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2009年6月 5日 (金)

監査役の内部統制監査と内部統制システムの「重大な欠陥」(1)

上場会社の監査役として監査報告書を提出しました。会社法、会社法施行規則、会社計算規則、日本監査役協会が出している「内部統制システムに係る監査の実施基準」(以下、「実施基準」といいます)、「内部統制システムに係る監査役監査実施要領」(以下、「実施要領」といいます)等に目をじっくりとおし、非常に勉強になりましたが、その際、いくつかの疑問もわきました。そこで今回はこの点を、長くなる手間をいとわず備忘的に書いてみたいと思います。

会社法による監査役及び監査役会の監査報告には、会社の取締役の職務の遂行に関し、不正の行為又は法令もしくは定款に違反する重大な事実があったときは、その事実を記載しなければなりません(会社法施行規則129条1項3号・130条2項)。

監査役協会の定めた監査報告書のひな型では、監査の結果の欄に、①取締役の職務の遂行に関する不正の行為又は法令もしくは定款に違反する重大な事実の有無と、②内部統制システムに関する取締役会決議の内容の相当性についての意見及び当該内部統制システムに関する取締役の職務執行の妥当性を記載することになっています。上記の施行規則を受けたものですが、この②の点については、ひな型の脚注では以下のとおり解説されています。

「内部統制システムに係る取締役会決議の内容は内部統制システムの大綱を定めたものにとどまることが多く、当該取締役会決議の内容は相当であると認められる場合(省略)でも、当該取締役会決議に基づいて担当取締役がその職務執行の一環として現に整備する内部統制システムの状況について、取締役の善管注意義務に反すると認められる特段の問題等が認められる場合には、その旨を記載する。」(下線は私)

「実施基準」では、「重大な欠陥」と「不備」という概念が使われており、監査役は内部統制システム監査で発見した「不備」、助言又は勧告を要すると判断した論拠及び結論等について監査役会に報告し、監査役会はそれを受けて内容を検討した上、代表取締役等又は取締役会に対して助言又は勧告すべき事項を審議して実行し、助言又は勧告にもかかわらず、代表取締役等又は取締役会が正当な理由なく適切に対処せず、かつその結果、各体制の整備状況に「重大な欠陥」があると認められる場合には、監査報告においてその旨を指摘することになっています。武井一浩先生の別冊NBLNo.307の74頁以下の解説によると、「重大な欠陥」は監査報告において指摘すべき取締役の善管注意義務に反している事項であるとされています。

さらに実施要領では、「不備」は整備される内部統制システムの各体制が会社に著しい損害を及ぼすおそれがあると想定されるリスクに対応していないと認める場合をさし、軽微なものも含むとされ、取締役に対する随時の指摘、改善の助言を行うべきものとされています。

このうち「著しい不備」と認められるものは、監査役会の審議を経て、代表取締役を含む業務担当取締役又は取締役会に対して助言・勧告、改善の要請等の適切な措置を講じるべきものをいうとされています。そして、「著しい不備」のなかで、監査役によるこれらの助言・勧告、改善の要請等に対して、代表取締役等が正当な理由なく適切な対処を行わない場合は、「重大な欠陥」として監査報告において指摘すべき事項になり、取締役の善管注意義務違反にもつながるものである、とされています。ただ、前の武井先生の開設を読むと監査報告書において指摘すべき事項とは善管注意義務違反ですから、つながるものであるという表現になぜしたのか引っかかるところですが、重大な欠陥=取締役の善管注意義務に違反している事項であるという整理であると一応考えていいと思います。

なお、財務報告の信頼性に係る内部統制でいわれている「重要な欠陥」と「不備」と、ここの「重大な欠陥」と「不備」とは違った意味で使われていることに留意が必要です。

以上を整理しますと

「不備」=会社に著しい損害を及ぼすおそれがあると想定されるリスクに対応していないと認める場合

「不備」の認識⇒取締役に対する随時の指摘、改善の助言を行うべきもの⇒監査報告書に書く義務はなし。

「著しい不備」=監査役会の審議を経て、代表取締役を含む業執行担当取締役又は取締役会に対して助言・勧告、改善の要請等の適切な措置を講じるべき不備⇒監査報告書に書く義務はなし⇒代表取締役等が正当な理由なく適切な対処を行わない場合は、「重大な欠陥」となる⇒監査報告において指摘すべき事項になり、取締役の善管注意義務違反となるもの。

別冊商事法務の座談会では、「重大な欠陥とはなにか」というアプローチはやめたほうがいい、結果として監査報告に書くべきレベルの瑕疵が「重大な欠陥」なのだという説明がなされています。しかし、同時に「重大な欠陥」は、会社法の規程にそって監査報告に書かなければならないのは何なのかという側面から導き出された概念である、と説明されています。この説明だと「重大な欠陥」=取締役の善管注意義務違反の場合ともいいきれれないニュアンスがありますが(だから前記脚注では「取締役の善管注意義務違反にもつながるものである」とされているのでしょう)、中心的なコンセプトは善管注意義務違反により「不正の行為又は法令もしくは定款に違反する重大な事実」(施行規則129条1項3号)があるときにはそれを書くということです。

ということは、監査報告書に記載すべき取締役の責任を発生させる善管注意義務違反があったかどうかを、結局は監査役が判断しなければならず、それをするには、取締役の善管注意義務の中身の理解をさけてとおれません。ところが、これが具体的事例の検討をするとなると、そうそう容易ではありません。

