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2009年6月に作成された記事

2009年6月25日 (木)

内部統制監査報告における不適正意見又は意見不表明と適時開示

TOSHI先生のブログ記事「内部統制報告書の検討(その3-重要な欠陥ありとする適時開示事例)」に、東証1部の岩崎通信機が、「財務報告に係る内部統制の一部に不備があり、当社としては、重要な欠陥があるものとして報告書に記載することを(取締役会で)決議しました」とする適時開示を行ったことが紹介されています。

東証は今年の5月21日付けで、情報取扱責任者宛に上場部長の名前で、内部統制監査報告書に「不適正意見」又は「意見を表明しない」旨が記載されることとなった場合は、ただちにその内容の開示を上場規定で義務付けているので適切に対応しなさい、と注意喚起する文書を発出しています。

その文書を見ますと、「本開示は、上場会社が内部統制監査報告書を提出する際に広く周知し、財務報告に係る内部統制の継続的な改善努力を促すことを目的とするものであり、実務上は一般に、内部統制監査報告書受領後速やかに開示することが想定されます。」との注意事項が記載されており、開示事項については以下のとおり示されております。

  1. 監査法人の名称
  2. 内部統制監査報告書の内容
  3. 内部統制監査報告書の受領日
  4. 財務諸表の監査報告書における監査意見の別(無限定適正意見である場合はその旨を表示し、その他の場合は東証と相談すること)
  5. 会社の今後の対応
  6. その他投資者が会社情報を適切に理解・判断するために必要な事項

岩崎通信機の場合には、株主総会が明日の予定なので、前倒しに発表したということなのでしょうが、記載事項の4はプレスリリースに記載がありません。総会召集通知に添付された監査法人の監査報告書をみますと、無限定適正意見であり、その日付は5月19日ですから、これは単純に4の事項を適時開示の際に漏らしたということでしょうね。

岩崎通信機の適時開示やこの開示事項をながめますと、取引所の適時開示は内部統制報告書を補完する役割を果たしそうです。岩崎通信機の適時開示は4がかけていたとしても事情がわかって適切なものだと思いますが、「為替レートの換算(現地通貨リンギットからUSドル)業務の過程において「国際財務報告基準」の適用に重要な誤りがある」という点が、IFRSの勉強不足の私にはどういうことなのか理解できないので、勉強せなあかんと........( ̄Д ̄;;つ、つまりフツーの投資家には意味がわからないということで.....

以上、完全に自分の勉強のための備忘です。

2009年6月24日 (水)

内部統制評価結果が表明できない場合と財務諸表監査の関係

前回のブログ記事で、株式会社大木の内部統制報告の件で、会計監査人が内部統制報告について合理的な基礎が得られないときに、財務諸表監査における試査が母数の状態を表していることを合理的に保証するには、何を検討するのだろうかという疑問を書きました。なぜかというと、J-SOXでは財務諸表監査と内部統制監査は一体監査であるとされてきているからです。

この点について、実施基準「III.財務報告に係る内部統制」の「2.内部統制監査と財務諸表監査の関係」と、日本公認会計士協会の「財務報告に係る内部統制の監査に関する実務上の取扱い」(監査・保証実務委員会報告第82号)の「4.財務諸表監査と内部統制監査の関係」がまず参照されるべき文献です。

前者は「内部統制監査の過程で得られた監査証拠は、財務諸表監査の内部統制の評価における監査証拠として利用され、また財務諸表監査の過程で得られた監査証拠も内部統制監査の証拠として利用されることがある。一般に、財務報告に係る内部統制に重要な欠陥があり有効でない場合、財務諸表監査において、監査基準の定める内部統制に依拠した通常の試査による監査は実施できないと考えられる。」と書いてあるのみで、内部統制報告監査において意見表明をするレベルの合理的な基礎が得られない場合にどうするかは書いていません。

後者ですが、以下のように要約できると思います。

  1. 財務諸表監査では、内部統制の構築維持に関する経営者の姿勢は監査の基本方針を検討する際の重要な項目とされている。
  2. 財務諸表監査では、全社的な内部統制に関する理解が求められているが、その整備・運用状況の検討についてまでは明確に求められているわけではなく、財務諸表監査の実施において監査人は自らの判断で、内部統制の理解のための手続の種類と範囲を決定しているが、内部統制監査導入後は、内部統制監査における監査結果を利用することが想定されるし、運用状況についても内部統制監査の評価結果が検討の対象として追加され、財務諸表監査の深度が深まることが期待される。
  3. 財務諸表監査では、決算・財務プロセスに関しては内部統制の検証の範囲外である。しかし内部統制監査導入後はその監査結果を利用することが想定されている。
  4. 財務諸表監査では、企業の事業目的に大きく関わる勘定科目に至る業務プロセスについては、当該業務プロセスのリスク評価手続を実施しなければならないし、整備状況の検討もしなければならないが、内部統制監査導入後はその監査結果を利用することが想定されている。
  5. 財務諸表監査では、その他の業務プロセスについては、虚偽記載のリスクが大きい業務プロセスと判断される場合には、当該業務プロセスのリスク評価手続を実施しなければならないし、整備状況の検討もしなければならないが、内部統制監査導入後はその監査結果を利用することが想定されている。

