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2009年8月に作成された記事

2009年8月31日 (月)

日本内部統制研究学会年次大会で思ったこと

先週土曜日の朝一番の新幹線で神戸に行って、日本内部統制研究学会年次大会に出席しました。TOSHI先生もブログに書いている通り、非常に参考になる報告がたくさんなされまして、とても勉強になりました(TOSHI先生、立ち話でしたがお話できどうもありがとうございました)。その中で、特に感じたことを忘れないうちに書き留めておきたいと思います。

それは、①IFRSと内部統制の関係についての金融庁担当官の解説、②日経新聞コラム「大機・小機」2009年8月28日記事について、③K先生のM&Aと内部統制について触れられた発言について、の3点です。

まず①についてはTOSHI先生のブログにも少し解説されていますが、IFRSの勉強がまったくおいついていない私としては「こりゃもっと勉強しないとまずい」、と思わざるをえない情報でした。IFRSについては企業会計審議会から「我が国における国際会計基準の取り扱いに関する意見書(中間報告)」が6月30日に出されていますが、それによれば、2010年3月期の年度の財務諸表の財務諸表から任意適用を認め、2012年度をめどに状況を見て強制適用するかどうかを決めるが、強制適用する場合は3年の準備期間を経て2015年または2016年に適用開始することとする、と報告されています。

金融庁のNさんの解説によりますと、IFRSの任意適用が可能な企業については、内閣府令案でIFRS準拠の財務報告を行うことについて適切な体制を整備している企業に限定することが要件となっており、社内マニュアルの整備、教育、人員配置等の体制整備について有価証券報告書で開示すべきこととされていること、IFRSはプリンシプル・ベースを基本とし企業自らがどのような基準が適切かを判断して採用するという考え方であるので、内部統制が整備されることがますます必要かつ重要となってくるであろう、ということでした。

具体的にはどういう整備をすべきなのかを勉強しないと、監査役としてもやっていけないと思いまして、導入が近づいてから (´Д`;≡;´Д`)アワアワ という状態にならないために、しっかり準備しなければと強く感じました。

②についてです。大機・小機の「上場コストの上昇を憂う」という記事の中身は、内部統制はコスト増に見合った効果を生まない「屋上屋」を築くような制度であって、早急な見直しをすべきという主張なのですが、その根拠が内部統制システムに欠陥ありとの監査報告がでた会社に対して金融庁が罰を与えたということはなく「これは金融庁が制度の欠陥を認めている証拠ではないか。」というものでした

この記事は複数の報告者によって指摘され、記事の根拠が紹介されると会場には苦笑が広がったのでした。もちろん、この記事を書いた方が内部統制報告制度というものを理解していないということが、あまりにも明らかだったためと解釈しております。したがって、記者にはもう少し勉強してもらいたいというトーンで皆さん発言されておりまして、私もそう思いました。

新潮社事件でマスコミの内部統制が裁判で問題になっておりますが、この事件の判決は極端としても、倫理として、日本新聞協会の新聞倫理綱領には以下の節があることをこの記事を書いた記者猪突さん(たしか私が批判した6月11日のコラムもこの方が執筆したものだったのでは?)にもう一度思い出していただきたいものです。

「正確と公正 新聞は歴史の記録者であり、記者の任務は真実の追究である。報道は正確かつ公正でなければならず、記者個人の立場や信条に左右されてはならない。論評は世におもねらず、所信を貫くべきである。」

論評の前に、正確かつ公正な制度の理解や実態の認識が必要なことは他言を要しません。

さはさりながら、この記事の論点である内部統制報告制度の成果とコストの見合いは重要な論点です。学会では研究部会が「内部統制報告制度に関する実態調査と実証研究」で報告されました。

その一つとして、内部統制関連セミナーにおいて実施したアンケート調査がレポートされました。詳細はやがて学会機関紙で報告されると思いますが、それによると制度導入により管理体制が強化されたと思うと回答した被監査会社が74.1%、監査法人が同じく74.1%あったというレポートがあったということ、デメリットとして監査報酬が上昇したという回答が76.5%、管理費用が増加したという回答が43.9%あったということをご紹介しておきます。

③についてです。これは報告者の一人である著名なコンサルタントのK先生がご指摘されたことなのですが、M&Aが水面下で動いており、提携後や合併後に一方が他方に飲み込まれないためにも、しっかりした内部統制が重要なのではないか、という発言が非常に耳に残ったのでした。

私自身、チェースのJPモルガンの買収と統合を従業員として経験しており、苦い思い出が多いのですが、冷静に振り返ってみると、しっかりした管理体制をもったものが主導権を握る可能性が大きいというのは本当であると思います。個人の体験例をあげれば、当時のJPモルガンのオペレーショナル・リスク管理体制のなかで、各リスクをリスクマトリックスにまとめて、その対応状況ごとに緑、黄色、赤に示して一目瞭然にするという手法があったのですが、それ自体は優れたアイデアであったと思います。JPモルガンのオペレーショナル・リスク部隊が、組織再編の主導権を握ったのは偶然ではなく、そういう体制が確立していたことが一つの要因になったと思います。

以上、備忘録として残しました。

2009年8月28日 (金)

日本内部統制研究学会年次大会にむけて

このところアクセスが急増し、このブログもだいぶ人気でてきたな~と思っていましたら、幻想でした。( ̄Д ̄;;

TOSHI先生のブログにこのブログの記事が紹介されたためのアクセス急増だとわかりました。「ビジネス法務の部屋」、ほんとに人気があるんですね。せっかくきていただいた皆さん、時々のぞいてください。もっともTOSHI先生のような驚異のアップ率達成はできないと思いますが、宜しくお願いします。 o(_ _)oペコッ

さて、明日、神戸の甲南大学で、日本内部統制研究学会第二回年次大会が開催されることになっています。私も朝一番の新幹線にのって神戸入りする予定です。(実は私、司法修習は神戸修習で、甲南大学のある阪急岡本駅の隣、阪急御影駅からえっちらおっちら登って渦ヶ森団地の近くに1年4ヶ月すんでいたので、とても懐かしい地でもあります。)

企業会計9月号が学会に向けてのプレリュードとも言うべき内部統制の特集を組んでおります。どの記事も興味深いのですが、その中で、公認会計士の住田清芽先生が書かれた「金融商品取引法に基づく内部統制評価及び監査の1年目の結果について」という論文をとても興味をもって読みました。

論文は、①内部統制報告書の全体的な記載状況、②重要な欠陥の記載、③やむをえない事情による範囲制限、④評価結果不表明の場合の記載、⑤後発事象の記載、⑥特記事項の記載の各項目について、次年度へのよりよい開示に向けての検討を行っております。

