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2011年6月26日 (日)

二重債務問題対応策は地域復興計画と運用次第、課題は多し

民主党復興検討委員会復興ビジョンチームが、6月10日に東日本大震災の二重債務問題への対応策を発表しました。この内容について中小・零細事業者にかかわる点についてのみ絞って、検討してみたいと思います。

民主党のこの案をうけた民主、自民、公明の三党の方向性や、現在まで出揃っている復興支援策をみていくと、現在の課題に対する効果がどの程度発揮できるのかは、地域復興計画の遂行と施策の運用に大きくかかっており、また、今までのように「キャッシュフローがない企業には再生案は検討しようがない」という考え方から逃れられなければ、清算・廃業の山が築きあげられていき、生き残れる中小零細事業者はわずかとなるという懸念が強く残っていると思います。

まず、民主党案では、旧債務について、以下のような5つの施策が提言されています。

①中小企業再生支援協議会を核とした再生に向けた相談窓口の設置による再生支援と、中小企業基盤整備機構や民間金融機関等が出資する「中小企業再生ファンド」を被災県にも設置し、過剰債務を抱えているが事業再生の可能性のある中小企業に対して出資や債権買取り、デット・エクイティ・スワップ(DES)をふくめた支援を実施する。企業再生支援機構の活用も検討する。

②個人向けの私的整理ガイドラインを整備し、事業性資金を借りている個人事業者に対して自己破産によらず、私的に行った債務免除についても金融機関の無税償却等を可能にする。

③津波被災地においては街づくりがスムースに再開できない等の特殊事情があり、再生可能性を判断するまでの間に一定の時間を要するから、その間は中小企業の旧債務に係る利子負担軽減のスキームとともに、金融機関が返済猶予しつつ新規融資をしやすくする手当を早急に検討する。

④十分な資本的性質が認められる借入金については、金融機関は債務者の財務状況等を判断するにあたって負債ではなく資本としてみなすことができることが金融検査マニュアルに記載ずみであるが、その運用の明確化や周知徹底を図る。

⑤農林水産業の分野では、既存の融資制度を活用し、新規資金と一体での利子負担軽減のスキームがあるため、相談窓口の機能を強化し、引き続き周知徹底を図る。

このうち①から③までは、政策としてかなり前進したと評価できるでしょう。①は企業再生のプロを導入するものであり、また地域別中小企業再生ファンドのアイデアが取り入れられたことは大きく評価したいと思います。また、②は個人の零細事業者にとっては金融機関が債務免除した場合の無税償却を可能にすることで、より柔軟な再生計画が個人事業者にとって可能になりますし、③は遅々として進まない地域の復興事業全体に足を引っ張られている地域中小零細事業者の現状に対して、再生検討が可能となるまで利子負担軽減を図り、新規融資がしやするなる手当を検討するという適切なものであると思います。

全体としては、私がこれまで主張してきたことや、被災地の現状を考えて対応策が検討されているので、「施策自体には高い評価が与えられる」内容になっていると思います。ただし、この施策が本当に効果を発揮するのは、容易ではありません。

第一に指摘したいのは、「再生可能かどうかは、当該中小零細事業者にキャッシュフローがまがりなりにもあるという状態でなければ可能性を判断することはできない」というのが、今までの事業再生の考え方であり、今、事業がまったく動いていない中小零細事業者にとっては可能性は判断できないから、結局③しか意味がないということになる可能性が非常に高いという点です。被災地の現状は一歩も動いておらず、損害が一部にとどまった企業以外は、一歩も進んでいないと理解しています。石巻レポートにも記載したとおり、津波による広範な壊滅的打撃は地域企業の相当数に及んでいます。こうした企業にとっては、事業再開がないかぎり、①②を整えても現実的な意味がありません。要するに塩漬け案になってしまうリスクがあるということです。

第二は、第一と関連しますが、地域の復興整備が進まない限り、これらの施策は効果がでないという点です。被災地では津波による被災地域の建築制限が設けられており、これらの土地の利用は、やっと発表された政府の復興構想会議の「地域類型と復興のための施策」をもとに、地方自治体がそれをどのように取り入れて復興計画を迅速に作れるかにかかってきます。昨日発表された復興構想会議の提言によると、

