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2011年4月に作成された記事

2011年4月25日 (月)

地域別震災復興支援ファンドと事業再生手法(1)

このブログで何回か主張しました震災復興支援ファンドのうち、地域別に設立する震災復興支援ファンドの構造と中小零細企業への再生支援の方法について考えてみたいと思います。

漁業を例にとります。漁業に従事する方々は東北の被災地にあまたいますが、いずれも中小企業が保有し運用する漁船に雇われ漁業員として乗っているか、あるいは、個人個人で小さい漁船を所有し漁業を行っているかどちらかでしょう。

まず中小企業は、保有する船が完全にやられていると思ってよいでしょう。漁具も流されだめになっているでしょう。会社であれば、資産の部のうちの固定資産が完全にやられている状態です。借入金などの負債を考えれば、この状態では、おそらく債務超過の状態でしょう。民事再生法には、のせられません。事業そのものがとまっておりキャッシュフローがないばかりでなく、仮に事業が動き出しても、債務超過のレベルがひどく、民事再生の手続にはめるのは難しいように思います。仮に再生開始決定がでても(民事再生手続開始の要件は「債務者に破産手続開始の原因となる事実の生ずるおそれがあるとき」または「債務者が事業の継続に著しい支障を来すことなく弁済期にある債務を弁済することができないとき」です)、民事再生計画の承認に必要である再生を行えば清算価値を上回るという保障があるという要件(清算価値保障原則)を満たせないと思われます。

このような中小企業再生のためには、第一に負債の主要部分である借入金の免除により負債の部を軽くしてやること、第二に資本の部に新たな資本注入をして、漁船で修理可能なものは修理し、設備を回復し、ひと時でもはやく海にでたい従業員を海に送り出し、漁獲を確保してキャッシュを生む活動ができるようにしてあげることが必要です。第三に事業活動をささえるだけの無利息ないし低利の融資が必要です。

第一の部分の債務免除は銀行、信用金庫、信用組合、漁業協同組合などの債権者の協力が必要です。これを行うためには、債務免除により痛む自己資本に対する公的資金注入と、債務免除にかかる債権の無税償却が貸し手側には必要です。この役割は、今、政府が進めている金融機能強化法による金融機関の自己的な資本注入に頼ることになります。政府保証枠は12兆円ですから、相当の枠がありますが、これは結局、国の負担となります。

第三の部分は、公的融資、金融機関からの融資となります。これに付け加え、阪神・淡路大震災のときに考案された震災復興基金を設立し、機動性ある資金を確保してその一部を融資にまわすことも考えるべきでしょう。無利息融資の部分を増やしてやることが必要だからです。ただし、債務負担のレベルをあげると、震災後数年で耐えられなくなり、結局倒産にいたる確立が高いという事実があります。ですから、無利子の期間5年程度の融資割合を多くし、有利子負債の割合を抑えてあげるようなアドバイスが必要です。それには資本注入後、業務を再開した後のキャッシュフローと業務活動に必要な費用の予測が必要ですし、また無利子負債、有利子負債のバランス、資金繰表の作成なども必要です。

第二の部分ですが、この資本注入のために地域別震災復興支援ファンドが必要です。なぜならば、国や地方自治体の行う投資活動については、厳密な法的な意味ではないとしても投資対象となる事業は「公的な」ものでなければならないという政治的な制約があるからです。仮に公共目的がない純粋私企業に資本注入を行うことが可能だとしても、投資ができるレベルの中小企業は一定の規模以上に限定されてしまい、どの企業をえらぶのかどうかという公平性の問題がおきる可能性が大です。

それを避けようとすると、公益目的の事業を行う公営企業しかありません。しかし、何十もの私企業を母体として(というか解体して)公営企業とするしかないとすると(宮城県知事の提案はこの発想であろうかと想像しています)、公営企業としての根拠法が必要であり、しかも新設となりますから、役所主導でことが動かざるをえません。一般的な私企業を母体とすることでは公営企業とすることは難いと思います。

しかし、いくつもの私企業が被害をうけているからこそ、そこに働く経営陣と従業員の意欲に期待すべきで、被害の実情もやってきたことも違う人たちを無理に公営企業のもとに統合のは、組織が大きすぎる、チームワークをさせるまでに時間がかかる、効率が悪くなるなどのおそれがあります。餅は餅屋のことわざのとおり、事業の運営は意欲の高い民間にまかせたほうがいいと思います。うまくいくところもあれば、残念ながらうまくいかないところもあるでしょう。しかし、自助努力によって生き延びて強くなってくる企業こそ将来が担えるのです。モラルハザードをおこさないためにも、その淘汰も覚悟すべきでしょう。

また、このブログでみたとおり、国や地方自治体の財源には限度があります。地方自治体も公債を発行できますが、神戸市の実質公債費比率が震災後も改善しないのをみると、震災の影響が長く自治体財政を脅かすものであることが実証されており、なるべく避けるべきであると思われます。福島、宮城、岩手の実質公債比率は15~18%のレベルですから決して良くはありません。

ですから、地方自治体が仮に借金して用意したキャッシュは、一度、公共的な色彩を帯びた器にいれて、それから投資するほかないのです。それが地域版震災復興支援ファンドとなります。

ただ、ここで想起すべきは第三セクターのにがい経験があるということです。第三セクターの問題は、出資した自治体が補償していたことにより際限なく膨れ上がる債務について誰も止めなかったということです。しかしファンドの形態であれば、自治体はファンドを通じて出資はするが、補償はしなくてすみます。失敗すればファンドへの出資は返ってきませんが、出資額が一定程度に納まれば、自治体も耐えられます。自治体の出資比率を小さくして、民間の資金を大きくすることがポイントです。

2011年4月17日 (日)

政府・マスコミは兵庫県弁護士会の緊急提言に耳を傾けよ!