①では、全社的な内部統制の評価範囲について、重要性により評価範囲に含めない子会社があるときは、含めていない社数を表示している文例について、評価対象から除外した社の数のほうが多い場合はかえってミスリーディングになる懸念があるから、社数の記載に代えて、連結売上高や連結総資産、あるいは連結人利益にあたえる影響割合等で示すのが期間比較、会社間比較を容易にする方法ではないかと提言されています。

また、業績悪化により重要な事業拠点の選定指標が一定の割合に達しない場合、計画段階で適切に評価範囲を決定しているならば、全社的な内部統制が有効であることを前提として、一定割合を著しく下回らない限りにおいて評価範囲を追加する必要がないとした金融庁Q&A問74の論点についてふれています。

住田先生は、評価範囲の検討時期が第1四半期から第2四半期前半の間になるので、必然的に全事業年度の決算数値を元に金額的な側面からの検討が行われる現実を認められつつ、「制度が要求しているのは、あくまで当事業年度末の内部統制の有効性に関する評価であるため、当期の実績数値による検証は本来的に必要であると思われる。」と指摘し、「実際、実績数値においても計画どおり一定割合に達している場合も選定方針のみの記載にとどまる会社が多かったと思われ、実態がかえってわかりにくなってしまった感もある」といっておられます。計画時の選定方針とともに、実績値での検証をじっししている旨を合わせて記載している会社や、当事業年度の売上に基づき算定した会社もあったとして、より明瞭な記載が必要と指摘しています。

私も以前、業績の悪化と内部統制報告で金融庁Q&A問74について、くわしく論じております。私は、業績の変動により本来重要拠点として加えるべき場合がでたときは対象に加えて、評価できないときはやむを得ない事情として評価できなかったと記載するという考え方がなりたつと指摘しました。住田先生の当期の実績数値による検証は本来的に必要であるという指摘は、検証した結果、評価範囲に本来加えるべき重要拠点がでてしまったときにどうするのかという点についてはふれられておらず、この点について踏み込んだご意見をぜひうかがいたかったなと思いました。

②については、是正措置の記載について、今年度の開示例では、進行中の是正措置が付記事項に記載されている会社と、評価結果に関する事項に記載されている例があったようです。この点について住田先生は、「是正措置の進捗状況を端的に理解できるようにすることを重視するのであれば、比較可能性の向上のために、どういう状況になった場合に付記事項にするのか、また、1つの重要な欠陥に対して部分的な対応しかできていない場合の記載上の取扱いなども、今後整理すべきではないかと思われる。」と指摘されております。

この点も以前のブログの記事で、是正措置の開示の考え方にふれました。比較可能性の向上という観点から整理するという見方もあるでしょうが、内部統制報告制度の最終目的が内部統制を整備してもらうことにあることから考えて、ご指摘の論点はぜひ検討すべきであると思います。

このほか、ご紹介したい指摘もありますが、昼休み時間も全部使ってしまいましたので、この辺でやめておきます。

2009年8月25日 (火)

金融検査の第三者評価機関構想

昨日の日経朝刊第一面に、金融庁が外部の有識者で構成する第三者機関を新設して、金融庁が実施する金融機関への検査を評価・検証する手法を導入すると報道されています。

金融庁が行う検査といえば、預金預入れ機関に対する検査、保険会社に対する検査が頭にうかびます。金融庁が証券取引等監視委員会に委託している金融商品取引業者、投資運用業者、投資助言・代理業者への証券検査もはいるかどうかは記事からは明らかではありませんが、区別すべき理由はないので、おそらく証券検査も対象になるのでしょう。

第三者機関が何をするかについては、個別の金融機関に対する検査結果を開示するのではなく、どのような方針や体制で臨んだのかなど、一般内容を報告する方向で検討するとしています。しかし、一般内容の評価ってなんでしょうか。方針とか、検査体制だけで、どうやって検査の評価・検証なんでできるんでしょうか。

そもそもこのような第三者機関を設置する目的はどこにあるのでしょうか?報道では行政の独善に陥らない検査体制作りということですが、そうであるならば、個別・具体的な検査の検証にふみこまないで、どうやってその目的を達成できるのか、わかりません。

私個人の考えを申し上げますと、行政の独善に陥らない検査というならば、検査現場で行われている規制法規の行政解釈のチェックは、不可欠であると思います。日本ほど、規制法規の解釈が法廷の場で争われない国はないでしょう。これについてはすでに意見具申制度や異議申立制度が形式的には定められています。まったくといっていいほど機能していないといわざるを得ない現状ですので、別の手続で行政解釈が恣意に流れていないかどうかを評価する意味はあると思います。

特に個人的には、銀行法の解釈は変遷が著しく、硬直的であり、問題が大きい分野であると思っております。経験的に申し上げれば、検査において検査官が銀行法解釈について最も杓子定規的な対応をとるのが銀行法の解釈や「適正な体制」という中身の解釈なのではないかと思っておりますが、現場をあずかる検査官の立場を考えますと、それは検査官の後ろで解釈を確定しているバックオフィスや監督局や企画局にいるキャリアの方々の解釈が、とかく硬直的に陥りやすい傾向にあるからだと思っております。銀行法は条文数が少ない法律で、その運用は明文ではなく長い間の金融行政にのってきており、時代に後れやすく、また、そのときの行政担当者の解釈によって振幅が大きく出やすい分野です。こういう分野は、プリンシプル・ベースの前に、もっとルールベース化がもっと必要ではないかと思います。

ちゃんと第三者による評価をするならば、異議申立事例も射程距離において、検証するような体制をつくるべきでしょう。そうでなければ税金の無駄です。意味のない仕事を役所のなかで増やすのも、ただでさえ忙しい金融庁・証券取引等監視委員会の方々の事務量を無意味に膨らますことになります。

また、金融庁はとかく政治家、特に時の金融庁担当大臣の意向で大揺れになる傾向があります。与謝野さんが大臣だったときの、ジェイコム株の誤発注で、空白の数分を猟犬の本能で注文をだしたトレーダーたち(それこそが彼等の仕事なのです)を「美しくない」といって各社に利益を吐き出させようとしたことなど記憶に新しいところです。役所の体質としては、大臣がいいだしたら役人としては止めようがないということなのでしょう。金融政策は時の政治権力ともある程度の距離を置かないと、間違った方向にながれてしまいがちです。ルールのトランスペアレンシーという観念を政治家の皆さん、あまり気にされないので本当に困りますが、そのことによって我が国の金融政策の信頼性が外国においてどれくらい傷ついているのか、知るべきでしょう。

