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2009年9月に作成された記事

2009年9月30日 (水)

フランクフルトで思った日本の自動車産業の未来

私が大の自動車好きであることはばればれですが、仕事の面でもデトロイトで6年間、日本の自動車メーカー3社、部品メーカー多数とお付き合いさせていただいたので、自動車産業の行方には常に興味をもっております。なにせ、日本の基幹産業ですから、ここが元気がなくなると大変なことになります。

欧州出張の最後の日にフランクフルト・モーターショーを見学してまいりました。短い訪問でしたから、メルセデス・ベンツ、フォルクスワーゲン・アウディ、トヨタ、スバル、BMWグループのブースしか見学できませんでした。ここのモーターショーは、デトロイト、パリ、ジュネーブ、東京と並ぶ世界5大モーターショーのひとつで欧州では最大規模のものですが、さびしいことに日本勢は、ホンダ、日産、三菱、ダイハツが不参加です。

フランクフルト・モーターショーの様子はネットでもさまざまに大量に報告されていますので、私のごくわずかな時間での印象が全体像を把握しているかどうか疑問ですが、どうも欧州のトレンドは、電気自動車とディーゼル+追加の技術によるクリーンな自動車のようです。ハイブリッドはあまり力をいれているとは思えませんでした。またハイブリッドに対する関心も高くないようです。

実際、残念ながらプリウスは欧州ではあまり売れていないようです。パリの街中は圧倒的に小型車且つディーゼル車であったし、アウトバーンを走る車もその多くがディーゼル車でした。追い越し時のパワー、乗り心地やエンジン騒音も、ガソリン車とほとんどかわらなくなっています。

フランクフルトでは欧州メーカーが小型から大型まで、実にさまざまなディーゼル車を出品しており、その数の多さに圧倒されました。しかも単なるディーゼルではなく+アルファでさらに排気をクリーンにして燃費を向上させているというのが売りでした。何しろリッターあたり20キロ以上は当たり前、30キロ以上というものもある位です。その上、排気が水素で窒素酸化物がほとんどでないというのですから、素晴らしいものです。

トヨタがプリウスプラグインという普通はモーターで走るハイブリッド車を展示していましたが、日本勢ではそれくらいしか印象に残っておりません。レクサスのハイブリッド車も展示されていましたが、トヨタのブース自体にそんなにたくさん人がおらず、また、トランクルームの狭さがいまひとつ不評のようでした。たしかにベンツのハイブリッド車のトランクルームの広さは素晴らしく、BMWのハイブリッド車も電池が若干のスペースを占めていましたが、レクサスより容量はずっとあるようでした。

つまり、印象としては、日本勢は、ほとんど売りがないように思えました。また、欧州の人間はあれほど車を足として使い、洗車するなんてことはしないがほんとに車好きで、特にかっこいい車が大好きですね。欧州車はどんな小型車をみても、デザインがしゃれています。日本は長い間、国内市場でデザインいまいちの車を作り続け、ユーザーをならしてしまいました。あるいは国内ユーザーのセンスが悪いのかもしれません。どうも日本車から「かっこいい」という感じをほとんどうけませんでした。いずれにしても、自動車というものが文化の一つとして完全に定着しており、あたかも、かわいいペットをかっているがごとく自動車に接しているのがヨーロッパ人です。

BMWの素晴らしいプレゼンテーションをみて、「参りました。」といっている間はよかったですが、会場を後にするころには、日本の自動車産業はこんな売りがない状態で大丈夫か、と若干不安になってきました。ディーゼルについてはトヨタといすずの提携があるが、製品はまだあがっていません。水面下では開発が各メーカーで進んでいることを願いたいものですが、世の中がすべてエコに流れているときに、ハイブリッドとガソリン車の限界に挑戦するだけではやっていけなくなると感じた次第です。はやく日本メーカーから素晴らしいディーゼル車をみたいと思います。

2009年9月26日 (土)

鳩山政権に対するウォール・ストリート・ジャーナルの評価は辛い

パリにきております。初めてのフランスの首都訪問、歴史ある街の富の蓄積ぶりと、フランスの労働者天国ぶりにただただおどろいております。

鳩山総理大臣が国連で演説し、温暖化ガスの25%の削減を「すべての主要国の参加による意欲的な目標の合意が、わが国の約束の前提になる」という条件をつけて表明したと報道されました。

そんな条件をつけたら、この問題についてはそもそも主要国の足並みがまったくそろわないしまとまらないという状況なので、日本は少しも真剣でないんだなと国際社会では受け取られているだろうと思い、ある意味、鳩山政権は国内の顔と国外に示す顔の使い分けをしているのではないかと思いました。しかし、これは国民に対する公約違反でしょう。

もっとも政権はそういう意識ゼロだと思います。真剣でないとみられるリスクなんて思いもつかないでしょうからね。これで世界に対して日本が相当の影響を与えたなんで思ったら、間違いでしょう。

その点について断罪するのが今日のブログの目的ではなく、これはイントロとして書きました。本題はパリでワインを傾けつつ読んだ、ウォール・ストリート・ジャーナル9月23日欧州版にのった社説をご紹介したいのです。

表題は「鳩山の悪い経済のスタート」というものです。以下、要旨です。

「新政権は、預金金額で世界最大の銀行である日本郵政の民営化プランを白紙に戻すつもりであるという最も重要な確認を日曜日に行った。民営化は国の借金を返済するために求められている原資を提供し、預金獲得にむけての競争をつうじて、より民間資本の形成を促進するという成果をあげるはずのものであった。」

「日本郵政を現状維持することで、鳩山政権は安易な金を、ひも付きプロジェクトや、政治的な結びつきのある会社や有力支持層に行くようかき集める主要な仕組みを維持することになる。」

「亀井氏の財務上の”ファンタジーランド(理想郷)”では、銀行はーリターン如何に関係なくー銀行がいい気分を味わうために個人や会社に金を貸すのだ。このようなやり方は、日本のゾンビ銀行を10年間にわたって生きながらえさせた政府の金の浪費と同じであり、日本人の貯蓄に対するリターンを圧迫し、世界経済からかけ離れていくことを意味する。」

「鳩山氏はGDPに対する国の借金などの制約に意識をもっているようであるし、無駄遣いをなくすと公約している。しかし、失敗している地方の借り手に対して下駄をはかせてやったり、会計原則を変えて銀行の持ち合い株式の損を隠したりするといった悪いアイデアもちらほら明らかになっている。鳩山政権を支援した労働組合は労働法を厳格化しようとしている。あまつさえ、環境に対する負担金という形で高い税金をかけようという話がある。」

「日本の経済の一時的な回復はーそれは国外の条件の改善にそのほとんどを負っているーこういった重しにたえられない。日本は貯蓄をもっと生産的な投資にまわすためのより自由な市場間競争、企業が国内にもっと投資をするためのインセンティブ、そして外国投資家を魅了することが猛烈に必要なはずである。」

「鳩山氏はよりきれいな政府ともっと豊かさを日本にもたらすため、雪崩現象的な勝利を収めて選任されたが、彼の最初の動きは昔の政策ややり方を踏襲するということを暗示している。」

これが欧米の見方というものでしょう。鳩山政権は、反市場主義で守旧勢力の味方、小泉構造改革で日本をがんじがらめにしていた古い不合理なやり方をこわそうとしたのにそれに戻ることを目指す政権とみられているのです。

このままの論調がつづけばーそれは鳩山政権が公約を実現していくということですがー、日本に対する投資は減少し、市場から外国投資家の金は引き上げられ、日本経済はしぼまざるをえないこととなるでしょう。

日本のメディアも主要欧米メディアから新政権がどのようにみられているのか、もう少しちゃんと報道してほしいです。後になって、海外の懸念がましている、なんていわれても、国民は唖然としちゃいます。今の時点で、十分米国主要メディアは批判を開始していると伝えてください。それが新政権に現実的な思考を促すこと、そしてまちがった政策を実行することの歯止めになると思います。

