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2009年9月 7日 (月)

磯崎氏のご意見をよんで

磯崎哲也氏から「池永朝昭弁護士のブログでのご意見について:その2」で、私の前回および前々回のエントリーでのべた疑問に対して、ご説明をいただいております。このご説明を読んで、いろいろな疑問が解消し、あるいは起こっていた事態が想像できるようになりました。困難な状況下でここまでご説明いただいた磯崎さんには、改めて敬意を表するとともに深く感謝申し上げたいと思います。

このブログでは、磯崎氏のご意見(「反論」という言い方はかなり抵抗感がおありのようなので、こういう言い方に代えさせていただきます)と特別調査委員会の認定した事実とその根拠について、検討するつもりでした。これを行うについて、私には磯崎氏がいうような「第三者として公正な判断をする「裁判官」役」として判定するという気持ちは、さらさらありませんでした。

そもそも報告書とご意見を読んだだけの第三者が、事実認定についてどちらが正しいと判定することは、およそ困難です。第三者がいえるのは、せいぜいどちらが説得的かという印象ないし意見にすぎませんし、そういうことを述べることが、私の目的ではありませんでした。むしろそういう論評は、法務担当記者のようなマスコミに任せて置くのが、多くの場合、適当であると思っております。

私が意図していた検討ないし論評は、私の知識・経験から見て、どういう根拠でそういう認定になったのか、論点についての見方の違いはどこからきたのか、あるいは証券会社一般のコンプライアンスのスタンダードからみてどう考えられるか、あるいはComply or explainという原則からみて説得的な説明がされたのか、というような観点から行うつもりでした。また、特別調査委員会の事実の認定方法についてもコメントするつもりでした。その分析は、こういうところが知りたいだとか、こういう点についての検討はどうだったのか、という疑問提起のスタイルとなるであろうと考えておりましたし、それが私が前々回のブログでのべていた公正かつ慎重に論評したいと述べていた意図でした。

しかし、磯崎氏のご意見は、守秘義務の壁のもとで目いっぱいかつ慎重な表現で、その見方なり立場の説明をされており、それを読んで、あえて私があれやこれやの検討をし、それについて意見を付することは、今の時点では適当ではないと思うようになりました。

磯崎氏のご意見や、また特別調査委員会の報告書は、第三者がそれぞれの感想なり意見なり、あるいは判断をするに十分なものをかなり与えていると思います。また、これ以上の疑問点の提出は、磯崎氏の立場では説明が困難なものとなるでしょうし、外部調査委員会についても同様でしょう。相手が回答ができないような立場にあることを承知で、次々と疑問や意見をぶつけることはフェアとはいえないと私は思います。また、事件が起こってから間もない今は時期的にも適切ではないように思われますし、また、ブログという方法で行うのもどうかと思います。

したがって、本件については、若干の論点整理をして終わりとしたいと考えていますが、こうやって書いている間も、せっかくの磯崎氏のご意見によって示された論点をどうまとめようか、正直いって迷っております。したがって、うまくまとめる自信があまりありません。不完全な整理ではありますが、以下の点がさしあたり重要論点であると今は思っております。

第一は、磯崎氏もいくつかの論点を提起された社外調査委員会の調査の方法です。すでに磯崎氏が十分そのブログ記事で指摘されているので繰り返しませんが、事実認定にせよ意見にせよ、認定の根拠やその事実の分析が前提となるものですから、どのような方法で、誰から、どのようにして、どのくらいの時間をかけて事実関係を聞き出すべきなのか、という点が論点であろうと思います。とりわけ、本件のように社内調査委員会の調査が先行していて、それと社外調査委員会の認定が、とりわけ社内調査委員会の主要メンバーである社外取締役を含めた経営陣全体の統制環境の評価の点で食い違うことが予想される場合、限られた時間の中で調査方法をどのように取捨選択すべきかという点です。磯崎氏のご意見では、社外調査委員会からの同氏に対する事情聴取は1時間程度のみだったようですが、そういう点を含めて調査方法についてどのような留意をすべきかが今後の検討課題であろうと思います。

第二に、社外調査委員会の調査報告書における事実認定の説明方法であります。磯崎氏のご意見では、社外特別調査委員会は社内調査委員会の調査報告書を検証し、社外調査委員会の報告書の前半に承継されているとのことですが、社外調査委員会報告書にあるとおり、社内調査委員会のインサイダー取引についての評価は全面的には採用されていないとされています。おそらくはS社長のメールと社長を牽制する仕組みの評価がまったくちがっていたと思われますが、このような場合に、社内調査委員会の報告書が公表されていれば、どうしてちがうのか比較ができますが、公表されない場合にどのように説明すべきかという問題です。

第三に、第二の点にも関連しますが、社外調査委員会の調査報告書についての公表のルールあるいは指針です。一般に、社外調査委員会の報告は全部でも一部でも必ず公表すべきであり、これを怠れば信頼回復への道のりは遠いものとなるとされており、それはまさにそのとおりなのですが、役員や経営陣の経営責任を問うものとなっている場合、あるいは、さらにすすんで法的責任を問うものとなっている場合に、単純な公表でいいのか、それとも非難の対象となった役員や経営陣で納得できないものの意見をどの程度公表と同時に付するのか、それは誰が判断しどのような方法をとるべきなのか、という論点です。

第四は、-これがすごくまとめるのが難しい点なのですが-、統制環境の評価、牽制機能の評価の在り方です。不祥事がおこったときの直接の原因が社長にあるときに、その社長の牽制ができる仕組みになっていたかどうかは当然検討されてしかるべきですが、比較的長い期間、牽制する側にいた人間の行動をどのタイムスパンを取り上げて評価するのか、管理態勢について十分な検討がされていなかったという場合、場面場面では大きな牽制をしてきたと思われる取締役に対してどういう評価を下すのか、取締役の善管注意義務と経営判断の原則は取締役の責任を免除し経営の自由度を確保する仕組みであるとされている点からみて、「適切性」という要素がはいってくる金融規制の適用がある会社の経営陣の評価というものは、普通の事業会社とちがうと割り切るべきといっていいのかどうか、といった諸論点です。

最後に、さまざまなリスクを覚悟して、あえて意見を公表された磯崎氏にあたらめて敬意を表したいと思います。非難の対象とされた社外取締役がきわめて慎重に、かつ公正さにも相当の留意を払い、ここまでの意見を公表された事例はまったくなかったものであり、その問題提起はしっかりと受け止める必要があると思います。本件についてはTOSHI先生のブログの書き込みでも述べたとおり、最初は建設的な議論ができるのか相当不安がありましたが、磯崎氏が冷静なる対応をされたことにより、将来にむかって発展的な議論を行う貴重な土台が提示されたと思います。

また、カブドットコム証券、社外調査委員会委員各位、証券取引等監視員会その他関係各位におかれましては、このような形でブログにとりあげること自体についてのご異論もおありかと思いますが、磯崎氏と私のブログでかわされた意見は、本件の社外調査のみならず、さまざまな論点について検討がなされるきっかけを与えたものとしてコーポレート・ガバナンスの議論の発展にかならずや寄与するものであるという点で、ご勘弁ねがえればと思います。

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