« 2014年9月 | トップページ | 2015年10月 »

2015年1月に作成された記事

2015年1月22日 (木)

会計監査人の選解任権の変更とその対応

上場企業の社外監査役ですので、私もこのブログの読者の皆さんと同様、平成26年改正会社法により次の株主総会まで何をしなければならないかが気になっているところであり、それがこのブログでやや自分の勉強としての手控えをアップしている主要な理由ですが、本日は、会計監査人の選解任等に関する議案の内容は監査役会が決定することとされた点について(改正法344条)とりあげます。一番気になるのは次の株主総会招集通知を発する際にはどうなるかという点です。

改正法の施行日は本年
51日予定とされていますが、改正法の施行日前に会計監査人の選解任等に関する決議をするための株主総会の招集手続が開始された場合における会計監査人の選解任等に係る手続については、改正後の344条の規定にかかわらず、「なお従前の例による。」、すなわち、改正前の規定に従うこととしています(改正法附則15条)。そして「株主総会の招集手続が開始された場合」とは、株主総会の招集の決定がなされた場合をいうとされています。つまりは5月1日より前に会計監査人の選解任等に関する決議をするための株主総会の招集の決定が取締役会でなされれば、改正前に従い、5月1日以後であれば改正法に従うというわけです。

3月決算の上場企業では、例年、株主総会招集の決定は、5月の定時取締役会あるいは決算取締役会で、計算書類・事業報告書の承認とともに行われております。この実務を継続するとすれば、本年の定時株主総会に上程される会計監査人の選任議案および解任・不再任議案は、監査役会が決定し、取締役会に決定を通知して取締役会が選任議案を総会議案とする旨の決議を行う必要があります。

この点、監査役会に選解任権等の権限が移る5月1日より前の4月に株主総会の招集と日時場所だけを取締役会で決議して、例年通りの実務を維持できると考えている意見があるようです。しかし、会社法298条は、株主総会を招集する場合には、株主総会の日時及び場所、総会の目的事項(つまり議案)、書面による議決権行使ができることとする場合はその旨、電磁的方法による議決権行使が可能な場合にはその旨、その他法務省令で定める事項を取締役会が決定することを要求しています。取締役会設置会社においては、株主総会は招集賢者が決定した議題以外の事項について決議を行えないので(309条5項)、議題は必ず決定しなければなりません。したがって、この意見の方法では、総会招集決議としては欠陥のある決議を行うことになりますし、また、上記のとおり、「株主総会の招集手続が開始された場合」とは、株主総会の招集の決定がなされた場合をいうとされていることからすれば、欠陥のある決議を行なっても「株主総会の招集の決定がなされた」といえるのか疑問が残ります。また、もしこれが可能であるとしても、適時開示ルールの関係では、株主総会の日時と場所を決定したというプレスリリースを打たないと上場規則違反になるでしょう。決議を2回に分けるというやり方では2回のプレスリリースが必要ということになります。やり方として適切なものであるとは言えないように思います。

なお、会計監査人と会社との会計監査契約は1年ごとですが、解任・不再任しない限りは、契約の更新を株主総会で決議する必要はありません。この場合、取締役会は更新の際に監査役会に意見を取るという実務を行っている上場企業もあると思っておりますが、これは厳密な意味では現行法上の監査役会の選任・解任・不再任の同意を取得しているわけではないと思います。そもそも不再任しないわけですから同意も不要です。

この再任を決定する権限について、現行法は取締役会に帰属するとしています。改正法はどうなのでしょうか。不再任にするかの権限が監査役会に与えているならば、当然再任を決定する権限も監査役会に与えられていると解釈するのが自然であろうと思われます。だとすると、会計監査人をそのまま継続する、あるいは不再任としないという決定を監査役会で行っておくことが必要です。したがって、5月1日以降に、株主総会招集の決定を行う5月の取締役会の前に、監査役会で再任の決議を行い、代表取締役に通知しておくという方法をとるのが適切と思われます。

監査役会として、再任を決定するまでどのようなプロセスを踏むべきでしょうか。会計監査人は計算書類の監査を終了して監査役会に提出するわけですから、計算書類の会計監査が終了し、監査役会が問題がないことを確認できた時点で決定するのが理想的であると思います。決算取締役会は株主総会の招集を決定するのが通常ですから、決算取締役会で計算書類・事業報告書の承認ができるならば(つまりそれまで監査役会の監査を終了することが可能ならば)、決算取締役会の前に監査役会を開催して、計算書類・事業報告書の監査を終了し、同時に会計監査人の再任を決議し、取締役会に監査報告とともに通知すればいいでしょう。

