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2009年8月20日 (木)

株の持ち合いと大量保有報告書の不提出に対する課徴金制度

課徴金制度が見直されて、大量保有報告書・変更報告書の不提出についても、発行会社の時価総額の10万分の1(正確には、大量保有報告の対象となる株券等の発行者が発行する株券の提出期限の翌日の最終価格に、当該翌日における発行済み株式を乗じた額に10万分の1を乗じた額)の課徴金を課すことができるようになったことが、本年初め頃に話題となっていました。

これについては、当初は、自己勘定取引やファンド運用などに従事して大量保有報告を行わなければならない機会が多い証券会社、信託銀行、投資運用会社などでずいぶんと関心をよんでいたようでしたが、課徴金制裁事例が一向にあらわれないので、今は関心もだんだん薄れてきているように思われます。

しかし、それはエンフォースメントが活発でなかったからだろうと想像しています。大量保有報告がちゃんと提出されているかどうかを監視するのは難しいし、また市場取引の公正性や開示書類に虚偽記載がないかどうかに目を光らせている証券取引等監視委員会の市場分析審査課、課徴金・開示検査課も、今の仕事で目いっぱいなのではないかと思われるからです。だから課徴金制裁事例は当分あらわれないのではないかと考えておりました。

しかし、ちょっとこの見方をかえる必要がでてきました。私は不動産投資ファンドに対する検査とコンプライアンス」という題で7月末にセミナーを行いましたが、そのときの準備で平成21年度証券検査方針などの資料を読んでいくうちに、日本証券投資顧問業協会における本年度の講演で、西原政雄証券取引等監視委員会事務局長が投資運用業者、投資助言・代理業者の検査の重点として、大量保有報告書の不提出をあげていることに気づたからです。

手法としては、これら業者の検査で運用資産の銘柄と保有数の変化を追いかけていって、大量保有報告がちゃんとでているかどうかをチェックすることになると思われます。業者も業者に運用を委託している者も、金商法27条の23第1項の「保有者」に該当するかどうかで報告義務があるかどうかが分かれてきます。

「保有者」には、①株券等の引渡請求権を有する者(株券等の買付約定を行い株券等の引渡しを受けていない者や信用取引により買付けを行っている者、株券等の売買の予約をおこなっている者など)、②発行会社の議決権行使権限を有する者、③投資決定権限を有する者が含まれます。

このうち、特に②と③が、特に一般事業会社に関係します。例えば、委託者が運用指図する特定金銭信託の運用として株を取得しますと、投資決定者は委託者である事業会社ですので、事業会社に大量保有報告義務があり、受託者である信託銀行には報告義務はありません。これに対して、単独運用指定金外信託(ファンドトラスト)や単独運用指定金銭信託(指定単)だと、事業活動の支配目的がある場合にのみ、委託者は議決権行使権限を有する者として報告義務があります。

株券等保有割合が5%を超える場合に、大量保有報告義務が発生します。持ち合いによる株式の取得が5%未満ならば大丈夫と即断できないところが注意点です。5%を計算するときの分母には、発行済み株式総数+自己保有分+共同保有者分が、分子には保有株券等の総数+自己保有分+共同保有者分が含まれるからです。

最近、事業会社間で株式の持ち合いが増えているようですが、特金で取得した分も自己保有分ということになりますし、上記のような保有割合の計算の法則があるので、しっかりと計算する必要があります。また、「実質共同保有者」といって共同保有の合意がある者は共同保有者としてその保有分が合算されます。その意思がある場合として、安定株主工作のため、複数の株主に対し経営陣を支持する目的での株の取得を依頼した場合が含まれており、持ち合いの目的の事実認定によっては実質共同保有者になってしまう可能性があるので、例えば買収防衛策も兼ねた事業提携のような場合には微妙なところがでてきます。

直感的にいうと、未提出に対してすぐ課徴金制裁をするような運用を行うとは思えないのですが、条文上は「課徴金を国庫に納付することを命じなければならない」(金商法172条の7)という制裁を義務付ける書き方になっているので、やはり気にかかりますね。

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