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2015年1月 6日 (火)

社外取締役を置いていない場合の理由の開示と決議取消訴訟

改正会社法327条の2は「事業年度の末日において、監査役会設置会社(「公開会社であり、かつ、大会社であるものに限る。)であって金融商品取引法第24条第1項の規定によりその発行する株式について有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならないものが社外取締役を置いていない場合には、取締役は、当該事業年度に関する定時株主総会において、社外取締役を置くことが相当でない理由を説明しなければならない。」と規定しています。

同条は経過措置が会社法附則に定められていないので、平成27年の株主総会から適用されるものです。同条に関しては、会社法施行規則案第74条の2第1項にも、「株式会社が社外取締役を置いていない特定監査役会設置会社(当該株主総会の終結の時に社外取締役を置いていないこととなる見込みであるものを含む。)であって、かつ、取締役に就任したとすれば社外取締役となる見込みである者を候補者とする取締役の選任に関する議案を当該株主総会に提出しない時は、株主総会参考書類には、当該社外取締役を置くことが相当でない理由を記載しなければならない。」と、また、同条第3項に「第1項の理由は、当該株式会社のその時点における事情に応じて記載しなければならない。この場合において、社外監査役が二人以上あることのみをもって当該理由とすることができない。」と定められています。

法務省令案が公表される前ですが、327条の2の「相当でない理由」の解釈と法務省令案について、立法担当官である坂本三郎法務省参事官は次のように解説しています(商事法務No.2040号掲載の座談会「改正会社法の意義と今後の課題(上)」)。

ー 「置かない理由」あるいは「必要でない理由」というだけでは足らず、社外取締役を置くことがかえってマイナスの影響を及ぼすような事情を説明する必要があるということで考えています。

ー 社外監査役が二名いて、わが社は十分それが機能しているから社外取締役を置くことは不要ですという説明のみがされたとしますと、それは「必要でない理由」の説明にすぎないということで、それだけでは足りないのだろうと考えています。

ー よく適任者がいないということが社外取締役を置かない理由としていわれていますが、適任者がいないというだけの理由をもってしては、やはり「相当でない理由」にはならないのではないかと考えています。

ー この株主総会の説明というのは、当該事業年度まではこう考えてやってましたということですので、それで説明せざるを得ないということです。

ー 社外取締役の選任議案を提出している会社は、比較的あっさりとした説明で足りると考えています。先ほど法務省令で事業報告書の記載ということも申し上げましたが、それについても同じような扱いになると思います。他方で、株主総会参考書類については社外取締役選任議案を提出しているので、相当でない理由は書かなくてよいということになりますし、また、これまで社外取締役を置いていなかったのにこれを置くことした理由をあえて書く必要はないという方向で考えています。ただ、株主からは必ず「何で置くこととしたのだ」と聞かれそうな気はいたしますけれども、法令上は聞かれなければ積極的にいう必要はないという方向で考えています。

坂本参事官の解説を読んだときは、どう法務省令案を起案するのだろうと思っていたのですが、まさに参事官の考えを反映した起案がされたわけですね。株主からの「何で置くことにしたのだ」という質問に対しては答えなければならないのは、法314条から当然です(株主総会の目的である取締役の選任という事項に関するものですから取締役は説明する義務があります)。ただ、その説明内容は、一般的な株主が合理的に理解できる程度の説明を行う必要があります。岩原伸作教授は、前記座談会でも、その会社の環境や社内の体制、あるいはその会社における人材獲得の可能性ということ等を具体的に説明すべきであると説明されています。

次に取締役が「相当でない理由」の説明を株主総会で行わなかった場合において、取締役選任議案が継続している株主総会であれば、当該取締役選任決議について決議取消事由になりうる可能性があると、岩原伸作教授は述べられています。

それにしても、「相当でない理由」の中身になりうる説明が何かは判然としません。先の座談会では、信託銀行の方が一つのアイデアとして、「事業内容が高度に専門的な内容であり、これに精通する専門家の社外取締役候補者を探すのは非常にむずかしく、門外漢の候補者を選ぶことはかえって企業価値を損なうおそれがある。」とか、「取締役会の決議に機動性が必要であるような会社は社外取締役ではスケジュールの問題があり機動性を害することになる。」というようなアイデアを紹介されています。

