナンスというシステムを構成する一制度として位置づけて、システムを構成する他の制度とどのように関連付ければガバナンスが強化されるのかということを、学会としてはもう少し考えるべきであるという問題提起のつもりで、報告と討論をさせていただくつもりです。

内部統制報告制度は開示の制度なので、制度に詳しい方の間では開示のシステムとしてどうすべきかという議論になりがちです。学会は公認会計士やコンサルタントの方が多いので、どうもそういった傾向にあるな~と感じていたのですが、「内部統制研究」学会なのですから、財務報告の信頼性に係る内部統制だけでなく、業務の効率性・有効性や法令等遵守に係る内部統制にも踏み込んで語る必要があるなと感じていました。ということは、それを行うとなるとガバナンス全体を語るということになります。

そういう議論を行う際に、重要なのは、開示の制度は開示だけと割り切らないことではないかと思っています。たしかに、内部統制報告制度は経営者が自己評価してその結果を開示する制度ですが、その過程では、内部統制の整備及び運用状況が継続して見直されていくPDCAサイクルが想定されています。つまり、制度としては開示なのだが、機能としては上場企業に内部統制構築を間接的に促している制度です。初年度の内部統制報告に関する各種アンケート調査において、内部統制が強化されたと回答している企業が非常に多数でているのは、内部統制報告準備を通じて企業に財務報告の信頼性に係る内部統制を強化させるという金融庁のもくろみが成功したといえる証であると思います。

それでは、そういう機能にすなおに着目して、取締役の善感注意義務としての内部統制構築義務や法令等遵守の機能、取締役会のガバナンスの機能にどう結び付けていけばガバナンス全体がよくなるか、という切り口が必要ではないかと思います。というのも今の内部統制報告制度の最大の弱点は、取締役会において気にしている取締役が少ない、場合によっては社長も財務担当取締役になげているという点にあるのではないか、そして、そのしわよせは監査役がかなりかぶっているのではないかと、感じているからです。内部統制報告制度がより機能するためには、取締役会をどう関与させるべきかということが大事であると考えています。

ご興味がある方は、統一論題の議論だけでもぜひ来ていただければうれしく思います。統一論題の報告は午後2時40分開始です。

2010年6月 3日 (木)

訂正内部統制報告書提出の必要性は何で判断するか

2年目を迎えた内部統制報告の話題の一つとして、前年度の内部統制報告については有効という内部統制報告をしていたが、前年度の評価範囲外から「重要な欠陥に相当する」不備が発見された場合に、内部統制報告書の訂正報告書を提出すべきかという問題があります。

この問題について、昨日行われた日本取締役協会で続いている研究会である内部統制WG(座長は私)で、TOSHI先生が報告をされました。TOSHI先生、どうもありがとうございました。TOSHI先生の報告は、内部統制報告書の訂正報告書を提出した会社8社の分析を含んでいました。私とはかなり意見が違いましたが、皆さんで検討する材料をたくさんいただきました。

その中で、金融庁Q&A問67と問71をどう解釈すべきかという問題を議論しましたので、少しご紹介します。

問67は、「基準及び実施基準に準拠して決定した」内部統制の評価範囲外から「重要な欠陥に相当する」不備が内部統制を有効とした内部統制報告書を提出後に発見された場合であっても、訂正内部統制報告書の提出は不要であるという回答をしております。

また、問71は評価範囲外から「重要な欠陥に相当する」不備が発見された場合において、当該不備が評価範囲内の財務報告に重要な影響を及ぼすような内部統制の不備から生じたものである場合は、訂正内部統制報告書を提出すべきである、としています。

私の意見は、そもそも問67の「重要な欠陥に相当する」不備とは、評価範囲内の財務報告の信頼性に重要な影響を与える(つまり金額的に重要な影響がでて、かつ発生可能性も肯定される)不備を意味するのではないか、だとすれば結局、評価範囲を適切に定めて行った財務報告には重要な虚偽記載がないということの合理的基礎を得ることができない内部統制の重要な欠陥があったということを意味するのであるから、問67はリップサービスで本当は問71の回答が本当の回答なのではないかというものでした。

しかし、いまよく読んでみると、問67は、評価範囲外のプロセスを評価対象に含めたとしたら「重要な欠陥」と見られる不備があった場合を「重要な欠陥に相当する」不備であると呼んでいるのではないかと思うようになりました。またあくまで評価範囲の決定は適切であることを大前提としています。これは、問71の3が、問67を引用して、評価範囲の決定は「適切に」行われていることと記述していることからも明らかです。