私は司法修習を神戸で行いましたので、神戸には思い入れがあります。阪神・淡路大震災のときには、友人・知人がいっぱいいる神戸の被災をデトロイトで聞き、とても心配しました。その後数日たってニューヨーク出張の際に、紀伊国屋で震災して亡くなられた方のリストをずっとみて友人が含まれていないかを確認したことを思い出します。

今年から兵庫県弁護士会長になった笹野哲郎弁護士は、いっしょに神戸修習で釜の飯をともにした同じ年の友人です。彼も阪神・淡路大震災の被災者です。その兵庫県弁護士会が、『東日本大震災復旧・復興対策立法に対する緊急提言』を笹野会長名で緊急発表しています。

この提言は、自らも被災しながらも被災者救援のために無料法律相談を行い、その後長く被災者や被災企業のために尽力した兵庫県弁護士会会員の、実体験に基づいた極めて有用な意見で満ちております。政府はただちにこれを参考にすべきだし、マスコミももっと注目してしかるべきであると思います。

特に復興の理念について、「人間の復興」を第一とし、地域の復興・復旧のあり方については、被災地自治体が中心となり、かつ、被災者らの意思決定を尊重すべきであるとし、一刻も早い生活基盤の回復と正確な情報提供を迅速かつ十分にしなければならないと指摘してることは大切であると思います。まさに自ら被災したからこそ、その指摘には重みがあります。その後の具体的な提言はこの視点に貫かれておりますし、ヒューマニズムに満ちています。

いくつか、中小企業対策についてご紹介しましょう。提言は、災害救助法23条1項7号の「生業に必要な資金、器具、又は資料の給与又は貸与」を中小零細業者に適用すべきであると主張しています。「今回の災害では、中小零細事業者に対する給付を行う制度がほかにないため、何もかも失った農林漁業者は再起の意欲をもつことさえできない。こうした被災事業者らを救済し、早期の再起を促すべく、同規定を適用し、現金の給与を行うべきである。」として、零細事業者の救済に具体的に踏み込んでいます。

減税・免税措置の早期の被災者への適用や、復興財源確保のための課税等について被災者・被災地域は免除するという点は細やかです。雑損控除が生活再建資金になるなんて知りませんでしたね。この指摘もすばらしい。

住宅や事業資金について、被災後の二重ローン等の負担の免除・軽減に踏み込んでいます。特に金融機関の無税償却に言及したのは、貸し手の地域金融機関も痛んでいることを十分知った上での提言でしょう。金融庁の金融安定化法による資本注入と合わせれば、かなり実現可能であると思われます。代替的措置としての信用補完制度とあわせれば、被災者・被災企業救済に効果的であると思います。

魚業については公営化または準公営化というアイデアを出しています。これもいい案ですね。また、商工業者に対する救済にも触れています。漁業を復活させるのは、その関連業者の復活がないとだめということがわかっているからこその指摘であろうと思います。

貴重な提言であり、ひろく読まれて参照されるべきであると思います。

2011年4月16日 (土)

東証、復興ファンド開発・上場の支援の基本方針を表明

このブログで主張している民間資金の復興財源へのアイデアである震災支援ファンドのアイデアを、全国倒産処理弁護士ネットワークのメーリングリストに載せました。反響は「ゼロ」!皆さん、ぴんとこないのでしょうし、このグループの性質上、私のようにどちらかというと金融に軸足を置いている方はほとんどいないし、倒産実務の処理に興味がある方ばかりで、仕組みづくりをするということになれていない弁護士が大多数であるから、しょうがないといえばしょうがないのですが、ちょっとがっかりします。弁護士の役割は、実務的処理だけでなく、支援の枠組みづくりもカバーしなければなりません。

しかし昨日、私のブログをのぞいていただいている方が数人おられる東京証券取引所が東日本大震災の被災企業・被災地支援の方針を発表し、その中に復興支援ファンドのアイデアを後押しする対応策が含まれているのを発見し、多いに勇気付けられています。もし私の主張がヒントになっているとしたら、うれしいことです。

東証の基本方針を少しご紹介します。基本方針は2本立てになっており、ひとつは『経営に打撃を受けた上場会社及び上場候補会社の上場廃止や上場審査において柔軟な対応を実施する』という内容です。もうひとつが、当ブログで私が主張していたことに関係する『震災復興に向けた資金調達に関連する金融商品の上場推進』です。

後者の方針は、①復興関連ETFの上場推進、②復興関連REITの上場推進、③復興関連新商品の開発支援の3つからなっております。①は被災した上場企業銘柄を構成銘柄とする株価指数連動ETFの組成・上場支援です。②は被災者向け賃貸住宅等を組み入れた不動産投資法人等の復興関連REITの組成・上場支援で、個人的にはこれに興味があります。街づくりと関連してきますので、開発は長くかかるでしょうが、商品としてはとても面白いアイデアであると思います。そして、③は『復興事業や被災企業の資金調達を支援する事業型ファンド(復興ファンド、インフラファンドなど)のための制度整備を進めるなど、復興事業への中長期の資金調達に寄与する上場商品の開発を支援する』とあります。

③の復興ファンドを上場する際に投資対象になる被災企業の規模をどの程度とするかは、上場ファンドのNAV計算とプライスの公正性を考えると、有価証券報告書を提出している規模とせざるをえない可能性があります。私のアイデアは、サプライチェーンを構成する中小企業、しかも非上場が多数であるということを念頭に置いているので、そのアイデアと東証の方針がどの程度重なるのかは今のところわかりません。しかし、基本的な視点として被災企業に対する資本金調達を含めた資金需要に答え、市場と需要をつなぐ商品開発を支援するという点において、発想が共通する面があり、民間資金の導入に積極的な方針を示したというところは高く評価すべきです。

このようにアイデアを出すことで、被災した企業の規模と需要に応じたきめ細かい支援策が可能となるのですから、こういう考えはどんどん出していただいて、金融業界、事業再生業界のプロフェッショナルと、弁護士、会計士、税理士等の専門家が協力し、復興の役に立ちたいと思っている大多数の国民、投資家、企業とともに、長期にわたり復興にコミットしていきたいと思います。

ただ、資金をどういれるかはまさに実務の世界でして、その点については被災企業の実態を知った上で、適切な資本・負債比率を計算し事業計画を練っていける、あるいはそれを第三者的に評価できる多くの事業再生実務家の知恵が必要です。上場企業は人も知恵も比較的あるでしょうから、中小企業にそのような支援の器を提供しなければなりません。車の両輪のようなものです。私の中小企業事業再生協議会を利用するというアイデアは、地域に密着したそのような専門家を利用するというものです。

この点、岩手県釜石市のTwitterによると、日本政策金融公庫が中小企業事業・農林水産事業向けの個別相談を開始していたり、あるいは国土交通省が「建設企業のための経営戦略アドバイザリー事業」を実施するようですが、こういう支援策もばらばらではまずいので、窓口ひとつで総合的な相談がワンストップで提供できるような体制を早く組んで被災者・被災企業が迅速に再建できるようにすべきです。こういうことこそ国がすばやくやるべきです。経済産業省は原発に追われていますが、事業再生について中小企業庁は重要なイニシアティブをとってきた歴史があるのですから、経産省あたりで統合的なアイデアをまとめていただけないものかと思います。これこそ、金融庁、自主規制期間、経産省、国交省と各自治体の横断的チームを機能的に編成すべきではないでしょうか。

2011年4月15日 (金)

『曙ブレーキを支えた「女生徒」たちの物語』に感動

東日本大震災がおきて、すさまじい被害の惨状を語る記事やニュースに何回も涙しましたが、日経ビジネスオンラインの『曙ブレーキを支えた「女生徒」たちの物語』には、希望と勇気を与えてもらいました。