つまり、本件のように内部統制監査の結果がまったく利用できない場合は、内部統制監査導入前と同様の手続を踏むことになるわけです。そうすると、本件でも監査法人はそのような手続を踏んだはずです。

しかし、気になるのは、経営者が全社的内部統制の評価もできないような状況であるから、財務諸表監査ではその点を考慮にいれて監査計画にとりいれなければならないはずであるが、その点がまったく説明されていない点と、一般の投資家にとっては、内部統制監査を行う合理的基礎が得られないといいつつ、財務諸表監査では合理的基礎は得られたといっていることを理解できないだろうという点です。

本件のように全社的内部統制評価も経営者においてできていないようなケースでは、監査意見書に財務諸表監査で合理的基礎を得たというところをもう少し説明すべきではないでしょうか。

2009年6月22日 (月)

内部統制評価結果が表明できないとした例

TOSHI先生のブログで教えられて、株式会社大木が内部統制評価結果を表明できないとする内部統制報告書を提出したことをしりました。以下は、同社の内部統制報告からの引用です。

「当社は財務報告に係る内部統制の評価について、重要な評価手続が実施できませんでした。したがいまして、当事業年度末日時点において、当社の財務報告に係る内部統制の評価結果を表明できないと判断いたしました。
 実施できなかった重要な評価手続は以下のとおりであります。
・全社的な内部統制の評価手続
・業務プロセスに係る内部統制の評価手続
 重要な評価手続が実施できなかった理由は、連結グループ全体において、間接部門を中心に人員を削減しており、経理及び財務の知識・経験を有した者を上記の評価手続に従事させることが困難であったためであります。
 一方、財務報告に係る内部統制の整備及び運用の重要性は認識しており、これらの人員の制約はあるものの、環境を整備し、今後1年間で評価を完了させる方針であります。具体的には、事業年度の末日後、社内においてプロジェクト・チームを再編成すると共に、内部統制専門のコンサルティング会社と契約し、内部統制の整備及び運用評価を進めております。」

これについては当該会社が第127期内部統制監査報告書についてをプレスリリースしております。会計監査人は無限定適正意見を表明しているとのことです。以下はその引用です。

『改めて申し上げますが「内部統制評価の一部が完了しなかったこと」は、決して当社の「内部統制」が出来ていないことを意味するものではありません。自己評価の一部が未完了であったと判断したと言うことです。

当社自身は、業績も順調で、増収増益を続けており、当然のことながら不正もなく、キャッシュフローも問題はありません。事実、監査人も、「大木の内部統制が出来ていない」とは言っておりません。

しかしながら、当社も上場会社として、金融商品取引法に基づく、「内部統制監査報告書」において、同じ「無限定適正」意見を取得することは至上命題だと考えておりますので、第128期においては、専門外部コンサルタントと業務委託契約を締結し、すでに、必要な作業を開始いたしており、今期中にその体制を完了することとしております。』

いい意味でも、悪い意味でも、この会社の姿勢がうかがえる内容のプレスリリースだなと思いますね( ̄◆ ̄;)。

それにしても会計監査人は財務諸表監査の際に、どのような手法で内部統制を見ていったのでしょうか。ロイターは、会計監査人である東陽監査法人は意見表明をするための合理的な基礎を得ることができなかったと説明していると報道しています。内部統制報告の監査の意見表明の合理的な基礎がえられないときに、財務諸表監査におけるサンプリングチェックの結果が母数をあらわしていることを合理的に保証するためには、会計監査人は何をみるのでしょうか。そして何についてどれくらい満足したら、財務諸表について無限定適正意見を表明するのでしょうか。はたまた、監査役会は監査報告書を書くにあたって、適切な人員が内部統制評価にさけなかったことをどのように検討したのでしょうか。その辺に個人的な興味があり、今後の検討課題であると思っております。

2009年6月21日 (日)

重要な欠陥を報告した初の内部統制報告、提出される

株式会社ビジネスブレイン太田昭和が、内部統制は有効でないという内部統制報告を提出しました。

それによると見積もりをともなう勘定科目として貸借対照表に計上されている各種引当金を評価対象に追加していたところ、そのうち繰延税金資産の取り崩し、検討において問題がでたということです。正確を期するため原文を引きます。

