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2009年8月21日 (金)

監査役と監査人との連携

日本監査役協会と日本公認会計士協会が「監査役若しくは監査役会又は監査委員会と監査人との連携に関する共同研究報告」を発表しています。この報告は、監査役と監査法人の連携の方法、時期及び情報・意見交換事項をとてもよくまとめており、実務上参考になるのでご紹介します。

まず報告書は、監査役と監査人との連携に関する実定法上の条文を指摘しています。読んでみると、なるほどこんなにしっかり規定されているんだなと感心します。

ます、会社法397条1項2項では、会計監査人が取締役の職務執行に関し不正の行為又は法令もしくは定款に違反する重大な事実を発見したときは、遅滞なく監査役に報告する義務と、監査役がその職務執行に必要なときに会計監査人に監査に関する報告を求めることができると規定しています。

金商法193条の3、財務諸表等の監査証明に関する内閣府令7条では、公認会計士又は監査法人が特定発行者における法令違反その他の財務計算に関する書類の適正性の確保に影響を及ぼすおそれがある事実を発見したときは、当該事実の内容及び当該事実に係る法令違反の是正その他の適切な措置をとるべき旨を、監査役に書面で通知しなければならないとされています。

こうして報告された取締役の不正行為や法令・定款違反の事実は監査役が取締役に報告する義務があるので(会社法382条)、監査役から取締役会に報告されることになります。

内部統制報告制度においても、財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準で、監査人が発見した重要な欠陥の内容及び是正欠陥を監査役等に報告すること、監査人が内部統制監査の実施において不正又は法令違反を発見したときは、監査役等に報告して適切な対応を求めること、監査人は効果的・効率的監査を実施するため監査役等との提携の範囲を決定すべきこととされています。

なお報告書の冒頭では、平成17年の開示府令の改正で、有報の「コーポレート・ガバナンスの状況」の記載の一部として監査役等と監査人との相互連携の記載が義務付けられたとしています。確かに、開示府令第三号様式・第二号様式の「コーポレート・ガバナンスの状況」の記載上の注意には、「内部監査及び監査役監査及び会計監査の相互連携について具体的に、かつ、分かりやすく記載すること」とされています。この規定も重要です。

ただし、こうした規定を見ると、監査法人から監査役に何かするという方向で書かれているばかりで、監査役からは監査人に何を情報として提供するかが明確でありません。監査役が機能を十分発揮していない会社では、監査役が不正行為の可能性・兆候や法令違反等の可能性・兆候に気づいても監査人にいわないということが不祥事事例からみるとありうるし、現実にもそういうことが発生しているのではないかと思われるのですが、実はその背景には、監査役から監査人に何か求める、あるいは監査人が監査役に義務を負うという一方通行の規定しかないこともあるように感じます。

そういう観点から、この報告書が監査人に対して監査役が何をすべきかという項目を整理している点に重要性があると思います。具体的には、以下の諸点です。

まず、監査人から監査役に法令違反等の事実、重要な欠陥の内容及びその是正結果、不正行為が報告されたときの監査役の対応を、情報・意見交換すべき事項として例示しました。この基準はベスト・プラクティスとして監査役及び監査法人にぜひ使ってほしいところです。

さらに、監査役が監査人の監査に影響を及ぼすと判断した以下の6項目の事項を情報交換すべきとしている点です。

① 経営環境の変化、業務執行方針・組織の変更、その他監査役が監査の過程で把握した情報

② 監査役が発見した不正、誤謬若しくは違法行為またはそれらの兆候

③ 監査役が監査の過程で改善が必要と判断した事項

④ 監査人からの照会に対する取締役会での議論の内容や、代表取締役などの経営トップと監査役等の意見交換の内容

⑤ 監査役の往査結果等

⑥ 監査役等が注視している、監査人が必要な監査情報を入手できる監査環境の整備状況

監査役が把握している経営陣にとって不利な情報を会計監査人に意図的に話さないということは想定外というトーンですね。当たり前なのですが、とかく監査役でもこれを会計監査人に話すといろいろ面倒になるかも、と気にして話さないことはありうる話でしょう。重要でないような小さい問題を話して監査法人が気にしてことが不必要に大きくなるということも、効率性の点からみて問題であると思いますが、監査役にはどの事項をどのタイミングで話すかどうかも含めて健全な判断が求められているというべきでしょうね。

また、⑥は監査事務局の整備に関わる事項や、監査に必要な情報が届かないような状況をさしています。監査役が経営陣に対して法廷闘争に踏み切る場合には、結構重要なのではないでしょうか。そういう場合には、監査役に対する会社の協力が一切止まってしまうのが通例のようなので、監査情報の遮断がおこります。そういう場合には、情報遮断されているという事態が、監査法人において全社統制の観点から問題があると判断されることにつながりうるということになるのではないでしょうか。つまり、内部統制報告監査や財務諸表監査の前提となる内部統制評価に関係することとなるでしょう。うまく考えられているなと感心します。

≪2009年8月23日追記≫

⑥の文言を読み直してみますと、「監査役等が注視している」と「監査人が必要な監査情報を入手できる監査環境の整備状況」の間に句読点が打たれているので、監査人の監査について必要な情報を入手するのに障害となっているような環境があって、そのことを監査役等が気づいており、それを監査人に話すということを想定しているように読めます。平成17年に共同研究報告が発表されて以来この部分は改定されていないようなので、特に経営陣と対立している監査役がその状況を監査人に話すということを想定している規定ではないようです。本文に「うまく考えられているな」といったのは、的外れだと考えを改めました。この規定は、素直に読むと、監査人が情報が十分入ってきていないのに気づいていないことを前提に書かれているように思いますが、たしかに当然監査人にも話されてしかるべきことが話されていないということがあって、それを話すように執行側に確認することもありますし、監査人が知っているかどうかチェックすることもありうるでしょう。

そうすると、監査役と経営陣が完全対立してしまっているような状況の場合に、監査役がそのことを監査人に話して、監査人が会計監査、内部統制報告監査に反映させるということはどのように考えるべきなのでしょうか。この点は、別のエントリーで考えてみたいと思います。

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