日本の部品メーカーには、伝説的創業者が設立して一族出身の社長がリーダーとなって経営している会社がいくつもありますが、曙ブレーキもその一つです。私もデトロイトの法律事務所にいたときに、曙ブレーキの北米のR&Dの中心となるAKEBONO BSECの設立の仕事をさせていただきました。

曙ブレーキはマクラーレンF1にもブレーキを供給している日本が誇るブレーキメーカーです。震災後、被災した福島製造でいち早く生産ラインを復活させたのはさすがですが、1961年から勤労学生制度を設けて後進の若者を支援していること、その勤労学生も生産ライン復活に参加していたことは知りませんでした。

「私たちはこの3年間、曙ブレーキで思いやりや感謝、コミュニケーションの大事さを学びました。これからは日本の未来を担う子供たちにそれを伝えていきたいと思います」

卒業生代表のこの言葉(この4月から保育士になるそうです)が、曙ブレーキで働く方々にとっては大きな誇りでしょうね。感動しました。

2011年4月14日 (木)

復興ファンド案が浮上!やっと気づいてくれましたか。

このブログで主張しつづけている復興ファンドのアイデアが米国から出されたようです。以下、本日付日経の記事を転載します。

【日米で復興ファンド案 外相会談で調整へ、官民会議も検討

 日米両政府は13日、東日本大震災からの復興に向けた新たな協力体制について調整に入った。具体策として日米の企業が出資する「復興ファンド」の創設や、日米の官民が参加する復興合同会議設置などが浮上している。17日に来日するクリントン米国務長官と松本剛明外相との会談で合意する見通しだ。

 米国側が4月上旬に提案し、日米が詰めの協議に入っている。復興ファンドは日米の企業が出資し、被災地の復興資金として活用する。

 合同会議は両国の企業経営者や政府関係者で構成し、復興事業に関する日米協力の在り方を協議する。米国ではシンクタンクの米戦略国際問題研究所(CSIS)がボーイングなど主要企業とつくる復興支援プロジェクトが20日に発足する予定。キャンベル国務次官補(東アジア・太平洋担当)がオブザーバー参加していることから日本政府と日本経団連が参加することも検討している。

 オバマ米大統領は3月17日の菅直人首相との電話協議で「中長期的な復興も含めてあらゆる支援を行う用意がある」と表明。日本発の経済危機に対する警戒感もあり、原発事故や復興支援を重要課題に掲げている。

 14、15両日にワシントンで開く20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議でも日本の震災復興が議題となる見通し。』

前の何本かのエントリーをぜひご覧いただきたいのですが、その要旨をまとめますと以下のとおりです。

①復興費用は10年間で20兆円をはるかにこえ30兆円近くになると想定されること。

②復興のためには、最初の3~4年に10年間の復興費用合計額の6~7割を投入しないと効果が薄いこと。

③仮に復興費用の合計を30兆円と想定すると、3年間は7兆円~8兆円を投下しなければならないこと。

④しかし、予算規模90兆円で歳入が48兆円しかなく、国債を43兆円も発行する世界一の債務国日本は、追加的国債発行を続けると財政破綻に陥るリスクが高いこと。

⑤消費税1%増税でも毎年2兆円程度しかまかなえないこと。(これは本日はじめて指摘します)

⑥他方、復興のためにはサプライチェーンにある被災企業の能力の復活と雇用の確保、被災者の住宅の確保をいち早く行う必要があること。それは、東北の世界の製造業に対するポジションを守るためにも、迅速に行われるべきこと。

⑦サプライチェーンを守るためには、中小企業、さらには零細企業に対するきめ細かなケアが必要であるが、これらの企業群に対する復興支援は、緊急融資だけでは足りず、それのみだと2年後、3年後に結局は倒産してしまうリスクが過去の経験から明らかであること。

⑧したがって、これらの企業群に対しては、リスクマネーの供給が不可欠であり、融資だけでない資本注入により、生かすべきところはいかし、また、人的資源を糾合すれば再生が可能なものについては新会社設立・資本投下により、技術をもっている人間を生かす事業再生的手法を導入する必要があること。

⑨これを援助するために、宮城、福島、岩手の各地域に複数のベンチャーキャピタル型震災復興支援ファンドを設立し、既存の中小企業事業再生協議会などの器を使って、支援をしていくべきこと。ファンドには地元金融機関等からのシードマネー出資をつのるほか、金融と事業再生のプロの派遣協力、弁護士会の協力もあおぎ、地元をよく知っているプロたちによる積極的支援を行うこと。

⑩また、⑨の震災復興ファンドに潤沢な資金を投入するため、マザーファンドとして「東日本大震災復興支援ファンド」を設立し、公募により広く国民や企業からの投資を募ること。このファンドは、投資リスクが通常より高いが、いまだからこそ国民はリスクを納得して投資してくれるチャンスであること。

さらに原発事故について原子力損害賠償法により東京電力に変り政府が補償しなければならない金額も数兆円にのぼるという報道もなされているところであり、民間資金なしでは復興はできないことはますます明らかになっていると思います。

ところで、日経が東北の被災地出身の経営者の被災者への言葉を連載しています。皆さん、故郷を思う気持ちにあふれています。こうした東北出身の経営者のいる企業に、復興ファンド出資を呼びかけてはどうかと思います。かならずや応えていただけると思います。

2011年4月13日 (水)

産業の復興はスピードと大胆さが大事

阪神・淡路大震災に関する林敏彦さんの資料にはたくさんのことを教えられますが、今日は復興資金16兆3,000億円がどの年度にどれくらい使われたかの棒グラフから考えてみたいと思います。

林さんの資料によると、震災が起きた年である1994年が約1兆円、95年約5兆円、96年約2兆円、97年約1兆9,000億円と、最初の4年間に10兆円近くを投入しています。実に復興資金の65%にあたります。

阪神・淡路の復興ができたのは、最初の4年間の集中的な資金の投入があったからであることがこれで読み取れます。それでも、神戸港はアジアのハブ港としての地位を釜山港に奪われてしまいました。

東北の製造業の主力は自動車部品、半導体、ILS、精密部品という高付加価値部品です。これらの部品は日本だけでなく世界の製造業を支えていました。今、サプライチェーンが途切れたことで、日本の製造業は代替品の調達を韓国、台湾、その他の国に求めています。それだけでなく、全世界の自動車メーカーは、供給が途絶えた部品を他国のメーカーに代替させようとしています。

代替が進み固定化してしまうと、神戸港がアジアのハブ港の盟主から滑り落ちたように、東北の製造業の地位を守ることはできません。いち早く製造能力を復活させ、そこで働く人たちの雇用を守ることが、東北の復興にとってきわめて大きな意味を持ちます。

