« 2010年3月 | トップページ | 2010年5月 »

2010年4月に作成された記事

2010年4月12日 (月)

21年度目黒区包括外部監査報告書を公開中。

私が包括外部監査人をしている東京都目黒区の平成21年度包括外部監査報告書が公開されております。

包括外部監査という仕事はあまり知られていないようなので、若干解説します。

外部監査は平成9年の地方自治法改正で新たに作られた制度です。平成7年に地方分権推進法が成立し、従来の国と自治体との間の主従関係から脱却し、対等・協力関係へ進化させるべき方向性を模索するため地方分権推進委員会が検討を始めました。

地方において政府の審議会であった地方制度調査会も平成9年に「監査制度の改革に関する答申」を発表しました。この答申は、地方分権の推進による自治体自らのチェック機能の強化が必要という考えから、現行の監査委員制度では、自治体の退職職員等当該自治体に関係のあったものが議会承認のもと監査委員に選任され、また議会によって選任される議選の監査委員との組み合わせではおのずと限界があるという考えから、当該自治体と利害関係のない公正な第三者である弁護士、公認会計士、税理士、国又は自治体の実務経験者という専門家に監査をしてもらうというシステムを作りました。

監査は自治体の長との契約によりますが、その契約には①包括外部監査契約と、②個別監査契約があります。①が義務付けられているのは、都道府県、政令指定都市、中核市、契約による監査を受けることを義務付けることを自ら条例で定める市町村となっており、東京都の特別区は条例を自ら定めている場合にのみ包括外部監査を受ける必要があります。

監査テーマの選定は包括外部監査人が選定できます。地方自治法252条の37は「包括外部監査人は、包括外部監査対象団体の財務に関する事務の執行及び包括外部監査対象団体の経営に係る事業の管理のうち、第2条第14項及び第15項の規定の趣旨を達成するため必要と認める特定の事件について監査するものとする。」と規定しています。他方、第2条第14項は「地方公共団体は、その事務を処理するに当たっては、住民の福祉の増進に努めるとともに、最少の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない。」と、第15項は「地方公共団体は、常にその組織及び運営の合理化に努めるとともに、他の地方公共団体に協力を求めてその規模の適正化を図らなければならない。」と規定しています。

つまるところ、包括外部監査人は、住民福祉の増進の観点及び地方公共団体の組織及び運営について合理化、効率化の観点から任意に監査テーマを選択し、効果的な監査を行う必要があります。

地方自治法の条文では、特に経営管理の合理性、効率性が強調されています。おそらく地方公共団体である以上は、法律を守ることは当たり前で、法令違反があれば指摘すべきことも当たり前のことであるけれども、それだけでなく、第三者である専門家をいれて税金の無駄使いにつながる不合理・非効率的業務を指摘することこそ有意義なのだということが、立法の精神なのであろうと思います。

今回は初めての包括外部監査で、監査チームも手探りで始めましたが、だんだん慣れてくるにしたがって、要領がつかめてきました。監査を進めれば進めるほど、地方自治体の管理運営上の問題点は国の問題点の縮図であるという印象を強く持ちました。監査テーマを選ぶのに、少しでも国や地方自治体の問題点を研究すれば、いくらでもでてくるということです。

包括外部監査人及び補助者には守秘義務が課されているので、監査中に知り得た秘密を在職中も退任後ももらすことはできませんので、今年の監査結果については監査報告書を読んでいただき、我々がどのような問題意識をもって監査に臨んだのかをご理解いただければと思います。

たいへんやりがいのある仕事なのですが、手間隙がかかるので、報酬からみると採算はまったく合いません。こちらも効率的監査を迫られているということなのです。時間と資料と戦いながらどの程度深堀ができるかが勝負です。とはいっても関係部署の問い合わせの回答の待ち時間や資料の読み込み、関係者のヒアリングは時間を使う作業ですし、その結果の問題点の検討や報告書の書き振り、監査人団の意見の統一など、どうしても時間がかかることばかりです。

また、問題点を指摘しなければというところに意識を持ちすぎて、解決不可能な指摘や改善指示をだすことも避けなければなりません。問題があるとき、現実的解決ができるような方向付けや提言をするコモンセンスも我々には問われています。