しかし、決算取締役会のタイミングで計算書類・事業報告の承認が間に合わず、その後の取締役会で承認を行っている上場企業も多いものと推察いたします。株主総会招集の決定を行う決算取締役会の前に、監査役会で再任の決議を行い、代表取締役に通知しておくという方法をとるのもやむをえないと思いますが、その場合に、監査役会が再任決定を行う基準として、それまでの会計監査人の活動からみて特に問題がないと認められることが必要でしょう。この点、会計監査人が適切な監査活動をしているかの監査役の相当性判断は事業年度を通じて観察し行いますから、会計監査人と監査役会との意見交換や情報共有の密度が高い企業ほど、その判断は楽でしょう。

2015年1月16日 (金)

社外要件の変更に伴う責任の一部免除と責任限定契約

社外取締役・社外監査役の要件が変更されたことに伴い、変更によって影響を受ける取締役・監査役のために平成26年度改正会社法では改正がなされました。

第一点目は会社法425条1項1号に定めている役員の最低責任限度額の変更です。

取締役、執行役、監査役等(以下、「役員等」という)は、その任務を行ったときは、会社に対してこれによって生じた損害を賠償する責任があります(423条1項)。職務執行を行う際に善管注意義務に違反して会社に損害を与えた場合の、役員等の個人の責任を規定するものですが、右の責任は、役員等が職務を行うにつき善意でかつ重大な過失がないときは、定められている最低責任限度額を控除して得た額を限度として、株主総会の決議によって免除することができます。その最低責任限度額の算定方法を定めるのが1号の規定で、その方法は、役員等が職務執行の対価として受け、または受けるべき財産上の利益として会社法規則113条で定める方法により算定される額(平たく言えば報酬)に一定の数をかけて得ることになっています。その一定の数ですが、現行法では代表取締役又は代表執行役は6、代表取締役以外の取締役で社外取締役でない者または代表執行役以外の執行役は4、社外取締役、監査役は2と定められています。

社外要件が変わっために、いままで社外取締役であったものが改正法施行後は取締役となる場合には、最低責任限度額が2倍に増えることになります。しかし、このような取締役は社外要件がかわったとはいっても、業務としては社外取締役と同様に特定の業務執行について責任をもっていません。したがって、経営に対する監督が期待できる一方、また自ら業務執行から発生するリスクを十分コントロールすることができる立場にはないということから、平成26年改正法では、社外取締役と同様の責任限度額とすることとするために、4をかける取締役を代表取締役以外の取締役で業務執行取締役であるものに限定しました。

第二点目は会社法427条1項に定めている責任限定契約の対象者の変更です。

社外取締役、社外監査役等(以下、「社外役員等」という)は、社外役員等が職務を行うにつき善意でかつ重大な過失がないときは、定款で定めた額の範囲内であらかじめ会社が定めた額と最低責任限度額とのいずれか高い額を限度とする旨の契約(責任限定契約)を会社と社外役員等との間で締結することができるとされています(427条1項)。いままで社外取締役であった者が改正法施行後は普通の取締役となる場合には、責任限定契約を締結できなくなりますが、業務執行を行わないことは変わらないのにプロテクションだけはずれるのは合理的でないし、人材確保の点でも責任限定契約を継続することが望ましいと考えられます。そこで、この規定についても、業務執行取締役かどうかで区別することとし、業務執行取締役等でない取締役であって社外取締役でないもの及び社外監査役でない監査役についても、会社との間で責任限定契約を締結できるように改正しました。

この点、定款において現行法に従った責任限定契約に関する規定を設けている場合に、業務執行取締役等でない取締役であって社外取締役でないもの及び社外監査役でない監査役について責任限定契約を締結しようとする場合には定款変更を行い変更登記を完了することが必要となります。したがって、平成27年5月以降に株主総会を開催する上場会社では、定款変更を定時株主総会に議案として提出することを検討する必要があります。