被災者の方々の生活を守るため、生活資金提供と被災者用住宅建設をいち早く推し進めることと、職場に復帰できるように製造拠点を早く回復させることは車の両輪のごとく進まなければなりません。被災者は働けるようになって生活の糧をまた自分で稼げるようになることで、生きる気力と明日への希望がもてるようになるでしょう。このことは水産業、食品加工業でも同じことです。

ところで、政府は年3兆円規模の危機対応融資を以下のとおり実行すると発表しています。

政策金融を活用した大震災
対策「第1弾」の主な内容
●危機対応策の拡充 …年3兆円規模に
低利融資融資金利を0.5%下げ。国費で利子補給
CP購入2000億円規模の購入枠を政投銀向けに設定へ
損害担保融資が焦げ付いた場合の損失の5~8割を国費で補填
●産業再生法認定企業への出資円滑化
損害担保政投銀による出資が焦げ付いた場合の損失の5~8割を国費で補填

これを見ますと、いずれも融資を引き出すための方策です。製造業でいえば第一次サプライヤー、第二次サプライヤーで比較的規模が大きいところには政策投資銀行や商工中金から融資という形で資金がでていきますが、規模が小さい中小企業には、はたしてどれくらい効果があるのかが疑問として残ります。

この点に関連して、阪神・淡路大震災の後の兵庫県の企業の震災関連倒産状況について、帝国データバンクがレポートを発表しています。それによれば震災の年の95年は全国平均に比べると倒産が少ないのに対して、翌年以後は全国平均を上回る二桁倒産が長く続いています。兵庫県内の企業は被災で大きなダメージを受けましたが、緊急融資で一時的に存続できたものの、翌年以後は復興資金の供給があっても倒産の増加は食い止められなかったというのが事実です。特に業種的にみて復興需要が期待された建設業ですら増加し続けたこと、従業員5人以下の零細企業が過半数を占めていること、地場産業である履物、繊維、食品業者が多いことが特徴で、事業規模、企業規模が小さい業種ほどダメージから逃れることが難しかったということです。

つまり、低利融資のカンフル剤はカンフル剤としかきかず、もとから体力の弱い中小零細業者は、一時的にもってもその後続けていくのが難しいということを、このデータは物語っています。

この過去の経験からいえば、融資のみでは限界があるということであり、サプライチェーンにある中小企業を守っていくためには、負債をふやさない資本注入も方法として必要であることを物語っているのではないでしょうか。私がベンチャーキャピタルのようなリスクマネーが必要だという趣旨は、そこにあります。リスクをとって大胆に出資するということを主要地場産業を中心に迅速に進めるべきではないかと思います。

政府は、復興構想会議でぼけた議論をして復興資金の投入のスピードを落としたり、細やかな手当ての検討をおろそかにしてはなりませんが、鈍感力が着物を着て歩いているような首相のもとでは非常に心もとない限りです。

2011年4月 9日 (土)

第一次補正予算4兆円の財源はばら撒き4Kを使え!

東日本大震災の復興財源の問題については、すでに当ブログで4回論じました。いまだ荒削りな私の意見ですが、すぐさま行わなければならない大震災による被災地に残された膨大な瓦礫の撤去や被災者の当面の生活資金支援については、即時着手すべきであることに異論はあるはずもありません。これらの支援策について、政府が4兆円規模の第一次補正予算を財源とともに検討しているとの報道がなされています。

以前のエントリーでも説明させていただきましたが、瓦礫の撤去に始まる復興費が20兆円をはるかに超えるものとなる可能性が高く、安易な国債増発は国の財政を危うくするリスクが高いわけです。したがって、国庫からの支弁は、まず、予算の歳出項目の見直しをまず行うべきです。

そのなかで、ばら撒きと批判の強い4Kはすべて復興費としてまわすべきです。すなわち、子供手当2兆2,000億円、農業戸別所得補償6,000億円、高校無償化4,000億円、高速道路無料化社会実験1,000億円などは即刻やめて、これらの合計3兆3,000億円を第一次補正予算にまわすべきです。また、予備費が1兆円程度あるようですから、これも使えば4兆円規模の補正予算の財源はただちに手当ができるはずです。

民主党内部では基礎年金の国庫負担分2兆5,000億円を当てるという話が出ているようですが、言語同断です。この基礎年金負担分は、もともと財政投融資特別会計の積立金・剰余金(約1兆円)や、独立行政法人「鉄道建設・運輸施設整備支援機構」の剰余金(約1.5兆円)を軸に検討されたはずのものです。国庫負担分2分の1を決めるのに長い長い先行きの見えない議論をして、結果は財投横流しを決定したものを、さらに復興資金とはいえ横流しし、ばら撒き4Kは維持するのは、どうみてもおかしいでしょう。穴のあいた基礎年金部分はそのままにできません。国債増発すればいいぐらいに思っている議員がいるならば、ほんとうにイラカンのように怒鳴り散らしたい気持ちです。

また、菅首相は、宮城県知事との会談で、「前に戻すだけでなく、もっとすばらしい東北、日本をつくるという方向でぜひあたっていきたい」と述べたと伝えられます。この混乱に乗じて、政治的野心から、後藤新平並の新都市計画をぶち上げるつもりならばご免こうむりたいところです。復興の理念の第一は、「被災者の立場にたった」復興でなければなりません。それは第一にできる限り「もとの状態に戻すこと」であって、その中で防災あるいは都市計画に寄与するところがあれば、若干の修正を加えるということであるはずです。困窮している被災者の立場を利用してみばえのいい町をつくるための区画整理や道路建設をやってしまおうというのならば、その復興の理念を問いたださなければなりません。被災者の「ふるさとの風景をとりもどす」という気持ちを踏みにじったものとなってはならないことを、菅首相は肝に銘じるべきです。

2011年4月 7日 (木)

東日本大震災被災上場企業に対する開示規制の特別措置

すでに新聞報道でもありますとおり、金融庁や東証・大証は東日本大震災により被災した上場企業に対する決算発表及び有価証券報告書の提出遅延についての特別の措置を発表しておりますので、それについてまとめておきたいと思います(特に注をつけない限り東証・大証とも同じ方針です)。

まず決算発表については、地震災害により速やかに決算の内容の把握・開示することが困難である場合には、「45日以内」などにとらわれる必要はなく、決算内容が確定できたところで開示するとなっています。

決算発表の時期が大幅に遅れる場合には、その旨及び開示時期の見込みが立つようであればあわせてその旨を開示することを検討することを依頼しています。

なお、この点について、東証は決算開示予定を集計して報道機関に提供して記者会見等の受入を準備するよう要請しているので、登録した開示予定に変更が生じた場合には、直近の開示予定を報道機関に公表てきるようにTargetを用いて予定連絡の変更登録を行うべきこと、また、地震災害により決算予定日の見込みが立たないときは、実務上支障のない範囲でかまわないので、「未定」と記入し、見込みが立ち次第、変更登録するなどの対応を検討されたい、としています。

