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2010年5月17日 (月)

社外取締役の情報収集-ファーストリテイリングを取り上げての「演習」

NHKがファーストリテイリングの柳井正さんの戦略と行動をカバーする番組を、先週土曜日に放映し、大変興味深く拝見しました。番組を見た印象のみで大変恐縮ですが、柳井さんの戦略・手法はこれまで日本企業が海外進出をしていったときに教訓として残された経験は考慮にいれていないように見えたので、大変驚いたというのが正直な感想です。

しかし、米国に11年住み、弁護士として法的アドバイスとともに文化の架け橋となるアドバイスをしてきた身としては、とても今の柳井さんのやり方が気になってしまうのです。その戦略・手法が私の経験値とはあまりに逆の方向であるからです。テレビで与えられた情報からだったら、私ならこの程度は質問はするだろうということを当ブログで書きたいという欲望をおさえきれません。

そこで、今回は、私が新任社外取締役であると仮定して、番組に含まれている情報だけを提供されたとしたら、柳井さんに最低質問するであろうことをまとめてみることにしました。社外取締役として善管注意義務を果たすならば、こういう情報収集は最低しますというものを、空想的に演習としてやってみようというものです。前からこのブログで取り上げてきている取締役会のあり方として、ファーストリテイリングを取り上げさせていただいていますので、一人の強力な大株主兼リーダーのいる会社では、とっかかりとしてはこんなことを情報収集しないといけないのではないかというサンプルとして取り上げさせていただきました。

もちろん、私はファーストリテイリングとは関係がありませんし、その取締役会や経営会議で、どのようなリスクが検討されたのかはまったく存じません。社外取締役や社外監査役が圧倒的多数を占めているファーストリテイリングでどのような議論がなされているのかもまったく存じません。取締役や監査役の方々からすれば、まったく余計なお世話なのですが、失礼と思いつつ、下記にざっと書いてみたいと思います。演習例として御容赦ねがいたいと思います。

1.海外拡張戦略について

現在の計画によれば5年以内に売上げを今の10倍の5兆円にするという目標であり、その前提として国内の成長はほとんどみこめないので、海外事業を大幅に伸ばし、その原動力とすると理解しています。海外ユニクロが3兆円、国内1兆円、その他の事業が1兆円という規模ですね。

個人的には、国内の成長がないという大前提をすでにだれもかれもがとっている状況は実は異常で、本当にそうなのか疑問に思っております。それはさておいても、ベーシックにフォーカスしている会社が国内市場がもはや伸びないという前提は、どこにあるのでしょうか。ユニクロがベーシック商品で高品質、安価が依然として消費者を捕らえているのならば、商品を受け入れてくれる消費者はまだたくさんいるのではないでしょうか。ユニクロはまだ国内で800店舗程度です。マーケットの規模では女性用が男性用の2~3倍なのにユニクロでは比率が同じなので、大型店で女性をひきつけるという戦略をとるということを説明されていますが、そうであるならば、競争に勝てるところもかなりありそうなのに、なぜ海外が優先なのでしょうか。そのことによって国内のシェアをとることが遅れることがあってはならないですが、その点の資源配分はどう考えているのでしょうか。

また、海外への資源集中は、国内におけるM&Aなどはやらずに、経営資源を海外に非常に重点配分するということですが、それは海外進出が国内市場をとるよりも多くの収益と市場の地位を与えれば経営判断として理解できますが、M&Aのような手法もほとんどとらないという位置づけはどこからくるのでしょうか。

2.海外の消費者に受け入れられるバリューの根拠について

日本企業の強み、すなわち高い品質、決め細やかなサービス、心遣いなどを強めることが、海外で受け入れられ競争に打ち勝つということにつながるという見解の根拠はどこにあるのでしょうか。

例えば、アメリカでの経験によれば、アパレルのリテールショップは組合化されていることが多いこともあり、売り子の個人の顧客という意識が強く、売り子同士は他の売り子の客には手を出さないという意識があります(スーパーは別です)。そこで、その売り子がいいサービスをすればいいというだけでサービスを組織化したくても組織化できない下地を強固にもっています。また、品質の高さは歓迎されるでしょうが、ベーシックといえども色合いや色調、スタイルに強い好みがあり、縫製などの品質は二次的にとどまっていると思います。

このような消費者の意識の違いは国ごとに顕著であり、それを商品戦略や販売方法に反映しなければ商品は受け入れられません。日本企業は過去40年間これを経験してきたわけで、消費財について商品開発も拠点ごとに行うようになっているのは理由のあることです。一律に日本のやり方で日本の商品を提供しても受け入れられない国は多数あると思いますが、この点についてはどのように考えておられますか。

3.海外事業展開上のリスクについて

放送の中で説明された計画では3000人の管理職を海外に赴任させるとありますが、現在、展開している海外事業でも日本派遣の管理職は現地語もあまり話せず、また、現地の文化・生活習慣その他のライフスタイルについても精通していないようにみえます。これには、現地の労働慣行、権利意識、紛争時の行動パターンなども含まれます。

