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2009年6月12日 (金)

監査役の内部統制監査と内部統制システムの「重大な欠陥」(2)

前回では実施要領の「不備」、「著しい不備」、「重大な欠陥」と、監査報告書に記載すべき「重大な欠陥」の中身について検討しました。今回はさらにそれをもう少し検討し、さらにそこから派生する問題についても考えてみたいと思います。

実施要領の考え方について、別冊商事法務No.307の座談会では、『なにが「重大な欠陥なのか」というアプローチはやめたほうがいい。監査役が監査報告書に取り上げるべきものが「重大な欠陥」なのだ。』といいながらも、『「重大な欠陥」は会社法の規定にそって監査報告書に書かなければならないのは何かという側面から導き出される。』としていますが、このように説明すれば、結局、会社法で規定されている監査報告に記載すべき事項とは何なのかを考えなければなりません。なぜならば、監査役の立場からすれば、そのような事項は義務的記載事項なのですから、それを記載しなければ、今度は監査役の任務懈怠になってしまうからです。ですから、何が「重大な欠陥なのか」というアプローチはとるなというのは、監査役にとって記載すべき基準となるものを考えるなといっているのも同じで、監査役を迷わせるだけとなってしまいます。

ところで、会社法は、監査報告に記載すべき事項の詳細を法務省令にゆだねており、会社法施行規則はそれを受けて「会社の取締役の職務の執行に関し、不正の行為または法令もしくは定款に違反する事実」の記載を要求しています(会社法施行規則129条1項3号)。法令違反の事実、定款違反の事実は比較的明確でありますが、それには法令違反、定款違反が故意によるもの、過失によるものが含まれます。しかし、どの本をみても、この施行規則の文言について故意であろうが過失であろうが区別せず、すべからく法令違反行為があったら故意・過失の有無をとわず記載する義務がある、といっているものはありません。

別冊商事法務No.307の解説を読む限り、監査役の経営の監視という職務から、法令違反・定款違反あるいは不正の行為を、取締役の善管注意義務に違反する行為の類型として捉えて、そのような善管注意義務違反の行為があったときはそれを監査報告に記載すべきである、と整理されているように思います。少なくとも実施基準及び実施要領の整理はそうなっております。ちなみに、葉玉説では、善管注意義務違反について法令・定款違反行為については過失を要求しなので、過失の有無にかかわらず監査報告には記載すべきことになると思われます。ただし、「会社法であそぼ。」をよく読むと、「会社法423条では、任務懈怠と過失は別要件であると解するのが当然だ」と書いているので、もしかしたら監査報告の場面は別の話ということになるやもしれません。ここが私が前回、葉玉説を正確に理解しているのかいまひとつ自信がないといった原因です。

ところで、監査役協会のひな形は、会社法施行規則で定められている事項のほかに、内部統制システムに関する取締役の職務の執行の妥当性を記載することになっています。これは、取締役の善管注意義務のひとつとして内部統制システム構築義務及びそれを適切に運用する義務があることから、これらの義務に対する違反は、法令違反と同列(あるいは取締役は会社に対して忠実義務をおっているという会社法355条の違反ーなお355条は忠実義務としているが判例・通説は忠実義務は特別なものではなく善管注意義務と同じ)として記載すべきであるという整理であると理解しており、説明として一貫しています。なお、取締役と会社との間は委任関係であるから、423条1項の取締役の任務懈怠とは、会社に対する善管注意義務・忠実義務の違反であり、民法の理論によれば債務不履行には故意・過失が必要であり、423条1項は過失が必要であるというのが立法担当者や通説がとる見解です。(伊藤=大杉他・214頁)

しかし、会社が法令違反行為を起したといっても、その違反行為について分析するとパターンは分かれてきます。

新規ビジネスの立ち上げについては、当該ビジネスについて適用される法令を調査し、違反のおこらないようプランをねることは、業務執行取締役として当然行うべきものであって、これを怠ったことにより業務執行取締役またはその指示にしたがった従業員が法令違反を起した場合は、業務担当取締役は過失により法令遵守をすべき義務を怠ったという善管注意義務に違反したといえるでしょう。

これに対して、既存ビジネスの遂行上法令違反が起きたときに、そのような法令違反行為がおこらないように組織を整備し、社内規則も整え、教育・研修も行い、監視もし、法令違反のような重大事案についてもモニタリングしていたという取締役には、善管注意義務違反を認められることになるのでしょうか。このような場合は内部統制システムを構築・運用していたから、この点について業務執行取締役には善管注意義務違反はなく、かつ、法令違反についても過失があるとはいえないので責任は問えないということになると思われます。