なお、施行日前の行為に基づいて責任が認められる場合に、施行日後の上記の定款変更により責任限定契約の利益を得させるのは会社への賠償金額の減少を招き相当でないので、施行日前の役員等の行為にもとづく責任については、改正前の規律に従うこととしています(会社法附則16条前段)。

今、あらためて最低責任限度額についてみると、社外監査役に対してはかならずしもフレンドリーな規定になっていないことに気づきますね。監査役については社内であろうが社外であろうが、他の取締役に対する信頼の原則の適用がないですし、常勤監査役に対する信頼の原則なるものも免責理論として認められていないですから、社外監査役のおっている責任の重さを痛感します。例をあげましょう。

年収1000万円の常勤監査役1名と年収500万円の社外監査役3名を考えると、

改正前の最低責任限度額

常勤監査役・・・・・・1000万円×2=2000万円

社外監査役(非常勤)・・・・・・500万円×2=1000万円

改正後に一人の社外監査役が社外要件がなくなったとすると

常勤監査役・・・・・・・・・・・・・・1000万円×2=2000万円

監査役(非常勤)・・・・・・・・・・500万円×2=1000万円

社外監査役(非常勤)・・・・・・500万円×2=1000万円

改正前の責任限定契約に関する定款規定ですが、最低責任限度額を上限とするものがかなり多いという印象で、そうだったとすると、

改正前の責任限定契約

常勤監査役・・・・・・なし

社外監査役(非常勤)・・・・・・500万円×2=1000万円

改正後に定款変更をして監査役も同様のプロテクションをえられるようにし、かつ、一人の社外監査役が社外要件がなくなったとすると

常勤監査役・・・・・・・・・・・・・・1000万円×2=2000万円

監査役(非常勤)・・・・・・・・・・500万円×2=1000万円

社外監査役(非常勤)・・・・・・500万円×2=1000万円

定款変更をすれば、常勤監査役の保護がぐっと厚くなるようです。

非常勤監査役と常勤監査役では、必然的に監査の深度がちがいます。多くの場合に非常勤監査役は常勤監査役からの情報に依存するほかありません。おっている善管注意義務の内容そのものには常勤か非常勤かで有意な差は判例上認められていないように思います。監査役は、むしろ常勤と非常勤で責任について分けて、任務懈怠の有無について常勤監査役と非常勤監査役の過失認定について差異を認める(常勤監査役に依存せざるを得ない非常勤監査役の事情を過失認定にとりこみ、常勤監査役に過失ありとされ、非常勤監査役に過失なしとされることを認める)ことがあってしかるべきであると感じます。勉強不足で判例について十分フォローしていないので、すでにそういう判例があるならばぜひご教示下さい。

2015年1月13日 (火)

社外取締役・社外監査役の要件の厳格化と実務対応

平成26年改正会社法の施行日は平成27年5月1日です。2月決算、3月決算の会社は、5月、6月の定時株主総会に影響のある改正点の対応準備を今すぐ開始しなければなりません。前回の社外取締役を置くことが相当でない理由の説明義務はその例ですが、今回は社外取締役・社外監査役の要件の厳格化が及ぼす影響とその対応を説明しておきたいと思います。

ところで、対応が必要といいながらも、今日のトピックは実は猶予が与えられているので、対応策を練るのに時間的にゆとりがあります。というのも会社法附則4条に、改正会社法の施行の際、現に社外取締役、社外監査役を置く株式会社の社外取締役、社外監査役については、施行後最初に終了する事業年度に関する定時株主総会の終結時までは「従前の例による」と定められているからです。「従前の例による」とは、改正前の要件に従うということです。

たとえば3月決算の上場会社で、平成26年6月の定時株主総会で現行法のもとで社外要件を満たす社外取締役1名(任期2年)と社外監査役2名(任期4年、監査役は定款上3名とされており、社外でない常勤監査役はその前年度に選任されていると仮定)を選任したとします。ところが平成27年5月1日に改正会社法が施行されると、当該社外取締役、当該社外監査役は社外要件を満たさなくなってしまいます。その時点で社外取締役、社外監査役ではなくなってしまうとすると、どういうことが起きるでしょうか。

第一に上場会社は、独立役員1名以上の確保を求める上場規則に抵触することになります。第二に、監査役会設置会社については、監査役の半数以上は社外監査役でなければならないとされているので(335条3項)、この規定に抵触します。そして、社外監査役の人数を満たさずになされた監査は手続的瑕疵があるとされますから、平成27年6月の定時株主総会に提出される計算書類・事業報告が適法な監査手続をへていないということになります。