以上、つらつら考えると、わからないことが多いのですが、第三者評価機関の構想は、もう少し、どんなことを考えているのか聞いてみないと、意味のあることなのかどうかの判断がつきませんので、この辺で筆をおいておきます。

2009年8月24日 (月)

社外調査委員会の調査のあり方

今朝の日経新聞法務面に「不祥事企業の調査報告書 客観性揺れる社外委員会」という記事がでました。これは今年7月10日に朝日新聞が掲載した「企業のウソ上塗り-不正会計「第三者委」の調査ずさん」という記事と、同じトピックを取り上げたものです。

朝日の記事を書いた記者は社会部の記者のようで、弁護士が関与した調査報告書に「ウソ」がある事例がみつかると非常にセンセーショナルに書いていますし、弁護士があたかも経営陣に加担し、事実を隠蔽するのに協力しているという印象をうける表題をつけています。記事の中身を読むと、実はそうではなく、会社側がうそをついているとちゃんと書いていますが、まじめにやっている弁護士が圧倒的多数なのに、もう少し記事の表題やトーンに考慮してもらいたいと、正直、思いました。これに比べると、日経の記事は格段にバランスのとれたものとなっていると思います。

さはさりながら、朝日の記事も日経の記事も、弁護士にとっては昔からある問題を提起しているのです。つまり、企業からこのような調査を依頼されたときに、弁護士の依頼者とは誰なのか、その場合に弁護士が依拠すべき準則とはなにか、という問題です。

私の記憶によると、会社の支配権争いにからんで、そのときの代表取締役から企業の適切な対応を依頼され、企業のためにアドバイスをしていた弁護士が、取締役会で勢力が逆転し、代表取締役の座を追われた当該代表取締役の不祥事について継続して責任追及を行ったことに対して、会社を追われた代表取締役から懲戒請求をされた事例があったように思います。私が弁護士になる直前に発生した事件でした。

ポイントとなったのは、依頼者は誰だったのかという論点で、企業自体が依頼者であるならば、企業の利益を守るため、直接の依頼をしたのが当該代表取締役であってもその者が依頼者ではないから問題ではない、という論理を懲戒請求された弁護士は主張したのでした。所属会の懲戒委員会の結論は懲戒相当でしたが、当該弁護士の主張は日弁連懲戒委員会では最終的には認められ、懲戒は不相当ということになったと記憶しています。

企業が依頼者であるという論理は正しいと思いますし、調査委員会に入る弁護士はだれでも企業が依頼者であるということを明確に意識しています。コンサルタントの秋山進氏が実質的依頼者がちがうという指摘をして、それによって弁護士が関与する委員会は問題を正当視する傾向があると評価していますが、しかし真の問題はそこにあるのではなく、何がそうさせているのかにあるわけです。

不祥事調査の難しさは、日経の記事における鳥飼重和先生の「外部調査委は任意の調査しかできない。会社側の全面的な協力がなければ成果をあげることは難しい」というコメントに端的に言い表されていると思います。社内弁護士としての経験からいうと、不祥事調査は会社内部にいても難しいです。それを社内事情の分からない第三者に依頼するのですから、最初から情報が圧倒的に不足しているところから出発することになります。会社の全面的協力なくしては必要な情報さえあつまらず、情報が提供されなければ、何が本当の問題なのかもわからないということは当然おきます。

委員会メンバーが会社が依頼者であると意識しながらも、全貌に迫れないのは、会社側が協力をある程度のレベルでストップしてしまうからであって、委員会メンバーが手を抜いているからではありません。鳥飼先生は日経記事に紹介されているフタバ産業の特別調査委員会及び責任追及委員会のメンバーであるだけに、その言葉には非常に説得力があります。

証券取引等監視委員会のコメントも紹介されていますが、調査がいいかげんな報告書が横行しているようなことを発言しているわけではありません。私も監視委員会幹部とこの件について話しましたが、質に問題があると思われるものがあるというコメントでした。ただ、監視委員会としては、弁護士が入っている調査委が出すレポートの市場における重みに鑑みて、そのような報告書が万に一つもでては困るということをいっているのです。

独立性が強い弁護士が関与してもこういう難しさがあるのですから(昔から「先生」と呼ばれている弁護士はいうことを聞かない依頼者を切ることに大胆でもありますし、私もそういう事例を見てきました)、コンサルティング会社が不祥事調査を行ったらもっとむずかしいのではないでしょうか。

この点、国広正先生は、経営陣の姿勢が大事という点を日経の記事において正当に指摘されています。そして、ご自身がNBLの論文で発表されたとおり、①徹底した事実の解明を行うこと、②全面的な協力をすること、③経営陣を含めた責任追及があり得ることを就任の条件にすべきであると主張され、実践されています。コンサルティング会社にも見習ってほしいですし、我々も自戒すべきところです。

日弁連では、朝日新聞の記事が出たあたりから、不祥事調査のベスト・プラクティスのガイドラインが必要なのではないかという議論がなされはじめ、8月の法的サービス企画推進センター運営委員会で、その中にあるCSR内部統制プロジェクト・チームにおいて検討することをすでに決めております。(行方先生、出番です!)

しかし、企業のサイドでもこれに呼応する動きがほしいところです。不祥事があることを前提として何かルールをつくるのはやりにくいといわれるかもしれませんが、とても大事なことで、依頼を受ける側のみならず、依頼する側も整理していただきたいと思います。そうすると、とても実効性のあるものができるのではないでしょうか。

もしそれができないとなると、取引所があとで報告書が変遷するような企業についての上場廃止ルールでも定めてもらうという方向性になってしまうでしょう。なんでもかんでも上場廃止ルールというのは取引所の裁量が増えて、取引所にとっても負担過重になるのであまり好ましいこととは思えません。自主規制機関が何かしなければならないのではなく、不祥事がおこった企業においてきちっとした対応ができることが理想だからです。内部統制ってそういうことです。

2009年8月23日 (日)

8月25日札幌弁護士会での日弁連「組織内弁護士キャラバン」にご参加を!