この点、日本で1~2年程度の短期の研修をうけた若手現地人や現地で業界の経験のある人間をマネージャーとして投入しているようですが、責任者は言語がわからないので、ショップの従業員とのコミュニケーションは現地人マネージャーのみに依拠することになります。

日本人責任者はユニクロのやり方を伝達するという意識なので、そのやり方が文化的なコンフリクトを起しているとしても気付くことがなく、したがって消費者や従業員ではなく、自分のやり方や事の進め方に問題があることに気付かずに執着するおそれがあります。また、間に入った現地人マネージャーに大きなストレスがかかりますし、やがて現地人マネージャーもいやになってやめてしまうということが起こり得ます。

たとえば、レジの処理を一分一秒早めるということは、消費者にとっては便利で歓迎されることでしょうが、それがはたして販売向上に結びつくのかどうかは国によっては疑問です。アメリカ人が行列にならんでがまんするところを何度もみており驚嘆したことがあります。日本人はせっかちです。また、ロンドンでもそういう風景をみて、アメリカ人と同じなんだなと思いました。もちろん、そういう訓練は総体としてのサービスの質を上げることになるでしょうが、実行する従業員には負荷がかかります。それが他のサービスと結びついて必ず売上げ向上に結びつくということを現実に示さなければ、今度は職場環境への不満として噴出する可能性があります。

さらに、そのような環境は法的リスクを誘発するおそれがあります。特に現地の人間が育たなければ経営幹部は日本からの派遣社員のみとなり、キーポジションも日本からの派遣という現象がおきがちで、その場合には、国籍や人種による差別であるという訴訟を誘発するおそれや組合化のおそれがありえます。それが集団でおきたときは大きなレピュテーションリスクを生み出しますし、さらに現地の規制当局が取り締まりをしてくる可能性があります。そのようなリスクの可能性についてどのような認識をもち、どのような対応策をうっているのでしょうか。

4.過去撤退した海外拠点に再度出店する理由について

過去、失敗した海外事業拠点を再開するにあたっては、なぜ前回は失敗したのかの原因の分析とそれに対する対応策が練れていなければ、再度失敗を繰り返すという轍をふむことになります。それなくして進出を繰り返すことは、会社資産の浪費につながりますし、経営判断としての合理性を確保することも難しいと思います。そのようなことがないようにするために、どのような検討がされているのでしょうか。そのような経験値は社内でどのように共有化され、次に現地に赴く人々へ伝えられているのでしょうか。

5.子会社の内部統制について

海外事業の比率が高まれば、日本の内部統制報告制度上、海外販売子会社の財務報告の信頼性にかかる内部統制の重要性が飛躍的に高まります。中国は内部統制報告制度導入の初期にありますが、日本との内部統制制度のすり合わせが課題となっています。ヨーロッパや中国に展開している子会社の内部統制の構築、整備についてはどのような計画をもっているのでしょうか。そのための人材育成についてはどのように行っていくのでしょうか。

ざっとこんなもんでしょうか。もちろん回答されることを前提に書いておりませんので、取締役の質問リストとはこんな感じではないかという例として読んでいただければと思います。

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コメント

いつも勉強させていただいております。とも先生の「演習」内容に賛成ですが、経営陣の一員として永年努めて来た経験から申しますと、大株主がいて且つその人が経営の中心で永年成功裏に会社を引っ張ってきた実績があると、何か問題があってもなかなか指摘できるものではありません。
確かに法律論からすると、とも先生のご指摘は正しくそのとおりだと思うのですが、現実にはどうでしょう?私が柳井さんだとして「演習」の質問をされたら、「君は何を知っているのかね?」で終わるかも知れませんね。法律論からは問題があるのは重々承知の上で。

Ohigoさん

どうもコメントをありがとうございます。たしかに指摘できるものではないという感覚はあるでしょうが、私などは社外監査役ではありますが聞いてしまうのです(笑)。性格のなせるわざといえばそれまでですが。

ただ、ご指摘ような現実があり、そこで質問がストップするとすれば、それは正に取締役会が機能していないということではないでしょうか。

むしろ私は社外取締役として「何を知っているの」と聞かれたら「私は知らない。だから聞いている。経営は私のような一般株主に対して説明責任があるんでしょ。トランスペアレンシーとはそういうことではないですか。だから説明する必要があるんじゃないですか。」と言って説明を求めると思います。そうしないと、社外取締役はどんどんリスクをとっていくことになります。また、経営者と一連托生になった社外取締役には、何ら会社にValue addは期待できなくなっていきます。

口うるさいと感じられる行動をとると結果として、翌年再任されないということになるかもしれません。でも、そういう会社は早晩何らかの問題を抱え、どこかでこけるというのが、経営の知恵なのではないでしょうか。だからこその社外取締役ではなかったでしょうか。私は最近このブログでも紹介したABAの本を読んで、ますますそう確信しています。

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