« ジェイコム株誤発注事件番外編追記&第三者委員会ベストプラクティス | トップページ | 21年度目黒区包括外部監査報告書を公開中。 »

2010年4月 8日 (木)

米国での独立取締役の「oversight」の中身

先日の記事では、日本では独立取締役の「オーバーサイト」機能を重視する見解の中身は論者によって異なり、議論が閉塞状況になっているのではないかと書きました。そこで、取締役会の構成がほとんど社外独立取締役になっている米国では、"oversight"というものの中身がどう考えられているのかを、ちょっと調べてみました。

やはり英文の文献がいいだろうということで、米国法曹協会(American Bar Association)から出版されている「会社取締役ガイドブック第5版」(Corporate Director's Guidebook Fifth Edition)を参照してみました。この本は、一般の取締役向けに書かれた非常に定評のある本でして、その昔、第2版を私と谷健太郎弁護士が雑誌「国際商事法務」のために翻訳し、別冊商事法務190号に掲載されております。最新版の第5版を一読して、やはり素晴らしい本だと思いました。

「事業会社の核心的な目的は、株主のために富を創造し増殖させることである。取締役は、この目的のために、二つの主要な機能を通じてリーダーシップを発揮する。一つは意思決定(decision making)、今一つは監督(oversight)である。」

「取締役の監督機能は、例えば、財務パーフォーマンス、経営パーフォーマンス、及び法的義務及び会社の規則のコンプライアンスを含む会社の業務及び事務を監視(monitor)することである。」

「(このために)取締役は、個人として、あるいは集団として、様々な責任と権利を有している。」

こういったあとで、その取締役会の「責任」について、各州の会社法が、経営の監督の責任を強調しており、個別に何をすべきかを規定しているわけではないが、いくつかの任務が取締役会に課されていると述べて、6項目を挙げています。会社の業績の監視等といった良く見る項目の他に、特に以下のような事項を掲げているのが目立ちます。

  • CEOを選任すること、CEO及び他の上級執行役(senior executives)のゴールセッティングを行うこと、彼らの報酬を評価し決定すること、適切ならば変更を行うこと(ここの変更はCEOや上級執行役を変えることも含むと読めます)
  • CEOとトップ上級執行役のサクセッションプランを検討、承認、実行すること
  • 倫理的行動について効果的なコンプライアンス体制と方針を確立すること

6項目挙げられている中の3項目が上記の項目ですから、彼我のコーポレート・ガバナンスにおける力点の違いがとても感じられます。CEOに対する権限とコンプライアンスの強調は日本のガバナンス論にあまり見られません。企業価値向上というお題目に隠れて何が主要な機能として大切なのかの議論がみえにくいのです。

また取締役会の責任について、まずこう書き出しています。

「取締役会の主要な責任は、会社のトップマネジメントを選出し、トップ交代時の承継を計画し、企業の戦略と経営陣の業務上の行為に対する一般的指示とガイダンスを提供することにある。このために、取締役会は会社の財務及び業務の目的について大きな検討を加えなければならない。それと同時に、取締役会は会社がその業務を法律を遵守して遂行しているかどうかを監督しなければならない。」

これが社外取締役が多数を占めている取締役会の主要な機能なのですから、本当に日本の企業の今のやり方とは相当違うといわざるをえません。アメリカ型はとても強力なCEO個人の強いリーダーシップを期待する軍隊型の企業組織形態を前提とし、そのCEOの権限が適正に、法にのっとって行使されているかをモニターし、もしされていないならばそれをも交代させてしまい、承継についてもCEO一人では決めさせないという権限を、社外独立取締役が多数を占める取締役会に与えるという構造になっていると考えてよいと思います。

これに対して、社長になるためにはつつがなく減点がでないように人間関係もうまくやって順調に出世階段を上がって行く必要があり、その結果、人事権を絶対手放そうとせず、かつその決定については取締役会とは相談しない社長がいて、長期の経営方針については経営企画に依拠しており、実質、経営企画担当取締役と部長以下の若手で計画を練り上げていく、という「神輿方式」が日本の大企業のスタイルであると思います。

もしこのやり方に日本企業の閉塞状況の原因があるならば、経営革新のために取締役会の権限として何を与え、誰を構成員にするのかを議論すべきであるというのが議論の筋道です。

その議論の結果が、取締役会による実質的なCEO承継者の決定、独立取締役が多数をしめる取締役会であるならば、それはそれで説得力があると思いますが、今はそこが曖昧な議論に終わっているので、いつまでたっても議論は空回りです。この徹底的議論がもっと世間の目に見える形で必要ではないか、そうでないと、日本の企業はどこをめざすために何が必要なのかが見えないのではないかと思います。

他方、日本企業で飛躍的に躍進しているファースト・リテイリングは柳井さんという天才的企業家が一人で決めて、彼以外の取締役はすべて社外取締役、監査役も過半数が社外という状況なのです。柳井さんは「役員は自分ひとりでいい」ともいっているらしいという話を聞いたことがあります。こういう企業も日本に現れていることを考慮すると、強力なリーダーの独裁に近い体制とそれが行き過ぎないような監視体制をつくったほうが企業は伸びるのかもしれない、とも思います(ただし、そこで働く人間が幸せになれるかどうかも、そのリーダー次第となりますが)。

まことガバナンスの議論は難しいです。

« ジェイコム株誤発注事件番外編追記&第三者委員会ベストプラクティス | トップページ | 21年度目黒区包括外部監査報告書を公開中。 »

会社法」カテゴリの記事

内部統制・コンプライアンス」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/1098026/33830025

この記事へのトラックバック一覧です: 米国での独立取締役の「oversight」の中身:

« ジェイコム株誤発注事件番外編追記&第三者委員会ベストプラクティス | トップページ | 21年度目黒区包括外部監査報告書を公開中。 »