決算短信における業績予想については、本地震災害により業績の見通しを立てることが困難な場合には,決算短信及び四半期決算短信において,業績予想を開示する必要はないとしております。

次に、有価証券報告書又は四半期報告書の提出遅延についてでですが、金融庁のホームページでは、本来の提出期限まで提出すべき有報及び四半期報告書については、6月末まで、3月決算の企業については有報提出時期は9月末までに提出すればよいという方向で、特別措置を定める政令を整備する予定であることが発表されています。臨時報告書については、地震という不可抗力により臨時報告書の作成自体が行えない場合には、そのような事情が解消した後、可及的速やかに提出することで、遅滞なく提出したものと取り扱われることとなるとしています。

上場廃止基準の適用についてですが、東証・大証とも、上場会社が有価証券報告書又は四半期報告書の提出を遅延した場合に監理銘柄に指定し、上場廃止基準に該当するか否か確認することとなっておりますが、当該特別措置の適用を受けた上場会社に対しては,特別措置に関する政令で定める期限を有報等の提出期限とみなして適用することとしています。また,有報等を本来の提出期限までに提出できず,特別措置が適用されることとなった旨を開示する必要はないとしています。

意見不表明を受けた場合の上場廃止基準の適用については、本地震災害により、上場会社の財務諸表又は四半期財務諸表等に添付される監査報告書又は四半期レビュー報告書において意見不表明等が記載されることとなった場合、監理銘柄指定及び上場廃止の対象とはならず、またその旨の開示も必要がないとしています。

時価総額基準による指定替えや上場廃止については、東証はこちらのページ大証はこちらのページをご覧下さい。大証についてはこの記事を書いた時点(4月7日午後零時)では、東証のとったような措置を行うことは発表されていません。

2011年4月 6日 (水)

震災復興に必要なコスト試算からみる民間資金の必要性

前回のエントリーまで、民間資金の必要性を論じましたが、本日は分かっている限りの資料で、どれくらいの資金がいるのかをはじきだしてみたいと思います。誤解があるかもしれませんが、あくまで備忘録ということでご容赦下さい。

被災者生活再建支援法に基づく指定被災者再建支援法人である財団法人都道府県会館の支援金基金から支出する住宅再建の支援金は、上限が一世帯300万円です。警察庁の調査によると建物の損害は約20万件です。他方、損保協会では推定で50万件の家屋が被災しているといっていますから、20万件くらいは全壊しているとみてもそんなにはずれてはいない数値であろうと思います。そうすると、住宅再建支援金だけで6,000億円の財源が必要です。

ところで、都道府県会館が積み立てている支援金基金の基礎財産と運用財産の合計は600億円しかありません。これから10年で住宅再建が完了するとして、毎年600億円を支援するためには、運用益4%として1兆5000億円の運用財産が必要となります。一つの都道府県あたり300億円の追加拠出が必要になってしまいます。しかも住宅再建はここ3年間くらいが一番集中するでしょうから、3年間で6,000億円の3分の2の支援が行われるとすると、3年で4,000億円、毎年1,333億円の支援が必要です。これを運用財産の運用益で出すとすると、年4%の利回りと仮定しても3兆3,325億円の運用財産が必要という計算になります。今の運用財産に3兆2,725億円を追加拠出しなければなりません。都道府県一つあたりの追加拠出額は、654億円余りとなります。これは無理なので、国が新たに右の金額を追加拠出しなければなりません。

また、阪神・淡路大震災復興基金の基礎基金は8,800億円で、兵庫県と神戸市が負担しております。この運用益が復興に使われましたが、その総額は13年間で3,300億円です。このうち、被災者の生活対策に51%(1,683億円)、住宅対策に31%(1,023億円)が使われています。この合計額である2,706億円が直接的な個人補償に使用されたという計算になります。

復興基金は被災者生活再建支援法成立以前に設立され、被災者生活再建支援法成立以後は補完関係にあったわけですから、復興基金の住宅対策は、被災者生活再建支援法の住宅支援金でも足りない部分をおぎなっていたということでしょう。また、住宅対策より生活対策に51%の資金が使われたということは、上記の住宅支援金6000億円に付け加え、生活対策資金が別立てで必要であることを示唆しています。

阪神・淡路大震災からみて、生活対策資金は住宅対策の1.5倍必要と仮定すると、10年間で6,000億円の1.5倍=9,000億円必要ということになります。年間900億円の支援ということです。これを復興基金の運用益で補うとすると、年4%の利回りとして2兆2,500億円の基礎財産・運用財産が必要という計算になります。この金額を被災した県と市などの自治体だけで債務負担するのは無理でしょう。

次にインフラ関係です。阪神淡路大震災に対する13年間の復興費用は合計で16兆3000億円(!)と報告されています。そのうちのインフラ復興に使われた金は9兆8,300億円です。今回の震災は死者行方不明者だけでも阪神淡路大震災の4倍以上で、広域の市町村が被害をうけていますから、10年で復興するという計画をたてる前提で、控えめに被害が2倍だと仮定しても、インフラだけで20兆円近くかかる計算になります。インフラはここ3年くらいがもっとも費用がかかるので、本年から3年間は毎年3兆円の支出が必要と見積もってもおかしくはありません。これは国が負担するほかなさそうです。

以上、赤い文字で示した10年間の住宅再建支援金、生活対策支援金及びインフラ関係復興資金を合計すると21兆5,000億円となります。

そしてその資金を運用益からひねり出すために、①国は住宅支援のための基金への追加拠出又は設立に当初3兆2,725億円が必要である、②復興基金の設立のため国や被災した県と政令指定都市等で2兆2,500億円の拠出が必要である、③国はインフラ整備に3年間は毎年3兆円の支出が必要である、ということになります。初年度だけで、8兆5,225億円が必要という計算になります

これ以外にも、阪神・淡路大震災では産業復興資金が10年間で2兆8,500億円、福祉の街づくり資金2兆8,350億円、都市防災資金3,150億円が投入されました。東日本大震災復興対策でもこれらの支出が必要ならば、復興に必要な資金はますます膨らみます。