こうして問67を問71とあわせ読めば、問67は、評価範囲の決定が適切であって、評価範囲外のプロセスの不備がある場合に、内部統制に重要な影響を与えなければ訂正はいらないといっているにすぎないように思えます。そうであれば、問67は理屈のうえではそのとおりかもしれません。

他方、問71は評価範囲外の内部統制の不備でも、評価範囲内の内部統制に重要な影響を与えるならば、それは、評価範囲内の財務報告に重要な虚偽記載がないということの合理的な基礎を与えられない状態にほかならないので、結局、内部統制に重要な欠陥があるということだから、訂正すべきであるということを指摘していると解釈できるのではないかと思います。

しかし、そもそも、-これはWGで指摘された点なのですがー、評価範囲外の不備によって財務報告に重要な虚偽表示がないということの合理的基礎がえられないということは、内部統制の評価範囲の決定が誤っていたか、あるいはリスクの認識が誤っていたかということを意味するのではないかという疑問があります。したがって、問67の想定していると思われる「評価範囲の決定が適切であって、評価範囲外のプロセスの不備により、内部統制に重要な影響を与えていない場合」はありえない、あるいは、ありえても極めて限定されてくるのではないかと思われます。この限定された場合とは以下のようなものです。

評価範囲外になり得るのは、決算財務報告プロセス以外の業務プロセスです。引当金や固定資産の減損、繰延税金資産などの見積もりを伴う勘定にかかる業務プロセスが金額的な重要性の観点からみて評価対象からはずれることも多く、この部分から不備が発見され財務報告に金額的に大きな影響を与えたらば、有価証券報告書は訂正しなければならないことはまちがいないでしょう。

しかし、例えば繰延税金資産に係る業務プロセスを評価対象からはずしてしまった点は、本当に評価範囲に含めなくていいとの判断が正当だったのかとう観点から検討されるべきでしょう。もし当初から、当該業務プロセスに不備があれば有報全体の数値に大きく影響をするような事態が想定しうるのであれば、そもそも評価範囲に含めるべきであったという考えを否定することはなかなか難しそうです。ですから、問67の想定するような事態は、極めて限定的であると思います。

また、訂正内部報告書が提出された案件についての分析は、当該訂正が評価範囲に含まれているプロセスに関して不備が発覚したことによるものなのかどうかを細かく見ていくべきでしょう。みたところ、最初から評価の対象になっていた勘定に係るプロセスが多いようですから、そうであれば訂正は当然ということになります。

以上の検討から、問67は非常に限定されたことをストレッチして書いていてミスリーディングであると思わざるをえません。問67と問71は統合して、ちゃんとした理屈だった解説を明快にしていただく必要があるように思います。

2010年4月 7日 (水)

ジェイコム株誤発注事件番外編追記&第三者委員会ベストプラクティス

TOSHI先生のブログには上記の件は早くも4月2日に掲載されているのを、今日になって気付きました。TOSHI先生、失礼しました。しかもかなり突っ込んでます!

私が論評を控えさせていただいたのは、まさに一方当事者と私の関係にありますので、言いたいことがあっても言えないもどかしさがあります。しかしTOSHI先生のつっこみが結構鋭い問題提起ですし、コメントからも皆さんのこの問題に対する関心の高さを理解することができました。山口三尊さんのコメントにもびっくりしました。

第三者委員会の独立性について、顧問弁護士が委員として関与していることには問題があるというTOSHI先生の指摘も、そのとおりですね。

この点については、日弁連で今、第三者委員会のあり方のベストプラクティスについてのガイドライン案が検討されています。もともと私がメンバーとなっていた日弁連のとあるチームと証券取引等監視委員会の意見交換が発端となっておりますが、久保利英明先生、国広正先生、そして野村修也先生をガイドライン検討チームの主要メンバーとし、各界から意見を聴取した上でドラフトがあがってきております。今、日弁連の各委員会にドラフトについて意見懲求している最中でして、5月下旬から6月初めにはおそらく公表されるのではないかと思います。

私は、ガイドライン案はハイレベルなものとなっており最高水準のレベルを求めつつも、柔軟であるところもあり、高く評価しております。一刻も早くガイドラインとして公表してほしいと考えています。国広先生と一杯飲みながら、これを肴にいろいろと話を伺い、かつハッピーな議論をしましたが、その件についてはお話しできるときがきたら、ブログに書きたいと思います。

2010年4月 6日 (火)