【類型1】平地に都市機能が存在し、ほとんどが被災した地域では、高台移転が目標だが、適地確保の問題、水産業など産業活動の必要から平地の活用も避けられない。

【類型2】平地の市街地が被災し、高台の市街地は被災を免れた地域では高台市街地への集約を第一に考えるが、平地市街地をすべて移転させることは困難。平地の活用が必要。

【類型3】斜面が海岸に迫り、平地の少ない市街地および集落では、住居等の高台移転が基本。平地は産業機能のみを立地させ、住居の建築を制限する土地利用規制を導入すべきだ。

【類型4】海岸平野部では、海岸部の巨大防潮堤の整備ではなく、新たに海岸部と内陸部での堤防整備と土地利用規制とを組み合わせる。

【類型5】内陸部や、液状化による被害が生じた地域では、被災した住宅・宅地に「再度災害防止対策」を推進。宅地復旧等のための支援。

の5つの類型に分けられており、それぞれの地域において自分がどの類型に該当するかを判断して復興計画をつくることになりますが、この類型は大まかな指針にしかすぎません。

また、復興構想会議の提言ではこう述べています。

 (5)土地利用をめぐる課題

(1)土地利用計画手続きの一本化

 復興事業を円滑かつ、迅速に進めるために都市計画法、農業振興地域整備法、森林法等にかかわる手続きを市町村中心に行われるよう一本化が必要である。

(2)土地区画整理事業、土地改良事業等による土地利用の調整

 高台への集団移転など大規模な土地利用転換を伴う事業を実施する場合、住宅地から農地への転換を円滑に進める仕組みの整備を検討。

(3)被災地における土地の権利関係

 権利者の所在や境界等が不明な土地が復興に向けた地域づくりの支障にならないように、必要な措置を考慮。

 (6)復興事業の担い手や合意形成プロセス

(1)市町村主体の復興

 復興の主体は住民に一番近い市町村が基本。

(2)住民間の合意形成とまちづくり会社等の活用

 地域住民のニーズを尊重するため、住民の意見をとりまとめ、行政に反映するシステムづくりが不可欠。まちづくり会社の活用も含めて有効な手立てを総動員すべきだ。

(3)復興を支える人的支援、人材の確保

 住民の合意形成を支援し、「つなぎ」の役目を果たすコーディネーターやファシリテーターなどの人材は住民内部からの育成が望ましい。まちづくりプランナー、建築家、大学研究者、弁護士などの専門家(アドバイザー)の役割が重要。

(以上は、日本経済新聞Web版2011年6月26日版より抜粋しています。)

3か月またされて地方自治体に全部投げられた形になっており、地方自治体の方々はおそらく頭を抱えているのではないでしょうか。合意形成プロセス(2)など、被災している地域のことを話しているのに平時と同様の発想で、実に牧歌的、それがいいすぎなら理想至上主義的としか言いようがありません。また、法人に漁業権を与える「水産特区」などすでに意見対立が厳しいものまで含められると、おそらく各自治体はよほど強いリーダーのいるところでない限り、計画をまとめるのに大幅な時間がかかる可能性があります。その分だけ、地域の中小零細事業者は待つことを余議なくされますが、その間は廃業のリスクが一方的に高まるだけでしょう。

このままだと、一見よく書けている施策も、現実には整備したが閑古鳥がなくことになりかねません。そういう状況を打ち破るには、第一に地域復興計画策定を夏休み返上で8月末まであげることです。被災地域住民は強くそれを要望すべきですし、役所の方々にもほんとに頑張っていただかなければなりません。遅れれば遅れるだけ、ふるさとの復興の希望は遠のくのです。やるしかありません。各自治体の首長は腹を据えて、自分が思うベストという策を自分の首を差し出す覚悟で策定し、一日も早く実行していただきたいと思います。