なお、上記に説明した運用財産の規模は利回り率が低下すればさらに大きな金額が必要となりますが、運用益4%をあげるのは今の市場環境では難しいように思います。

仮にこれらの債務負担を国単独でやるとすると、歳入が48兆円しかない国が何らの予算使途の見直しなしに、これを全額負担すれば財政破綻のリスクはきわめて高くなります。

以上はあくまでラフな試算でありますが、ここから推測されるのは、巷間いわれている20兆円よりもずっと多額の復興資金は必要ではないかと思われます。感覚で恐縮ですが、10年間で30兆円は必要になるという感じがいたしします。政府災害対策本部は、被害の実情を捉えて10年間の復興資金の総額と、これから3年目くらいの資金はどれくらいになるかを早く見極める必要があります。また、こども手当に要する年間財源2兆円はこちらに振り向けるほかないことは余りにも明らかであり、その他ばら撒き予算の財源はすべて復興費にまわさなければならないと思います。

さらに、国の財源では足りず、民間資金を大幅に導入する選択肢を考えておかないと、10年での復興は非常に困難ということになります。ご紹介した林さんのプレゼンテーションによると、阪神淡路大震災の復興の総事業費16兆3,000億円の出所は国37%、県14%、市町18%、復興基金2%、国関係団体14%、県・市町関係団体5%、民間事業者10%の割合だったそうです。国関係団体や県・市町関係団体の負担は実質的には国や地方自治体が負担していると思われますので、復興資金の90%である14兆7,000億円が公的資金であったということです。9割の国・自治体負担をいかに民間資金で代用するか、ここが復興計画の成功を左右する要となりそうです。

2011年4月 3日 (日)

復興基金の構造とその限界ー民間資金導入が不可避な理由

4月1日付の日本経済新聞は、下記のとおり政府が被災地の各自治体に復興基金を設置する方針であることを報じました。

『被災自治体の復興基金設立、国が支援・資金拠出も

 政府は東日本大震災の復旧・復興に向けた基本法案に、被災自治体による「復旧復興基金」の設立支援を盛り込んだ。被災地が機動的に復旧事業を進めやすくするのが狙いで、基金への国の資金拠出も検討する。阪神大震災に比べて今回は被害地域が広く、複数の基金が設立されるとみられる。基金の規模は合計で数兆円となる可能性がある。

 基金は被災地の県や市町村による創設を想定している。予算による復旧・復興事業は議会の承認を得る必要があり、事業推進の資金確保に時間がかかるケースが少なくない。それに対し、基金は必要なときに機動的に資金を回せるのが最大の特色だ。資金の使い道に制限がある予算に比べて、使い勝手の良い資金を民間に振り向けられるため、早期復興を進めやすくなる。

 ■臨時増税で3案

 阪神大震災の際にも兵庫県と神戸市が「阪神・淡路大震災復興基金」を設立。県と市が拠出した計200億円の基本財産と、金融機関から借り入れた8800億円の運用財産で構成した。このときは国が地方交付税を通じて利払いの一定割合を負担した。今回はさらに踏み込み、被災地が設ける基金への国の資金拠出も検討。被災地のニーズに見合った復旧・復興を後押しする。

 基本法案の素案では復旧・復興の財源を確保するため、「震災国債」の発行や、特別税の創設も盛り込んだ。検討する特別税の例としては(1)所得税額を一定割合上乗せする定率増税(2)法人特別税(3)特別消費税――の3案を挙げた。

 有力になっているのが所得税の定率増税。所得の多い人ほど大きな負担を求める形になるうえ、被災者を免税しやすい利点がある。消費税は被災地だけを増税から除外するのは難しいとの見方が強い。

 ただ増税案について政府内では、被害の全体像さえもはっきり見えていない段階で、国民の負担論が先走ることに慎重論が強い。「歳出・歳入の見直しで財源を確保するのが先」との声も多い。

 ■水没地の買い上げも

 国が実行する政策としては生活再建などの支援措置の充実や、税制優遇措置の活用などを明記。素案には阪神大震災より踏み込んだ内容も盛り込んだ。津波による壊滅的な被害が相次いだことから、水没した土地を国が買い上げることを検討。再建を円滑に進めるため、土地所有権の制限を検討することも明記した。ただ国による「私権」の制限に批判が出る可能性もある。』

政府案のベースとなっている阪神・淡路大震災復興基金について調べ、林敏彦さんの『阪神・淡路大震災復興基金とわが国立法府の役割』という論文と、『阪神・淡路大震災復興基金と「財産法人阪神・淡路大震災復興基金」の役割』というプレゼンテーションを発見しました。

林さんによると、阪神・淡路大震災復興基金が設立された目的は、国および地方自治体の復興支援事業が公費支出に関する法令に縛られ、被災者の要求にきめ細かく対応する自由度が不足していたために、自由に使える資金が必要であったこと、とりわけ、国は個人住宅の再建を公的資金で支援することは、私有財産制度の原則に反するという立場をとったが、住宅の再建は被災者の生活再建、コミュニティの再生、街並みの復興に必要不可欠であったことから、いわば「マネーロンダリング」の仕組みを使って自由度の高い基金を作ったと説明されています。

阪神・淡路大震災復興基金のストラクチャーは以下のようなものでした。

①金融機関が兵庫県と神戸市に8800億円を貸し付ける(金利は5800億円については4.5%、3000億円は3%)。

②県と神戸市はそれをそのまま無利子で財団法人阪神・淡路大震災復興基金に貸し付ける。

③金融機関は兵庫県と神戸市に対する貸付債権を同額・同利率の債券にして、財団法人阪神・淡路大震災復興基金が全額を買い取る。

④財団法人阪神・淡路大震災復興基金は債券の利払金を復興事業に使う。

⑤兵庫県・神戸市の利払金については、地方交付税法を改正して75%を国庫から交付し、補てんする。

⑥この結果、利払いの25%は兵庫県・神戸市が負担するが、利払いについては縛りがかからない自由な資金として、被災者の住宅再建対策(生活費や住宅ローンの利子補給など)に使用されることが可能になる。

要するに、このような復興基金は、国は個人補償はできないが、地方自治体は個人補償を行いうるというダブルスタンダードを確立するための仕組みであったということができます。しかも、その財源をひねくりだすのに、兵庫県と神戸市は合計で8800億円の債務負担行為を行わなければなりませんでした。

なお、平成10年には被災者生活再建支援法が成立し、被災者自立支援金が創設されました。これは大規模災害にあった被災者に対する支援金として、住宅の被害程度に応じて支給する支援金(基礎支援金)と、住宅の再建方法に応じて支給する支援金(加算支援金)の2本立てを可能にするものになっています。これは国の指定を受けた被災者生活再建支援法人(財団法人都道府県会館)が、都道府県が拠出した600億円の基金から支援金を支出し、その半分を国が補助するものです。これもまた地方自治体と国の債務負担が求められるものでありますが、政府はあきらかに被災者自立支援金の規模を大きくすることを考えているものと思われます。