また、包括外部監査は行政の監視ですが、PDCAを回すためのものでもあります。行政側にこのことが意識されず、指摘されたことだけをパッチワークのごとく直していくだけでは真の改善にはつながりません。外部監査は時間が限られているもの、指摘された部において原因をよく自己分析しそれに対応する対策をうっていくことこそが期待されるのではないかと考えております。まさに行政におけるPDCAサイクルが機能することのための包括外部監査なのです。皆さんの県、市町村も、包括外部監査を行っているところは必ず報告書を公表しているので一読されてみてはいかがでしょうか。

2010年4月 8日 (木)

米国での独立取締役の「oversight」の中身

先日の記事では、日本では独立取締役の「オーバーサイト」機能を重視する見解の中身は論者によって異なり、議論が閉塞状況になっているのではないかと書きました。そこで、取締役会の構成がほとんど社外独立取締役になっている米国では、"oversight"というものの中身がどう考えられているのかを、ちょっと調べてみました。

やはり英文の文献がいいだろうということで、米国法曹協会(American Bar Association)から出版されている「会社取締役ガイドブック第5版」(Corporate Director's Guidebook Fifth Edition)を参照してみました。この本は、一般の取締役向けに書かれた非常に定評のある本でして、その昔、第2版を私と谷健太郎弁護士が雑誌「国際商事法務」のために翻訳し、別冊商事法務190号に掲載されております。最新版の第5版を一読して、やはり素晴らしい本だと思いました。

「事業会社の核心的な目的は、株主のために富を創造し増殖させることである。取締役は、この目的のために、二つの主要な機能を通じてリーダーシップを発揮する。一つは意思決定(decision making)、今一つは監督(oversight)である。」

「取締役の監督機能は、例えば、財務パーフォーマンス、経営パーフォーマンス、及び法的義務及び会社の規則のコンプライアンスを含む会社の業務及び事務を監視(monitor)することである。」

「(このために)取締役は、個人として、あるいは集団として、様々な責任と権利を有している。」

こういったあとで、その取締役会の「責任」について、各州の会社法が、経営の監督の責任を強調しており、個別に何をすべきかを規定しているわけではないが、いくつかの任務が取締役会に課されていると述べて、6項目を挙げています。会社の業績の監視等といった良く見る項目の他に、特に以下のような事項を掲げているのが目立ちます。

  • CEOを選任すること、CEO及び他の上級執行役(senior executives)のゴールセッティングを行うこと、彼らの報酬を評価し決定すること、適切ならば変更を行うこと(ここの変更はCEOや上級執行役を変えることも含むと読めます)
  • CEOとトップ上級執行役のサクセッションプランを検討、承認、実行すること
  • 倫理的行動について効果的なコンプライアンス体制と方針を確立すること

6項目挙げられている中の3項目が上記の項目ですから、彼我のコーポレート・ガバナンスにおける力点の違いがとても感じられます。CEOに対する権限とコンプライアンスの強調は日本のガバナンス論にあまり見られません。企業価値向上というお題目に隠れて何が主要な機能として大切なのかの議論がみえにくいのです。

また取締役会の責任について、まずこう書き出しています。

「取締役会の主要な責任は、会社のトップマネジメントを選出し、トップ交代時の承継を計画し、企業の戦略と経営陣の業務上の行為に対する一般的指示とガイダンスを提供することにある。このために、取締役会は会社の財務及び業務の目的について大きな検討を加えなければならない。それと同時に、取締役会は会社がその業務を法律を遵守して遂行しているかどうかを監督しなければならない。」

これが社外取締役が多数を占めている取締役会の主要な機能なのですから、本当に日本の企業の今のやり方とは相当違うといわざるをえません。アメリカ型はとても強力なCEO個人の強いリーダーシップを期待する軍隊型の企業組織形態を前提とし、そのCEOの権限が適正に、法にのっとって行使されているかをモニターし、もしされていないならばそれをも交代させてしまい、承継についてもCEO一人では決めさせないという権限を、社外独立取締役が多数を占める取締役会に与えるという構造になっていると考えてよいと思います。

これに対して、社長になるためにはつつがなく減点がでないように人間関係もうまくやって順調に出世階段を上がって行く必要があり、その結果、人事権を絶対手放そうとせず、かつその決定については取締役会とは相談しない社長がいて、長期の経営方針については経営企画に依拠しており、実質、経営企画担当取締役と部長以下の若手で計画を練り上げていく、という「神輿方式」が日本の大企業のスタイルであると思います。

もしこのやり方に日本企業の閉塞状況の原因があるならば、経営革新のために取締役会の権限として何を与え、誰を構成員にするのかを議論すべきであるというのが議論の筋道です。