どうもこの辺の学者の言い方も判例もすっきりしないものが残ります。江頭・427頁は「取締役はすべての法令を遵守して職務を執行する義務がある。したがって、故意・過失により公益保護を目的とする法令に違反する行為を行えば会社に対する損害賠償責任が生じ得る。」と記載して、独占禁止法違反事件について違反の認識がなかったとして過失を否定した最判平成12年7月7日の判例を引用しております。すべての法令の遵守が取締役の義務でありながら、損害賠償責任を発生させる法令違反の範囲を公益保護を目的とする法令の違反に限定しているようにみえます。(もし、このような立場をとると監査報告に記載すべき取締役の法令違反のほうが、会社に対する損害賠償責任を発生させる法令違反行為より広くなりますが、ほんとにそこまで記載すべきなのでしょうか?)

法令違反が起きても、法令違反発生という情報が適切に業務執行取締役に届けられないような体制や運営が行われていた場合、その違反行為が、会社にとって重大なリスクを惹起するようなものであるならば、そのようなリスクを適切にコントロールする義務があるのにそれを怠ったとみるべき場合と思われます。これは内部統制システム構築義務の違反なのか、それとも法令違反行為について過失を構成する事実なのか、にわかに判別できませんが、いずれにしても、法令違反の報告体制がどうなっているのかを、監査役は取締役の善管注意義務違反があるかどうかの前提として検討する必要があることはたしかです。多くの会社ではリスク管理委員会などに重大な法令違反行為は報告がなされ、業務担当取締役はそれを認識できるようになっていると思いますが、そのような体制が作られていないか、あるいは運用上も重大な法令違反行為の報告が漏れてたりすれば、取締役の善管注意義務違反を疑わなければならないことになります。他の具体的事情を検討して、その判断をしないと監査報告が書けません。

結局、最高裁や学説は取締役は職務執行を行うにつきすべての法令を遵守すべき義務があるとしながら、監査報告書に記載すべき「会社の取締役の職務の執行に関し、不正の行為または法令もしくは定款に違反する事実」とは何なのかを明らかにしないことから、解釈についてバリエーションがでてきてしまうのです。

私は監査報告書の重みを考えると、内部統制構築・運用義務を果たしていれば法令違反行為がおきても取締役は会社に対する損害賠償責任をおわないという理論が確立された今は、監査報告書に義務的に記載すべき「会社の取締役の職務の執行に関し、不正の行為または法令もしくは定款に違反する事実」は、善管注意義務違反に限られる(その他の事実を任意に記載するのは監査役に裁量あり)と整理すべきであると思います。だから善管注意義務違反について故意・過失が必要であるならば、そこに記載すべき法令・定款違反も故意・過失によるものとなります。監査役協会の内部統制監査基準、実施要領と同じ考え方ですが、この考えをとると、監査報告に記載するかどうかの判断にあたり、単に法令・定款に違反した事実だけでは足らず、それが故意・過失によるのかを具体的事実関係に即して分析する必要があります。

このように考えてくると、監査役はそれを判断するためどのように充分な情報を収集できるのかという疑問がわいてきます。法制度としては監査役は会社に対する調査権(会社法381条2項・976条5号)があります。しかし具体的にこれを行使するにも、常勤監査役と非常勤監査役だけでは日常の監査業務もあり、限界があります。補助者である監査事務局を充実させて、情報収集と分析の補助にあたらせる体制が必要になります。

世間の取締役がなすべき役割に対する期待値や常識値があがれば、取締役の善管注意義務のレベルがあがってきますが、それは結局、監査役が任務懈怠といわれないように監査役が職務の執行を適正に行えるよう確保する体制を確保することにつながってくるということです。今の監査役事務局の体制は、上場企業の平均で2人を割っているときいていますが、そのような状況が充分なのか、監査役はまた検証しなければならないことになります。

しかもややこしいのは、そのような体制を整備するのは取締役の善管注意義務の中身であるということです。監査役はみずから体制整備の義務をおっているわけではないという会社法の建てつけからいうと、だんだん議論がぐるぐるまわっているような感じになりますが、理屈の上ではそうなってしまいます。

だんだん議論がわけがわからなくなってきましたが、あくまで備忘として書いておりますのであしからず。

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