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2010年12月29日 (水)

佐藤剛氏が伝える米国のコーポレート・ガバナンス論の現状(2)

皆様、大変長らくのご無沙汰でございます。ブログの更新をまったくしない状態がつづいたことには、いろいろと言い訳がありますが、それはいわないことにしておきます。

ところで、山口先生のブログ、久しぶりに見たらすごいアップ量!しかも私のビジネス法務12月号の記事も写真もしっかりチェックしてかみさんのことまで書いてくれてます。本当に凄い.......

ともかく1年の締めですから、私もちゃんと締めたいと思います。

さて、前回に続き、佐藤剛さんの著書『金融危機が変えたコーポレート・ガバナンス』(商事法務、2010年)から、私が疑問に思ったことをまた備忘的に書いていきます。今回は「エージェンシー理論」と「スチュワードシップ理論」についてです。

エージェンシー理論の概略は、次のとおりです。

①個人ではできないより大きな生産性を与えてくれる会社をコントロールするため、経営者が株主のエージェントとしてコントロールし、株主のエージェントとして取締役がそれをモニターする仕組を取る。そうすると、これに要する費用(エージェンシー・コスト)が発生するとともに、会社が生み出した利益から控除した残存利益をどう配分するかで、株主と経営者の利害関係が発生する。

②大株主は自分の利益を追求するため、小株主を差別して利益をコントロールしようとする。

③これらの利害を調節し、株主の利益を最大化するのがコーポレート・ガバナンスの目的である。

佐藤さんの解説するエージェンシー理論は、これに株主と経営者以外のステークホルダーの利益を加え、これら全てのステークホルダーの価値をバランスさえるのがコーポレート・ガバナンスの役割という広義の定義が、日本では一般的であるとされています。

佐藤さんは、米国のコーポレート・ガバナンス論では、「スチュワードシップ理論」がエージェンシー理論とともに重要性をましていると論じています。「スチュワードシップ理論」とは、「経営者が個人の利益には必ずしも合致しない場合でも、個人よりも会社という組織に価値を見出し、組織の価値を最大化することに専念する行動を本道にできれば、結果として株主に、経営者自身にも、利益が還元されるという考え方」です(同書101ページ)。

全米取締役協会のお話では、スチュワードシップ理論は全米の会社に浸透しつつあり、企業戦略は取締役とマネジメントとの協業という考え方が広まってきているということが報告されています。

そこで疑問ですが、日本の取締役会の実態を知る者は、「そんなの当たり前じゃないの」と思うのではないでしょうか。執行と監視の分担を進めているといっている多くの日本企業では社内取締役=マネジメントなのですから、一体になって戦略を考え執行を行うのは当然のように思われます。これは、CEOとチェアマン以外取締役会に入っていない米国の取締役会ならではの議論であって、だからアメリカでは新鮮なのかもしれません。

佐藤さんも、やや驚愕の告白ですが、こういっておられます。

『自分の取締役時代を振り返ってみると、執行に多くの比重をかけ、ガバナンスは監査役にお任せというのが実態であった。ガバナンスを任された監査役も取締役を退場させる権限を持っていないのでコーポレート・ガバナンスの機能を満足しているとはいえない。日本の取締役は「スチュワードシップ理論」を満足させているが、「エージェンシー理論」は満足させていない。取締役が執行とガバナンスのバランスを取った経営の視点を持ち活動することができれば、広義のコーポレート・ガバナンスの定義を満足させることができると思う。』(同書106ページ)

う~ん!!ということは、日本の取締役は会社法上の善管注意義務を必ずしも果たしていないということですかね?それとも信頼の原則に胡坐(あぐら)をかいている状態なのでしょうか?

エージェンシー理論の取締役は株主のエージェントであるという理屈の立て方には、現実の中ではすごく限界があるように思えてきます。私の感覚では、日本では株主やステークホルダーのエージェントは監査役であって、取締役は執行をかねる場合には、株主のエージェントではないという気がとてもします。

私にとっては社外取締役とか独立取締役よりも一定の事項に議決権を有する監査役(社外が過半数をしめる)という制度をつくるほうが、日本のガバナンス向上には役立つのではないかと、最近ますます思っております。これは社外取締役とか独立取締役を否定する趣旨ではありませんが、もし現行会社法の枠組みで何とかするならば、社外取締役と社外監査役からなる独立の委員会を作り、そこを通じて社外監査役の意見を社外取締役にインプットして議決権行使に反映させるような仕組が効果があるかもしれません。

この考え方は私が奉職している会社でのガバナンス委員会での、実験的な試みに似ています。私は社外監査役としてオブザーバーとして社長と社外取締役からなるガバナンス委員会に出席しています。ガバナンス委員会では発言も保証されています。さらに社外役員同士の意見交換会が発足し、この社外役員と社長との懇談会も設けられています。まだ、試行の段階ですが、最近は、こういう仕組がうまくいくかもしれないという感触をもつようになってきました。

それでは皆様、よい年をお迎え下さい。来年が皆様にとって充実した1年となるようお祈りいたします。

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