「3 【評価結果に関する事項】

下記に記載した財務報告に係る内部統制の不備は、財務報告に重要な影響を及ぼす可能性が高く、重要な欠陥に該当すると判断した。したがって、当事業年度末日時点において、当社の財務報告に係る内部統制は有効でないと判断した。

 記
 当社は決算・財務報告プロセスでの子会社の繰延税金資産において、取崩しの検討、及び、認識が不十分であったため、当期の繰延税金資産について修正を行うことになった。

 事業年度の末日までに是正されなかった理由は、繰延税金資産の回収可能性の判断の適用を誤り、さらに、それに対する牽制が充分に機能しなかったためである。

4 【付記事項】】

評価結果に関する事項に記載された重要な欠陥を是正するために、事業年度の末日後、繰延税金資産の回収可能性の判断に関するマニュアル、新たな業務フローを整備及び運用し、内部統制報告書提出日までに当該是正後の内部統制の整備及び運用状況の評価を行った。評価の結果、内部統制報告書提出日において、繰延税金資産の回収可能性の判断に係る内部統制は有効であると判断した。」

感想めいたことを申しますと、第一に、まずは、重要な欠陥をレポートした内部統制報告書第1号が、内部統制コンサルティングも手がけているコンサルティング会社であったことに驚きがありました。関係者にとってはショックだったでしょうね。

第二に、決算財務プロセスに誤りが発生すると、それは即、重要な欠陥になると判定されやすいという認識が裏付けられたと考えております。決算・財務報告プロセスに誤りがあるとすぐ数値に影響がでます。その影響は多くの場合、金額的に重要なレベルになってしまいやすいわけですから、決算・財務報告プロセスの誤りは重要な欠陥になりやすいであろうと、私が監査役をしている会社の内部監査部長の方と話しておりましたが、まさにそのとおりの結果となりました。

第三に記載内容から判断すると、厳密な意味で、内部統制構築ができていなかったのか、それとも運用がまちがっていたのか明確に意識されて書かれておらず、この点、工夫はいらないものかと思いました。子会社の繰延税金資産において、取崩しの検討、及び、認識が不十分であったため、当期の繰延税金資産について修正を行うことになったが、その原因は、「繰延税金資産の回収可能性の判断の適用を誤り、さらに、それに対する牽制が充分に機能しなかったためである」とされているので、体制は整っていたけれども当事者の運用に誤りがあったという印象を受けます。ところが、付記事項では事業年度末日後に「繰延税金資産の回収可能性の判断に関するマニュアル、新たな業務フローを整備及び運用」し内部統制報告書提出日において内部統制は有効であると判断したととあります。この記述では、体制構築面でも問題があったような記載になっています。

私が経験した金融検査では、原因の分析と対策がちぐはぐになっていると監督当局から突っ込まれる理由や再発の原因になりやすいので、特に注意しているところでした。付記事項から判断する限りは、繰延税金資産の回収可能性の判断について明確な基準が定められていなかったためもあって、判断を誤ったのであろうと推測していいのではないかと思います。

PDCAサイクルにとって重要なのは、原因の分析とその原因に対応する的確な対策を策定して実行していくことにあります。だからその点はゆるがせにすべきではないと日頃から考えており、今回のレポートの事例における検討課題なのではないかと思います。

また、体制構築面での問題があったとなると当該具体的事例において取締役の善管注意義務違反があったといえるのか、監査報告書に取締役の任務懈怠として指摘すべきなのか(もし監査報告書作成までわかれば、という前提だが、現実的には内部統制上の問題点があることはわかっても、監査報告書作成時点では会計監査人ももしかしたら意見が固まっていないかもしれず、監査役としては善管注意義務違反といえるのかどうか判断に大いに悩むということになりかねない)という関連論点がでてくるので、監査役としては注意深くならなければと考えております。

<追記>

今、改めて読み返すと「さらに、それに対する牽制が充分に機能しなかったため」というのは体制構築にも問題があったということを表現しようとしたのではないかという気がしてきました。牽制が充分機能しないというのがその設計上ミスがあったということを認めているとすれば、この記述でも特に問題とするまででもないということになりますね。この表現意図的に選択したとすると、私が最後に指摘した取締役の内部統制構築義務についても考慮してこうなったということなのでしょう。

2009年6月20日 (土)

内部統制報告書の記載内容の検討備忘録(2)

引き続き内部統制報告書の検討備忘録です。6月18日提出分です。重要な欠陥を報告した会社はこの日もありませんでしたが、本日の日経朝刊によるとついに重要な欠陥を報告した会社があったということでそれをこれからみてみます。

1.アイ・ティー・シーネットワーク株式会社(2009年6月18日提出)