私は弁護士会で5年間以上、組織内弁護士に関する活動をしています。その仕事の中で一番の大きなイベントは経団連、法務省等と共催した「企業経営の新しい課題と企業法務、企業内弁護士に関するシンポジウムーコンプライアンスと内部統制をめぐってー」という、2007年7月の経団連会館で500名近くの企業法務関係者を集めたシンポジウムでした。

このときは、日弁連弁護士業務総合推進センター運営委員として、企画立案、内容決定、パネリストの決定からパネルへの出席までやって、短期間で非常に大変でしたが、企業内弁護士とは何なのか、企業にどのような有用性があるのか、また弁護士の限界はどこか、という問題を検討する企業関係者多数が出席した大掛かりなシンポを成功裡に終わらせることができました。

これに引き続いて、弁護士業務総合推進センターの後継組織である日弁連法的サービス企画推進センター運営委員会委員、組織内弁護士プロジェクト・チームメンバー(PT)としてずっと活動を続けておりますが、最近2年間は、高等裁判所所在地すべてで、組織内弁護士キャラバンとして組織内弁護士の仕事とはなにか、その役割と企業・自治体にとってのメリットはなにかを紹介するミニ・シンポジウムを開催するという仕事に取り組んでいます。その目的は、前記シンポをきっかけとして、日弁連が継続的に取り組まなければならないと認識したこと、すなわち、法の支配を企業活動・行政サービスのすみずみまで浸透させる一方法としての組織内弁護士の効用をわかりやすく説明し、組織内弁護士の拡充を図っていくことにあります。

PTは昨年9月の名古屋市を皮切りに、福岡市広島市でシンポを開催し、いずれの地においても企業、弁護士、自治体、法科大学院学生、司法修習生の参加を得て成功裏に終わらせてきましたが、第4弾として8月25日に札幌市において「~組織内弁護士の活用に関する全国キャラバン~職場に弁護士がいます!-先行例にみる効用と実際ー」というミニ・シンポを開催することになりました。

北海道の企業の方々や地方自治体関係者、司法修習生、法科大学院関係者の方々の多数のご参加をお待ちしております。パネリストはいずれも現役の組織内弁護士、または組織内弁護士であった者で、北海道でこれだけの人間がそろって話が聞けるチャンスは早々ありません。おそらく2年前の札幌市における日弁連の弁護士業務改革シンポジウム第二分科会以来です(ちなみに記事にある写真に写っているマイクをもっている真ん中の人間が私、右隣が梅田康弘弁護士です。このときも日本組織内弁護士協会所属の弁護士が多数パネルに参加しました)。

また、日弁連弁護士業務改革委員会組織内弁護士PTとして、企業内弁護士の実務的・理論的問題を整理し本にするという仕事も3年越しにやってきましたが、このたびようやく本の校了も終了して、間もなく商事法務から出版されます。広告ができたらこの本のご紹介もさせていただきます。

2009年8月21日 (金)

監査役と監査人との連携

日本監査役協会と日本公認会計士協会が「監査役若しくは監査役会又は監査委員会と監査人との連携に関する共同研究報告」を発表しています。この報告は、監査役と監査法人の連携の方法、時期及び情報・意見交換事項をとてもよくまとめており、実務上参考になるのでご紹介します。

まず報告書は、監査役と監査人との連携に関する実定法上の条文を指摘しています。読んでみると、なるほどこんなにしっかり規定されているんだなと感心します。

ます、会社法397条1項2項では、会計監査人が取締役の職務執行に関し不正の行為又は法令もしくは定款に違反する重大な事実を発見したときは、遅滞なく監査役に報告する義務と、監査役がその職務執行に必要なときに会計監査人に監査に関する報告を求めることができると規定しています。

金商法193条の3、財務諸表等の監査証明に関する内閣府令7条では、公認会計士又は監査法人が特定発行者における法令違反その他の財務計算に関する書類の適正性の確保に影響を及ぼすおそれがある事実を発見したときは、当該事実の内容及び当該事実に係る法令違反の是正その他の適切な措置をとるべき旨を、監査役に書面で通知しなければならないとされています。

こうして報告された取締役の不正行為や法令・定款違反の事実は監査役が取締役に報告する義務があるので(会社法382条)、監査役から取締役会に報告されることになります。

内部統制報告制度においても、財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準で、監査人が発見した重要な欠陥の内容及び是正欠陥を監査役等に報告すること、監査人が内部統制監査の実施において不正又は法令違反を発見したときは、監査役等に報告して適切な対応を求めること、監査人は効果的・効率的監査を実施するため監査役等との提携の範囲を決定すべきこととされています。

なお報告書の冒頭では、平成17年の開示府令の改正で、有報の「コーポレート・ガバナンスの状況」の記載の一部として監査役等と監査人との相互連携の記載が義務付けられたとしています。確かに、開示府令第三号様式・第二号様式の「コーポレート・ガバナンスの状況」の記載上の注意には、「内部監査及び監査役監査及び会計監査の相互連携について具体的に、かつ、分かりやすく記載すること」とされています。この規定も重要です。

ただし、こうした規定を見ると、監査法人から監査役に何かするという方向で書かれているばかりで、監査役からは監査人に何を情報として提供するかが明確でありません。監査役が機能を十分発揮していない会社では、監査役が不正行為の可能性・兆候や法令違反等の可能性・兆候に気づいても監査人にいわないということが不祥事事例からみるとありうるし、現実にもそういうことが発生しているのではないかと思われるのですが、実はその背景には、監査役から監査人に何か求める、あるいは監査人が監査役に義務を負うという一方通行の規定しかないこともあるように感じます。

そういう観点から、この報告書が監査人に対して監査役が何をすべきかという項目を整理している点に重要性があると思います。具体的には、以下の諸点です。

まず、監査人から監査役に法令違反等の事実、重要な欠陥の内容及びその是正結果、不正行為が報告されたときの監査役の対応を、情報・意見交換すべき事項として例示しました。この基準はベスト・プラクティスとして監査役及び監査法人にぜひ使ってほしいところです。

さらに、監査役が監査人の監査に影響を及ぼすと判断した以下の6項目の事項を情報交換すべきとしている点です。

① 経営環境の変化、業務執行方針・組織の変更、その他監査役が監査の過程で把握した情報

② 監査役が発見した不正、誤謬若しくは違法行為またはそれらの兆候

③ 監査役が監査の過程で改善が必要と判断した事項

④ 監査人からの照会に対する取締役会での議論の内容や、代表取締役などの経営トップと監査役等の意見交換の内容

⑤ 監査役の往査結果等

⑥ 監査役等が注視している、監査人が必要な監査情報を入手できる監査環境の整備状況

監査役が把握している経営陣にとって不利な情報を会計監査人に意図的に話さないということは想定外というトーンですね。当たり前なのですが、とかく監査役でもこれを会計監査人に話すといろいろ面倒になるかも、と気にして話さないことはありうる話でしょう。重要でないような小さい問題を話して監査法人が気にしてことが不必要に大きくなるということも、効率性の点からみて問題であると思いますが、監査役にはどの事項をどのタイミングで話すかどうかも含めて健全な判断が求められているというべきでしょうね。