なお、監査に手続的瑕疵があり計算書類・事業報告を承認した株主総会の決議が決議取消原因になるかという点ですが、監査役・会計監査人の監査をへない計算書類の承認は決議の方法の法令違反であるとされているところから見ると、少なくとも決議取消原因になる可能性は否定できないように思いますし、そもそも適法な監査をへた計算書類・事業報告の提出がないのに総会での承認があったのだから、決議は当然に無効であるという考え方もありうると思います。

こういうことになることを避けるため、改正法の要件を満たす社外取締役・社外監査役を選任するための臨時株主総会が必要となりますが、それも大変であり、また、臨時株主総会を開催するまでは、社外役員がいない状態が続いてしまうわけです。そこで、附則4条では、その施行後最初に終了する事業年度に関する定時株主総会において改正会社法の要件を満たす社外取締役・社外監査役を選任すればよいと定めているわけです。

したがって、上記の例ですと、平成28年6月の定時株主総会終了時に任期満了する改正前の要件を満たす社外取締役のポジションを、改正後の要件を満たす社外取締役を選任して埋めればいいのですが、監査役についてはちょっと厄介です。改正前の要件を満たす社外監査役2名は当然に地位を喪失しないので、社外要件を満たさない監査役が3名いることになってしまいます。社外監査役は半数以上必要なので、新たに改正後の社外要件を満たす社外監査役を新たに選任しなければなりません。つまり、さらに3名の社外監査役が必要(!)ということになってしまいます。「なんとか2名、おやめいただけませんでしょうか。」とお願いしても、社外監査役が「うん」といわなければ、最悪、定款変更で監査役会を増員し、3名社外監査役を選任、なんていう異常事態が起こります。株主や市場から呆れられないために、しっかりと準備しておく必要があります。

改正前は社外要件を満たすとされたが、改正後はみたさないとされる関係として実務的に大きく問題になりうるのは、以下のものと思われます。

第一に、「親会社等」の定義が新設され(2条第4号の2)、親会社及び株式会社の経営を支配している者として法務省令で定めるものをいうこととされました(自然人も含まれます)。そして、親会社等の取締役もしくは執行役または支配人その他の使用人は、社外取締役にはなれないことととなります。

第二に、兄弟会社(「株式会社の親会社等の子会社等」)の業務執行取締役もしくは執行役または支配人その他の使用人は、社外取締役にはなれません。

第三に、当該会社の取締役もしくは執行役もしくは支配人その他の重要な使用人または親会社等(自然人であるものに限る。)の配偶者または二親等内の親族である者は、社外取締役・社外監査役になれません。

第四に、親会社等の取締役、監査役もしくは執行役もしくは支配人その他の使用人は、社外監査役にはなれないこととなります。これは親会社等の監査役が社外監査役であっても、当該株式会社の社外監査役にはなれないということも意味します。

この点、子会社が非上場会社で監査役会設置会社である場合、いままでは親会社等の監査役や財務・経理・内部監査系の使用人が監査役を務めていたということが実務の一般的傾向であったと思いますが、この実務と真正面からぶつかることになります。対応としては、大会社でない子会社が監査役会設置会社から監査役設置会社に移行することが考えらえます。現にそうしている会社も多数あるようです。ただ、子会社不祥事がつい最近の話題であったことから、監査役会を廃止するという内部統制的にはマイナスとなる対応でいいのかという疑問が頭から離れません。監査役設置会社とするならば、親会社による内部監査や親会社監査役の子会社調査をかなりしっかり実施する対応をすべきではないでしょうか。

なお、会社法附則4条は、改正会社法の施行の際、現に社外取締役、社外監査役を置く株式会社の社外取締役、社外監査役についてのみ適用があるので、施行の際に社外取締役、社外監査役をおいていない会社はただちに改正会社法の社外要件を満たさなければならないことにご留意ください。

2015年1月 6日 (火)

社外取締役を置いていない場合の理由の開示と決議取消訴訟

改正会社法327条の2は「事業年度の末日において、監査役会設置会社(「公開会社であり、かつ、大会社であるものに限る。)であって金融商品取引法第24条第1項の規定によりその発行する株式について有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならないものが社外取締役を置いていない場合には、取締役は、当該事業年度に関する定時株主総会において、社外取締役を置くことが相当でない理由を説明しなければならない。」と規定しています。