正社員の人件費が重要な評価対象とされた例

「さらに、財務報告への金額的及び質的影響を勘案して、重要性が高いと判断された特定の業務プロセス「正社員に関連する人件費」についても評価対象として追加した。」

2.愛三工業株式会社(2009年6月18日提出)

評価対象である勘定を明示しなかった例。

「業務プロセスに係る内部統制の評価範囲につきましては、前連結会計年度の連結売上高を指標に、概ね2/3以上を基準として、当社を含む3事業拠点を「重要な事業拠点」に選定いたしました。選定した重要な事業拠点におきましては、事業目的に大きく係る業務プロセスとして、販売プロセス、購買プロセス、たな卸資産管理プロセスを評価の対象といたしました。」

3.株式会社東海理化電気製作所(2009年6月18日提出)

重要な拠点を2種類にわけ、それぞれの拠点で評価の対象とした勘定がちがう例。なお労務費を対象としている例でもある。

「なお、重要な事業拠点の選定については、売上高を指標とし、概ね2/3を一定割合としております。当該重要な事業拠点における企業の事業目的に大きく関わるプロセスとして当社は、販売、調達、棚卸資産、有形固定資産、労務費を、その他の重要な事業拠点は、販売、調達、棚卸資産を評価範囲として選定いたしました。」

2009年6月18日 (木)

内部統制報告書の記載内容の検討備忘録(1)

内部統制報告書がぞくぞくと提出されていますが、その中で気づいた点をしばらく備忘的に記載します。2009年6月17日現在、重要な欠陥を報告した会社は35社中ゼロです。

1.株式会社セゾン情報システムズ(2009年6月12日提出)

評価の範囲について、「財務報告の信頼性に及ぼす影響の重要性の視点から必要な範囲について行い、この評価範囲は、財務報告に対する金額的及び質的影響の重要性を考慮して合理的に決定しました。」とだけ述べて、どのような事業拠点、勘定、業務プロセスが対象になっているのか、質的影響を考慮した付加的な評価範囲は何かをまったく明らかにしていない。内部統制府令及び内部統制府令4条、第1号様式の記載上の注意及び内部統制ガイドライン4-3及び4-4には明示的には反しないが、これでいいものだろうか。

2.日本高純度化学株式会社(2009年6月17日提出)

「財務報告の信頼性に及ぼす影響の重要性は、金額的及び質的影響の重要性を考慮して決定しており、会社を対象として行った全社的な内部統制の評価結果を踏まえ、業務プロセスに係る内部統制の評価範囲を合理的に決定いたしました。」と述べ、1と同様の問題がある。

3.株式会社ハマキョウレックス(2009年6月17日提出) 

評価範囲のほかに、評価方法にやや踏み込んで言及した例である。

「全社的な内部統制及び決算・財務報告に係る業務プロセスのうち全社的な観点から評価することが適切と考えられるものに関しましては、「財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準」に示された「全社的な内部統制に関する評価項目」に基づき評価項目毎に関係者への質問、記録の検証等の手続を実施することにより、内部統制の整備及び運用状況並びにその状況が業務プロセスに係る内部統制に及ぼす影響を評価いたしました。

また、業務プロセスに係る内部統制の評価手続は、評価範囲における事業拠点の業務プロセスを分析した上で、財務報告の信頼性に重要な影響を及ぼす統制上の要点を選定し、関連文書の閲覧、内部統制に関係する担当者への質問、業務の観察、内部統制実施記録の検証を実施することにより、内部統制の整備状況及び運用状況を評価いたしました。

なお、ITへの対応についても関連文書の閲覧、内部統制に関係する担当者への質問、業務の観察、内部統制実施記録の検証を実施いたしました。」

4.株式会社田谷(2009年6月17日提出)

1と同様の問題がある。内部統制ガイドライン4-4-2を少し変えてそのまま記載している例である。

「財務報告に係る内部統制の評価の範囲は、財務報告の信頼性に及ぼす影響の重要性の観点から、必要な範囲を財務報告に係る内部統制の評価範囲とした。当該評価範囲を決定した手順、方法等としては、財務報告に対する金額的及び質的影響の重要性を考慮し、全社的な内部統制の評価結果を踏まえ、業務プロセスに係る内部統制の評価範囲を合理的に決定し、整備及び運用状況の評価を行った。なお、重要な虚偽記載の発生可能性が高く、見積りや予測を伴う重要な勘定科目に係る業務プロセスやリスクが大きい取引を行っている事業又は業務に係る業務プロセスを財務報告への影響を勘案して重要性の大きい業務プロセスとして評価対象に追加している。

5.東京リース株式会社(2009年6月17日提出)