2009年9月25日 (金)

改正貸金業法の負の効果の測定をすべきではないか

9月19日土曜日の日経新聞経済欄に、「アイフル、債務猶予要請を発表」という記事が載っておりました。皆さん、どれくらいの興味を持って読まれたでしょうか。

記事自体はアイフルが過払金返還請求が高どまったまま資金繰りに窮したので、銀行団に債務の返済猶予を求める方針を発表したというものです。私が注目したのは、その記事に付随して、貸金業者がピーク時の約9割減になったこと、貸金業者の貸付残高が90年3月の約80兆円超から本年7月には半分の約40兆円になったという事実を報道した囲み記事です。

囲み記事によるとノンバンクにかわり銀行が個人向け貸付を強化して、三菱東京UFJ銀行は貸付残高が2007年開始当初より約3倍に、三井住友銀行も、カードローンの残高が05年の2750億円から4900億円に増えたということです。しかし、ノンバンクから消えた40兆円の資金需要を銀行の個人向けローンがすべて吸収しているわけはないでしょう。囲み記事がいうように、銀行の審査は消費者金融より厳しいからです。

囲み記事では、融資基準を満たせない利用希望者がヤミ金融業者などに走り、問題が深刻化する恐れも否定できないと警告を発していますが、この警告はもっと真剣に受け止められる必要があると思います。

貸金業法改正にあたって、グレーゾーン金利廃止、総量規制等に消費者金融業者や一部学識経験者が反対したのはまさにこの点であったはずです。それにもかかわらず、金融庁は非常に大胆な改革を断行しました。立法担当官であった大森泰人さんの「金融システムを考える」という著作にその考え方の経過が詳細に記載されています。大森さんは胆のすわった有能なすごい官僚だとこの著作を読んだときに思いましたし、今でもその気持ちはかわっていないのですが、私はグレーゾーン金利の撤廃等を内容とする貸金規制業法の改正が政策として総体として正しいものなのか、制定当時から疑問に思っており、いまでも実は正確な政策評価が必要なのではないかと思っております。その理由は、まさにヤミ金融へ走る消費者が増加して、実態がみえにくくなり、かつそうして儲けられた金が株式市場に流入しているという懸念であります。

一時、テレビなどでは貸金業者への規制強化の陰で、ヤミ金融が勃興していることを報道しておりました。一番話題になったのは、山口組系ヤミ金融の五稜会が外資系銀行を通じてマネーロンダリングを行ったことが発覚した後だと思いますが、いつの間にかフォローアップゼロの状態になり、世の中ではヤミ金融問題に光があまり当たらなくなっております。

40兆円という資金需要は本当に消えたのでしょうか。私にはとても信じられません。個人破産事件の件数は、特に金融危機発生以来大幅増加しております。そういう人たちは、昔のように多重債務をかさねることなく早期に倒産を選んでいるのかというと、多分に疑問です。個人破産もできないような人々はどこへ行ったのでしょうか。

他方、ヤミ金融等で資金を作ったと思われる闇勢力が、ここ数年株式市場でさまざまな問題ある事象の背後にいることはまちがいないように思います。困ったことに、消費者金融から借りられず、また銀行からも借りられない人たちがヤミ金融からどれくらい借りているのかを統計的に把握するのは不可能でしょう。しかし、地方自治体では借金問題に悩む市民の問題が相変らす多いようで、その割合は年々増加傾向にあるようです。

新政権のもとでは、消費者庁がヤミ金融問題に目を光らせて、貸金業法に盛られた政策が負の作用を作り出していないか、しっかり検証してもらいたい、そう思っております。

2009年9月23日 (水)

最近執筆した本のこと

月曜日からパリに海外子会社監査の仕事で行っておりますので、自動アップ機能を利用して、記事をアップします。最近、私が執筆者の一人として関与した本のご紹介をさせてください。

1679 ANALYSIS 公開買付け
●TOBに関する法的論点、実務上の留意点を解説

アンダーソン・毛利・友常法律事務所編(商事法務、2009年)

私の事務所ではじめてのTOBの本です。公開買付は、黒沼悦郎先生がご自身のブログで解説されていますが、本当に理解しにくい法律ですね。実務的な論点について、当事務所の若手とパートナーが組んで仕上げました。私は交換買付けの部分と、公開買付けとインサイダー取引規制を担当しました。

5fcc2c158634bc463acb9a60d2130856_2最新 金融商品取引法ガイドブック

●わかりやすく・コンパクト!
膨大で難解な金融商品取引法を政令・内閣府令等を織り交ぜながら表形式で簡潔にまとめています。また、解説の補足事項をMEMOとして随所に掲げています。

監修/日本組織内弁護士協会
共編著/池永朝昭、稲田博志、高橋均、竹内朗(新日本法規、2009年)

私は確認書制度、内部統制報告制度、適時開示と、企業再編成開示規制の一部を執筆しました。編集もしましたので、比較的短い時間で仕上げるのは結構大変でした。一覧表が多様されているので、複雑な条文を理解するのにも条文をさがすのにも非常に便利です。この本は一般書店では入手しにくいので、新日本法規出版のサイトでお求めいただければと思います。

1677_3 企 業 内 弁 護 士
●企業内弁護士の現状を検証し、あるべき方向性を提言
日本弁護士連合会弁護士業務改革委員会 編
(商事法務、2009年)

同委員会のプロジェクトチームのメンバーとして、「コンプライアンスと内部統制」及び「法務部の業務と弁護士業務あるいは法律業務」という2本の論文を執筆しました。個人的には相当力をいれて執筆しました。特に「コンプライアンスと内部統制」は、企業内に弁護士をいれることの意味と限界を論じましたので、企業法務関係者の方にぜひお読みいただければと思います。

2009年9月17日 (木)

金融担当相の発言を懸念する

国民新党の亀井静香さんが金融担当相になりました。深夜の記者会見を見ていて、懸念せざるをえませんでした。

亀井さんは、中小企業向け融資の債務返済を猶予する制度の具体像と問題が多いという声があるがどう考えるかという記者の質問に対して、「今の金融は極めて異常で金融機関は反省しなければならない。」「今は黒字倒産が多い。頑張って黒字にしても『返せ』という金融機関の請求で仕事を続ける意欲がなくなる状況を変えなければならない。」と答えました。

黒字倒産が多いという現状認識には驚きます。リーマン・ショック以来、どんな業種でも売上が激減しているのであって、上場企業だって黒字になっている会社なんてほとんどありません。特に製造業はそうです。みんな売上がないから借金を返せなくなってきているのです。この大臣の現状認識はどうなっているのでしょうか。大臣の選挙区では黒字倒産しているような会社がたくさんあるわけですか。まさか昨年度の決算をみて黒字だが、今は売上げが激減していて大赤字の窮地に陥り、融資打ち切りで倒産してるのを「黒字倒産」といっているのではないでしょうね?

金融機関の中小企業向け融資については、民主党マニフェストでもキャッシュフローに重点を置いた融資を推奨するとともに、利払いが行われている限り不良債権と扱わない等の検査マニュアルの弾力的運用、中小企業向け融資の条件の情報公開を柱とする地域金融円滑化法の制定が提言されています。しかし、それ以上に債務返済猶予なんでいうモラトリアムを導入するとは一言もいっていません。

とすれば、民主党はどうするのでしょうか?キャッシュフローに重点をいくらおいてもキャッシュフローがない企業、利払いにもつまる企業に貸付はできないのに、そういう企業は弁済が猶予されるというならば、ぎりぎりのキャッシュフローで頑張っている企業よりいい条件があたえられることになります。こんなこと、おかしいですよね?