第二に、旧来の「再生可能かどうかは、当該中小零細事業者にキャッシュフローがまがりなりにもあるという状態でなければ可能性を判断することはできない」という考え方を捨て去り、①②の施策を運用するほかないと思われます。すなわち、事業再生について、まず、緊急対策としての資本注入を行いキャッシュフローを復活させる運用を行うこと、地域別に設置される中小企業再生ファンドは、当初はそのような社会政策的資本注入を許す柔軟な運用を可能にするという基本的なスタンスで運用にあたり、また、地域の復興計画が遅れていればその進捗状況とできる限り中小零細事業者の再生の関係を切り離していくことを、やるしかありません(ただし、農業・漁業関係はそうはいかないというのが非常に大きな悩みですが)。経済的にも政治的にもこれは本来よろしくないことでしょうが、しかし、今の復興計画のペースにつきあっていたら、東北の多数の中小零細事業者は再生できず廃業の山になることを恐れます。

この点、それだったら二重ローンについて日弁連の提言のように免除すればという声があがるかもしれません。しかし、免除しても上述した状況が変化するわけではまったくないので、意味のないことです。また、そもそも日弁連の免除論は説得力がありません。商工中金組織金融部担当部長で事業再生分野の実務家としても名高い中村廉平さんはこう述べています。「中小企業のなかには強い信念の下に無借金経営を続けている企業や、天災によるリスクを軽減するために保険料負担を甘受してきた企業もある。阪神・淡路大震災や新潟県中越沖地震で被災した企業や、台風で被害を受けた事業者も多大な損害を被り、二重ローンを抱えて苦しんでいる。」「東日本大震災による被災という一事をもって、(法に基づいて行われる原子力問題に伴う損失補償とは別に)既存の借入金を一律に免除する特例的な金融支援策を講じれば、支援対象からはずれた事業者が強い不公平感を抱くことになり、金融機関としての信頼を維持することはできないであろう。」「債務免除は、各事業者の事業価値や事業継続可能性といった個別事情に即し、経済合理性に基づき個別具体的に判断されるべきものであり、復興のビジョンも描かれていない段階で一律の債務免除を正当化することは困難である。」(金融財政事情2011年6月6日号35頁)。まさに、中村さんの言われていることが正論です。日弁連の提言は思慮不足です。

なお、中村さんは、この論考のなかで、デット・デット・スワップ(DDS)、すなわち既存の借入金を金融機関と合意して新規借入金が完済されるまで返済されない等の劣後的条件に変更する手法を主張されています。劣後化された債務は資本的性質が認められる借入金として金融機関の区分では借入金に算入されません。上記の施策①及び④に該当するものであり、優れたアイデアですが、この考えも事業再生の「キャッシュフローなきところ事業再生なし」というドグマが前提であり、キャッシュフローがおこったのちには有効ではあっても、今、キャッシュフローがない中小零細事業者の救済にはすぐには取り入れられないことになります。またDDSを適用できる中小零細事業であっても、地域復興計画の進捗状況に影響を受けるという状況からは逃れられないと思われます。

また、施策には、どのようにこれら施策を実行するコストを負担するのかが書いてありません。中小企業再生支援協議会等の相談窓口設置は補正予算で、中小企業利子軽減については金融機関からの国による金融機関への利子補給を行う必要があるので、これも補正予算で国が負担していくことになるでしょうが、復興構想会議の提言では構想に基づく各地方自治体の財源について臨時増税措置について触れるだけであり、結局、具体策は各地方自治体にゆだねられています。あとは国からの交付金だのみというわけです。その交付金を定める補正予算も政局が混迷しており(誰のせいかはあまりにも明らか)、第三次補正予算の策定も大幅にずれこんでいく可能性があります。従来から主張しているとおり、地方自治体が進める復興計画において実施されるインフラ投資への民間資金の導入の必要性・緊急性はむしろ強まったといえます。この点に関して、マザーファンドとしての震災復興支援ファンドの設置がさらに必要になったと感じます。一刻も早く、震災復興支援マザーファンドと、地域別震災復興支援ファンド(中小企業再生ファンド)を立ち上げる検討をすすめるべきであると思います。

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