財務報告に係る内部統制の有効性の評価に重要な影響を及ぼす後発事象を付記事項に記載した例。第1号様式の記載上の注意(9)に忠実。

「当社は、平成21年2月25日開催の臨時株主総会における合併契約書の承認決議により、平成21年4月1日を合併期日としてセンチュリー・リーシング・システム株式会社と合併し、会社名を「東京センチュリーリース株式会社」、英訳名を「Century Tokyo Leasing Corporation」に変更している。

この合併により事業年度末日後、大幅な組織変更を行っており、今後システムの更改なども予定されているため、翌期以降の当社の財務報告に係る内部統制の有効性の評価に重要な影響を及ぼす可能性がある。」

以上、引き続きレポートします。

2009年6月16日 (火)

日経コラム「株主による企業統治を疑う」を疑う

ブログのデザインを季節にあわせて変えてみました。四季折々の変化に合わせる日本人の美感はすばらしいものがあり、私もそういうものを忘れないように季節にあわせてブログデザインを変えてみようと思います。

ところで、6月11日付の日経新聞のマーケット総合の囲み記事「大磯・小磯大機小機」に、「株主による企業統治を疑う」というコラムが掲載されています。企業を取り巻くステークホルダーには、株主、従業員、債権者、地域社会とさまざまな集団がいるのに、なぜ、株主が企業統治に「過大とも言える大きな権限」が与えられているのかと、いきなり、「株主には過大とも言える大きな権限が与えられる」という結論から出発して、議論を展開しています。

はじめに結論ありきの論調にも我慢して読み進むと、株主に「大きな権限」が与えられている理由は、結局は株主はほかの利害関係集団への分配が済んだ後の剰余である利益の一部しか受け取ることができないからとしか説明できない、といっています。しかし、リスクを負担しているのは株主だけではなくこの回答も説得力に欠けるといって、理屈はないが歴史的な経緯でこうなったのだというのが最も誠実な回答かもしれない、といっています。

さらに、こう考えると企業統治の権限と責任を誰が持つべきかについて、基本的に考え直す余地はありそうだとして、「特に日本では会社と従業員は終身雇用という書かれざる契約をしている。」といいます。

さらに続けて、「取引先とも長期で継続的な取引の慣行がある。これらの利害関係集団にも企業統治の権限を与えてもよい。」といっています。

そして「株主に大きな権利を与えることが株主の利益につながるのではない。実際、株主主権と言い始めてから日本企業の競争力が弱くなり、株価も上がらなくなった。この点について冷静に反省してみる必要がある。」と結論をしています。

この論者が結局いいたいことは最後の部分だったようです。

株主が取締役の選任・解任を通じて会社の経営を間接的にコントロールしているのが会社法の構造ですが、いったい何をさして「過大とも言える強大な権限」といっているのでしょうか。会社法でいう非公開会社、すなわち株式の譲渡制限が定められている会社ならばともかかくも、原則として、株主は取締役の選任・解任について年1回の株主総会で議決権を行使するという間接的方法でしか会社経営を左右できません。

株主に対してなぜこのような支配権が与えられているのかという問いについて、会社法における学説では、債権者が自分の債権の満足を得られればよいのに対して、それに劣後する立場の株主は企業価値の増大にもっとも強いインセンティブがあるからだと説明されたりもしています。もちろん、企業をとりまくさまざまなステークホルダーの立場を考慮すると、株主に対して会社の支配権を与えることがあたりまえというわけではないと指摘されていますが、この論者のように歴史的経緯によるというのがもっとも誠実な回答であるという説は初めて聞きます。

企業統治に誰が責任をもつべきかについて基本的に考える余地あり、というのに異議を申すつもりはありません。それ自体大変大切なテーマです。しかし、日本の企業が終身雇用であるという神話はとっくの昔に崩れ去っており、しかも正規従業員と派遣従業員との違いがいまや日本の会社の足をひっぱっているという認識が広まりだしているときに、終身雇用という見えざる契約があるというのは、最後の「株主に大きな権利を与えることが株主の利益につながるのではない。実際、株主主権と言い始めてから日本企業の競争力が弱くなり、株価も上がらなくなった。」ということをなんとか理屈付けようとしているだけでしょう。

しかし、株主主権といい始めて日本企業の競争力が弱くなったというのは、根拠を示さない無茶な主張というべきでしょう。ものいう株主に対する嫌悪感の表明にしかすぎません。カルパースがアクティブに発言を開始しはじめて、カルパースの保有している株式は5年間で40%価値が増大したという事実があります。日本企業において企業価値の増大という言葉があらわれたのも、物言う株主が増大してからのことで、それまではROEが1%、2%なんて企業はざらだったはずです。競争力が弱まったとするならば、もっとほかの理由があるはずです。株主がものをいうようになったから競争力がなくなったというのは、株主総会を前にして株主にだまれといっているに等しく、このようなコラムを掲載した日経新聞の良識が疑われます。

