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2009年9月13日 (日)

公開買付けの強圧性とMBO

サンスターMBOで元株主が勝訴したことが話題になっております。そこで、この機会を捉えて、先日ご紹介した商事法務2009年8月25日号の論文のうち、「TOB(公開買付け)と少数株主権」(井上光太郎慶應義塾大学准教授著)をご紹介し、MBOとの関連についてややラフになりますが若干考えてみたいと思います。

井上論文の要旨は、以下のとおりです。

①日本の公開買付制度では、買付け後の株券等所有割合が3分の2以下となるTOBについては全部買取義務がないことから、そのようなTOBと企業再編手続を組み合わせる二段階買収(以下、「二段階買収という」)を可能にしている。また、少数株主の保護については金商法上何ら規制がなく会社法上の少数株主保護しかないこと等から、十分な少数株主利益の保護策が整備されていない状況下にある。その結果として、TOB後に買い手が少数株主利益を収奪することにより、または株式市場がそれを懸念することにより、TOBに応募しなかった少数株主の利益は、TOBに応募した場合に比較して悪化することが予測される。

②実証分析では、その予測どおり、日本のTOBではターゲット企業の株価は平均して下落している。このことから、買い手は機会主義的行動をとる余地があり、他方、少数株主に対しては、TOBに応じるほうが応じないときより獲得利益が大きくなるのでTOBに応じざるをえないという誘引が強く働いている。

③これは日本の公開買付け制度が全体として強圧性をもつことを示し、日本のTOBにおいて、敵対的買収を除き、ほとんどのケースでTOBが成立した理由は強圧性にあると解釈可能である。

詳細は井上論文を読んでいただきたいのですが、要するに、現行の公開買付け制度と組織再編手続を組み合わせた二段階買収は、強圧的効果を現実に発生させているということを実証したということです。

井上論文はこのことにより、三つの問題が生じているとしています。

第一に、一般投資家による日本株への投資意欲を阻害し、結果的に日本企業の資本コストを上昇させるという問題。

第二に、企業の支配権は、M&A市場における競争を通じてターゲット企業の企業価値を最大化できる最適な買い手に委ねられるとは限らず、M&A市場が経営資源の効率的配分を実現するという役割を十分に果たしていないという問題。

第三に、買い手が相対的に高いプレミアムの支払が必要となる全部買付けより、買収コストが低く且つTOB後に残存少数株主の利益を収奪可能な部分買付けを好むことになり、大株主と少数株主の間の利害対立を激化させ、M&Aを通じた効率性の改善を制約するという問題。

井上論文は、今後、二段階買収の強圧性について、少数株主に有利な展開を可能にするという点でも、公開買付け制度に全部買付義務を導入すべきであるという方向性に弾みをつける意味でも、重要であると思います。

MBOとの関連ですが、この報告の出現によって、MBOにおける二段階買収の際の企業再編手続における対価の公正性が非常に厳しくみられることになると思われます。もう少し詳しくいうと次のとおりになります。

MBOにおいて、第二段階の取引とは少数株主をスクイーズ・アウトする取引です。スクイーズ・アウトの方法には2種類あります。

第一は、SPCを完全親会社として、対象会社を完全子会社とする株式交換を一般株主に端株を生じさせるような交換比率で行い、端株について現金交付を行う方法です。

第二は、対象会社の定款を変更して種類株式発行会社として、その普通株式に全部取得条項を付し、一般株主には端株が生じるような割合で種類株式を対価に当該株式の全部を取得して、一般株主には端株代金を交付する方法です。

スクイーズ・アウトをされる少数株主が対価が低すぎるといって対抗する方法は、実行性にはいろいろ問題があるものの、いくつか考えられるのですが、その一つとして、第一の株式交換が利用される場合には株式買取請求権の行使(会社法785条1項)及び買取が不調になった場合の裁判所に対する取得対価の価格の決定の申立て(会社法786条)をすることを考えることができます。また、第二の全部取得条項付種類株式が利用される場合には、株式買取請求権の行使(会社法116条1項2号)及び買取について協議が不調になった場合の裁判所に対する取得対価の価格の決定の申立て(会社法117条)を行うことが考えられます。