同条は経過措置が会社法附則に定められていないので、平成27年の株主総会から適用されるものです。同条に関しては、会社法施行規則案第74条の2第1項にも、「株式会社が社外取締役を置いていない特定監査役会設置会社(当該株主総会の終結の時に社外取締役を置いていないこととなる見込みであるものを含む。)であって、かつ、取締役に就任したとすれば社外取締役となる見込みである者を候補者とする取締役の選任に関する議案を当該株主総会に提出しない時は、株主総会参考書類には、当該社外取締役を置くことが相当でない理由を記載しなければならない。」と、また、同条第3項に「第1項の理由は、当該株式会社のその時点における事情に応じて記載しなければならない。この場合において、社外監査役が二人以上あることのみをもって当該理由とすることができない。」と定められています。

法務省令案が公表される前ですが、327条の2の「相当でない理由」の解釈と法務省令案について、立法担当官である坂本三郎法務省参事官は次のように解説しています(商事法務No.2040号掲載の座談会「改正会社法の意義と今後の課題(上)」)。

ー 「置かない理由」あるいは「必要でない理由」というだけでは足らず、社外取締役を置くことがかえってマイナスの影響を及ぼすような事情を説明する必要があるということで考えています。

ー 社外監査役が二名いて、わが社は十分それが機能しているから社外取締役を置くことは不要ですという説明のみがされたとしますと、それは「必要でない理由」の説明にすぎないということで、それだけでは足りないのだろうと考えています。

ー よく適任者がいないということが社外取締役を置かない理由としていわれていますが、適任者がいないというだけの理由をもってしては、やはり「相当でない理由」にはならないのではないかと考えています。

ー この株主総会の説明というのは、当該事業年度まではこう考えてやってましたということですので、それで説明せざるを得ないということです。

ー 社外取締役の選任議案を提出している会社は、比較的あっさりとした説明で足りると考えています。先ほど法務省令で事業報告書の記載ということも申し上げましたが、それについても同じような扱いになると思います。他方で、株主総会参考書類については社外取締役選任議案を提出しているので、相当でない理由は書かなくてよいということになりますし、また、これまで社外取締役を置いていなかったのにこれを置くことした理由をあえて書く必要はないという方向で考えています。ただ、株主からは必ず「何で置くこととしたのだ」と聞かれそうな気はいたしますけれども、法令上は聞かれなければ積極的にいう必要はないという方向で考えています。

坂本参事官の解説を読んだときは、どう法務省令案を起案するのだろうと思っていたのですが、まさに参事官の考えを反映した起案がされたわけですね。株主からの「何で置くことにしたのだ」という質問に対しては答えなければならないのは、法314条から当然です(株主総会の目的である取締役の選任という事項に関するものですから取締役は説明する義務があります)。ただ、その説明内容は、一般的な株主が合理的に理解できる程度の説明を行う必要があります。岩原伸作教授は、前記座談会でも、その会社の環境や社内の体制、あるいはその会社における人材獲得の可能性ということ等を具体的に説明すべきであると説明されています。

次に取締役が「相当でない理由」の説明を株主総会で行わなかった場合において、取締役選任議案が継続している株主総会であれば、当該取締役選任決議について決議取消事由になりうる可能性があると、岩原伸作教授は述べられています。

それにしても、「相当でない理由」の中身になりうる説明が何かは判然としません。先の座談会では、信託銀行の方が一つのアイデアとして、「事業内容が高度に専門的な内容であり、これに精通する専門家の社外取締役候補者を探すのは非常にむずかしく、門外漢の候補者を選ぶことはかえって企業価値を損なうおそれがある。」とか、「取締役会の決議に機動性が必要であるような会社は社外取締役ではスケジュールの問題があり機動性を害することになる。」というようなアイデアを紹介されています。

なお、出席者は、全員、事業報告書に記載のとおりですといって説明を終わらせるのでは足りないと考えているようです。

この点、坂本参事官は、社外取締役選任議案が提出されている場合には、これまでなぜ社外取締役を 置いてこなかったのかというところをあっさりめに述べてもらうことになるが、それが「相当でない理由」となりそうでなくとも、社外取締役選任議案を提出しているので決議取消事由にはなりにくいのではないかといっています。社外取締役選任議案が提出されていれば説明義務がなくなるならそのような考え方もなりたつのでしょうが、しかし、そうではないので、理論的には説明がつかない感じがします。

