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2011年6月 9日 (木)

石巻訪問報告 ー 政策の優先順位をつけよ!

石巻と仙台を訪問して、諸事雑事であっという間に10日近くが過ぎてしまいました。現地の訪問で得た情報は、東京で聞いていることや想像していることと違っており、そのギャップに驚きましたが、まずはこのブログをお読みの方々にも情報共有させていただきたく、ご報告します。

まず、今回の訪問の目的は、中小事業者の現状を把握し、対策を法律家として考えることにありました。したがって、被災者一般の問題については必ずしもフォーカスしていないことをあらかじめお断りしておきます。また石巻からみた政策的課題の整理となっていますが、ここで論じることは東北のそれぞれの地域に適用が可能なものとなっていると考えております。

1.被災地の被災企業の支援策は、地域ごと業種ごとに策定し迅速に実施すべきである。

これはこのブログでもある程度想定をしていましたが、やはりそうでした。ただ現実はもう少しきめ細かい考え方を要求しています。

河北新報によると、石巻は津波による被災地域において被災した4人以上の事業所が1700社以上存在、その従業員数合計は約1万8千人、年間の売上高は推定で約4500億円に上ります。仙台に次ぐ人口16万人を抱える都市、石巻は、日本製紙石巻工場を核とする製紙業、建材メーカーのノダの子会社・石巻合板、セイホクなどを中核とする建材・合板業、ヤマニシなどの造船業、石巻港を基地とする漁業・水産加工業、そしてサービス業の5つに大まかに分けられます。

このうち製紙業、建材・合板業は中核工場の復旧作業が行われており、この業種のサプライチェーンにあたる下請・関係業者も大きな設備を必要とするものではないので、中核工場の復旧の日程が決まれば、サプライチェーンにある企業も中小企業庁の東日本大震災特別融資制度(最長3年間据置、低利・長期融資)を利用して設備復旧を行うので、徐々にではあるが復興し、負債比率はあがるが大丈夫であろうという見方がされています。ただし、海沿いの堤防や港のすぐそばにあるので、建築制限などの影響がでることも考えられます。

しかし、造船業は、韓国メーカーに対抗して技術力・価格競争力もあり、受注も受け、設備もシンジケーション・ローンで高額な資金を調達して設備を更新したばかりなのに、津波で徹底的に設備が破壊されてしまっています。復旧にむけての具体的なスケジュールも出せていないようです。したがって、このサプライチェーンにある企業群もまったく見込みがたっておらず、事業者も事業のめどがたたない以上は借入も起こせない状況であるということです。時間がたてばたつほど廃業のリスクのみが高まってきます。しかも港湾沿いにあり、土地が約80cm陥没し、建築制限も9月までは行われていることから、動きをとろうにもとれない状況です。

漁業・水産加工業は、基地である石巻港の設備が津波で破壊され、陥没しています。市では代替地を探しているようですが、漁港には排水設備、廃油処理設備、冷蔵設備などの機能が必要なため、その復旧には数億円から10億円単位の資金が必要ですが、復旧は遅々として進んでいません。

サービス業については、津波の被害地域以外の地域で営業する飲食・食品業は競合店がなくなってしまったこと、救援に駆けつけている政府・県関係者、NPO等ボランティア、企業の応援者などの企業関係者等で震災特需状況であるので、被災していない地域に代替店を設けることができれば再開して、それなりの営業を行える見込みがあります。しかし、現状はすべてが見えないということで、復旧への動きは弱いという現状です。