今、日本では第三者割当増資やMSCBの発行のような既存株主の利益を犠牲にするような現象にどのような歯止めをかけるかという議論をしている最中であり、取引所や金融庁が社外取締役設置義務論を展開するのに対して、経済界は監査役有用論を展開してこれに強く反対しています。結局、経団連側に譲歩する形で今回は収束したわけですが、問題は企業のガバナンスの強化には何が重要かであり、経団連の論理にのれば監査役機能の強化の方向にいくはずです。しかし、その基本的視点は、どちらの立場でも「株主の視点」「企業価値の向上」なのです。あまりに時代の動きに離れた「ため」にする議論が一流と目される新聞のマーケット欄にあらわれるのは、わが国経済ジャーナリズムの紙価を低めるものであり、残念といわざるを得ません。

2009年6月12日 (金)

監査役の内部統制監査と内部統制システムの「重大な欠陥」(2)

前回では実施要領の「不備」、「著しい不備」、「重大な欠陥」と、監査報告書に記載すべき「重大な欠陥」の中身について検討しました。今回はさらにそれをもう少し検討し、さらにそこから派生する問題についても考えてみたいと思います。

実施要領の考え方について、別冊商事法務No.307の座談会では、『なにが「重大な欠陥なのか」というアプローチはやめたほうがいい。監査役が監査報告書に取り上げるべきものが「重大な欠陥」なのだ。』といいながらも、『「重大な欠陥」は会社法の規定にそって監査報告書に書かなければならないのは何かという側面から導き出される。』としていますが、このように説明すれば、結局、会社法で規定されている監査報告に記載すべき事項とは何なのかを考えなければなりません。なぜならば、監査役の立場からすれば、そのような事項は義務的記載事項なのですから、それを記載しなければ、今度は監査役の任務懈怠になってしまうからです。ですから、何が「重大な欠陥なのか」というアプローチはとるなというのは、監査役にとって記載すべき基準となるものを考えるなといっているのも同じで、監査役を迷わせるだけとなってしまいます。

ところで、会社法は、監査報告に記載すべき事項の詳細を法務省令にゆだねており、会社法施行規則はそれを受けて「会社の取締役の職務の執行に関し、不正の行為または法令もしくは定款に違反する事実」の記載を要求しています(会社法施行規則129条1項3号)。法令違反の事実、定款違反の事実は比較的明確でありますが、それには法令違反、定款違反が故意によるもの、過失によるものが含まれます。しかし、どの本をみても、この施行規則の文言について故意であろうが過失であろうが区別せず、すべからく法令違反行為があったら故意・過失の有無をとわず記載する義務がある、といっているものはありません。

別冊商事法務No.307の解説を読む限り、監査役の経営の監視という職務から、法令違反・定款違反あるいは不正の行為を、取締役の善管注意義務に違反する行為の類型として捉えて、そのような善管注意義務違反の行為があったときはそれを監査報告に記載すべきである、と整理されているように思います。少なくとも実施基準及び実施要領の整理はそうなっております。ちなみに、葉玉説では、善管注意義務違反について法令・定款違反行為については過失を要求しなので、過失の有無にかかわらず監査報告には記載すべきことになると思われます。ただし、「会社法であそぼ。」をよく読むと、「会社法423条では、任務懈怠と過失は別要件であると解するのが当然だ」と書いているので、もしかしたら監査報告の場面は別の話ということになるやもしれません。ここが私が前回、葉玉説を正確に理解しているのかいまひとつ自信がないといった原因です。

ところで、監査役協会のひな形は、会社法施行規則で定められている事項のほかに、内部統制システムに関する取締役の職務の執行の妥当性を記載することになっています。これは、取締役の善管注意義務のひとつとして内部統制システム構築義務及びそれを適切に運用する義務があることから、これらの義務に対する違反は、法令違反と同列(あるいは取締役は会社に対して忠実義務をおっているという会社法355条の違反ーなお355条は忠実義務としているが判例・通説は忠実義務は特別なものではなく善管注意義務と同じ)として記載すべきであるという整理であると理解しており、説明として一貫しています。なお、取締役と会社との間は委任関係であるから、423条1項の取締役の任務懈怠とは、会社に対する善管注意義務・忠実義務の違反であり、民法の理論によれば債務不履行には故意・過失が必要であり、423条1項は過失が必要であるというのが立法担当者や通説がとる見解です。(伊藤=大杉他・214頁)

しかし、会社が法令違反行為を起したといっても、その違反行為について分析するとパターンは分かれてきます。

新規ビジネスの立ち上げについては、当該ビジネスについて適用される法令を調査し、違反のおこらないようプランをねることは、業務執行取締役として当然行うべきものであって、これを怠ったことにより業務執行取締役またはその指示にしたがった従業員が法令違反を起した場合は、業務担当取締役は過失により法令遵守をすべき義務を怠ったという善管注意義務に違反したといえるでしょう。