取締役選任議案に社外が含まれているか否かで、327条の2の「相当の理由」の中身が変わるという理屈は成り立つでしょうか。確かに株主総会参考資料の記載に関する法務省令にはそのように解釈すべしと暗示するような考え方が表れているのですが、個人的には法務省令の考え方をそのまま327条の2の解釈と同様にとれるかというと、ちょっと違和感があります。「省令の規定の仕方や考え方は卵、会社法が鶏でしょ。」という感覚がぬぐえないからです。坂本審議官の発言は、社外取締役選任議案が可決されれば、実務的には、説明義務の不履行を問題として、決議を求めるべき訴訟を提起されることはほとんどないのではないかという意味程度にしか理解できないので、リスクは残ざらるを得ないと思っています。例えば、社外取締役候補者が株主にとって気にいらない人物であったりすると、「相当でない理由」の説明がなかったとして決議取消訴訟を起こすことも、理論的には可能です。

もっと大胆に、こういったらどうでしょうか。327条の2は機能的には社外取締役選任を企業に間接的に強制するための規定であるから、社外取締役選任議案が提出されている場合には「相当でない理由」は意味が変わり、当該事業年度で企業が主観的に相当でないと考えていた理由程度でも許される、と。

しかし、実際、327条の2について真正面から企業に社外取締役選任を間接強制するための目的と説明している方はいらっしゃらないようなので、同条の真の目的が社外取締役選任にあったと会社法学者が言い出すのは、あと10年くらいかかるかもしれませんね。

社外を含まない取締役選任議案が上程された事案で、株主総会参考書類に社外取締役を置くことが「相当でない理由」が記載されていない場合には、株主総会参考書類は招集通知に添付されなければならず、その記載の不備は一般に召集の手続が法令に違反する場合に該当するので、決議取消事由に該当します(会社法831条1項1号)。この場合には、その違反する事実が重大でなく、かつ決議に影響を及ぼさないものであると認めるときは、裁判所は裁量棄却することができます(同条2項)。

以上をまとめると、平成27年に株主総会を開催する上場企業(かつ大会社)で、社外取締役が現在いない企業が、当該株主総会に社外取締役の選任議案を提出する場合には、以下の通りの規制に服することとなります。

①当該株主総会で、事業年度中に社外取締役を置いていないことについて相当な理由を説明する義務がある。

②「相当の理由」の内容であるが、適任者がいないとか、社外監査役で十分機能しているという説明は「相当でない理由」とはならず、社外取締役を置くことがマイナスとなるという理由を説明する。

③しかし、その説明はあっさりとしたものでよいが、「相当でない理由」は「必要でない理由」よりもう少し会社にとってのネガティブな影響を語るものである必要がある。

④株主総会参考書類には、当該社外取締役を置くことが相当でない理由を記載する必要はない。

また、社外取締役が現在いない企業で、当該株主総会に社外取締役の選任議案を提出しない場合(社外取締役を含まない取締役選任議案を提出する場合)には、以下の通りとなります。

①当該株主総会で、事業年度中に社外取締役を置いていないことについて相当な理由を説明する義務がある。事業報告書記載のとおりというのでは説明としては不十分である。

②「相当の理由」の内容であるが、適任者がいないとか、社外監査役で十分機能しているという説明は「相当でない理由」とはならず、社外取締役を置くことがマイナスとなるという理由を説明する。

③株主総会参考書類には、当該社外取締役を置くことが「相当でない理由」を記載する必要がある。

④株主総会において「相当でない理由」の説明がない場合には当該議案について決議取消原因が生じ、決議取消訴訟の対象となる。

⑤株主総会参考書類に、「相当でない理由」の記載がない場合、召集通知に添付されるべき株主総会参考書類の記載不備と解されるので、決議取消訴訟の対象となる。この場合には、その違反する事実が重大でなく、かつ決議に影響を及ぼさないものであると認めるときは、裁判所は取消の請求を棄却することができる。

2015年1月 5日 (月)