一国の金融制度は、公正・公平に運用されなければなりません。キャッシュフローが今ない、利払いも危ぶまれる中小企業に対して支払猶予をするということは、金融機関にとっては引当金をつまなければならないということです。そういうことを続ければ、金融機関の資産がいたんでしまいます。まだまだ、十分な回復期に入っていないのに、このような政策が実行されたら、比較的健全な顧客に対する貸し出しができなくなり、今度は金融機能が阻害されることになります。それがおきれば経済もまた悪くなります。

非常時の公的な緊急融資、倒産防止融資などの制度を動員すべき状況に対して、一般の金融機関に弁済猶予を強制するのは的外れで、危険ですらあると思います。しかし麻生内閣のときに緊急融資は目一杯実行されているんです。それでも救えない企業があります。そういう企業に勤められている方は大変つらい思いをされています。倒産処理にあたっている弁護士として、そういう方に接すると何とかしてあげたいという思いがします。しかし、やはりここは大平さんのことばを噛み締めるべきではないでしょうか。社会のセーフティネット構築の問題と、金融政策をはきちがえてはいけないのではないでしょうか。

思いつきで制度の根幹に関わるようなことを金融担当相がいえば国内外に悪影響がでます。金融関連株は今日の前場で下落しました。民主党政権の政策の不透明感もあわせて亀井発言の影響は、はやくもでていると考えてよさそうです。

2009年9月15日 (火)

リーマン・ショック後1年-自分の意見の検証と今の課題-

リーマンが破綻して1年となる本日、様々な記事がでておりますが、このブログでも私の意見を発信させていただきました。今日はそれをちょっと検証してみたいと思います。

昨年9月16日のリーマン・ブラザーズの破綻という記事では、ロンドンの報道があまりにリーマン破綻の恐るべき影響を報じていないことに驚き、米国政府が公的資金の注入をためらっていることに対して、公的資金注入しかありえないでしょ、と申し述べました。

9月18日にはAIGとリーマンはなんで取扱いがちがうのか-米当局の迷走-という記事をアップし、デリバティブ取引でリーマンのエクスポージャーは市場が耐えられるレベルと米国政府が読んだと思われるが、サブ・プライム危機が市場に与えている心理的影響を軽視している、と批判しました。

その後、二本記事で米国政府の不良債権買取案を批判し、最後は米国政府が金融安定化法案が議会で通過したことを機会に、米国金融安定化法成立で思う欧州と日本の対応という記事で、銀行の破綻を公的資金で救済するスキームを欠く金融安定化法は不完全と批判し、バブルのときの日本とリーマン・ショックに対する欧州の対応と米国の対比について、考えてみました。

その後は、批判したとおり、米国は公的資金投入に踏み切り、現在に至っているわけです。かなりの部分、自分の言っていたことがあたっていてよかったと思います。これは自分でもうれしい結果なのですが、実は、マーケットに近いところで働いていると投資銀行の多くの方々がそう思っていたということを、特に申し上げておきたいと思います。

一部の政治家や一部のジャーナリストは、しばしば、自分の思い込みで発言し勝ちですが、事象に近い人間のほうが事態をよりよく把握していることが多いということもあり、金融政策に関わる政治家・ジャーナリストは、よくマーケット・ウォッチャーの意見を聞いて現場の感覚はどうなのかに耳を傾けるべきでしょう。(なお投資銀行出身の民主党の大久保議員が主張している公開会社法案は、本日のTOSHI先生のブログでとりあげられていますが、大方のマーケットの声を無視したものと評価していいでしょうし、監査役制度を破壊しかねないものと考えております。詳細な私の評価については、私の記事をご覧下さい。)

金融危機のメカニズムと対応策について、本日のおおすぎブログであらたな銀行・証券規制が必要と主張する日経の記事が批判されています。私はおおすぎ先生の批判に賛成なので、詳細はおおすぎブログを読んでいただきたいのですが、一点だけ補足すると、財政・金融関係のジャーナリストの一部において、金融危機のメカニズムに対する理解がいまだに欠けていることに驚きます。

金融危機のメカニズムについては、金融危機の構造と新たな規制体制という記事で、池尾和人先生の分析をご紹介しております。池尾論文についてはデリバティブの専門家であるdbsbさんにお願いして、シャープな分析をしていただいております。(dbsbさん、ブログを停止されていますが、実に残念なことです。ぜひ、再開してください!)

池尾論文とdbsbさんの指摘は上記各ブログをぜひ読んでいただきたいですが、池尾論文の分析をよめば、規制上の手当てとして、
①エージェンシー問題のコントロールを目的としたレバレッジ規制
②報酬規制
③市場の上部構造の再構築を目的とした格付け会社規制および会計基準の確立
が必要というのは大変納得できる話であることがわかります。

ただ、今日の状況下で、米国住宅ローンを証券化したMSCBを米国政府が買い上げざるをえないほど機能がストップしているMSCB市場をどうするのか、デリバティブ取引の清算機関構想がどの程度機能回復に寄与するのか、などなど、一段と見えにくくなってきているように思います。難しくなってきました。

2009年9月14日 (月)

祝 ARTA NSXのスーパーGT第7戦富士優勝!

いつも堅い話題ばかりのこのブログに、久々のレースネタを。

ARTAのNSX(ドライバー:ラルフ・ファーマン/伊沢哲也組)が、昨日富士スピードウェイで開催された世界最速の箱物レース、スーパーGT第7戦のS500クラスで、予選12位から11台をぶち抜いて、見事優勝しました!

前戦の鈴鹿では、NSXはリア・タイヤがバーストして破片がオイル管を破り漏れたオイルが摩擦熱て引火して炎上し、エンジン交換を余儀なくされたため、この日は10番グリッド降格のペナルティーをくらっていたので、予選で2番目のタイムを記録しながらも12番スタートという厳しい状況でした。

モービルのMさんが、うれしそうに「前回は、うちのオイルがほんまに良く燃えたんですよ!」と、レースがあと数周残っているうちに一人で勝利の祝勝会をビールではじめてましたが、レースは最後までわからぬと思いつつ、わくわくしながらチェッカーをまちました。NSXがチェッカーを通過したときは、チームのメインスポンサーのオートバックスの社長さんも、他の大勢のスタッフたちとピットとコースを仕切っている金網に張り付いて、旗を目一杯ふって祝福してました。

オートバックスのレース担当M氏、レース前に曰く、「今や、いよいよ火がついて、チームもここで踏ん張って総合優勝をあきらめずにがんばってます。いや、ほんまに火がついてしまったけれど、今回はグリッド降格だけどタイムはいいので結構いけると思います。」と割と自信に満ちたお言葉。レースが終わってみて、破顔でひとこと「たまには車焼けるのもええのかも」と私がふると、「夕べ、スタッフ集めて焼肉食わせて頼むでー、といったんですわ!焼肉、きいたな~。」と、いかにも、もともと大阪の会社ののりで会話も楽しい。

チームスィートで、決勝前に社長さんと鈴木亜久里さんと3人で話していたところ、いきなり社長さんが、「今回はしっかりたのむで。Garaiya(注:S300クラスの車)、毎年2位はかないまへんで。」というと亜久里さんも「大丈夫です。今回はがんばります。」と力強く語っていたのですが、この時点では、我々も12位のNSXはラップは早いけれど6位以内狙いくらいの感じだったのです。むしろ、過去6戦の得点でS300クラスのトップを走るGaraiyaの3位以内入賞がいけると思っていたのですが。

ところがラルフの速いこと速いこと!伊沢君も落ち着いたドライビング、しかもあの脇坂寿一の運転する36号車ペトロナスSC430にピット後のアウトラップで抜かれて首位をもっていかれたのを、数週後にきれいにダンロップコーナーで抜き返したのは、ほんとに見事でした。