ジェイコム株誤発注取消処理に関する損害賠償請求事件の考察(番外編)

昨年12月に、みずほ証券VS東証の事実関係について速報し、それに引き続き判決の争点と裁判所の判断について検討するつもりでしたが、忙しくなって、できませんでした。その間に金融商事判例とNBLに争点の検討が出てしまったので、もういいかと思っていたら、なんと、NBLの編集部名義の記事について疑惑があり、第三者委員会が立ち上がり(委員長は私が尊敬する久保利英明先生)、びっくりしていました。

その第三者委員会の調査報告書が公表されております。一読の価値があります。

これを読むと、NBL編集部の問題が深く取り上げられており、第三者委員会の結論も穏当なものであると思いますが、働きかけをした弁護士のほうの倫理の問題はどうなのか、という点が残ります。自戒をこめていえば、我々はどんな時代でもやはり高い倫理観を保持することが必要であって、当事者代理人が編集部名でニュートラルでないと受けとめられる記事を書き、それがあたかも編集部解説として権威ある雑誌にのるようなことは絶対にあってはならない、ということにつきるように思います。関与した弁護士にとっても、法律事務所にとってもとても不幸なことです。

とはいえ、この判決の論点についての控訴審の判断がこれによって影響を受けてはならないのであって、争点については今後も淡々と裁判所において主張・立証活動を期待します。私としては、事実関係の記述からお感じのとおり、判決に相当疑問をもっておりますが、論評は控えさせていただくことにします。

2009年12月 7日 (月)

ジェイコム株誤発注取消処理に関する損害賠償請求事件の考察(1)

みずほ証券が東京証券取引所に対して、ジェイコム株誤発注にかかる取消がシステム上できなかったことにより損害を被ったとして提起していた407億円の損害賠償請求事件の判決が12月4日にありました。請求認容額は107億円でした。この判決の詳細は今後、分析されるでしょうが、事件の実相、争点、判決の判断について考察しておきたいと思います。しかし、詳細な事実を理解することからはじめることがとても必要だと思われる事案ですので事実をみていきたいと思います。

この判決を正確に理解するためには、東証における株式売買システムの理解が不可欠です。証券取引所は、ざっくりいえば、取引参加者からの売り注文と買い注文を付合せて、一定のルールのもとに対当させ、売り注文と買い注文との間で売買を成立させるのが業務です。東証の売買システムも業務規程や呼値に関する規則などのルールに基づいて設計されていました。

ジェイコム株は初上場株でした。東証の業務規程では初上場銘柄の初値の決定及び最初の売買価格の決定は、板寄せにより行われ、売買成立のためには、以下の3つを要求しています。

① 成行の売り注文と買い注文のすべてが約定すること

② 約定値段より高い買い注文と、約定値段より低い売り注文がすべて約定すること

③ 約定値段において売り注文又は買い注文のいすれか一方すべてについて約定し、他方は1売買単位以上が成立すること

ただし、買い注文が売り注文の数量を大幅に上回り買い注文が優勢のときは、立ち会い開始時に「買い特別気配」を表示することになります。

ジェイコム株の場合は、午前9時20分に買い特別気配672,000円が示されていました。初値がついていない状況だったのでその状態が続いていました。

午前9時28分に、みずほ証券が指値1円での61万株の売りを東証の売買システムを使って発注しました。

61万株という数の売り注文は、ジェイコムの上場株式数も買い注文の合計の株数よりはるかに大きい数ですので、それまでの買い優勢をひっくり返すものでした。このような逆転気配となった場合は、必ずその時点で表示されている買い特別気配値段で売買を成立させる運用となっており、東証の売買システムはこのとおり特別気配値段で売買を成立させました。

価格優先の原則によれば、成行の売り注文の次にみずほ証券の売り注文が他の指値注文に優先して約定の対象となるのですが、逆転気配の場合には例外があり、逆転気配を引き起こした注文は後回しにされる取り扱いとなっています。そこで、以下のような処理がおこなわれました。

①売り買いの成行注文の全部が特別気配値段で約定する。

②みずほ証券の売り注文以外の、買い特別気配値段以上の指値の買い注文と特別値段以下の指値の売り注文とが、特別気配値段で約定する。

③以上の制約により残った買い注文とみずほ証券の売り注文が特別気配値段で約定する(みすほ証券の売り注文数が多いので、売り注文の一部について売買成立、その後の残りの売り注文がまだ板として残る)。