執行力の強化とは内部統制の強化ではないか

明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。

前回、モニタリング・モデルと会社法の取締役会設置会社の発想の違いについて、藤田論文を引用しながら指摘しました。どちらも経営に対して敵対的ではなく、企業価値の増大のために執行の企画・検討・承認・実行を強化したいという方向については、何ら変わらないことを指摘しました。

でも、企業価値の増大のための執行の企画・検討・承認・実行とは具体的にはどのようなことをさすのかを、ここではもう一度考えたいと思います。

上場企業のガバナンスが論じられるとき、企業価値の増大の定義は結構あやふやです。しかし株主が何をすれば評価するかというスケールで考えれば、それは株価の上昇であり、時価総額の増大です。

さて、株価を上昇させるためにはどうするか。もちろん業績が良くなければ株価は上昇しません。市場環境が激変すれば業績の如何を問わず、株価は乱高下しますが、株価が下落する方向に動いていても、将来の収益に期待できる企業の株価は必ずもどってきます。着実に利益を出す企業に対して市場はポジティブです。ところが、毎年ちゃんとした収益を出す企業であっても(私が役員を務めている会社はその典型です)、株主はPER、PBRなどの指標を使って同業他社との比較をしてランク付けしたりし、利益について、あるいは成長性について同業他社と比較し投資行動を決定します。また、当該事業分野それ自体がリターンが少ないといって評価を低めたりします。この場合は事業分野自体の見直しと成長力ある事業分野へのシフトを行わないと、株主は評価してくれません。

したがって、企業が常に価値を増大しているという市場の評価を得るためには、当該事業における着実な利益の確保という戦術のほかに、当該事業が収益が期待できる事業なのかどうか、もし事業自体の成長に陰りがみえたときにどうやってその壁を突破するのかという戦略が求められます。企業自体がポテンシャルを発揮しているのかどうかを常にテストしているのが市場であり、株価であろうと思います。

企業は戦略から定められる長期目標と、戦術から決定される短期の収益目標が必要で、両者についてその目標を達成するための課題を洗い出し、リスクに見合う資金と人材を投入します。しかし、長期目標は、今の経営環境の変化の激しさからみて、立案そのものが難しくなっていると感じます。10年の戦略は意味がなく、5年の中期経営計画でもその意味を問われれていると思います。

また長期目標は短期目標の積み重ねを達成して初めて実現できるので、結局は、3年程度の短期目標の実現をめざして行っていく取引、例えばM&Aならば、第一に企画・検討段階におけるM&Aの目標の合理性、M&Aによる収益予測の確実性、その確実性を揺るがすリスクの洗い出しの見極めをしっかりと行っていく力がどれくらいあるかが執行力のレベルをあらわすものでしょう。さらにそれを実行に移したのちに、実際に現れれてくるさまざまな事象に対して迅速・的確に対応できる能力が必要です。とどのつまりは、企画・実行・フォローアップにスピード感がなければなりません。

執行力のレベルは短期戦略の企画力・実行力という言い方もできますが、その中には、確実性を揺るがすビジネスリスク、法務リスクの見極めがどれくらいできるかということも含まれることは明らかです。そして実行後に起きてくるさまざまな問題への対応と、顕在化していないリスクの指摘ができるかどうかもポイントとなります。これは内部監査の仕事です。

取締役会は企画から実行に移す段階で、さまざまな角度から目標の合理性、収益予測の確実性、リスクの洗い出しができているかどうかを検討すべきですから、社外取締役についていえば、やはり経営の経験値、あるいは法務や財務といった専門性の知見の高い人材でないと牽制機能は果たせないでしょう。

また、検討段階・実行段階・実行後におけるスピード感ある対応を期待できる人材が必要となります。この意味で、法務部に弁護士をそろえたり、財務部に公認会計士資格や税理士資格をもった人間を配置することはむしろ当然であり、専門教育をうけた人間を採用していくことが当たり前にならないと、企業の執行力強化はそうそう簡単にはできません。つまりは、執行部門における内部統制の強化がすわなち執行力強化なのではないでしょうか。日本企業は内部統制というと管理部門を想起しがちですが、それはイメージに片寄があります。

人材をどうやって確保するかを考えると、やはり、日本的な終身雇用前提、新卒から人間を育てていくというやり方が限界にきているように感じますが、これはまた別の機会に考察してみたいと思います。

« 2014年9月 | トップページ | 2015年10月 »