これに対して、既存ビジネスの遂行上法令違反が起きたときに、そのような法令違反行為がおこらないように組織を整備し、社内規則も整え、教育・研修も行い、監視もし、法令違反のような重大事案についてもモニタリングしていたという取締役には、善管注意義務違反を認められることになるのでしょうか。このような場合は内部統制システムを構築・運用していたから、この点について業務執行取締役には善管注意義務違反はなく、かつ、法令違反についても過失があるとはいえないので責任は問えないということになると思われます。

どうもこの辺の学者の言い方も判例もすっきりしないものが残ります。江頭・427頁は「取締役はすべての法令を遵守して職務を執行する義務がある。したがって、故意・過失により公益保護を目的とする法令に違反する行為を行えば会社に対する損害賠償責任が生じ得る。」と記載して、独占禁止法違反事件について違反の認識がなかったとして過失を否定した最判平成12年7月7日の判例を引用しております。すべての法令の遵守が取締役の義務でありながら、損害賠償責任を発生させる法令違反の範囲を公益保護を目的とする法令の違反に限定しているようにみえます。(もし、このような立場をとると監査報告に記載すべき取締役の法令違反のほうが、会社に対する損害賠償責任を発生させる法令違反行為より広くなりますが、ほんとにそこまで記載すべきなのでしょうか?)

法令違反が起きても、法令違反発生という情報が適切に業務執行取締役に届けられないような体制や運営が行われていた場合、その違反行為が、会社にとって重大なリスクを惹起するようなものであるならば、そのようなリスクを適切にコントロールする義務があるのにそれを怠ったとみるべき場合と思われます。これは内部統制システム構築義務の違反なのか、それとも法令違反行為について過失を構成する事実なのか、にわかに判別できませんが、いずれにしても、法令違反の報告体制がどうなっているのかを、監査役は取締役の善管注意義務違反があるかどうかの前提として検討する必要があることはたしかです。多くの会社ではリスク管理委員会などに重大な法令違反行為は報告がなされ、業務担当取締役はそれを認識できるようになっていると思いますが、そのような体制が作られていないか、あるいは運用上も重大な法令違反行為の報告が漏れてたりすれば、取締役の善管注意義務違反を疑わなければならないことになります。他の具体的事情を検討して、その判断をしないと監査報告が書けません。

結局、最高裁や学説は取締役は職務執行を行うにつきすべての法令を遵守すべき義務があるとしながら、監査報告書に記載すべき「会社の取締役の職務の執行に関し、不正の行為または法令もしくは定款に違反する事実」とは何なのかを明らかにしないことから、解釈についてバリエーションがでてきてしまうのです。

私は監査報告書の重みを考えると、内部統制構築・運用義務を果たしていれば法令違反行為がおきても取締役は会社に対する損害賠償責任をおわないという理論が確立された今は、監査報告書に義務的に記載すべき「会社の取締役の職務の執行に関し、不正の行為または法令もしくは定款に違反する事実」は、善管注意義務違反に限られる(その他の事実を任意に記載するのは監査役に裁量あり)と整理すべきであると思います。だから善管注意義務違反について故意・過失が必要であるならば、そこに記載すべき法令・定款違反も故意・過失によるものとなります。監査役協会の内部統制監査基準、実施要領と同じ考え方ですが、この考えをとると、監査報告に記載するかどうかの判断にあたり、単に法令・定款に違反した事実だけでは足らず、それが故意・過失によるのかを具体的事実関係に即して分析する必要があります。

このように考えてくると、監査役はそれを判断するためどのように充分な情報を収集できるのかという疑問がわいてきます。法制度としては監査役は会社に対する調査権(会社法381条2項・976条5号)があります。しかし具体的にこれを行使するにも、常勤監査役と非常勤監査役だけでは日常の監査業務もあり、限界があります。補助者である監査事務局を充実させて、情報収集と分析の補助にあたらせる体制が必要になります。

世間の取締役がなすべき役割に対する期待値や常識値があがれば、取締役の善管注意義務のレベルがあがってきますが、それは結局、監査役が任務懈怠といわれないように監査役が職務の執行を適正に行えるよう確保する体制を確保することにつながってくるということです。今の監査役事務局の体制は、上場企業の平均で2人を割っているときいていますが、そのような状況が充分なのか、監査役はまた検証しなければならないことになります。

しかもややこしいのは、そのような体制を整備するのは取締役の善管注意義務の中身であるということです。監査役はみずから体制整備の義務をおっているわけではないという会社法の建てつけからいうと、だんだん議論がぐるぐるまわっているような感じになりますが、理屈の上ではそうなってしまいます。

