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2011年4月 3日 (日)

復興基金の構造とその限界ー民間資金導入が不可避な理由

4月1日付の日本経済新聞は、下記のとおり政府が被災地の各自治体に復興基金を設置する方針であることを報じました。

『被災自治体の復興基金設立、国が支援・資金拠出も

 政府は東日本大震災の復旧・復興に向けた基本法案に、被災自治体による「復旧復興基金」の設立支援を盛り込んだ。被災地が機動的に復旧事業を進めやすくするのが狙いで、基金への国の資金拠出も検討する。阪神大震災に比べて今回は被害地域が広く、複数の基金が設立されるとみられる。基金の規模は合計で数兆円となる可能性がある。

 基金は被災地の県や市町村による創設を想定している。予算による復旧・復興事業は議会の承認を得る必要があり、事業推進の資金確保に時間がかかるケースが少なくない。それに対し、基金は必要なときに機動的に資金を回せるのが最大の特色だ。資金の使い道に制限がある予算に比べて、使い勝手の良い資金を民間に振り向けられるため、早期復興を進めやすくなる。

 ■臨時増税で3案

 阪神大震災の際にも兵庫県と神戸市が「阪神・淡路大震災復興基金」を設立。県と市が拠出した計200億円の基本財産と、金融機関から借り入れた8800億円の運用財産で構成した。このときは国が地方交付税を通じて利払いの一定割合を負担した。今回はさらに踏み込み、被災地が設ける基金への国の資金拠出も検討。被災地のニーズに見合った復旧・復興を後押しする。

 基本法案の素案では復旧・復興の財源を確保するため、「震災国債」の発行や、特別税の創設も盛り込んだ。検討する特別税の例としては(1)所得税額を一定割合上乗せする定率増税(2)法人特別税(3)特別消費税――の3案を挙げた。

 有力になっているのが所得税の定率増税。所得の多い人ほど大きな負担を求める形になるうえ、被災者を免税しやすい利点がある。消費税は被災地だけを増税から除外するのは難しいとの見方が強い。

 ただ増税案について政府内では、被害の全体像さえもはっきり見えていない段階で、国民の負担論が先走ることに慎重論が強い。「歳出・歳入の見直しで財源を確保するのが先」との声も多い。

 ■水没地の買い上げも

 国が実行する政策としては生活再建などの支援措置の充実や、税制優遇措置の活用などを明記。素案には阪神大震災より踏み込んだ内容も盛り込んだ。津波による壊滅的な被害が相次いだことから、水没した土地を国が買い上げることを検討。再建を円滑に進めるため、土地所有権の制限を検討することも明記した。ただ国による「私権」の制限に批判が出る可能性もある。』

政府案のベースとなっている阪神・淡路大震災復興基金について調べ、林敏彦さんの『阪神・淡路大震災復興基金とわが国立法府の役割』という論文と、『阪神・淡路大震災復興基金と「財産法人阪神・淡路大震災復興基金」の役割』というプレゼンテーションを発見しました。

林さんによると、阪神・淡路大震災復興基金が設立された目的は、国および地方自治体の復興支援事業が公費支出に関する法令に縛られ、被災者の要求にきめ細かく対応する自由度が不足していたために、自由に使える資金が必要であったこと、とりわけ、国は個人住宅の再建を公的資金で支援することは、私有財産制度の原則に反するという立場をとったが、住宅の再建は被災者の生活再建、コミュニティの再生、街並みの復興に必要不可欠であったことから、いわば「マネーロンダリング」の仕組みを使って自由度の高い基金を作ったと説明されています。

阪神・淡路大震災復興基金のストラクチャーは以下のようなものでした。

①金融機関が兵庫県と神戸市に8800億円を貸し付ける(金利は5800億円については4.5%、3000億円は3%)。

②県と神戸市はそれをそのまま無利子で財団法人阪神・淡路大震災復興基金に貸し付ける。

③金融機関は兵庫県と神戸市に対する貸付債権を同額・同利率の債券にして、財団法人阪神・淡路大震災復興基金が全額を買い取る。

④財団法人阪神・淡路大震災復興基金は債券の利払金を復興事業に使う。

⑤兵庫県・神戸市の利払金については、地方交付税法を改正して75%を国庫から交付し、補てんする。

⑥この結果、利払いの25%は兵庫県・神戸市が負担するが、利払いについては縛りがかからない自由な資金として、被災者の住宅再建対策(生活費や住宅ローンの利子補給など)に使用されることが可能になる。