また、⑥は監査事務局の整備に関わる事項や、監査に必要な情報が届かないような状況をさしています。監査役が経営陣に対して法廷闘争に踏み切る場合には、結構重要なのではないでしょうか。そういう場合には、監査役に対する会社の協力が一切止まってしまうのが通例のようなので、監査情報の遮断がおこります。そういう場合には、情報遮断されているという事態が、監査法人において全社統制の観点から問題があると判断されることにつながりうるということになるのではないでしょうか。つまり、内部統制報告監査や財務諸表監査の前提となる内部統制評価に関係することとなるでしょう。うまく考えられているなと感心します。

≪2009年8月23日追記≫

⑥の文言を読み直してみますと、「監査役等が注視している」と「監査人が必要な監査情報を入手できる監査環境の整備状況」の間に句読点が打たれているので、監査人の監査について必要な情報を入手するのに障害となっているような環境があって、そのことを監査役等が気づいており、それを監査人に話すということを想定しているように読めます。平成17年に共同研究報告が発表されて以来この部分は改定されていないようなので、特に経営陣と対立している監査役がその状況を監査人に話すということを想定している規定ではないようです。本文に「うまく考えられているな」といったのは、的外れだと考えを改めました。この規定は、素直に読むと、監査人が情報が十分入ってきていないのに気づいていないことを前提に書かれているように思いますが、たしかに当然監査人にも話されてしかるべきことが話されていないということがあって、それを話すように執行側に確認することもありますし、監査人が知っているかどうかチェックすることもありうるでしょう。

そうすると、監査役と経営陣が完全対立してしまっているような状況の場合に、監査役がそのことを監査人に話して、監査人が会計監査、内部統制報告監査に反映させるということはどのように考えるべきなのでしょうか。この点は、別のエントリーで考えてみたいと思います。

2009年8月20日 (木)

株の持ち合いと大量保有報告書の不提出に対する課徴金制度

課徴金制度が見直されて、大量保有報告書・変更報告書の不提出についても、発行会社の時価総額の10万分の1(正確には、大量保有報告の対象となる株券等の発行者が発行する株券の提出期限の翌日の最終価格に、当該翌日における発行済み株式を乗じた額に10万分の1を乗じた額)の課徴金を課すことができるようになったことが、本年初め頃に話題となっていました。

これについては、当初は、自己勘定取引やファンド運用などに従事して大量保有報告を行わなければならない機会が多い証券会社、信託銀行、投資運用会社などでずいぶんと関心をよんでいたようでしたが、課徴金制裁事例が一向にあらわれないので、今は関心もだんだん薄れてきているように思われます。

しかし、それはエンフォースメントが活発でなかったからだろうと想像しています。大量保有報告がちゃんと提出されているかどうかを監視するのは難しいし、また市場取引の公正性や開示書類に虚偽記載がないかどうかに目を光らせている証券取引等監視委員会の市場分析審査課、課徴金・開示検査課も、今の仕事で目いっぱいなのではないかと思われるからです。だから課徴金制裁事例は当分あらわれないのではないかと考えておりました。

しかし、ちょっとこの見方をかえる必要がでてきました。私は不動産投資ファンドに対する検査とコンプライアンス」という題で7月末にセミナーを行いましたが、そのときの準備で平成21年度証券検査方針などの資料を読んでいくうちに、日本証券投資顧問業協会における本年度の講演で、西原政雄証券取引等監視委員会事務局長が投資運用業者、投資助言・代理業者の検査の重点として、大量保有報告書の不提出をあげていることに気づたからです。

手法としては、これら業者の検査で運用資産の銘柄と保有数の変化を追いかけていって、大量保有報告がちゃんとでているかどうかをチェックすることになると思われます。業者も業者に運用を委託している者も、金商法27条の23第1項の「保有者」に該当するかどうかで報告義務があるかどうかが分かれてきます。

「保有者」には、①株券等の引渡請求権を有する者(株券等の買付約定を行い株券等の引渡しを受けていない者や信用取引により買付けを行っている者、株券等の売買の予約をおこなっている者など)、②発行会社の議決権行使権限を有する者、③投資決定権限を有する者が含まれます。

このうち、特に②と③が、特に一般事業会社に関係します。例えば、委託者が運用指図する特定金銭信託の運用として株を取得しますと、投資決定者は委託者である事業会社ですので、事業会社に大量保有報告義務があり、受託者である信託銀行には報告義務はありません。これに対して、単独運用指定金外信託(ファンドトラスト)や単独運用指定金銭信託(指定単)だと、事業活動の支配目的がある場合にのみ、委託者は議決権行使権限を有する者として報告義務があります。

株券等保有割合が5%を超える場合に、大量保有報告義務が発生します。持ち合いによる株式の取得が5%未満ならば大丈夫と即断できないところが注意点です。5%を計算するときの分母には、発行済み株式総数+自己保有分+共同保有者分が、分子には保有株券等の総数+自己保有分+共同保有者分が含まれるからです。

最近、事業会社間で株式の持ち合いが増えているようですが、特金で取得した分も自己保有分ということになりますし、上記のような保有割合の計算の法則があるので、しっかりと計算する必要があります。また、「実質共同保有者」といって共同保有の合意がある者は共同保有者としてその保有分が合算されます。その意思がある場合として、安定株主工作のため、複数の株主に対し経営陣を支持する目的での株の取得を依頼した場合が含まれており、持ち合いの目的の事実認定によっては実質共同保有者になってしまう可能性があるので、例えば買収防衛策も兼ねた事業提携のような場合には微妙なところがでてきます。

直感的にいうと、未提出に対してすぐ課徴金制裁をするような運用を行うとは思えないのですが、条文上は「課徴金を国庫に納付することを命じなければならない」(金商法172条の7)という制裁を義務付ける書き方になっているので、やはり気にかかりますね。

2009年8月18日 (火)

民主党「公開会社法」案に落胆する

本日の日経新聞朝刊のコラム「一目均衡」に編集委員の三宅伸吾さんが、民主党の政策「公開会社法の制定」を取り上げられています。

それによると、民主党は経団連が反対している社外取締役設置義務には加担せず、従業員代表制度の実現を全面に押し出したとあります。民主党の政策集は、公開会社法制の中身まで書いておらず、単に「株式を公開している会社等は、投資家、取引先や労働者、地域など様々なステークホルダー(利害関係者)への責任を果たすことが求められます。公開会社に適用される特別法として、情報開示や会計監査などを強化し、健全なガバナンス(企業統治)を担保する公開会社法の制定を検討します。」とあるだけなので、この記事ではじめてそこでいっている中身がわかったわけです。

