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2015年10月 1日 (木)

内部監査の軽視は経営の命取りー何もみえないで経営はできない

大手介護施設を運営している会社のいくつかの施設で、虐待や暴力が明らかになり、マスコミが大きく取り上げている。この会社の川崎の施設では、怪死が相次ぎ、警察の捜査も開始されているということだ。この手の会社が社会的非難の対象となるのは当然のことだ。虐待等に加担した職員の民事・刑事の責任だけでなく、その監督者としての民事責任が問われるべきであると、法律家だけでなく一般人も考えるだろう。

私が雑誌に掲載された経営者のインタビューを読んで直ちに考えたことは、「この会社は内部監査をまったく行っていなかったのだろうか」ということだ。それにフォーカスすれば、介護ビジネスを運営する事業主体における内部監査の必要性や重要性を直ちに理解できるはずである。

介護ビジネスは、社会福祉法の規制の下に行われるものであり、都道府県知事の監督を受ける。また介護保険のもとで、報酬は公的な資金から支払われるものである。介護保険施設は所有する都道府県から指定管理者として事業主体が指定を受けることも多々ある。介護ビジネスは法律によって規制された世界なのである。

また、ホームにおける職員の介護行動には一定のルールがある。朝、何時におむつを変え、朝食をどのタイミングで出し、身動きできない施設入居者を何回どのタイミングで寝返りを打たせ、カロリーはどれくらい調節した食事を与え、あるいは胃瘻をしている施設入居者にあたえるのか、といった行動準則である。私の亡き母親も特別養護老人ホームに長くお世話になった。だからそのルールが適切に実施されることで命を永らえていただいてきたことも体感している。

したがって、介護ビジネスではルール順守により介護の質を一定に保つことがビジネスを運営する上で必要不可欠であり、介護施設における虐待、不適切な介護、施設入居者からの預り金の不適切な管理、マニュアルの不遵守に起因する事故等の防止といったことが、ビジネスを守り発展させる前提条件なのだ。

それを一律現場任せにするという発想は経営者として失格だろう。介護ビジネスにおける職員の定着率の悪さは介護ビジネスを知らない者であっても周知の話だ。精神的にも肉体的にもきつい仕事なのに、低賃金のままで、よいスタッフを維持するのは大変なことだ。職員の質を保つためのトレーニング体制も、一部大手を除き、整備している会社や社会福祉法人の方が少ないであろう。実際、特別養護老人ホームを訪れれば、介護を行ったことのない者でも痴ほう症にり患した老人の世話というものがいかに大変なのかはすぐ理解できる。だから介護に向かないスタッフが入り込んでくることも予想できるし、フラストレーションから施設入居者を乱暴にあつかう者がありうることも想定の範囲内である。

きつい、汚い(介護の現場は大変なのだ)、低賃金という職場環境で仕事を続けている介護職員にはただただ頭が下がるばかりだが、そのような介護職員ばかりではない。介護職員の人格のみに依拠した運営は、リスクの放置そのものであり、経営者の怠慢と指弾されて抗弁できるのであろうか。法的に言えば、善管注意義務違反で経営者個人の責任が発生する可能性と隣り合わせの世界なのである。そして残念ながら、小泉政権以来、政府が推し進めている政策では介護報酬はあがらないのだ。だから、施設職員の待遇改善に踏み切れない環境の中、経営者はどうやったら安全にビジネスを運営できるかに当面神経を使わざるを得ない。

その一方策としては、内部監査が有効であろう。内部監査専門の人間が現場に赴き、金銭管理、業務マニュアル遵守状況、その他異常事態が発生していないかをチェックし、現場にフィードバックしていくのである。そのことは結局、一生懸命働いてくれている介護職員を守ることにつながるのだ。人間の弱さがでたときに不祥事は起こる。そして、それが発生したときはビジネスそのものが立ち行かなくなるかもしれない。内部監査は、施設入居者を守り、介護職員を守り、そして経営そのものを守るものなのだ。

しかし、これは何も介護ビジネスに限った話ではない。いまさらながらだが、内部監査は経営に必要な機能なのだ。そのことについてはたくさんの人が語っているのだが、経営者はいったいどれくらい理解しているのか。特に、監査等委員会設置会社に移行した180社を超える上場企業で内部監査部を充実させる経営者がどれくらいいるのか。このテーマについては、次の機会に述べてみたい。

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