初値がついたので、値幅制限がシステム上自動的に設定されました(高値772,000円、安値572,000円)。値幅制限設定後は、設定前の売り買いの注文でこの制限を超えているものは、安値又は高値に自動的に変更され、また設定後に入力された値幅制限を超える注文は、板として立たず排斥される処理が行われます。

こういう状態になったときに、一部売買が成立したみずほ証券の1円の売り注文に対して、買い注文がみずほ証券の売り注文板をみた各証券会社から次々と入ってきたのです。このときに、東証の売買システムは、みずほ証券の残っている売り注文に対等する買い注文を3秒ごとに自動執行し、初値より値段で低い買い注文(値幅制限の安値に近づいていく)で売買が次々と成立していくということが起りました。

こういうことが起こっている途中の午前9時29分、みずほ証券は売り注文の取消注文を入力しました。しかし、板として残っているみずほ証券の売り注文は、システム上、取消処理されませんでした。東証では、取引参加者は注文を取消注文により撤回できる制度をとっています。

上記のような処理がなされる過程で取消注文が発注されたとき、その取消注文はその時点で取消注文が発注される前に入っている売り注文と買い注文とを対当させるタスクの後に、処理をされることになっているので、取消待ち状態になります。対当が終わり売買が成立し付合わせタスクが終了すると、システムは取消対象となる注文の探索を注文データベースにむかって開始します。つまり、付合せのタスクに入った注文については取引を対当させて約定させるものはさせて、注文取消の対象である注文に残があるときは、取消を行うというのがルールとなっています。

このプロセスは、銘柄別注文情報(一部について付合わせができ約定ができると一部約定したという情報が付加される作りでした)がくっついている銘柄別注文のデータベースに注文取消対象を探しに行くわけですから、一部約定情報が残っている注文データベースの中から取消対象の売り注文が特定されていれば、注文取消は実行されたはずです。

ところが、付合わせプロセスを行うモジュールとは別のモジュールが、逆転気配の付合わせが終了したのちに、一部約定したという情報を注文データベースから消すという設計がなされていたのです。このために、注文データベースに取消対象となる注文を探しにいっても、それが取消対象であることが認識できず、取り消すべき注文がないと判断されるということが起こったのです。他方、売り注文の残は一部約定情報が抹消された形で銘柄別注文データベースに残っているので、買い注文が入ってくればシステムは残っている売り注文を約定対象注文と認識して、せっせとあらたな買い注文との対当・約定成立の処理を行っていくということになったのです。

こうして値幅制限いっぱいの最安値572,000円に至るまで次々に約定が成立していきました。最安値での付合わせが終了すれば、処理はいったん終了します。この時点では取消注文は対象取引なしと判断され、それで終わるはすなのです。

しかし、まだみずほ証券の売り注文は数が残っていました。この間も買い注文が次々に入ってきて、売買システムは取消注文を待たせて、途切れることなく付合わせのプロセスを先に実行していきました。売買システム上は、付合わせタスクが終了して次の付合わせタスクが開始するまでの間に取消注文が入らないと、取消の処理が始まらないという設定だったのです。

みずほ証券は9時29分に取消注文を入れた後も取消できないので、9時33分から35分にかけてさらに取消注文を発注しましたが、受け付けられないため、ついに9時35分になって自己勘定による買い注文を開始し、9時37分までにその時点で残っていた自己の売り注文467,688株を対当させ、売り注文を板から消したのでした。

ちなみに、前述した逆転気配の付合せのあと銘柄別注文データベースに残っている一部約定を消してしまうという処理は、事件後、東証によって手当てされました。また、大阪証券取引所の売買システムでは取消しが確実になされているものとなっていました。

さて、これまでの事実経過をみて、皆さんはどう思われますか?(続く)

2009年11月17日 (火)

上村教授が語る公開会社法(4)

上村先生と中村先生の座談会備忘録4回目です。

上村先生は、前回まとめた法人という危険要素のほかに「市場」という危険要素があるといいます。市場でなんでも買えたから支配できるという要素は、人間を見失わせる、しかし、市場は大事という趣旨のようですが、非常に分かりにくいです。個人の尊重と法人に対する警戒とは表裏の関係にあるという教授が、市場を大事にするということは、市場というものが個人の尊重と表裏の関係にあるということを意味するのかどうか明確ではありません。ただ、上村先生は市場の論理とデモクラシーとの論理との調整という発想がご自分の発想の基本と語っているので、市場は個人の尊重を害する側面があると見ているということなのでしょう。