株式交換による合併の場合、反対株主は「公正な価格」での買取請求ができることが保証されているのですが、公開買付けが行われたあとに行われるときには、ここにいう「公正な価格」は公開買付価格を下回ることはないと考えられています。どうしてかというと、公開買付価格は組織再編後のシナジーを織り込んだ価格と考えられるからです。経済産業省のMBO指針でも、特段の事情がない限り公開買付価格と同一の価格を基準とすべきであるとされています。MBO指針では、公開買付価格を基準とすることを強圧性を排除するための一つの方策として位置づけています。

全部取得条項付種類株式を利用する場合、定款変更に対して反対する株主は会社法116条1項2号により「公正な価格」で買取を求めることになりますが、ここでいう「公正な価格」は定款変更決議に際してのそれをさすので、組織再編後のシナジーを含む価格と考えることができないと考えられていました。このため、反対株主側がシナジーによる企業価値増加分を含めた価格を求めるのに対して、会社側は折れることがなく、協議が整うことは困難であって、会社法117条2項によって裁判所に価格の決定を申し立てるということに大方なると思われます。

ところが、そもそも現行の公開買付制度のもとでの二段階買収が強圧性を本来的に有しているということであるならば、二段階めの買取価格あるいは買取請求権行使時の買取価格について自己の算定価格が正当であることを主張する買収側には、これまで以上に重い立証責任が課せられてしかるべきではないか、と考えるべきことにならないでしょうか。少数株主の利益が十分保護されていないという事実上の推定が働くからです。

そうだとすると会社法116条の「公正な価格」についても、理論的にシナジーを含められないなど考えないで、裁判所が具体的買収の実態に応じて柔軟に解釈すればいいのではないかと思います。レックス事件最高裁決定の正当性がよく理解できます。

そして、公開買付けを行うことを発表する前に業績の下方修正を行った結果、株価が下落し、その後に公開買付けを行うことを発表して下落後の株価をもとに公開買付価格を定めたような場合には、株式買取請求における「公正な価格」を定めるについて、公開買付価格を一応の基準として考えることは、もはやできないという主張も、そうとう説得力を増すでしょう。

こういうわけで、MBOの場合の公開買付価格の公正性や株式買取請求における「公正な価格」に対する精査は、井上論文の出現でますます必要になったといえるのではないでしょうか。

また、MBO指針に示された経営陣と株主の情報の非対称性解消のための適切な開示のレベル感もあがってくるでしょう。

さらに、第二段階の買取が不公正なものとして取締役等に対して損害賠償請求(会社法429条)を株主が主張する場合の悪意または重過失の認定にも、影響を及ぼすのではないでしょうか。

以上、つらつら考えるに、井上論文の影響は大きいものとなると思います。

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コメント

MBOに関心をもって頂き、ありがとうございます。1人でも多くの方に関心を持っていただくことが、この問題の終局的解決につながると考えます。
そもそも、MBOは、ファンドが背後にいることが多いのですが、この場合適正価格で行われるならファンドの出資者に対する背任であり、廉価で行われるなら、株主に対する詐欺です。
従って、立証責任を重くするというご意見には賛同致します。しかし、金融商品取引法に定められた開示義務さえ、ろくに守られていないのが現状です。

あと、スクイズアウトの方式として、カネボウの事業譲渡→もありますよ。この場合、株主が買い取り請求をすると、みなし配当課税が生じるという問題もあります。http://blog.livedoor.jp/advantagehigai/archives/65353981.html

山口三尊様

どうもご意見をありがとうございます。まだそちらのブログをよく隅から隅まで拝見していないので、勉強させていただきます。

全部買付義務を課したからといって、TOBの時点で全部買い付けを義務付けただけで、応募しなかった株式を買い付ける義務までは無いんですよね。

なお応募しなかった株式をTOB価格と同一価格で取得すると予告するだけで、投資家は資金の塩漬けを嫌い、実質的には2段階目を不利に設定した事になります。

TOB時の全部買付義務より、上場廃止になった時に公正な価格で残った株式を買い付ける義務を課すことが必要であり、むしろTOB時の全部買付義務を重く課す事で一般投資家の選択肢を狭めているような気がします。

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