この民主党の政策の評価ですが、直言しますと、財界と労働組合の両方に媚びるバラマキのような案で、バラマキ政策が多い民主党らしいと思いますが、ガバナンス強化にはまったくつながらない案だと思います。

上記コラムによると、背景は連合がまとめた「政策・制度 要求と提言」で、金融危機や格差問題の背景に株主主権主義のまん延があるとして、従業員代表制の実現を求めたと解説されています。

しかし、上記の連合の提言を読むと、産業政策のところの<考え方と背景>には、内需主導の必要性、雇用政策と一体となった産業構造の転換、企業の国際競争力強化と地域経済の発展の必要性、労働者ものづくりのための人材育成の必要性等の認識が示され、株主主権主義という言葉さえでてきません。

さらに、<考え方と背景>を読んでいきますと、(9)として企業の会計不祥事・コンプライアンス欠如にふれ、「企業は労使協議等を通じ、引き続き内部統制を強化する必要がある」という記述がでてきます(29頁)。しかし、金融危機や格差問題の背景に株主主権主義があるという認識は最後まで示されていないので、これは取材の過程で誰かが三宅さんにそういったと想像しています(民主党の人間でしょうね)。

そして<要求の項目>5の「労働者の意見反映システム等の確立を進め、健全な産業・企業体質を構築する。」の(2)として、「多様なステークホルダーの利益への配慮も含む企業統治や企業再編時の労働者保護を実現するための会社法制を整備する。また、企業の不祥事や法令違反を抑止するために、監査役・監査委員会の構成員に労働組合代表あるいは従業員代表を含める等、監査の機能および権限の強化をはかる。」という記述が、かなり唐突な感じででてきます。

唐突というのは、前段の要求はどの<考え方と背景>から出てくるのか不明であり、後段の要求は<考え方と背景>の(9)に関連するが、なぜ従業員代表が加わることにより内部統制が強化されるのかについては一切の論述がないからです。

実は連合の本当にほしかったものは、企業再編時の労働者保護なのでしょう。そのついでに、企業不祥事をネタとして労働者の意見反映システムとして従業員代表制に言及したと思えます。監査役制度やコーポレート・ガバナンスの現状を十分考慮したうえでの提言とは、どうも思えません。

連合が本当にほしい企業再編時の労働者の保護は(おそらく経団連が強く反対しているので)無視して、むしろ傍論であった監査役の労働組合代表制ないし従業員代表制を政策に取り入れたのではないかという印象をぬぐえません。そうであるとすると、民主党はあまりにも思慮不足であって、選挙目当てのバラマキ政策だ、といわれても反論できないのではないかと思います。

それはともかく、従業員代表制がガバナンス強化につながるか、という点について考えて見ましょう。結論を先に言えば、私にはそうは思えません。

まず、労働組合がない企業については、従業員代表といっても、結局は経営者の意向・指名により従業員代表が決まるのです。三六協定や就業規則改定について実態がそうですし、三六協定無視も横行している企業が多い中、従業員代表とはいっても経営者の意向に沿うものが監査役として送り込まれる可能性が大きく、それでは監査役の機能弱体化ないし現状の問題ある監査役会のレベルの維持でしょう。企業にとっては取締役になれなかった人に対する監査役のポストを一つ減らさなければならないし、従業員代表として送り込まれる人もおそらくは無報酬で重い責任をしょわされるということになりかねません。こういうのは改善といいません。

次に労働組合がある企業については、御用組合化しているところは上述の批判がそのままあてはまります。

ではそうでないところはどうでしょうか。私が疑問に思うのは、組合との利益相反がおこるような場面で、従業員代表(=労組代表)の監査役ははたして機能できるのかどうかという点です。

例えば派遣社員・パート従業員と正規社員の区別をむしろ肯定してきた労働組合代表たる監査役が、偽装請負を積極的に指摘できるのかというと、それが派遣・パートをきって正規従業員がその仕事をしなければならなくなるような事態につながる場合には、指摘することが難しくなのではないでしょうか。特に組合員の場合は、出身母体の利益に反するようなことをするとは私の経験から見て思えません。

取締役に対する牽制を強くしなければならないような事態がおこったとき、例えば経営陣への相当厳しい勧告や違法行為差止請求を行わなければならなくなった場合には、出身母体たる労働組合と経営陣との軋轢にまで発展することも予想されますが、組合出身の監査役がそんなことができるのかどうか、大いに疑問です。なお、経営陣への勧告・助言は、日本監査役協会の内部統制監査では想定されているところです。

また、労働組合の構成員が違法行為に加担しているような場合に、ひも付きの監査役がそれを指摘できるのかどうか。企業の不祥事には現場で働いている従業員(=組合員)はだいたい関与しているものです。時には、監査役はそういう者について厳しい対応をとるよう会社に勧告しなければならないのに、それができるのでしょうか。

以上、独立性・利益相反防止の観点から疑問だらけです。独立性のある常勤社外監査役をおいたほうが、従業員代表よりガバナンスには効果的です。また、それよりもずっと強力な権限を監査役に与えるような法改正を、例えば監査役に取締役選任についての投票権を与えるような制度構築をするほうが、ずっと効果があるように思います。

さらに、先の記事では従業員代表の考え方は労働分配率の引き上げや従業員の地位向上が目的だということです。まさに自分の属する集団の利益をはかるために監査役を送り込こもうということであって、もしそのとおりであるならば監査役制度の破壊です。監査役の独立性とは完全に相反するものであり、受け入れがたいと思います。

民主党の公開会社法制が報道どおりだとすると、コーポレート・ガバナンスの方向性とはまったく逆の利益誘導型改悪です。どうみても現状の議論を踏まえて出てきた政策ではありません。財界と組合の両方の顔をみながら政策を決めているとしたらなんとも情けない話であり、万一政権をとったとしても、ちゃんとした議論をしないと大きな間違いを犯すことになります。三宅さんが記事の最後に海外機関投資家が対日投資を手控える懸念に言及しておられますが、私はこのような安易な政策決定を行うとするならば、それ自体に不信感がもたれることになるであろうと思います。

2009年8月17日 (月)