このように業種によって状況は違うので、それぞれの業種にあったメニューを用意する必要があります。

漁業・水産加工業にとっては、港の機能を一日でも早く回復させる必要があります。零細業者及び高齢者が多いこの業種では、港の復旧が遅れれば遅れるほど廃業のリスクは高まります。自営業者が多いので、自営業者に対する復興支援策がほとんどない現状では生活費を預金から取り崩しつつ日々を生活している状況にあると想定されます。しかし、港の復旧には港を管理する国・県・市、港を運営する県や市などが出資する会社、港に通じる道路などのインフラを管理する国、県、市が、それぞれ一定の分野について権限をもっており、復旧には国、県、市などが一体として迅速な対応を行うことが必要ですが、そのような体制にはなっていないようです。その体制を作り、港の復旧の工程表を一日でもはやく示すことが第一に打たなければならない対策となります。そのための資金についても、港を運営する会社に対する資本投下の方法を同時に考える必要があり、インフラ投資の方法を固める必要があります。

造船業については、アジアの競争の中で勝ち残ってきた高い技術力・価格競争力を誇る東北の造船会社の設備復旧を国策的に行う必要があり、そのためには公的資金による特別貸付のほか、この段階(すなわち、社会政策としてキャッシュフローもなく資産もなくなった会社への政策的投資を行うべき段階)でも投資してくれる民間資金を導入するための導管を設置する必要があります。そして早く設備復旧に着手し復旧させ、受注を引き戻すことが必要です。ここでも復旧への工程表が必要です。さらに、造船所を支える下請・関連会社もかなりの被害を受けている点からみて、造船会社を頂点とした資本関係がないが一種のグループ企業とみて、サプライチェーンを構成するそれぞれの会社への資本注入も実行しなければなりません。

サービス業については、浸水地域の土地利用がどうなるかでかなり左右されます。代替地を浸水地域以外に見出すことができる事業者で被災前も営業利益がそこそこでていたものは、特別融資制度で一時も早くキャッシュフローを回復するようリスクをとれる環境をつくってやることです。すなわち、石巻全体の復興の見通しがつかないことが、事業者の復興マインドに影を落としており、「もしここで特別融資で借りても返せなくなったら終わりだ」という心理に陥っています。しかし、このような事業者はリスクをとって復旧へと向かわなかったら廃業のリスクのみ大きくなるばかりであることを、存外気づいていません。さらに、特別融資制度は元利据置最長3年という融資とはいえ資本性資金を提供するものであり、それを受けてキャッシュフローを回復させ数ヶ月~2年操業すれば、将来の事業計画もみえてくる可能性があり、もしキャッシュフローが見えて営業利益が確保できそうならば、負債比率が上がりすぎても民事再生法を利用したリストラが可能であることが見えていないことが多いのです。したがって、こういう事業者には、今回特別融資で失敗すれば終わりというわけではなく、次のチャンスもありうるということを理解させ、リスクを今とれるところにはとってもらうことが、優先的な政策目標とならなければなりません。民事再生だけでない、中小企業向けの事業再生ADRのようなものが必要です(その場合は金融機関が貸出債権を無税償却できるようにすることが肝要です)。

2.地元金融機関は資金量が増加しており、運用先の確保が必要。二重ローン問題は将来起こりうるが、今の課題ではない。

金融庁の弾力的な監督指針の運用、保険会社の努力により、被災者への保険金支払いが迅速になされています。その結果、金融機関の預金量は3月に比べて20%も増加しているといわれています。今後は災害救助法及び災害弔慰金の支給等に関する法律による災害弔慰金(死亡の場合は一家族について500万円)などの弔慰金の支給が起こってきます。さらに、被災地にはまだ5%しか配布されていない1700億円の日本赤十字に寄せられた義援金の分配がおこります。被災企業に対する貸出債権の区分は当面見直す必要がないため、引当金を積む必要はありません。したがって、今後とも、しばらくは地元金融機関の預金量は増加していくものと予想されます。

他方において、廃業を決意した事業者の一部は借入金の弁済を行う方もあるようですが、多くは預金をそのままにしています。これは津波被害地域の建築制限が施行され、また、陥没地域の処置が国の復興会議の方針をうけて市レベルで決まってくるという政治スケジュールから、あるいは建築資材の確保が困難という状況から、建物の大幅立替が起こらず、せいぜい小修理にとどまっていることが理由として考えられるほか、日弁連が主導した二重ローン問題について、「徳政令」が発せられるのではないかとして様子をみている事業者も多いからであると推定されています。

