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2010年5月 7日 (金)

独立社外取締役の善菅注意義務を考える

「会社役員の法的責任とコーポレートガバナンス」(小林秀之・高橋均編著、同文館出版)という本の書評を頼まれて、今、一生懸命読んでいます。なかなか高度なことが書かれている本ですが、社外役員の義務と責任や違法行為に直接関与していない役員の責任について、判例・学説を振り返りつつ、とても興味深い考察を加えております。

独立社外取締役の役割について、企業価値の向上ということをお題目に掲げつつ、具体的な機能についてはどうも十分な議論や実践がされていないのではないかと感じているということを、このブログでも申し上げておりますが、私が一番機能していないのではないかと疑っているのは、法令等遵守体制にほころびがないかどうか、また会社や他の取締役の違法行為や過失による善菅注意義務違反行為があるかどうかという点についての独立社外取締役の監視が適切になされているかという点にあります。

過去の不祥事事例をみても、社外取締役がいる会社もかなり散見されます。ところが、社外取締役の監視義務違反が認定された例はありません。上記の本でも、社外取締役が食品衛生法違反の添加物が混入された肉まんを製造販売した事実を認識した以上は事件への速やかな公表等を行うべきであるという書面を社長に提出したことをもって注意義務を果たしたとされた「ダスキン株主代表訴訟事件」や、利益相反のある不動産取引の決議に関連して、取引の詳細を知ったのが取締役会の席上がはじめてで、取引が会社定款に違反しないことは弁護士に確認し、価格については不動産鑑定士の鑑定書によっているから問題ないと判断したことを注意義務違反なしとした「ネオ・ダイキョウ株主代表訴訟事件」が紹介されており、「知らなければ安全な独立社外取締役」の様相が若干垣間見えます。

また、社外取締役と社内取締役はその善菅注意義務に差異はないものの、内部統制構築がなされており、業務執行取締役からの報告について疑うべき特段の事情がないときは、その個々の業務執行を監視・監督しなくても責任をとわれないという理論的な傾向があります。重大なリスクを知らず、業務担当取締役を信頼して行動していれば、異常が感知されない限り独立社内取締役は企業不祥事においても責任は問われないのです。私には世間でいわれるほど独立社内取締役がリスクのあるポジションには見えません。金融機関の法務部長やコンプライアンス部長のポジションのほうがよっぽどおっかないポジションに思えます。

しかし、現状のように独立社外取締役の責任の法理論は、独立社外取締役に期待されるコンプライアンスに関する監視をきちっとさせることにつながるのでしょうか。これが私の今の疑問です。なぜならば、社外監査役についても同様の理屈が妥当するとはいえ、現実としては社外監査役のほうが常勤監査役から情報がもたらされる確率は高く、結果として独立社外取締役より重い責任を追うことになる結果となっていると思われるからです。おまけに監査役は独任制で、一人ひとりの監査の義務のレベル感は常勤・非常勤、社内・社外を問わずかわりません。そのわりに世間的には、監査役の役割は評価が低いように思えてなりません。

これは要するに、異常な事象を認識できているか、それを認識した場合適切な対応をとっているかどうかにかかってきます。判例上、内部統制構築義務違反を認定された事例は皆無です。現状の判例の行き着いている理屈では、独立社外取締役は社外監査役以上に会社の情報は入りにくいにもかかわらず、そのことに手をつけなくとも内部統制構築義務違反とは認定されないので、独立社外取締役に取締役会で情報がもたらされない場合、「私は知らなかった」「私は知らされていない」のひとことで責任を逃れられる可能性がでてきます。したがって、社外監査役との対比では、社外取締役の責任を問われることは、実際上は相当少なくなっているという印象をもっています。

独立社外取締役が会社の法令等遵守体制の継続的改善にあまりアクティブな力となっていないと感じているのですが、それは、情報提供に対する内部統制構築義務の認定がゆるく考えられていることも原因ではないのかと疑っております。また、弁護士の間で社外監査役の就任をさける傾向が強いように思えるのは、このような事情も作用しているのではないでしょうか。

この点について、私は、COSOモデルにより金商法の財務報告の信頼性に係る内部統制にも取り入れられている、①統制環境、②リスクの評価と対応、③統制活動、④情報と伝達、⑤モニタリング、⑥ITの対応を、ワンセットで内部統制の要素としてとらえ、構築義務の中身をなしているという理解が必要ではないかと思っております。すなわち、会社にとって重大なリスクとなる事象に関する正確な情報が社内・社外取締役に伝達される仕組みがちゃんと構築されていないときは、端的に内部統制構築に不備があると考えるべきであると思います。そしてその不備の程度により善管注意義務に違反する過失がある場合とそうでない場合を仕分けるべきなのではないかと考えています。これは、日本監査役協会の内部統制監査の整理と同様の整理となると思われます。

例えば、会社にとって重大なリスクを発生させうる事案が取締役会に報告されていない場合は、独立社外取締役も内部統制構築義務違反から逃れられないこと、またそのような仕組みがある場合に、当該情報を検討して適切な質問をしたり、さらなる情報収集を要求することは一切しないままそのリスクが顕在化してしまった場合は、独立社外取締役はそのような行為さえ行わなかったことに対して、善管注意義務違反を問われうる、とすべきではないかと思います。

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