たとえば、会社において日常的に起こりうる軽微なものから重大なものまで幅がある法令違反行為はどうなるのでしょうか。

取締役の会社に対する責任(会社法423条、429条)を発生させる任務懈怠について、多数の学説は以下のとおり説いています(江頭・会社法第2版427~430頁、伊藤=大杉=田中=松井・会社法217~218頁など)。

①取締役の任務は法令を遵守して職務執行を行うことが含まれているが(会社法355条)、その法令とはすべての法令を含み、取締役が法令に違反する行為を行えば、会社に対する損害賠償義務が生じ得る。独占禁止法違反はここに含まれる。ただし、故意・過失による法令違反である。なお、すべての法令違反が会社に対する損害賠償責任を基礎づけるとは限らない、という立場もある。
② 業務執行上の判断に誤りがあった場合には、行為当時の状況に照らし合理的な情報収集・調査・検討等が行われたか、及び、その状況と取締役に要求される能力水準に照らし不合理な判断がなされたかったかを基準に考え、この基準を満たさない場合は過失があり、経営判断の原則は排除される。
③他の取締役・使用人に対する監督義務違反を含む取締役の不作為による任務懈怠については、過失責任とされる。
④内部統制システム構築義務については、その行為の当時、会社の置かれているビジネスの状況等から判断して重大なリスクに対応し、会社の損害を防止するため合理的に必要とされる最低限のリスク管理体制を構築する義務があり、過失によりこれを怠ったときは取締役はそれによって生じた会社の損害を賠償する責任を負う。

したがって、業務執行取締役がその職務執行中に法令違反を犯し、または、部下が法令違反を犯したとしても、法令違反行為について業務執行取締役に過失が認定されなければ善管注意義務違反はないことになります。また、内部統制システムの構築・運営に関しては、従来から存在するビジネスの執行を行うについて適用法令を識別し必要な遵守活動を行う合理的な内部統制が構築・運用されている限り、業務執行取締役も他の取締役も善管注意義務違反はないということになると思われます。ただし、新規のビジネスについて、法的リスクの洗い出しが甘くもれた結果、法令違反を引き起こした場合には業務執行取締役については善管注意義務違反が認定され得るが、業務執行取締役からの新規ビジネスの法的リスク等について説明を受けてその開始決議に賛成した取締役は善管注意義務はない(ただし、必要な情報をあげさせることがちゃんとできていないときは別と思われる)と整理できると思います。

ところで、取締役の善管注意義務については、任務懈怠とは過失と同一ではないという説もあります。この説をとられている葉玉先生のブログの解説が分かりやすいので(会社法であそぼ-善管注意義務)、それを引用したいと思います。

葉玉説によると、取締役の善管注意義務は

①取締役会等の意思決定機関における意思決定の場面
②代表取締役・業務執行取締役等の業務執行機関が意思決定機関の意思決定にもとづいて業務執行をする場面
③他の取締役が①②について監視する場面

で問題となりますが、任務懈怠は、取締役の①から③の権限の行使が
ア 会社法その他の法令・定款・株主総会の決議に違反する場合(逸脱)
イ 自己又は第三者の利益を図る目的又は会社に損害を与える目的で行使される
場合(濫用)
ウ 関連業界の通常の経営者を基準として事実に基づく判断が著しく不合理であった場合(著しく不合理な判断)
に認められるとされています。

そして葉玉説によればアの場合は、過失があろうがなかろうが任務懈怠になるとして、食品会社の代表取締役が、取締役会の決議に基づき、無許可で医薬品を販売した場合、代表取締役による販売行為は違法であり、任務懈怠となり、また、その販売行為は、取締役会の決議に基づくものだから、その取締役会の決議において賛成した取締役も、任務懈怠は認められるとしています。

他方、内部統制システムの構築は、ウの著しく不合理な監督権の不行使と言われないようにするために行うもので、具体的にはその企業の規模等に応じて、適切な内部統制システムが構築され、かつ、そのシステムが機能していることを監督すれば、個々の取引について具体的な監督を行っていないとしても、監督責任を負わないというものであると理解しています。

こういう理解ですと、たとえば会社が新規ビジネスを立ち上げて業務を執行するにあたり、知っておくべき法律を知らないで違反を犯した場合にはアであって、その新規ビジネスの開始に賛成した取締役も職務執行を行った取締役も全員任務懈怠で、善管注意義務違反があったということになります。故意・過失は葉玉説では問題になりません。ここでの疑問点として、監査役もその注意を怠ったということで善管注意義務違反を免れないということになるのかという点がありますが、それはちょっと横におきます。

他方、既存のビジネスについて法令違反を起さないように内部管理体制を構築し、適用法令のチェックやその遵守のための手続や組織を構築していた場合は、監視にあたる取締役には任務懈怠はないが、業務執行取締役はその内部統制運用に不備があって法令を見落として違反を犯した場合には、任務懈怠があることになると考えられていると思いますが、葉玉説では、既存ビジネスの開始に賛同し決議に参加した取締役はすべて任務懈怠があったということになりそうです。

葉玉説の理解がどこまで正確なのかあまり自信がないですが、どうも葉玉説では、任務懈怠に過失の要素を持ち込まないと、法令違反がおきた事案では取締役の善管注意義務違反が認定されるケースがふえそうです。

しかし、会社を運営していく上で多数の法令を完璧に守らなければ、業務執行取締役は常に、「●●の業務執行取締役については●●法第○条の遵守が業務執行担当部門でできなかったという点において任務懈怠があった」と監査報告書で指摘されなければならないというのは、行き過ぎのように思います。

以上、相当長くなりましたので、続きはさらに別に書きたいと思います。

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