一方、Garaiyaはいつものとおり、新田・高木組のいい感じのドライビングで、ラップから見て、予選6位からあがっていくと思っていたのですが、3週目の第1コーナーで26号車ポルシェに追突され、スピンしてコースアウト。18位に落ちてしまいましたが、その後持ち前の粘りで7位でフィニッシュ。残念でしたが、新田さん、高木さんが目一杯がんばってくれました。ほんと、お疲れ様でした。

富士から帰宅して、夜9時からはF1のイタリアGPモンツァでルーベンス・バリチェロの今シーズン2勝目を目撃。チームメートのジェンソン・バトンが2位でフィニッシュ。チームが存続できるかどうか、シーズン前に危ぶまれたチームと二人のドライバー、バトンとバリチェロが、世界ランキング1位を争っているなんで、生き残る者こそチャンスをつかめる、人生何があるかわからないが生き残らなきゃ、という実例をまざまざと見せ付けてくれています。

レース漬けの一日となりました。大満足です。

2009年9月13日 (日)

公開買付けの強圧性とMBO

サンスターMBOで元株主が勝訴したことが話題になっております。そこで、この機会を捉えて、先日ご紹介した商事法務2009年8月25日号の論文のうち、「TOB(公開買付け)と少数株主権」(井上光太郎慶應義塾大学准教授著)をご紹介し、MBOとの関連についてややラフになりますが若干考えてみたいと思います。

井上論文の要旨は、以下のとおりです。

①日本の公開買付制度では、買付け後の株券等所有割合が3分の2以下となるTOBについては全部買取義務がないことから、そのようなTOBと企業再編手続を組み合わせる二段階買収(以下、「二段階買収という」)を可能にしている。また、少数株主の保護については金商法上何ら規制がなく会社法上の少数株主保護しかないこと等から、十分な少数株主利益の保護策が整備されていない状況下にある。その結果として、TOB後に買い手が少数株主利益を収奪することにより、または株式市場がそれを懸念することにより、TOBに応募しなかった少数株主の利益は、TOBに応募した場合に比較して悪化することが予測される。

②実証分析では、その予測どおり、日本のTOBではターゲット企業の株価は平均して下落している。このことから、買い手は機会主義的行動をとる余地があり、他方、少数株主に対しては、TOBに応じるほうが応じないときより獲得利益が大きくなるのでTOBに応じざるをえないという誘引が強く働いている。

③これは日本の公開買付け制度が全体として強圧性をもつことを示し、日本のTOBにおいて、敵対的買収を除き、ほとんどのケースでTOBが成立した理由は強圧性にあると解釈可能である。

詳細は井上論文を読んでいただきたいのですが、要するに、現行の公開買付け制度と組織再編手続を組み合わせた二段階買収は、強圧的効果を現実に発生させているということを実証したということです。

井上論文はこのことにより、三つの問題が生じているとしています。

第一に、一般投資家による日本株への投資意欲を阻害し、結果的に日本企業の資本コストを上昇させるという問題。

第二に、企業の支配権は、M&A市場における競争を通じてターゲット企業の企業価値を最大化できる最適な買い手に委ねられるとは限らず、M&A市場が経営資源の効率的配分を実現するという役割を十分に果たしていないという問題。

第三に、買い手が相対的に高いプレミアムの支払が必要となる全部買付けより、買収コストが低く且つTOB後に残存少数株主の利益を収奪可能な部分買付けを好むことになり、大株主と少数株主の間の利害対立を激化させ、M&Aを通じた効率性の改善を制約するという問題。

井上論文は、今後、二段階買収の強圧性について、少数株主に有利な展開を可能にするという点でも、公開買付け制度に全部買付義務を導入すべきであるという方向性に弾みをつける意味でも、重要であると思います。

MBOとの関連ですが、この報告の出現によって、MBOにおける二段階買収の際の企業再編手続における対価の公正性が非常に厳しくみられることになると思われます。もう少し詳しくいうと次のとおりになります。

MBOにおいて、第二段階の取引とは少数株主をスクイーズ・アウトする取引です。スクイーズ・アウトの方法には2種類あります。

第一は、SPCを完全親会社として、対象会社を完全子会社とする株式交換を一般株主に端株を生じさせるような交換比率で行い、端株について現金交付を行う方法です。

第二は、対象会社の定款を変更して種類株式発行会社として、その普通株式に全部取得条項を付し、一般株主には端株が生じるような割合で種類株式を対価に当該株式の全部を取得して、一般株主には端株代金を交付する方法です。

スクイーズ・アウトをされる少数株主が対価が低すぎるといって対抗する方法は、実行性にはいろいろ問題があるものの、いくつか考えられるのですが、その一つとして、第一の株式交換が利用される場合には株式買取請求権の行使(会社法785条1項)及び買取が不調になった場合の裁判所に対する取得対価の価格の決定の申立て(会社法786条)をすることを考えることができます。また、第二の全部取得条項付種類株式が利用される場合には、株式買取請求権の行使(会社法116条1項2号)及び買取について協議が不調になった場合の裁判所に対する取得対価の価格の決定の申立て(会社法117条)を行うことが考えられます。

株式交換による合併の場合、反対株主は「公正な価格」での買取請求ができることが保証されているのですが、公開買付けが行われたあとに行われるときには、ここにいう「公正な価格」は公開買付価格を下回ることはないと考えられています。どうしてかというと、公開買付価格は組織再編後のシナジーを織り込んだ価格と考えられるからです。経済産業省のMBO指針でも、特段の事情がない限り公開買付価格と同一の価格を基準とすべきであるとされています。MBO指針では、公開買付価格を基準とすることを強圧性を排除するための一つの方策として位置づけています。

全部取得条項付種類株式を利用する場合、定款変更に対して反対する株主は会社法116条1項2号により「公正な価格」で買取を求めることになりますが、ここでいう「公正な価格」は定款変更決議に際してのそれをさすので、組織再編後のシナジーを含む価格と考えることができないと考えられていました。このため、反対株主側がシナジーによる企業価値増加分を含めた価格を求めるのに対して、会社側は折れることがなく、協議が整うことは困難であって、会社法117条2項によって裁判所に価格の決定を申し立てるということに大方なると思われます。

ところが、そもそも現行の公開買付制度のもとでの二段階買収が強圧性を本来的に有しているということであるならば、二段階めの買取価格あるいは買取請求権行使時の買取価格について自己の算定価格が正当であることを主張する買収側には、これまで以上に重い立証責任が課せられてしかるべきではないか、と考えるべきことにならないでしょうか。少数株主の利益が十分保護されていないという事実上の推定が働くからです。

そうだとすると会社法116条の「公正な価格」についても、理論的にシナジーを含められないなど考えないで、裁判所が具体的買収の実態に応じて柔軟に解釈すればいいのではないかと思います。レックス事件最高裁決定の正当性がよく理解できます。

そして、公開買付けを行うことを発表する前に業績の下方修正を行った結果、株価が下落し、その後に公開買付けを行うことを発表して下落後の株価をもとに公開買付価格を定めたような場合には、株式買取請求における「公正な価格」を定めるについて、公開買付価格を一応の基準として考えることは、もはやできないという主張も、そうとう説得力を増すでしょう。

こういうわけで、MBOの場合の公開買付価格の公正性や株式買取請求における「公正な価格」に対する精査は、井上論文の出現でますます必要になったといえるのではないでしょうか。

また、MBO指針に示された経営陣と株主の情報の非対称性解消のための適切な開示のレベル感もあがってくるでしょう。

さらに、第二段階の買取が不公正なものとして取締役等に対して損害賠償請求(会社法429条)を株主が主張する場合の悪意または重過失の認定にも、影響を及ぼすのではないでしょうか。

以上、つらつら考えるに、井上論文の影響は大きいものとなると思います。

2009年9月 8日 (火)

社外調査委員会が必要とされる場合とは

前回までのエントリーで議論の材料がいろいろでてきた社外調査委員会について、若干の考察をしておきたいと思います。今回はカブドットコム証券さんの事件をまったくはなれて、一般的に議論させていただきます。