その議論の結果が、取締役会による実質的なCEO承継者の決定、独立取締役が多数をしめる取締役会であるならば、それはそれで説得力があると思いますが、今はそこが曖昧な議論に終わっているので、いつまでたっても議論は空回りです。この徹底的議論がもっと世間の目に見える形で必要ではないか、そうでないと、日本の企業はどこをめざすために何が必要なのかが見えないのではないかと思います。

他方、日本企業で飛躍的に躍進しているファースト・リテイリングは柳井さんという天才的企業家が一人で決めて、彼以外の取締役はすべて社外取締役、監査役も過半数が社外という状況なのです。柳井さんは「役員は自分ひとりでいい」ともいっているらしいという話を聞いたことがあります。こういう企業も日本に現れていることを考慮すると、強力なリーダーの独裁に近い体制とそれが行き過ぎないような監視体制をつくったほうが企業は伸びるのかもしれない、とも思います(ただし、そこで働く人間が幸せになれるかどうかも、そのリーダー次第となりますが)。

まことガバナンスの議論は難しいです。

2010年4月 7日 (水)

ジェイコム株誤発注事件番外編追記&第三者委員会ベストプラクティス

TOSHI先生のブログには上記の件は早くも4月2日に掲載されているのを、今日になって気付きました。TOSHI先生、失礼しました。しかもかなり突っ込んでます!

私が論評を控えさせていただいたのは、まさに一方当事者と私の関係にありますので、言いたいことがあっても言えないもどかしさがあります。しかしTOSHI先生のつっこみが結構鋭い問題提起ですし、コメントからも皆さんのこの問題に対する関心の高さを理解することができました。山口三尊さんのコメントにもびっくりしました。

第三者委員会の独立性について、顧問弁護士が委員として関与していることには問題があるというTOSHI先生の指摘も、そのとおりですね。

この点については、日弁連で今、第三者委員会のあり方のベストプラクティスについてのガイドライン案が検討されています。もともと私がメンバーとなっていた日弁連のとあるチームと証券取引等監視委員会の意見交換が発端となっておりますが、久保利英明先生、国広正先生、そして野村修也先生をガイドライン検討チームの主要メンバーとし、各界から意見を聴取した上でドラフトがあがってきております。今、日弁連の各委員会にドラフトについて意見懲求している最中でして、5月下旬から6月初めにはおそらく公表されるのではないかと思います。

私は、ガイドライン案はハイレベルなものとなっており最高水準のレベルを求めつつも、柔軟であるところもあり、高く評価しております。一刻も早くガイドラインとして公表してほしいと考えています。国広先生と一杯飲みながら、これを肴にいろいろと話を伺い、かつハッピーな議論をしましたが、その件についてはお話しできるときがきたら、ブログに書きたいと思います。

2010年4月 6日 (火)

ジェイコム株誤発注取消処理に関する損害賠償請求事件の考察(番外編)

昨年12月に、みずほ証券VS東証の事実関係について速報し、それに引き続き判決の争点と裁判所の判断について検討するつもりでしたが、忙しくなって、できませんでした。その間に金融商事判例とNBLに争点の検討が出てしまったので、もういいかと思っていたら、なんと、NBLの編集部名義の記事について疑惑があり、第三者委員会が立ち上がり(委員長は私が尊敬する久保利英明先生)、びっくりしていました。

その第三者委員会の調査報告書が公表されております。一読の価値があります。

これを読むと、NBL編集部の問題が深く取り上げられており、第三者委員会の結論も穏当なものであると思いますが、働きかけをした弁護士のほうの倫理の問題はどうなのか、という点が残ります。自戒をこめていえば、我々はどんな時代でもやはり高い倫理観を保持することが必要であって、当事者代理人が編集部名でニュートラルでないと受けとめられる記事を書き、それがあたかも編集部解説として権威ある雑誌にのるようなことは絶対にあってはならない、ということにつきるように思います。関与した弁護士にとっても、法律事務所にとってもとても不幸なことです。

とはいえ、この判決の論点についての控訴審の判断がこれによって影響を受けてはならないのであって、争点については今後も淡々と裁判所において主張・立証活動を期待します。私としては、事実関係の記述からお感じのとおり、判決に相当疑問をもっておりますが、論評は控えさせていただくことにします。

« 2010年3月 | トップページ | 2010年5月 »