地元金融機関の自己資本は当面は心配がいらず、むしろ運用が問題というのはなんともびっくりしますが、これが地元では現実に進行している現象なのです。地元金融機関の資金の運用は当然貸出が第一であって、したがって、金融機関にとっても1で指摘したような業種別の優先的対策を、日程がわかる形で工程を示してもらうことがもっとも重要なのです。中小零細企業が多い東北では、金融機関にとっては、地元中小零細企業と一連托生であり、被災事業者と金融機関の利害はこの点でまったく一致しています。

3.社会政策的投資を第一に行い、やがて純粋な投資を民間が行うための導管が必要。

復興の段階ではいまだに最初の段階にある東北にとって、今は社会政策的な投資が必要であります。たとえば造船業に対する投資、あるいは港湾設備等に対するインフラ投資を、国策として行う資金が必要です。

国の財政に十分余力があるときは、国からの交付金でこのような政策的投資を行うことが考えられますが、歳出90兆円、歳入42兆円であとは国債という借金で補っているわが国にとっては、非常な難題です。阪神・淡路大震災の復興総事業費16兆3000億円のうち、市街地整備に費やされた資金は実に9兆8300億円に上っており、これとは別にまちづくりに2兆8350億円が費やされています。道路、港湾等のインフラ整備にいかに資金が必要かが理解されるわけですが、30兆円とも36兆円とも言われている東日本大震災の復興事業費をかまなうには、民間資金を導入することが必要であることは、このブログで主張してきたところです。このためには、一日でも早い震災復興ファンドの設立が必要です。

ただし、この震災復興ファンドは第一段階では社会政策的投資を行いますので、その本質は義援金的色彩が強いです。しかしその段階を抜けて、企業にキャッシュフローが生まれて業務を1年~2年程度行い計画が見えてきたところでは、今度は投資としての事業再生が必要になるので、そのためのファンドになるという、企業の復旧の度合いに応じてファンドの性格も変わってくるという性質があるようなものでなければなりません。そのための構造はまた別のエントリーで論じますが、今、設立すべきはそのような変化していくファンドなのです。

4.事業者に対する支援策として、災害救助法23条1項7号の生業資金の交付を。

被災事業者はその規模が小さくなればなるほど、非常に厳しい状況におかれ、国からの支援策も貸付以外はないという状況です。しかし、被災者が復興に向けて立ち上がるためには、家族と一緒に暮らせる仮設住宅と働く場所が必要です。従業員は雇用保険等のセーフティネットがありますが、事業者にはなく、生活資金は預金を取り崩し、あるいは義援金を受け取るだけという状況にあります。これでは働く場所の提供が極めて困難になります。

たしかに、過去に出版された災害被災者の法律相談には、解雇された従業員の救済についての叙述はありますが、事業者が生活をどのように支えられるのかについての記述は皆無です。この点、ようやく日弁連も5月26日に声明を出し、災害救助法23条1項7号により、中小零細企業者に対する生業資金を給与すべきであることを訴えています。復興の第一段階にはぜひとも必要と思われる運用であるので、効果は予想よりも限定的かもしれませんが、業務を復旧できる中小零細事業者もでてくると思いますので、ぜひ政府は実行すべきであると考えます。

5.最後に

ー国、被災県市町村は一体となって優先順位が高い中小事業者への支援を即時実行せよ!

現在の菅内閣のもとでは、復旧に向けた対策は効果的に打たれているとは到底いいがたい状況です。早く退陣し、新しい首相のもとで国、被災県市町村が一体となって、きめ細かい対策を優先順位の高いものから次々にうっていくことを強く望みます。それが真の政治主導であり、政治の責任であると思います。

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