また、今回の政府の説明は、復興基金の設立だけでなく、水没した土地を国が買い上げることをも検討するというもので、国が一定の限度ではあるけれども、さらに個人補償に踏み込んでいくという制度の大きな変質をもたらすものです。

また、福島第一原発事故の関連では、事故の発端が地震による津波でもあり、原子力損害賠償法の制限を超えた補償を国が行うことを念頭においている可能性も含まれているのではないかとも疑っています。

東日本大震災の被災状況からみて、すべて公的資金の方向でことがすすめば、国と地方自治体の負担は極めて大きなものになることはまちがいありません。他にも選択肢はないのかを検討せずに進めると、際限のないものとなります。あまりにも被害が甚大であると思われる事態について、すべてを公的資金でまかなうという発想には、津波による補償以上かもしれない国家財政の破綻という大きな危険が含まれていることを認識すべきです。国家財政が破たんすれば、被災者の支援や復興はすべて遅延または停止し、かつ全国民が大きな負担を背負うことになります。1995年から2008年度までの13年間に阪神・淡路大震災の復興に要した財政資金は16兆3000億円(!)と、林さんは報告しています。

阪神・淡路大震災復興基金では、13年間で3606億円を執行しました。これは16兆3000億円の2%にすぎませんが、生活対策に51%、住宅対策に31%、産業対策に15%、教育その他に3%が使われ、確かに大きな役割を果たしました。しかし、基金の財源たる利子について国が補給した負担は3606億円の75%に及びます。

死者・行方不明者の数だけでも阪神・淡路大震災の4倍以上である今回の震災では、被災者の生活再建や住宅対策だけでも莫大な金額が必要になります。そのほか、道路、港湾設備などのインフラ復旧を加えると、復興基金だけのスキームで今後10年は続く復興作業をまかなうのは困難でしょう。阪神・淡路大震災で必要だった財政資金16兆3000億円のうち2兆9500億円が産業復興費にまわり、市街地整備等だけで9兆8300億円もかかっているのです。慄然とせざるを得ない数値であり、いままでと同じ対策のみではだめだと考えざるをえません。

特に、今回は、東北という産業基盤がすでに他の地域に比較して弱い地域が被災にあっているのですから、被災企業に対する資本投下、資金提供を考えなければ、地域復興計画としてはまったく足りないものになってしまいます。そしてこの分野も公的資金に対する法律の縛りをはなれて、柔軟に対処しなければならないものであり、また、自助努力をベースに支援するという構図がもっとも妥当する分野でもあります。

危機管理能力を問われている民主党政権が、危機対応策でさらなる危機を招く愚は絶対にゆるされません。民間資金の活用は不可避な選択肢であり、今すぐに検討を始めるべきです。

2011年4月 2日 (土)

民間資金の活用と被災者・被災企業のニーズの合致は?

前回のエントリーでは民間資金をどのように集めそれをどのように配分するかを考えました。こんどは現場レベルから考えてみたいと思います。荒削りの思いつきですが、考えるきっかけになることを願って書いてみたいと思います。

被災地の現場では、大量のがれきを整理するところから再建が始まります。再生の意欲が高い経営者と従業員が一体となって復興にむけて頑張っているところが、いくつも報道されています。そういう中小企業も、大地震と津波に襲われる前には銀行や信用金庫、信用組合や農協、漁協から資金を借り入れていたと思われます。担保にとっている土地建物は津波などで失われました。底地は残っていますが、境界が動くなどしているかもしれず、その担保価値が大きく棄損されています。不動産に保険が掛けられている場合は、建物・土地の滅失により支払われるべき保険金請求権に抵当権の効力は及び、金融機関等は保険金請求権の差押・転付命令により貸付債権の回収ができます。しかし、金融機関等がすべて回収をはかったら中小企業の再建は不可能で、倒産処理する以外に道はなくなってしまいます。

被災者には一世帯に数百万円の復興支援金が給付されることになるようです。熱意ある経営者や従業員の中には、その復興支援金の一部をもちよって会社再建に使いたい方々がきっといるはずです。そういう方々を糾合して、そこにさらに資金を供給すれば、再建できるところもたくさんでてくるでしょう。また、経営者が亡くなってしまったが、従業員が生存していて、再建したいと考えているところもでてくるでしょう。既存の金融機関等の債権者との調整が必要になると同時に、復興資金が必要になります。

そこで、中小企業再生支援協議会のプラットホームを使うことが考えられます。既存の中小企業再生支援協議会をベースに「東日本中小企業震災復興再生支援機構」を10年の時限立法でつくり、そこに、リゾースを集中させ、復興のための診断と企業再生計画の支援、資金調達の支援を行わせるのです。

再生支援機構にきた被災企業は、まず被災状況の把握・説明と直近の事業報告書を提出(提出できないときは借入先の金融機関から取り寄せ)し、機構はそのまま再生ができるかどうかの初期診断を迅速にします。再生可能ならばすぐに再生計画の支援業務に移行します。再生不可能であるならば、破産処理等の処理をすすめ、金融機関の無税償却を支援します。こういう業務は弁護士なしでは無理なので、再生機構には各弁護士会が全面的に協力します。また再生支援機構には各金融機関からも金融のプロフェッショナルを派遣してもらいます。

そして、再生可能なところには、前回のエントリーで書いた震災復興公募投信であるマザーファンドから資金調達する地域の震災復興ファンドが出資してサポートしていきます。震災復興ファンドに金融機関に出資を求めるかどうかですが、なしでいくという考え方といくらか出資してらうという考え方があると思います。やはり少しは出資していただいたほうがいいでしょう。しかし、基本はマザーファンドからの出資で運用すべきでしょう。

仮に再生が無理だとしても、意欲ある経営者や従業員を生かすため、これらの方々を糾合した新会社を設立し、そこに経営者・従業員とファンドからの出資を集め、可能であれば銀行からの貸金を行い事業の再生をはかります。こういうメニューをそろえることで、すべてをなくした被災者に等しく希望を与えることができることになります。また、被災前にばらばらだったヒューマンキャピタルを糾合することも可能となります。

このスキームには、①地域の被災企業の実情に応じた迅速かつ柔軟な対応が可能、②国や地方自治体の行政の関与が限定されており、民間の力により効率的な再生業務が可能、③意欲ある被災者を資金がでないということだけで追い込まないような新会社設立等の手段が容易できること、④機構がはいることで、銀行等の金融機関もさらに余力のある範囲で貸金を行うことが可能になること、などの利点があると思います。

ところで「再生できるか」という判断は、これまでの事業再生の基準と根本的に発想を変える必要があります。経営者・従業員の意欲はこれまでになく高まっているが、設備や資本がない状態なのです。すべてをなくした人間のこれしかないという強い意欲に投資しましょう。通常の再生の基準をあてはめてはうまくいかないので、事業再生法の運用はフレキシブルに行うことが重要です。

事業再生ファンドには信用保証協会の保証がありますが、今回も同様な保証を求めていくか、保証協会で対応ができないところは、メガバンクの協力で保証をもらうということもあり得ます。

きわめて荒削りですが、意見を述べさせていただきました。金融と事業再生の知識経験、人材をフルに動員して日本を再生させましょう。コメントは大歓迎です。

2011年4月 1日 (金)

民間資金を復興のために使うアイデアは何かないか?