今回は「いかなる場合に社外調査委員会を設置すべきか」という点と「調査委員会メンバー選任にあたっての若干の考慮すべき点」について、検討してみたいと思います。

まず、企業不祥事が発生した場合に、企業は社内に調査委員会を置くことを優先して考えると思います。企業がPDCAを働かせる一環としてむしろ事実関係の把握を行う上で当然でもあり、また、社内事情に詳しい者がメンバーのほうが調査が早く進むというメリットもあります。外部から専門家をいれるなり、補助者やアドバイザーとなってもらえば、見落としも少なくなります。したがって、社内調査委員会設置をまず考えるという思考は、必ずしもまずいことではないように思います。

また、一言に企業不祥事とはいっても、それにはいろいろなものがあり、従業員個人の犯罪で会社の統制環境や体制を問題にする必要がないものから、会社の企業風土までさかのぼる必要のあるものまでさまざまです。その不祥事に応じた調査のやり方というものがあると思われます。

社外調査委員会が必要とされるのは、企業風土までさかのぼって考えなければならないようなケースでしょう。なぜそれが必要かといえば、不祥事発生により強い社会的非難を受けている企業は、徹底した事実調査と原因究明を行い、不祥事発生の責任の所在を明確にした上で、実効性ある具体的な再発防止策を実施しなければ危機を脱出できないからです。なぜ危機を脱出できないかといえば、従来、社内調査では事実調査をおざなりにしたり、原因の追究や責任の所在の明確化を行わなかったり、あるいは具体的な対策を採らない傾向があることを、すでに世間が認識しており、一度、当該企業もそうではないのかという批判がでると、それから容易に逃れられないし、また、現にそのようななおざりな調査がされるリスクがあるからでしょう。

したがって、発生した企業不祥事に対して強い社会的非難が起こっているような状況になっている場合やそのような状況になる可能性が高い場合ならば、最初から社外調査委員会に独立した立場で徹底的な原因究明をおこなってもらったほうがいいと考えられます。

また、当該企業にとって信用を失墜させる可能性が非常に高いような法令違反や不祥事である場合は、社会的非難が起こっているいないに関わらず、社外調査委員会を設置する必要性が高いといえると思います。

そういう状態ではないと経営陣が判断して、いちど社内調査委員会を立ち上げて調査してみたところ、その後の調査の進展あるいは状況の変化で、上記のような可能性がでてきたというような場合も、社外調査委員会に調査を行わせたほうがいいと思われます。

以上をまとめると、社外調査委員会を設置すべき場合としては、以下のようなものが考えれます。

①経営陣が企業の信用を失墜させる可能性のある重大な法令違反または不適切行為等の不祥事に直接関与していることが明らかであるか、その可能性がある場合(経営陣が不祥事の実行行為に関与するだけでなく、不祥事発生の原因の可能性となっている統制上の問題に関与している場合をも含む)

②当初は不祥事について社内調査を始めたが、①のような可能性が高い場合

②は、調査をしていくうちに①が疑われるという場合を想定していますが、どの時点で誰が独立した外部調査委員会設置を判断すべきかという問題があろうと思います。

ひとつの考え方として、監査役設置会社の場合には、社内調査委員会に監査役を必ずメンバーとして入れておき、事実調査が進んで、代表取締役や取締役の関与が疑われるとか、これらの者を含む統制環境について深堀が必要であると考えられるときには、監査役の発案で独立性の高い社外調査委員会を設置するという仕組みをつくるというやり方があります。

ただ、監査役までその調査や評価の対象たらざるをえない場合もあります。例えば、ダスキン事件などはそのような事例といえるでしょう。こういう場合は、社内調査委員会の調査完了をまたず、社外調査委員会をすぐに設置すべきことになります。

ただ、それ上記のような仕組みができるかどうかは相当程度、社長の決断にかかる部分が多いと思います。

次に、社内・社外調査委員会のメンバー選任の留意点については、若干悩んでいる論点があります。どういうことかというと......

経営陣が組織した社内・社外調査委員会のメンバーである弁護士や公認会計士又はそこから委託をうけ補助している弁護士や会計士と会社の間に、業務の請負や顧問関係、継続的な事件・プロジェクトなどを受任するといった関係などが存在することによって、独立性や調査の中立性、信用性について疑問が生じる可能性があるという指摘が、特にマスコミ関係者から多く見られます。

この点については、一律にノーといえるか疑問に思っております。普段から相談にのって会社の内情や問題を良く分かっている者のほうが調査が効率的にすすむ可能性がありますし、弁護士や会計士は企業、さらにその裏の株主が実質的依頼者であると理解し独立性もかなり期待できるからです。

いろいろな社内調査報告書をみていると確かにそういえるかどうか、自信がなくなるものが少数ではあるが存在することも否定できません。しかし、一般的にいって上記のような編成だと調査側が手心を加えるおそれがあるというのは、感覚として考えにくく、むしろ経営陣の調査への協力にあるのではないかと以前のエントリーでも申し上げております。

社外取締役又は社外監査役である弁護士が調査委員に就任している場合は、その者が所属する法律事務所の別の弁護士に入ってもらうことも、選択肢として排除すべきではないでしょう。

ただし、当該社外取締役又は社外監査役が、調査対象に含まれ、または当該事件に直接関係ある管理体制構築や運用に関係している場合、もしくは当該事件の背景となる統制の体制に欠陥があることが疑われ、これらの者の監督・監視責任が問題となる場合には、同じ事務所に所属する弁護士が当該社外取締役又は社外監査役に厳しい指摘をすることは、現実問題として難しいと思います。これは調査の信頼性につながる問題ですので、同じ事務所の弁護士を入れるべきではないと思います。

また、所属事務所の他の弁護士が当該不祥事件について会社を代理して当局に対する連絡や対策に従事している場合には、その弁護士がメンバー又は補実務担当者として入っている調査委員会は公正性・独立性を疑われるおそれがあるといっていいと思います。社内調査委員会であろうと社外調査委員会であろうと、会社側を対当局の関係で代理している弁護士が調査委員会のメンバーになること又は調査の一環を担うことは、さけるべきであると思います。

なお、ここで論じているのは危機管理の方法として、国民から見て公正さを損なわない調査方法であり、弁護士職務基本規定の弁護士倫理の問題とは異なります。職務基本規定の上での整理も必要だと思われますが、時間も尽きたので今日はこの辺で筆をおきます。

2009年9月 7日 (月)

磯崎氏のご意見をよんで

磯崎哲也氏から「池永朝昭弁護士のブログでのご意見について:その2」で、私の前回および前々回のエントリーでのべた疑問に対して、ご説明をいただいております。このご説明を読んで、いろいろな疑問が解消し、あるいは起こっていた事態が想像できるようになりました。困難な状況下でここまでご説明いただいた磯崎さんには、改めて敬意を表するとともに深く感謝申し上げたいと思います。

このブログでは、磯崎氏のご意見(「反論」という言い方はかなり抵抗感がおありのようなので、こういう言い方に代えさせていただきます)と特別調査委員会の認定した事実とその根拠について、検討するつもりでした。これを行うについて、私には磯崎氏がいうような「第三者として公正な判断をする「裁判官」役」として判定するという気持ちは、さらさらありませんでした。

そもそも報告書とご意見を読んだだけの第三者が、事実認定についてどちらが正しいと判定することは、およそ困難です。第三者がいえるのは、せいぜいどちらが説得的かという印象ないし意見にすぎませんし、そういうことを述べることが、私の目的ではありませんでした。むしろそういう論評は、法務担当記者のようなマスコミに任せて置くのが、多くの場合、適当であると思っております。

