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2009年9月 3日 (木)

カブドットコム証券特別調査委員会報告V前社外取締役の反論(その1)

カブドットコム証券取締役であった磯崎哲也氏のブログに掲載されている同社の特別調査委員会に対する反論がすでにTOSHI先生のブログを初めとして、ネット論壇で話題になっています。

TOSHI先生のブログに私は少し書き込みをしましたが、この前社外取締役の特別調査委員会への反論への公正な評価は、5月22日にカブ・ドットコム証券に提出され、課徴金納付命令が発出されたあとである7月28日に一般に公開された特別調査委員会報告書に対する公正な評価につながるであろうこと、ネット論壇の特別調査委員会報告書に対する疑問ともとれるトーンには異議があることから、このトピックを取り上げることにしました。

もう少し補足すると、磯崎氏の反論に対して、特別調査委員会は依頼者に対する守秘義務の観点から再反論を加えられないポジションにあります。磯崎氏の反論は、非常に慎重に書かれていますが、ボトムラインは特別調査委員会報告書は数々の誤解を招きかねないものであるというものであって、その反論内容に照らせば、特別委調査委員会の事実認定及び評価が誤っているものと論難するものであります。

このブログでも「社外調査委員会の調査のあり方」を取り上げておりますし、マスコミのトーンも社外調査委員会の調査に疑問符をつけるようなトーンもあって、あたかもカブドットコム証券特別調査委員会調査報告書がそのようなもののひとつであるかのようないくつかのブログの表現をみまして、はたしてそのような印象をあたえることは公正なことであろうか、という疑問がおこりました。

磯崎氏の反論は大変勇気あるものであって、反論をしたことによるリスクも考えて相当慎重に書かれていると思いますが、会社の内部にいた前社外取締役が特別調査委員会の調査結果の認定結果に異議を申し立てたわけですから、双方の主張がどの程度筋の通ったものかが検討されることは、当然予想されてしかるべきですし、そう覚悟されていると思います。

私は、特別調査委員会報告書と磯崎氏の反論内容について、金融商品取引業者・銀行・保険業のコンプライアンス・内部統制を長年にわたって取り扱ってきた私の知識・経験に照らして、第三者としての立場から公正に評価し論評したいと思います。また、社外調査委員会の報告書の信憑性には一般的に疑問ありとするような根拠のない風潮が広まることがないように、冷静に評価すべきことを、この時期であるので特に申し述べるために、このエントリーを書きます。かなり長くなりそうですので、数日にわたりエントリーがつづくことになると思います。

1.磯崎氏の第1点「親会社と少数株主の利益の考慮」について

磯崎氏は社外取締役辞任の理由を、「親会社と少数株主の利益の考慮」であるとしています。その内容は、不祥事発覚後の親銀行の管理・監督が強まるなかで「個々の取締役や執行役が、本当に個人で納得してそう考えているのか、それとも親銀行の意向を代弁してそう発言しているのか」を判断しかねることが多くなってきたし、最終的には多数決で決議が行われてしまうので辞任するというものです。

磯崎氏の主張は、少数株主の利益を代弁する社外取締役の意見を聞くような環境がなくなったという言い方であって、もしそうであるとすると、金融庁としては統制環境が別の意味で悪くなったという評価になり、業務改善命令下の改善計画の評価の上で考慮されることになります。つまり、そのようなことを社外取締役であった者が主張することは、会社に一定のリスクを生じさせるおそれがあります。

しかし、それがどのような事態をさしているのか、ブログには説明が十分なされているとはいえず、これだけでは良くわかりません。

ただ、SESCの特別検査が開始されたのが平成21年3月17日、金融庁へ課徴金納付命令の勧告がなされたのが平成21年6月5日で、特別調査委員会が平成21年7月28日ですから、その間はわずか4ヶ月です。取締役会の回数にすれば、5回くらいがせいぜいでしょうか。

そもそも、SESCの特別調査は無予告で突然着手されます。本件でもおそらくそうであったと思います。また、調査期間中はそれに対する協力と対応がめいっぱいであって、親銀行といえども手をとてもだせる状況にはないと思われます。SESCの特別検査でしかもインサイダー取引疑惑であるならば、もしそれが真実であったら大変なことになるわけですから、他のすべての業務を差し置いて、事実調査に全面協力するしかなく、従業員の規模が100名を切っているカブドットコム証券の特に管理職にはたいへんな時間がかかったものと思われます。親銀行がつべこべ指示をだしてもそれを聞いているような時間などありませんし、へんな指示をだして実行すれば検査忌避につながるリスクがあり、とてもそんなことをできる状況ではないと思われます。

また、特別調査委員会の調査は、平成21年5月22日から開始されていますが、これはSESCの臨店検査が終了した後であると思われます。ここからまた全従業員が調査対応をしなければならず、調査完了まで親銀行がつべこべ口を突っ込むような環境にあったとはとても想像しにくいです。

これ等の事情からすれば、磯崎氏が主張するような個々の取締役の変化がおこったとすれば、6月以降のわずか2回くらいの取締役会ではなかったかと想像されます。このうちの1回は、磯崎氏が社外取締役として十分な牽制機能を果たせていたかどうかという調査報告書の公表を決議したものと思われます。

こういう事情及び想定に照らすと、磯崎氏のこの第一の反論は、「インサイダー取引防止態勢、株取引管理態勢、内部監査態勢、社内研修態勢について脆弱」、「統制環境が問題」、またそういう問題を背景としながら「インサイダー取引のきっかけとなるメールを出してしまったS社長を牽制すべき社外取締役として牽制機能をはたしていなかった」と断定した特別調査委員会報告書を、外部に発表するとした取締役会の決議に向けられているように思えます。

つまり端的にいえば、発表するという決議が親銀行の意向であって、それに対する不満から辞任したという印象をぬぐえません。

しかし、特別調査委員会報告書の公表が、少数株主の利益に反するものであるということも論じられているわけでもなく、ことさらに少数株主の利益を代表する社外取締役の意見が封じられたかのような印象を残す書き振りはいかがなものかと思います。しかも、磯崎氏の反論が反響を呼んでいるのは、少数株主の利益を代弁する社外取締役の意見が封じられるような環境になったということを暗示する氏の主張なのですから、磯崎氏は、この点についてもう少しはっきりと説明すべきではないでしょうか。すくなくとも、ここまで主張した以上は説明責任があると思います。

もっとも、特別調査委員会の事実誤認があって、そのような報告書が発表されれば少数株主の利益の保護の観点から問題であるということであれば、磯崎反論の第1点はもう少し説得性がますことになります。これは、特別調査委員会の認定事実と磯崎氏の調査報告書の反論の評価にかかることになります。  (続く)

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コメント

課徴金検査と金融検査、特別調査は、それぞれ別物で、その目的も手法スタイルも全然違うと思います。金融検査であれば磯崎氏ももう少し関与できたのでしょうが、そうでなかったために今回はまったく蚊帳の外に置かれて事が進んだのでしょう。

ご意見ありがとうございます。

しかし、金融検査とは銀行などの預金預り機関に対する検査を通常さしますので、本件ではありえません。

法人関係情報違反又はインサイダー取引違反については証券検査でかつ特別検査が行われます。特別検査であれば、社外取締役は蚊帳の外に置かれるというのは考えられないことです。こういう検査が入れば、少なくとも社内の経営陣及びコンプライアンス担当部門は毎日のようにその日の検査の状況が報告されます。磯崎氏のご意見を見ても、社内調査委員会発足後は連日のように対応に追われていたことがうかがわれるので、蚊帳の外におかれていたということは事実とちがうのではないでしょうか。

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