また、グローバル市場経済に対抗するデモクラシーが必要で、それは「ドメスティック、という矛盾こそが本質」と主張されますが、よくわからないです。さらに、それがちゃんとできなかったという例として小泉改革を取り上げ、小泉改革においては法的な感覚が欠如していた、そういう感覚がないまま市場を操ったことが、小泉・竹中路線の根本的欠陥だと断言されます。

日本の金融市場改革と一緒に走ってきた私としては、賛同できないご意見であると思います。1997年から行われた金融検査・証券検査による行政処分の山と、それと同時に走った証券取引法及び金融商品取引法、銀行法、信託法、信託業法、保険業法その他数多くの法律改正が行われた時代とは、一言で言えば「ルールの厳格化・明確化と業者の自己規律、投資家の保護が非常に強調された時代」でした。

法的感覚が欠如した、といわれては、金融に関わってきた実務家はほとんどが驚いてしまうほかないでしょう。この過去12年の金融規制の歴史は、まさに「法化」だったはずです。なお、私は規制を受ける側にいました。全ての改革についてハッピーであったわけではなかったことは過去のブログの記事でもおわかりでしょう。そうであっても、規制当局に法的感覚が欠如していたとは、とても思えません。我々は裁量の余地が入りすぎる金融規制を批判していたのであって、それは理想の形とスピードで実行されたのではないし、すべての市場関係者を満足させるものではなかったけれども、進捗していたと思います。

こういう認識を披瀝された上村先生は、公開会社法の根底にあるこうした上村流「理念型」によって議論をすることが、欧米の経験や体験を理論化、抽象化することにつながり、無駄な失敗を繰り返さないことにつながると主張されます。いままでの議論についての私の疑問からみてもわかるとおり、このような上村先生の御主張は、私には理解が難しいです。

というわけで、正直言って、なぜ公開会社法が必要なのか、上村先生のご説明では、まだまだ理解できないというのが現状です。(続く)

2009年11月16日 (月)

上村教授が語る公開会社法(3)

前回に引き続きます。

中村直人先生は、上村先生が、公開会社法は市民社会を相手にするものであり、戦後日本の証券民主化の理念を復活させるものであるという説明について、それは公開会社法の政策的目的なのか、それとも公開会社法とは離れた政策論なのか、と鋭く切り込みます。

上村先生にはそれには直接答えておらず、第三者割当増資が欧米では株主割当が当たり前で例外的にしか認められないのは、個人中心の市民社会をつくるのに大変苦労したから、法人向けの第三者割当がやたら行われることによって個人中心の社会が小さくなっていくおそれがあるから、そうなったと答えます。

また、上村先生は、株主平等原則は英米には存在しないが、欧米では10対1の出資でも人間対人間の関係というところにこだわっているように思います、と説明されます。こういう社会の性格や規範を理解しないと株式会社というものを日本で定着させられない、公開会社法の議論はこうした価値や規範が中核であると、続けられます。

だんだん、私の首が傾く角度が大きくなってきました。

第三者割当増資のリスクは、希釈化がまねく既存株主の犠牲による割当先の利益獲得ではなかったでしたかね?既存株主が法人であろうと個人であろうと関係ないんじゃないでしょうか。ましてや個人中心の社会が小さくなるなんて、へんですよね。それだったら法人保有割合をなんで制限しないの、と思っちゃいます。

なんか、上村先生の描かれている市民社会のイメージが19世紀的に思えるのですが。

それに、上村先生、古い映画ですが「ウォール・ストリート」、ご覧になってませんかね?カーク・ダグラス演じるコーポレート・レイダーが乗っ取ろうとしている会社の株主総会でこう言うんです。"Greed is good. Greed works."

これが行き過ぎたというわけでさまざまな改革がアメリカではされるわけですが、でも基本は人間の欲望追及に極めて寛容な社会が、欧米の社会であって、それが個人主義のベースになっていると、私は思うのです。だから、アメリカは典型的な金がすべての社会です。富を築いて成功した者は善とみて、そういうものにあこがれるのがアメリカです。

これに対して、貴族階級と市民階級というクラス・ソサエティの二種類の社会がブレンドして(前者が崩壊する)、新たに市民社会の中に上流階級、中流階級、下流階級ができているのがヨーロッパ先進国であると思うんですが。そこでの各階級の利益は鋭く対立しているのが、現実なのではないでしょうか。そしてごく少数の上流階級が株式会社を支配しているのであって、その暴走を止めるための装置が考えられていると観たほうが、ずっと現実感覚にあうと思います。(続く)

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