私が意図していた検討ないし論評は、私の知識・経験から見て、どういう根拠でそういう認定になったのか、論点についての見方の違いはどこからきたのか、あるいは証券会社一般のコンプライアンスのスタンダードからみてどう考えられるか、あるいはComply or explainという原則からみて説得的な説明がされたのか、というような観点から行うつもりでした。また、特別調査委員会の事実の認定方法についてもコメントするつもりでした。その分析は、こういうところが知りたいだとか、こういう点についての検討はどうだったのか、という疑問提起のスタイルとなるであろうと考えておりましたし、それが私が前々回のブログでのべていた公正かつ慎重に論評したいと述べていた意図でした。

しかし、磯崎氏のご意見は、守秘義務の壁のもとで目いっぱいかつ慎重な表現で、その見方なり立場の説明をされており、それを読んで、あえて私があれやこれやの検討をし、それについて意見を付することは、今の時点では適当ではないと思うようになりました。

磯崎氏のご意見や、また特別調査委員会の報告書は、第三者がそれぞれの感想なり意見なり、あるいは判断をするに十分なものをかなり与えていると思います。また、これ以上の疑問点の提出は、磯崎氏の立場では説明が困難なものとなるでしょうし、外部調査委員会についても同様でしょう。相手が回答ができないような立場にあることを承知で、次々と疑問や意見をぶつけることはフェアとはいえないと私は思います。また、事件が起こってから間もない今は時期的にも適切ではないように思われますし、また、ブログという方法で行うのもどうかと思います。

したがって、本件については、若干の論点整理をして終わりとしたいと考えていますが、こうやって書いている間も、せっかくの磯崎氏のご意見によって示された論点をどうまとめようか、正直いって迷っております。したがって、うまくまとめる自信があまりありません。不完全な整理ではありますが、以下の点がさしあたり重要論点であると今は思っております。

第一は、磯崎氏もいくつかの論点を提起された社外調査委員会の調査の方法です。すでに磯崎氏が十分そのブログ記事で指摘されているので繰り返しませんが、事実認定にせよ意見にせよ、認定の根拠やその事実の分析が前提となるものですから、どのような方法で、誰から、どのようにして、どのくらいの時間をかけて事実関係を聞き出すべきなのか、という点が論点であろうと思います。とりわけ、本件のように社内調査委員会の調査が先行していて、それと社外調査委員会の認定が、とりわけ社内調査委員会の主要メンバーである社外取締役を含めた経営陣全体の統制環境の評価の点で食い違うことが予想される場合、限られた時間の中で調査方法をどのように取捨選択すべきかという点です。磯崎氏のご意見では、社外調査委員会からの同氏に対する事情聴取は1時間程度のみだったようですが、そういう点を含めて調査方法についてどのような留意をすべきかが今後の検討課題であろうと思います。

第二に、社外調査委員会の調査報告書における事実認定の説明方法であります。磯崎氏のご意見では、社外特別調査委員会は社内調査委員会の調査報告書を検証し、社外調査委員会の報告書の前半に承継されているとのことですが、社外調査委員会報告書にあるとおり、社内調査委員会のインサイダー取引についての評価は全面的には採用されていないとされています。おそらくはS社長のメールと社長を牽制する仕組みの評価がまったくちがっていたと思われますが、このような場合に、社内調査委員会の報告書が公表されていれば、どうしてちがうのか比較ができますが、公表されない場合にどのように説明すべきかという問題です。

第三に、第二の点にも関連しますが、社外調査委員会の調査報告書についての公表のルールあるいは指針です。一般に、社外調査委員会の報告は全部でも一部でも必ず公表すべきであり、これを怠れば信頼回復への道のりは遠いものとなるとされており、それはまさにそのとおりなのですが、役員や経営陣の経営責任を問うものとなっている場合、あるいは、さらにすすんで法的責任を問うものとなっている場合に、単純な公表でいいのか、それとも非難の対象となった役員や経営陣で納得できないものの意見をどの程度公表と同時に付するのか、それは誰が判断しどのような方法をとるべきなのか、という論点です。

第四は、-これがすごくまとめるのが難しい点なのですが-、統制環境の評価、牽制機能の評価の在り方です。不祥事がおこったときの直接の原因が社長にあるときに、その社長の牽制ができる仕組みになっていたかどうかは当然検討されてしかるべきですが、比較的長い期間、牽制する側にいた人間の行動をどのタイムスパンを取り上げて評価するのか、管理態勢について十分な検討がされていなかったという場合、場面場面では大きな牽制をしてきたと思われる取締役に対してどういう評価を下すのか、取締役の善管注意義務と経営判断の原則は取締役の責任を免除し経営の自由度を確保する仕組みであるとされている点からみて、「適切性」という要素がはいってくる金融規制の適用がある会社の経営陣の評価というものは、普通の事業会社とちがうと割り切るべきといっていいのかどうか、といった諸論点です。

最後に、さまざまなリスクを覚悟して、あえて意見を公表された磯崎氏にあたらめて敬意を表したいと思います。非難の対象とされた社外取締役がきわめて慎重に、かつ公正さにも相当の留意を払い、ここまでの意見を公表された事例はまったくなかったものであり、その問題提起はしっかりと受け止める必要があると思います。本件についてはTOSHI先生のブログの書き込みでも述べたとおり、最初は建設的な議論ができるのか相当不安がありましたが、磯崎氏が冷静なる対応をされたことにより、将来にむかって発展的な議論を行う貴重な土台が提示されたと思います。

また、カブドットコム証券、社外調査委員会委員各位、証券取引等監視員会その他関係各位におかれましては、このような形でブログにとりあげること自体についてのご異論もおありかと思いますが、磯崎氏と私のブログでかわされた意見は、本件の社外調査のみならず、さまざまな論点について検討がなされるきっかけを与えたものとしてコーポレート・ガバナンスの議論の発展にかならずや寄与するものであるという点で、ご勘弁ねがえればと思います。

2009年9月 4日 (金)

カブドットコム証券特別調査委員会報告V前社外取締役の反論(その2)

当ブログでは、磯崎氏の「親銀行の事件発覚後の管理・監督が強まる過程で経営の透明性が失われ、少数株主の利害を考慮すべき社外取締役の職責を果たすことが難しい状況になった」という点について簡単に触れるつもりでした。

本日はそれについて補足的説明を書いて、本論の特別調査委員会報告書と磯崎氏の反論について検討し、さらにそれに続いて調査委員会の調査方法と結論について意見を書くつもりでしたが、思いがけず、磯崎氏が私のブログに対するご意見をアップされていることに気づきました。

磯崎氏がご指摘のとおり、磯崎氏自身も守秘義務があり、その範囲でご自身の意見を書かれることは大変難しい側面があり、私としてもそれを認識しております。

そのような困難な状況で磯崎氏が再度ご意見を発表されたことについては大きな敬意を表するとともに、私としても守秘義務からくる意見表明の限界を考慮し、論評するにあたっても、前回のエントリーでも書いたとおり、慎重な配慮と公正さに努めるものであります。

また、磯崎氏が「一般的な調査対象からのフィードバック・プロセスについて」、「不祥事調査の場合の会社側意見のフィードバック・プロセスについて」、「調査委員会調査と会計監査等との対比」、「現在の調査委員会調査一般について」、「今回の特別調査委員会調査のポジショニングの特殊性」において指摘された論点は、まことに傾聴すべき問題提起と意見を含んでおり、これらの点については、後の論評の中で検討していきたいと思います。

ただ、一点指摘しておきたいのは、磯崎氏の意図が「特別調査委員会の調査報告書に「反論」することが目的ではなく、辞任の経緯をご説明し、投資家のみなさま等のご理解を深めるための情報を提供することが目的になる」と言う点にあるとはいっても、特別調査委員会の認定事実に対して、「この調査報告書には、上述のような誤解を招きかねない面が多数あると言わざるを得ません。」という言い方になる(あるいはならざるを得ない)以上は、その実質が反論であることは否定しようがないということです。

