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2011年1月 8日 (土)

社会的要請にこたえるコンプライアンス?

新年明けて1月5日、山手線の電車の中のTVスクリーンに都内で餅をのどに詰まらせて死亡した方が13名に及んでいるというニュースが流れました。それを見ていた私の娘が、「餅でこんなに人が死ぬのに、こんにゃくゼリーだけ問題にするの、おかしくない?かみごたえも大きさも無茶苦茶変わったのに、餅については何もいわないのって不公平だよね」と、私に言いました。

まことにもっともな話だと思い、ちょっとネットで調べてみると、前々から餅を問題にせず、こんにゃくゼリーだけ問題にしているのはおかしいという批判がありますね。しかし、消費者庁ではこんにゃくゼリーを直径1センチ以下にするという安全指標を決めました(以下の産経新聞の記事参照http://sankei.jp.msn.com/life/lifestyle/101222/sty1012222033009-n1.htm

 『こんにゃくゼリーの窒息事故防止策を検討していた消費者庁の研究会は22日、直径を1センチ以下の大きさにするなどの安全の指標を正式に決めた。同庁は年内に製造業者に対し、指標に沿った商品に早期に改善するよう要請する。一定期間をおいた後でも改善されない場合は、消費者安全法に基づき、業者名を挙げて注意喚起する方針。

 指標では、大きさは気管より小さい直径1センチ以下にするか、逆に一口で飲み込めないほど大きくすることを求めた。また、性質については、弾力性を小さくしたりかみ切りやすくすることが必要だとした。

 食品の硬さや形状については法規制も検討されてきたが、末松義規消費者担当副大臣は22日の定例会見で、「法規制を否定はしないが、直ちに法規制になるものではない」と述べ、法規制は指標で実効性が上がらなかった場合の手段だとの認識を示した。

 研究会に参加した、こんにゃくゼリー製造業者最大手のマンナンライフ(群馬県富岡市)の永井孝社長は報道陣の取材に、「資料を持ち帰って検討したい」と話し、改善要請に応じるかは明言しなかった。

 研究会座長の向殿(むかいどの)政男明治大教授は「科学的に窒息リスクを少なくする指標が示された。改善をせず、もし事故が起きたらメーカーは社会的に糾弾される」と話し、自主的な取り組みに期待する考えを示した。』

こんにゃくゼリーは材料がこんにゃくであるため唾液に解けず、容器の形状からそのままの大きさを飲み込みやすいので、のどに詰まらせやすいということがあるようです。ですから、安全性の観点からいって形状を工夫するとかサイズを小さくするなどの対策は必要なのでしょうが、しかし、それならば毎年多数の人がのどにつまらせ死んでいる餅については、なんでいろいろな議論がされないのでしょうか。

今回のこんにゃくゼリーについての消費者庁の結論は、どうも同庁の『都市部を中心に2006~08年に救急搬送された約4千件の窒息事故のうち、同ゼリーが原因となった事故の85%が、命の危険がある「重症」 以上で、餅やアメなど他の食品の「重症率」を大きく上回った』という研究結果にあるようです。

その研究によると、『東京消防庁や政令指定都市の消防当局などからデータを集め、窒息事故4137件のうち原因食品がはっきりしている2414件を分析。その結果、同ゼリーによる事故は7件と件数は少ないものの、うち2件が「重症」、4件が命の危険が切迫している「重篤」だった。406件あった餅は重症・重篤・死亡の重症以上の事故が54%、アメ(256件)は1%だった。』 とのことです。その結果、『食品安全委は同ゼリーについて、1億人が一口食べた場合、2.8~5.9人が窒息死する恐れがあると推計。食品ごとの摂取量の差を踏まえると、餅(6.8~7.6人)には及ばず、アメ(1.0~2.7人)と同程度の事故頻度になるとした評価書をまとめ、6月10日に 菅直人首相に答申した。』とのことです(以上は、朝日新聞平成21年6月30日の記事によります)。

餅のほうが事故件数は406件で圧倒的に多く、重篤事故は200件以上、こんにゃくゼリーは7件でそのうちの重篤事故は6件。しかし、これが、餅より重い実質的な規制をかぶせる根拠になるんでしょうかね。

今回の消費者庁の報告は、仙石官房長官の政治主導の結果のようですが、こういうやり方はどう考えても納得できるものではないですね。餅について直径1センチ以下にして売るべきという安全基準をもうけなければ、きわめて不公平でしょう。報告に納得できる人はおらず、消費者庁の存在意義をアピールする政治的プロパガンダとうがった見方をされても仕方ないのではないでしょうか。

他方、餅について1センチ以下なんて消費者はいやがるのではないでしょうか。そもそも餅について死亡事故が多いのは毎年のことなのに、商品の安全規制について議論がもりあがったという話は聞いたことがありません。それはもしかしたら、みんなが餅を食べることのリスクを許容しているということなのかもしれません。

正月に餅を食べることは日本の伝統的食文化であり、それを安全基準の名のもとに雑煮も磯辺巻もつくれないような大きさにすることは社会的に受け入れられないーそれ以外に差別的な安全基準の差を説明することはできないように思われます。これに対して、こんにゃくゼリーはそのような食文化の伝統で守られるような歴史がないのでしょうがないし、社会的に受け入れられるところまではいっていない、ということなのでしょうか。

それにしてもまったくすっきりしません。以上の事実をみると、コンプライアンスについて社会的要請にこたえるという基準をあてはめるときには、とても注意すべき場合があると思われます。食品事故ですから、消費者の安全が第一、というのはダスキン肉まん事件においても裁判所が明確に述べた考え方であり、異論はないのでしょうが、では安全の基準を考えるときに、重篤事故の発生率なのか、事件発生率なのか、消費者の安全を考える際に日本の食文化をどう考えるか、簡単には結論がでない難しさがあります。

コンプライアンスは社会的要請や常識を、ということを我々も常にいいますが、そこには思わぬ落とし穴もあるということを、こんにゃくゼリー事故をめぐる議論は示しています。

ちなみに、神戸地裁姫路支部はマンナンライフに対してこんにゃくゼリーをのどにつまらせて死亡した子供の両親が、製造物責任法に基づいて6240万円の損害賠償を請求した訴訟について、原告敗訴の判決を出しました。この事件は、祖母が半解凍状態で孫に与えてのどにつまらせたというもののようです。http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/101117/trl1011171046004-n1.htm

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