なお、出席者は、全員、事業報告書に記載のとおりですといって説明を終わらせるのでは足りないと考えているようです。

この点、坂本参事官は、社外取締役選任議案が提出されている場合には、これまでなぜ社外取締役を 置いてこなかったのかというところをあっさりめに述べてもらうことになるが、それが「相当でない理由」となりそうでなくとも、社外取締役選任議案を提出しているので決議取消事由にはなりにくいのではないかといっています。社外取締役選任議案が提出されていれば説明義務がなくなるならそのような考え方もなりたつのでしょうが、しかし、そうではないので、理論的には説明がつかない感じがします。

取締役選任議案に社外が含まれているか否かで、327条の2の「相当の理由」の中身が変わるという理屈は成り立つでしょうか。確かに株主総会参考資料の記載に関する法務省令にはそのように解釈すべしと暗示するような考え方が表れているのですが、個人的には法務省令の考え方をそのまま327条の2の解釈と同様にとれるかというと、ちょっと違和感があります。「省令の規定の仕方や考え方は卵、会社法が鶏でしょ。」という感覚がぬぐえないからです。坂本審議官の発言は、社外取締役選任議案が可決されれば、実務的には、説明義務の不履行を問題として、決議を求めるべき訴訟を提起されることはほとんどないのではないかという意味程度にしか理解できないので、リスクは残ざらるを得ないと思っています。例えば、社外取締役候補者が株主にとって気にいらない人物であったりすると、「相当でない理由」の説明がなかったとして決議取消訴訟を起こすことも、理論的には可能です。

もっと大胆に、こういったらどうでしょうか。327条の2は機能的には社外取締役選任を企業に間接的に強制するための規定であるから、社外取締役選任議案が提出されている場合には「相当でない理由」は意味が変わり、当該事業年度で企業が主観的に相当でないと考えていた理由程度でも許される、と。

しかし、実際、327条の2について真正面から企業に社外取締役選任を間接強制するための目的と説明している方はいらっしゃらないようなので、同条の真の目的が社外取締役選任にあったと会社法学者が言い出すのは、あと10年くらいかかるかもしれませんね。

社外を含まない取締役選任議案が上程された事案で、株主総会参考書類に社外取締役を置くことが「相当でない理由」が記載されていない場合には、株主総会参考書類は招集通知に添付されなければならず、その記載の不備は一般に召集の手続が法令に違反する場合に該当するので、決議取消事由に該当します(会社法831条1項1号)。この場合には、その違反する事実が重大でなく、かつ決議に影響を及ぼさないものであると認めるときは、裁判所は裁量棄却することができます(同条2項)。

以上をまとめると、平成27年に株主総会を開催する上場企業(かつ大会社)で、社外取締役が現在いない企業が、当該株主総会に社外取締役の選任議案を提出する場合には、以下の通りの規制に服することとなります。

①当該株主総会で、事業年度中に社外取締役を置いていないことについて相当な理由を説明する義務がある。

②「相当の理由」の内容であるが、適任者がいないとか、社外監査役で十分機能しているという説明は「相当でない理由」とはならず、社外取締役を置くことがマイナスとなるという理由を説明する。

③しかし、その説明はあっさりとしたものでよいが、「相当でない理由」は「必要でない理由」よりもう少し会社にとってのネガティブな影響を語るものである必要がある。

④株主総会参考書類には、当該社外取締役を置くことが相当でない理由を記載する必要はない。

また、社外取締役が現在いない企業で、当該株主総会に社外取締役の選任議案を提出しない場合(社外取締役を含まない取締役選任議案を提出する場合)には、以下の通りとなります。

①当該株主総会で、事業年度中に社外取締役を置いていないことについて相当な理由を説明する義務がある。事業報告書記載のとおりというのでは説明としては不十分である。

②「相当の理由」の内容であるが、適任者がいないとか、社外監査役で十分機能しているという説明は「相当でない理由」とはならず、社外取締役を置くことがマイナスとなるという理由を説明する。

③株主総会参考書類には、当該社外取締役を置くことが「相当でない理由」を記載する必要がある。

④株主総会において「相当でない理由」の説明がない場合には当該議案について決議取消原因が生じ、決議取消訴訟の対象となる。

⑤株主総会参考書類に、「相当でない理由」の記載がない場合、召集通知に添付されるべき株主総会参考書類の記載不備と解されるので、決議取消訴訟の対象となる。この場合には、その違反する事実が重大でなく、かつ決議に影響を及ぼさないものであると認めるときは、裁判所は取消の請求を棄却することができる。

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