私は、調査対象になった社外取締役が特別調査委員会報告に公けの場で反論することは、別にかまわないと思っております。一部のブログには今回の事態について弁明すべきでないというものもあるようですが、特別調査委員会報告書は調査対象になった者の行為についての価値判断を表明するものであり、特に今回は磯崎氏が社外監査役としてS社長に対する牽制機能を果たしていなかったという大変厳しいものとなっているわけで、磯崎氏ら個人の社会的評価につながるものでありますから、むしろ反論すること自体を責めるのは酷にすぎると思っております。

ただ、その反論は、その内容において事実関係が良く認識できるものでなければ、さらに混乱や会社に対する誤った評価を引き出すおそれがあることに非常な留意がいります(もちろん反論のやり方や中身は、反論者個人の評価にまたつながってしまうので、相当リスクのあることで、その点について磯崎氏がリスクをしょいながら慎重に且つ誠実に対応されていることに対して、私は敬意を表するものです)。

すでに、いろいろなブログで、カブドットコム証券のガバナンスは少数株主に留意しないものとなったとか、特別調査委員会の調査報告が親銀行の意向を受けたものとなっているという論調がでております。このような影響が出る以上、投資家の判断に供することが目的であるとしても、反論も事実に即してそれを十分説明したものであるべきであることは、反論の影響度も考えれば当然でしょう。事実の明確な、かつ十分な説明をしない抽象的な表現は、逆にミスリードしてしまう危険があります。

この点について、磯崎氏は慎重に筆をはこびながらも、「親銀行の事件発覚後の管理・監督が強まる過程で経営の透明性が失われ、少数株主の利害を考慮すべき社外取締役の職責をはたすことことが難しい状況になった」という説明をされており、私はこの説明が不明確で不十分ではないかと考えております。

いそざきブログを精読すると、①独立社外取締役であった磯崎氏と佐藤弁護士が社外の危機対応専門の弁護士チームの支援をうけながら調査を進めていた、②それにもかかわらず親銀行の意向によって別の特別調査委員会設置が求められた、③特別調査委員会報告書の磯崎氏や佐藤弁護士の評価につながる事実認定には疑問があるし評価にも異論がある、④特別委員会調査報告書は他の社外取締役には一切触れていない、と説明されております。

ここで投資家が知りたいのは、社外取締役を中心とする社内調査委員会が調査を行っているにもかかわらず、なぜ特別調査委員会が必要とされたか、なのではないでしょうか。

私の経験では、臨店検査中やその後の検査講評でSESCの事件の実態の認識や原因及び事件に関わった役職員の評価が会社側に伝えられますが、その場合に会社側の認識とSESCの認識が相当ずれている場合には、会社側の認識不足として当局の処分が大変重くなる傾向があります。特に、本件のように社長自らが関与している場合、あるいは情報管理態勢が問題とされているケースにおいては、経営陣の当該事件に対する認識は、検査当局との認識と食い違う可能性があり、それが調整ができないまま最後まで行くと、行政処分が厳格化するリスクをとらなければならなくなります。

とりわけ取締役の牽制機能についての認識に隔たりがあった場合には、検査当局との臨店検査・オフサイト検査の対話の中でその差を埋める必要がありますが、その時間は限られており、いちど固まった検査官の見方を覆すことは大変難しいものがあります。

また行政処分は当該対象会社だけでなく、関係するグループ会社にも多大の影響を与えます。機関投資家の中には、子会社・兄弟会社が金融庁から処分を受けた場合でも業務改善命令が解除されるまで取引を中止するというところが多数あり、行政処分をいかに軽くするか、業務改善命令を早く解除してもらうかがビジネス遂行上の重要課題になります。

そのためには、会社側が客観的に事態を認識しているという証憑を示さなければなりません。普通は社内調査委員会の報告となるのですが、本件ではそれではなく、わざわざ特別調査委員会と判断された事情がどこにあったのかが不明です。

もし社外取締役を中心とした社内調査委員会の認識が、SESCの認識と相当ずれていたという事情があり、あるいは社内調査委員会の構成や調査方法について特に意見があった場合などは、会社が特に独立調査委員会の設置をする必要があると判断することは、むしろ納得のいくことです。

つまり、当局と会社とのコーポレートガバナンスや情報管理態勢の状況に関する評価のちがいや社内調査委員会では足りないとされる事情があり、評価のずれを解決するため、独立性の強い社外の特別調査委員会をあえて発足させて社内調査をさせ、その調査方法が公正・客観的なもので、その結果が当局側の認識に近いものがでたということがここでおきたことであるならば、会社としては特別調査委員会の意見に従って改善を行うことが、会社のリスクを低めることにつながります。このような行動を取締役会が決定することは、合理的な行動でしょう。磯崎氏のご説明とはまったく違う話となるわけで、はたしてどうなのかが投資家としてはもっとも理解したいところなのではないでしょうか。

以上のとおり、特別調査委員会が設置された事情があきらかになるかどうかは、投資家の会社のガバナンスの状況についての理解に大きな影響を与えるでしょう。

本日の時間も尽きてしまいましたので、明日以後またアップさせていただきます。(17時5分 慎重を期してアップしたつもりですが、磯崎氏の辞任の意図について不正確な表示をしておりましたので修正しました。)

2009年9月 3日 (木)

カブドットコム証券特別調査委員会報告V前社外取締役の反論(その1)

カブドットコム証券取締役であった磯崎哲也氏のブログに掲載されている同社の特別調査委員会に対する反論がすでにTOSHI先生のブログを初めとして、ネット論壇で話題になっています。

TOSHI先生のブログに私は少し書き込みをしましたが、この前社外取締役の特別調査委員会への反論への公正な評価は、5月22日にカブ・ドットコム証券に提出され、課徴金納付命令が発出されたあとである7月28日に一般に公開された特別調査委員会報告書に対する公正な評価につながるであろうこと、ネット論壇の特別調査委員会報告書に対する疑問ともとれるトーンには異議があることから、このトピックを取り上げることにしました。

もう少し補足すると、磯崎氏の反論に対して、特別調査委員会は依頼者に対する守秘義務の観点から再反論を加えられないポジションにあります。磯崎氏の反論は、非常に慎重に書かれていますが、ボトムラインは特別調査委員会報告書は数々の誤解を招きかねないものであるというものであって、その反論内容に照らせば、特別委調査委員会の事実認定及び評価が誤っているものと論難するものであります。

このブログでも「社外調査委員会の調査のあり方」を取り上げておりますし、マスコミのトーンも社外調査委員会の調査に疑問符をつけるようなトーンもあって、あたかもカブドットコム証券特別調査委員会調査報告書がそのようなもののひとつであるかのようないくつかのブログの表現をみまして、はたしてそのような印象をあたえることは公正なことであろうか、という疑問がおこりました。

磯崎氏の反論は大変勇気あるものであって、反論をしたことによるリスクも考えて相当慎重に書かれていると思いますが、会社の内部にいた前社外取締役が特別調査委員会の調査結果の認定結果に異議を申し立てたわけですから、双方の主張がどの程度筋の通ったものかが検討されることは、当然予想されてしかるべきですし、そう覚悟されていると思います。

私は、特別調査委員会報告書と磯崎氏の反論内容について、金融商品取引業者・銀行・保険業のコンプライアンス・内部統制を長年にわたって取り扱ってきた私の知識・経験に照らして、第三者としての立場から公正に評価し論評したいと思います。また、社外調査委員会の報告書の信憑性には一般的に疑問ありとするような根拠のない風潮が広まることがないように、冷静に評価すべきことを、この時期であるので特に申し述べるために、このエントリーを書きます。かなり長くなりそうですので、数日にわたりエントリーがつづくことになると思います。