要するに、このような復興基金は、国は個人補償はできないが、地方自治体は個人補償を行いうるというダブルスタンダードを確立するための仕組みであったということができます。しかも、その財源をひねくりだすのに、兵庫県と神戸市は合計で8800億円の債務負担行為を行わなければなりませんでした。

なお、平成10年には被災者生活再建支援法が成立し、被災者自立支援金が創設されました。これは大規模災害にあった被災者に対する支援金として、住宅の被害程度に応じて支給する支援金(基礎支援金)と、住宅の再建方法に応じて支給する支援金(加算支援金)の2本立てを可能にするものになっています。これは国の指定を受けた被災者生活再建支援法人(財団法人都道府県会館)が、都道府県が拠出した600億円の基金から支援金を支出し、その半分を国が補助するものです。これもまた地方自治体と国の債務負担が求められるものでありますが、政府はあきらかに被災者自立支援金の規模を大きくすることを考えているものと思われます。

また、今回の政府の説明は、復興基金の設立だけでなく、水没した土地を国が買い上げることをも検討するというもので、国が一定の限度ではあるけれども、さらに個人補償に踏み込んでいくという制度の大きな変質をもたらすものです。

また、福島第一原発事故の関連では、事故の発端が地震による津波でもあり、原子力損害賠償法の制限を超えた補償を国が行うことを念頭においている可能性も含まれているのではないかとも疑っています。

東日本大震災の被災状況からみて、すべて公的資金の方向でことがすすめば、国と地方自治体の負担は極めて大きなものになることはまちがいありません。他にも選択肢はないのかを検討せずに進めると、際限のないものとなります。あまりにも被害が甚大であると思われる事態について、すべてを公的資金でまかなうという発想には、津波による補償以上かもしれない国家財政の破綻という大きな危険が含まれていることを認識すべきです。国家財政が破たんすれば、被災者の支援や復興はすべて遅延または停止し、かつ全国民が大きな負担を背負うことになります。1995年から2008年度までの13年間に阪神・淡路大震災の復興に要した財政資金は16兆3000億円(!)と、林さんは報告しています。

阪神・淡路大震災復興基金では、13年間で3606億円を執行しました。これは16兆3000億円の2%にすぎませんが、生活対策に51%、住宅対策に31%、産業対策に15%、教育その他に3%が使われ、確かに大きな役割を果たしました。しかし、基金の財源たる利子について国が補給した負担は3606億円の75%に及びます。

死者・行方不明者の数だけでも阪神・淡路大震災の4倍以上である今回の震災では、被災者の生活再建や住宅対策だけでも莫大な金額が必要になります。そのほか、道路、港湾設備などのインフラ復旧を加えると、復興基金だけのスキームで今後10年は続く復興作業をまかなうのは困難でしょう。阪神・淡路大震災で必要だった財政資金16兆3000億円のうち2兆9500億円が産業復興費にまわり、市街地整備等だけで9兆8300億円もかかっているのです。慄然とせざるを得ない数値であり、いままでと同じ対策のみではだめだと考えざるをえません。

特に、今回は、東北という産業基盤がすでに他の地域に比較して弱い地域が被災にあっているのですから、被災企業に対する資本投下、資金提供を考えなければ、地域復興計画としてはまったく足りないものになってしまいます。そしてこの分野も公的資金に対する法律の縛りをはなれて、柔軟に対処しなければならないものであり、また、自助努力をベースに支援するという構図がもっとも妥当する分野でもあります。

危機管理能力を問われている民主党政権が、危機対応策でさらなる危機を招く愚は絶対にゆるされません。民間資金の活用は不可避な選択肢であり、今すぐに検討を始めるべきです。

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