地震からの復興について議論が始まっていますが、政府関係者が議論しているのはいずれも国庫からの出費のスキームであります。20兆円を超えるかもしれない復興資金を国や地方自治体が負担することを考えるのは、順序としてはそのとおりかもしれません。しかしこの国の財政赤字を考えれば、全額を国庫負担することでは財政破綻を避けることができないように思います。震災復興国債も国の借金であることに変りはありません。地震前から落ちてきた税収を増税で増やしても限度があり、非常に難しい問題です。

さらに、被災された方々や企業の規模を考えると、さまざまなスキームを打ち出していかなければなりません。個人に対して復興資金を供与することから始まり、打撃を被った企業に対する復興資金の提供を企業規模に応じて細かく考える必要があるように思います。

大企業については、社債や場合によっては公募増資による資金調達も考えれます。また、銀行がローンで資金需要をまかなっていくことも可能でしょう。しかし、銀行も非常時とはいえ、バーゼルIIIの縛りがあり、貸出の健全性管理を長期間緩めるということはできないでしょう。銀行も困難な状況にある取引先を助けたい気持ちはとてもあると思いますが、全ての規模の会社、かつ壊滅的被害をうけた会社にローンを出すことはできず、そこには限界があります。

さらに、今回の地震で大打撃をうけている中小企業、特に製造業関係、水産関係、農業関係、物流関係の中小の企業に対するサポートとなると、都市銀行、地方銀行、信用金庫、信用組合、農協、郵政が提供する資金には非常な限度があるように思います。たしかに、地方銀行の増資、信金や農協に対する信金バンクや農林中央金庫からの資金提供は現に行われているところですが、これからくるなにもかもなくしてしまった方々へ、資本規制がかかっている金融機関等が貸出すことには限度があります、他方、サプライチェーンの一環をなす中小企業、さらにはその下にある零細企業に対する支援なしに、日本が復興することはありえないと思います。

ではどうやったら資金が回るのか?野村證券が災害復興の投資信託を500億円程度募集して、社債等への投資を行うことにより復興資金の提供を支援するという記事が数日前の日経にでておりました。これは優れたアイデアであると思いますが、公募投信ですとどうしても規模が比較的大きな上場企業への投資しかできないでしょう。水産業のように小企業や零細業者に支えられている業種では、船も網も水産加工工場もすべてなくしてしまった方にも支援をしないといけません。どうしららいいのでしょうか。

私もない知恵を絞っています。思いつきを並べます。

一つは、製造業・水産・農業・物流関係の上場会社を通じた復興支援金供与です。これは上場会社が社債等で調達した金銭を、取引のあったところへのグループバンキングで低利かつ長期に貸し出す方法です。しかし、ネックは壊滅的打撃をうけたところに若干の投資をしてグループ化し、さらにそこに資金を貸し付けるということに、どれくらい経営陣がたえられるかです。リスクは大きいのですが、そのリスクをどの程度合理的とみるか、株主からみても納得できるかが重しになります。長期投資ですから、腹の据わった経営陣が、「今共存なければ我が社の発展の道なし」とどんと構えなければなりません。しかも取引先であったところですから、資金提供後情報の取得ははるかに容易で、物心両面の支援も可能です。また、このタイプには投資信託からの上場会社の社債等への投資との組み合わせが使えます。

二つ目は、ベンチャーキャピタルのような発想で私募ファンドを設定し小規模業者へ直接資金援助できないかです。報道をみているとこの大災害による甚大な被害にあっても、水産業は絶対に捨てないとすでに一から活動を始めている漁業関係者がいるようです。農業については福島第一原発による放射能の汚染が懸念される地域については容易でないと思いますが、そうでない地域の農業の復活への動きをはじめているところもでてきているようです。これらの方々は、長年蓄積されているノウハウもあり復活への意欲は非常に高いわけですが、既存の設備に大打撃を被っているわけで、こういう方々の復興資金需要に直接答える私募ファンドの設定を数多くできないかという発想です。この投資はハイリスクでリターンも最初のことはなしですが、経営の現代化・経営資源集約も一挙に行い災いを福となすというコンセプトで、長期の投資を求めるものとなります。正体がつかないネット企業にあれだけの資金を投資した投資家がいるわけですが、リターンがあまり期待できないかもしれませんので、平時は設定は無理です。今だからこそ設定できる、あるいは今しか設定できないファンドなのではないかと思います。

三番目は公募投信と二番目の組み合わせです。大きなマザーファンドを公募投信として設定し、そのマザーファンドから、いくつもある私募の災害救済支援ファンドに投資するというスキームです。これは、民間の金を大きく集め、その資金を効率よく配分していくことに資すると思います。これも今だからこそ設定できる、あるいは今しか設定できないマザーファンドです。

国難の時、金融関係者の知恵が求められています。よいお考えがあったらぜひお聞かせいただきたいものです。

【4月1日午後6時追記】

考えてみると日本は1500兆円の金融資産をもっているわけですから、復興費用はその1.5%程度なのです。30兆円かかっても2%です。そうすると国民一人が自分の金融資産の2%を第三に指摘したマザーファンドに投資してくれれば、相当な規模の金を集めることができます。投資にインセンティブをつけるため、配当がもし出た時でもファンドの設定期間中は課税しないことにする、一口の出資額を通常の1万円ではなく5000円にして小さい子供でも投資できるようにする、もし損失がでたときは投資損としての通算を認めるといった優遇策をとれば、国民はよろこんで投資してくれるのではないでしょうか。

次に私募ファンドについては、投資対象となる地域産業について知見がないといけません。そこで、県レベルが設定主体になり、そのファンドの運用についてはプロに委託して任せてはどうでしょうか。あるいは設定者は投資信託委託会社として、県レベルで各地域の実情をしる復興アドバイザーを助言者として選任すれば、さらに効率的投資が可能でしょう。プロに対する運用報酬にはやはり課税上のインセンティブをつけて、報酬料率が低くても収益がちゃんと上がる仕組みをとり、さらには成功報酬も認めてやったらどうでしょう。こうすれば運用ガイドラインづくりにも、各地域差が反映できますし、運用を任される人も復興に強い意欲とヒューマンキャピタルを糾合できそうな中小企業群を選ぶことができるのではないでしょうか。

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