1.磯崎氏の第1点「親会社と少数株主の利益の考慮」について

磯崎氏は社外取締役辞任の理由を、「親会社と少数株主の利益の考慮」であるとしています。その内容は、不祥事発覚後の親銀行の管理・監督が強まるなかで「個々の取締役や執行役が、本当に個人で納得してそう考えているのか、それとも親銀行の意向を代弁してそう発言しているのか」を判断しかねることが多くなってきたし、最終的には多数決で決議が行われてしまうので辞任するというものです。

磯崎氏の主張は、少数株主の利益を代弁する社外取締役の意見を聞くような環境がなくなったという言い方であって、もしそうであるとすると、金融庁としては統制環境が別の意味で悪くなったという評価になり、業務改善命令下の改善計画の評価の上で考慮されることになります。つまり、そのようなことを社外取締役であった者が主張することは、会社に一定のリスクを生じさせるおそれがあります。

しかし、それがどのような事態をさしているのか、ブログには説明が十分なされているとはいえず、これだけでは良くわかりません。

ただ、SESCの特別検査が開始されたのが平成21年3月17日、金融庁へ課徴金納付命令の勧告がなされたのが平成21年6月5日で、特別調査委員会が平成21年7月28日ですから、その間はわずか4ヶ月です。取締役会の回数にすれば、5回くらいがせいぜいでしょうか。

そもそも、SESCの特別調査は無予告で突然着手されます。本件でもおそらくそうであったと思います。また、調査期間中はそれに対する協力と対応がめいっぱいであって、親銀行といえども手をとてもだせる状況にはないと思われます。SESCの特別検査でしかもインサイダー取引疑惑であるならば、もしそれが真実であったら大変なことになるわけですから、他のすべての業務を差し置いて、事実調査に全面協力するしかなく、従業員の規模が100名を切っているカブドットコム証券の特に管理職にはたいへんな時間がかかったものと思われます。親銀行がつべこべ指示をだしてもそれを聞いているような時間などありませんし、へんな指示をだして実行すれば検査忌避につながるリスクがあり、とてもそんなことをできる状況ではないと思われます。

また、特別調査委員会の調査は、平成21年5月22日から開始されていますが、これはSESCの臨店検査が終了した後であると思われます。ここからまた全従業員が調査対応をしなければならず、調査完了まで親銀行がつべこべ口を突っ込むような環境にあったとはとても想像しにくいです。

これ等の事情からすれば、磯崎氏が主張するような個々の取締役の変化がおこったとすれば、6月以降のわずか2回くらいの取締役会ではなかったかと想像されます。このうちの1回は、磯崎氏が社外取締役として十分な牽制機能を果たせていたかどうかという調査報告書の公表を決議したものと思われます。

こういう事情及び想定に照らすと、磯崎氏のこの第一の反論は、「インサイダー取引防止態勢、株取引管理態勢、内部監査態勢、社内研修態勢について脆弱」、「統制環境が問題」、またそういう問題を背景としながら「インサイダー取引のきっかけとなるメールを出してしまったS社長を牽制すべき社外取締役として牽制機能をはたしていなかった」と断定した特別調査委員会報告書を、外部に発表するとした取締役会の決議に向けられているように思えます。

つまり端的にいえば、発表するという決議が親銀行の意向であって、それに対する不満から辞任したという印象をぬぐえません。

しかし、特別調査委員会報告書の公表が、少数株主の利益に反するものであるということも論じられているわけでもなく、ことさらに少数株主の利益を代表する社外取締役の意見が封じられたかのような印象を残す書き振りはいかがなものかと思います。しかも、磯崎氏の反論が反響を呼んでいるのは、少数株主の利益を代弁する社外取締役の意見が封じられるような環境になったということを暗示する氏の主張なのですから、磯崎氏は、この点についてもう少しはっきりと説明すべきではないでしょうか。すくなくとも、ここまで主張した以上は説明責任があると思います。

もっとも、特別調査委員会の事実誤認があって、そのような報告書が発表されれば少数株主の利益の保護の観点から問題であるということであれば、磯崎反論の第1点はもう少し説得性がますことになります。これは、特別調査委員会の認定事実と磯崎氏の調査報告書の反論の評価にかかることになります。  (続く)

2009年9月 1日 (火)

社外取締役の割合は企業価値に寄与しているか

「どこから読んでも中京大中京(ちがう)」のおかげでアクセスが増えていることを発見しました。おおすぎ先生ありがとうございます。そして明日の研究会、よろしくお願いします!

ところで、日本内部統制学会が終了した翌日、私用で九州・大分に飛び、日豊本線に揺られてとある小都市に行きましたが、その道すがら、旬刊商事法務2009年8月25日号を読みました。ここに掲載されている論文を読まず、10月12日の日本私法学会シンポジウムに行かなかったとすると、コーポレート・ガバナンスを語れなくなるかもしれません。

今回の論文は、上記シンポの資料ですが、そのトピックは、ずばり会社法の実証研究です。たとえば、「社外取締役を設置することは企業価値を高めるというのは本当か」、「買収防衛策とはまがいもので実は株式持ち合いの復活ではないか」、というトピックに興味があったら、絶対読まれることをお勧めします。

田中亘先生が、会社法における実証研究の意義について、例によってわかりやすくかつ隙のない解説をされています。田中先生とは、とある研究会でご一緒させていただいたことがありますが、やや甲高い声で理路整然とご意見を述べられた姿に「鋭い方だなあ」と思っておりましたが、この論文も、会社法学における実証的研究の重要性をすきなく説かれております。

田中論文は、たとえば①上場会社における社外取締役の選任は経営監視機能強化に有益である、②それにもかかわらず、上場会社は社外取締役を選任していない場合がある、③その結果、社外取締役を選任していない会社の中には、有益であるにもかかわらず、選任していない会社が多いと予想される、④そのため、法が社外取締役設置を強制した場合には、そのことによる便益の総和のほうがそれによって生じる費用の総和を上回る可能性が高い、という主張について、①~④すべてに事実の認識ないし予測が含まれており、社外取締役強制設置ルールが経営監視機能の強化という目的に資するという価値実現に本当に役立つのかについては、実証研究が不可欠と説かれています。それだけでなく、実証と推論の関係、推測統計の会社法学にとっての重要性と留意点についてもしっかりと解説されています。

こうした問題意識から、異例なことに、私法学会のシンポの研究報告は、田中先生のほかに実証研究系の4人の経済学者が報告をすることになっており、その報告の資料がこの商事法務の号に満載されているわけです。

私はまだ、全部読み切れていませんが、内田交謹九大准教授の「取締役会構成変化の決定要因と企業パフォーマンスへの影響」をゆれる電車の中でけっこう興奮しながら読みました。この論文のテーマは、近年の取締役会規模縮小や社外取締役導入が株主価値に好ましい影響を与えたのかを明らかにすることです。

その分析結果は読んでからのお楽しみとさせていただくとして、先行する海外の研究では取締役に占める社外(独立)取締役の割合が企業価値に正の影響を与えるという結果は得られていないという驚きの報告がなされています。また海外の最近の研究では、社外取締役は外部者であるために情報の非対称性の問題に直面しており、企業は企業規模によって最適な社外(独立)取締役割合を選択している(多くの専門的アドバイスを必要とする複雑な企業は社外(独立)取締役を多くする)が、成長機会の豊富な企業では情報の非対称性が深刻であるため社外(独立)取締役は限定的な機能しか果たせない、あるいは、成長機会と社外取締役の間に負の関係がある、としていると報告されています。

どうですか。これだけ頭出しするだけで、読みたくて読みたくてうずうずしませんか。

その他の3人の経済学者のテーマも、「増資決議時の株主市場の反応とMSCB発行動機に関する実証研究」、「TOB(公開買付け)と少数株主利益」、「買収防衛策イン・ザ・シャドー・オブ株式持合い」とずらっとならんでおり、シンポで発表される実証研究の成果は、今後の実務に影響を及ぼしそうな予感が強くします。

10月12日月曜日は連休の最終日ですが、これはシンポに行く価値が大いにありそうです。

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