金融審議会スタディグループ報告書は重要だ-その2

ちょっと前に、「金融審議会スタディグループ報告書は重要だ-その1」という題で、その中身の前半を備忘的に書きましたが、今回は後半の「ガバナンス機構をめぐる問題」と「上場会社等のコーポレート・ガバナンスに係る規律付けの手法」について、備忘録的に書きたいと思います。

● ガバナンス機構をめぐる問題

ガバナンス機構のあり方については、取締役会のあり方について大きく意見が分かれました。投資者側からは取締役会の3分の1ないし2分の1以上を(独立)社外取締役とすべきであるという意見がだされ、その役割としては①平時における経営者の説明責任の確保、②有事における社外の視点を入れた判断の担保、③経営者の暴走等の防止・安全弁といった役割が期待されているとされました。

①の説明責任の確保とは経営判断にいたるすべてのリスクの検討過程、すなわち当該行為の合法性・適法性の検討から、経営判断として合理的なものなのかどうかというビジネスジャッジメントを含んでいます。これを期待するならば、社外取締役にはそういった過程すべてについて知見を兼ね備えた者が選ばれることを期待しなければならず、経営の専門家としてのみの社外取締役を入れてもリスクの評価については素人ならば大した役にはたたないということになります。ひとりの社外取締役に期待することが難しいならば、それぞれの素養をもった人間を複数いれないと期待された機能には届かないということになりますね。

②は買収防衛という場面を想定していると思いますが、買収防衛策の議論は高度に法的なものを含み、「法律が弱いんで、その点は経営企画が弁護士としっかり調べて取締役会にあげてこい」、とだけいっている社外取締役は不適任ですね。

③は経営者の暴走等の防止のみを社外取締役に期待するほうがおかしいですね。そもそも取締役会がそれを防止するよう機能していなければならないわけですから、そんな役割を大きく期待されるような取締役会設置会社はすでに大きな問題を抱えているので、社外取締役は仮に選任されたとしたら現状の上命・下達のカルチャーをかえるためにすぐに付議事項の過去にさかのぼった検討と取締役会規則等による付議事項の明確化、リスク情報の報告体制等、相当がんばった改革をしなければなりません。しかし、1名の、情報もあまり集まらない社外取締役にそんなことを期待しても無理ですから、社外取締役が動ける体制を作らなければなりません。ここでも情報が集まってくる監査役と共同して改革に取り組めるような環境がないと、しょせん絵に描いた餅です。

どうも社外取締役が必要だといっている方々にも、社外取締役が何をするかについてのリアリティーが不足している感じがします。

社外取締役設置義務化論に対して経団連は反対し(経団連の「より良いコーポレートガバナンスをめざして【主要論点の中間整理】」参照)、今回の報告書では見送られたわけですが、報告書は経団連の監査役会有効論に対して、監査役が取締役会において取締役選任などを含めた議決権を有しないこと、監査役監査の限界の指摘があったこと、事務局体制の不足等による監査役監査の不足の指摘を行っています。

そして、「我が国のいくつかの上場会社等においては、独立性の高い社外取締役を1名ないし複数選任した上で、監査役会や内部監査・内部統制担当役員等との連携を図っていく形で、ガバナンス機構の面で先進的な取組みを実践している例が見られる。」と指摘しています。しかしそれがどの会社を指し、どのようにうまく機能しているのかは、意見書を見ても分からないし、スタディグループの資料をみてもどの資料をつかっていっているのかよくわかりません。

ただ、いえるのは、社外取締役が、まず監査役会や内部監査部門等から情報をあげてもらって、法的なリスクや業務にまつわるリスクを正確に認識してそれに対応する活動をこれらと協力したうえで取締役会レベルで行うとすれば、それは有効であろうということです。それには社外取締役自身がリスクに対する感応度が高くないとだめですし、情報を自らとりにいくような姿勢が前提となっているということです。つまり、社外取締役個人の資質に左右される話であり、制度としてガバナンスが有効になる仕組みを考えるには出発点にすぎないように思います。

ところで日本コーポレート・ガバナンス・フォーラムが経団連意見書を批判する意見書を発表しています(「より良いコーポレート・ガバナンスをめざして」に対する当フォーラムの意見)。これを読むと、批判の大綱は問題点の認識不足、ベンチマークの欠如、現行監査役制度の機能的限界の3点なのですが、それではなぜ社外取締役が必要なのかという点については、たいした論述がなく、有効な批判になっていないように思われます。なんで社外取締役なのか、がみんなが知りたいところでしょう。

しかし、米国のエンロン、ベア・スターンズ、リーマン、GM、クライスラーという事例を前にしたときに、社外取締役が、企業行動にまつわるリスク・コントロールに対する有効な手段であると論証できるのでしょうか。これら企業は著名経営者、有名大学教授、有名チャリティ団体理事者等を社外取締役に抱えていましたが、見事にフェールしたわけです。今は、それらを乗り越え、それでも社外取締役は有効なのだという論拠を示さないといけないのではないでしょうか。OECDの原則だけかざしていても説得力はまさないと思うのですが。

なお、意見書は、上場会社の監査役機能強化の観点から、取引所を通じて、①監査役監査を支える人材・体制の確保(このための内部監査・内部統制部門との連携)、②独立性の高い社外監査役の選任、③財務・会計に関する知見を有する監査役の選任等の措置を促進し、開示の枠組み等を整備するということになっています。また、社外取締役・監査役の独立性確保のため、親会社等、大株主企業、主要取引先などの出身者についての開示と独立性に関する会社の考え方の開示を求めること、役員報酬の開示、監査人の選任議案・報酬の決定権の検討の促進を掲げています。いずれも金商法の関連政令の改正で対応可能でしょう。

● 上場会社等のコーポレート・ガバナンスに係る規律付けの手法

ここでは、「公開会社法制」に踏み込む方向性を評価する一方で、会社法と市場法のずれからくる検討課題が残されておりこれを克服すべき課題と位置づけています。また、取引所ルールによる規律付けについては「取引所がそのルールによって、会社法制との整合性を保ちつつ、適切な規律付けを行うことにより、機動的できめ細かなルールの整備と、日常の上場管理等を通じた実効的なルールの執行が可能」であるとして、積極的にこれをもちいる方向性を明確に出しているので、今後、上場会社については取引所ルールがますます重要になってくることになります。

さて、ロースクールでとの程度教えますかね?悩ましいところです。会社法を教える先生方、どうされますか?

2009年8月15日 (土)

おおすぎblog「監査役の2つの役割」をきっかけに

大杉先生が、おおすぎblogで「監査役の2つの役割」という記事をアップされています。大杉先生も試験の採点には苦労されているご様子ですが、お疲れ様です。

大杉先生によると、監査役には2つの役割があるとされています。一つ目は監査役の違法行為やそれに近いものを早期に発見して防止する役割で、これは、会社法の監査役設置会社に常勤監査役を置くという規定に親和性があるとされています。もう一つは取締役会における経営の基本方針の決定につき、監査役が一定の限度で関与する役割で、監査役が取締役会に出席し、必要があれば発言する義務を負うこと(376条1項)、監査役会設置会社ではメンバーの半数以上が社外監査役でなければならないとされていること(335条3項)という規定と親和性があります。前者の「古典的パラダイム」と後者の「最近のパラダイム」は矛盾するわけではなく、コーポレートガバナンスにおける車の両輪のようなものであると解説されています。

別に異論があるわけではないのですが、私は後者の「最近のパラダイム」がなぜ必要なのかが監査役制度の理解の鍵をにぎりはじめていると感じています。監査役のほうが社外取締役よりも有用なのではないかと思い始めているからです。

多くの上場会社が社外監査役の導入を決めるきっかけとなっているのは、不祥事の発覚と社内調査委員会による調査でガバナンスが機能していないことが指摘されるからです。それでは社外取締役が選任されたあと、当該社外取締役のために経営がどの程度よくなったのかを評価するための基準はどのようなものなのでしょうか。

導入当時の会社は会社内部でのチェック機能がきいていない、コンプライアンス意識が薄い、情報の質が悪い、伝達がうまくいっていない、PDCAが機能していないという問題があるので、社外取締役はまっさきにこういう点にフォーカスしていかなければならないはずです。ところが、社外取締役ほど社内の情報があつまらないポジションはありません。無任所大臣も同然の社外取締役は、せいぜい経営企画があげてくる課題や経営会議にあがってくる議題の検討をするのが精いっぱいです。本当は社外取締役は、会社の内部統制の点検作業を委員会でも作って行うのが正道ではないかと思います。

これに対して監査役のところには様々な情報があがってきます。私が世話役をしている社外監査役研究会でも上場会社の現役社外監査役が、社外取締役より社外監査役のほうが情報をもっていると断言されます。そこには経営企画や執行役員会に上がる前の生のリスク情報があがってきます。その上がり方は情報の中身をみると、その会社のリスク感応度やリスク管理の態勢がよく見えてきます。だから、社外取締役は監査役、とりわけ社外監査役と協力して委員会形式で会社ガバナンスの弱点を取締役会に指摘することぐらいしてもいいのではないかと思います。

社外取締役がこうした課題を正しく認識せずに、いきなり会社の取締役会の構成、任期、報酬といった問題にとりくんでも、短期的にはなんらの改善にはなりません。長期的課題として、社外取締役の割合をどれくらいにするとか選任や報酬をどうするかという問題は重要ですが、ガバナンスを向上させるには、今ある会社の状態を把握することなしにはできません。この点、ガバナンス委員会を設けている会社での議論の質は、当該会社の置かれているガバナンスの状態に照らして判断されるべきでしょう。こういうことができなければ、社外取締役を設置することのかなりの意味が減殺されてしまいます。

社外取締役がすぐにたちあがらないならば、私は監査役の権限をつよめ、大杉先生の後者の役割をつよめていくことこそ、日本の会社のガバナンス態勢を強化する近道ではないかと思っています。ただし、これも会社のほうがそういうことを正しく認識して、名前だけ高名な方を選任してお茶を濁さないということが出発点です。

2009年8月14日 (金)

法科大学院に感じることなど

だいぶ日にちがあいてしまいました。一体、なんでこんなにアップできなかったのかなとスケジュールをチェックしてみると、7月から8月まですごく忙しい日が数日続くとパタッと暇な日が2日位続くということの繰り返しで、あっというまに日が過ぎて行ってしまいました。50歳を超えてから、私も粘り腰がちょっとなくなってきたみたい......

8月に入って最も忙しかったのは、一橋大学法科大学院で持っている企業法ゼミの採点作業です。割と問題数が多いレポート課題を提出し、学生たちにレポートを出してもらうのですが、その解説の正確性を確保するため、同じゼミを担当しているNHKの梅田康弘弁護士(日本組織内弁護士協会理事長、私も理事をしています)と分担して理論と判例の調査を行って解説を書いて授業で一回解説し、さらにその上で学生たちのレポートを綿密に検討します。今年は梅田弁護士にきてもらって、私の事務所で3日間(のべ15時間)かけて詳細に検討しました。打ち合わせ前に各自でレポートを読んで、追加的リサーチをかけたりします。結構な時間を使い文献にもあたるので、我々の勉強にもなります。

私は学生時代、民法が大好きで、法政大学の学長をされた下森定先生のゼミでみっちり財産法を勉強したので、いまでも基礎理論はかなり身についていると自信をもっています。それに対して会社法は、古い商法の条文しかあたまに浮ばず、会社法の条文がいまだにしっくりきていない感じがします。内部統制を専門にやっている私も日々、会社法の勉強をしているというのが現実で、特に監査役就任後は実務を通じて調査をしたり考えたりすることにより、会社法がだいぶわかってきたように思います。実務家はやはり実務が育てるのですが、これもあの厳しい司法試験の勉強があったからだと思います。

レポート評価を経た成績評価や印象等はこのブログで書くべきことでもないので、ふれませんが、私が学生の時と違って今の学生は法科大学院の成績を非常に気にするし、就職にも響くので、私も梅田さんも真剣です。

ここ数年、感じるのが、民法の基礎力が我々の司法修習時代よりちょっと落ちているのではないかということです。新司法試験が導入され、法学部の学生たちは司法試験の勉強は法科大学院からと思って我々の時みたいに学部生時代必死にやっていないのではないか、と疑っています。新人弁護士や法科大学院でこれは困ったと思う者には法学部出身の若い学生が多いし、民法の教科書にかいてあることを理解していないことが多いからです(他学部出身者は健闘していると思います)。実際、今年も司法修習同期のクラス会に行き、同期の弁護士・裁判官と話しましたが、毎年同じ懸念を聞くので、私一人のバイアスとも思われません。

法科大学院のカリキュラムや法学部カリキュラムは根本的に考え直す必要があるように思います。民法などの基本科目の基礎力がその後の実務を支えるのはまちがいありません。それは金融商品取引法、独占禁止法、知的所有権法等、どの法律をとっても同じはずです。民法的考えがベースにあるからです。学生たちや若い弁護士たちには、ぜひ民法の定評ある教科書をじっくり条文とともに読んでもらいたいです。

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