だんだん議論がわけがわからなくなってきましたが、あくまで備忘として書いておりますのであしからず。

2009年6月 5日 (金)

監査役の内部統制監査と内部統制システムの「重大な欠陥」(1)

上場会社の監査役として監査報告書を提出しました。会社法、会社法施行規則、会社計算規則、日本監査役協会が出している「内部統制システムに係る監査の実施基準」(以下、「実施基準」といいます)、「内部統制システムに係る監査役監査実施要領」(以下、「実施要領」といいます)等に目をじっくりとおし、非常に勉強になりましたが、その際、いくつかの疑問もわきました。そこで今回はこの点を、長くなる手間をいとわず備忘的に書いてみたいと思います。

会社法による監査役及び監査役会の監査報告には、会社の取締役の職務の遂行に関し、不正の行為又は法令もしくは定款に違反する重大な事実があったときは、その事実を記載しなければなりません(会社法施行規則129条1項3号・130条2項)。

監査役協会の定めた監査報告書のひな型では、監査の結果の欄に、①取締役の職務の遂行に関する不正の行為又は法令もしくは定款に違反する重大な事実の有無と、②内部統制システムに関する取締役会決議の内容の相当性についての意見及び当該内部統制システムに関する取締役の職務執行の妥当性を記載することになっています。上記の施行規則を受けたものですが、この②の点については、ひな型の脚注では以下のとおり解説されています。

「内部統制システムに係る取締役会決議の内容は内部統制システムの大綱を定めたものにとどまることが多く、当該取締役会決議の内容は相当であると認められる場合(省略)でも、当該取締役会決議に基づいて担当取締役がその職務執行の一環として現に整備する内部統制システムの状況について、取締役の善管注意義務に反すると認められる特段の問題等が認められる場合には、その旨を記載する。」(下線は私)

「実施基準」では、「重大な欠陥」と「不備」という概念が使われており、監査役は内部統制システム監査で発見した「不備」、助言又は勧告を要すると判断した論拠及び結論等について監査役会に報告し、監査役会はそれを受けて内容を検討した上、代表取締役等又は取締役会に対して助言又は勧告すべき事項を審議して実行し、助言又は勧告にもかかわらず、代表取締役等又は取締役会が正当な理由なく適切に対処せず、かつその結果、各体制の整備状況に「重大な欠陥」があると認められる場合には、監査報告においてその旨を指摘することになっています。武井一浩先生の別冊NBLNo.307の74頁以下の解説によると、「重大な欠陥」は監査報告において指摘すべき取締役の善管注意義務に反している事項であるとされています。

さらに実施要領では、「不備」は整備される内部統制システムの各体制が会社に著しい損害を及ぼすおそれがあると想定されるリスクに対応していないと認める場合をさし、軽微なものも含むとされ、取締役に対する随時の指摘、改善の助言を行うべきものとされています。

このうち「著しい不備」と認められるものは、監査役会の審議を経て、代表取締役を含む業務担当取締役又は取締役会に対して助言・勧告、改善の要請等の適切な措置を講じるべきものをいうとされています。そして、「著しい不備」のなかで、監査役によるこれらの助言・勧告、改善の要請等に対して、代表取締役等が正当な理由なく適切な対処を行わない場合は、「重大な欠陥」として監査報告において指摘すべき事項になり、取締役の善管注意義務違反にもつながるものである、とされています。ただ、前の武井先生の開設を読むと監査報告書において指摘すべき事項とは善管注意義務違反ですから、つながるものであるという表現になぜしたのか引っかかるところですが、重大な欠陥=取締役の善管注意義務に違反している事項であるという整理であると一応考えていいと思います。

なお、財務報告の信頼性に係る内部統制でいわれている「重要な欠陥」と「不備」と、ここの「重大な欠陥」と「不備」とは違った意味で使われていることに留意が必要です。

以上を整理しますと

「不備」=会社に著しい損害を及ぼすおそれがあると想定されるリスクに対応していないと認める場合

「不備」の認識⇒取締役に対する随時の指摘、改善の助言を行うべきもの⇒監査報告書に書く義務はなし。

「著しい不備」=監査役会の審議を経て、代表取締役を含む業執行担当取締役又は取締役会に対して助言・勧告、改善の要請等の適切な措置を講じるべき不備⇒監査報告書に書く義務はなし⇒代表取締役等が正当な理由なく適切な対処を行わない場合は、「重大な欠陥」となる⇒監査報告において指摘すべき事項になり、取締役の善管注意義務違反となるもの。

別冊商事法務の座談会では、「重大な欠陥とはなにか」というアプローチはやめたほうがいい、結果として監査報告に書くべきレベルの瑕疵が「重大な欠陥」なのだという説明がなされています。しかし、同時に「重大な欠陥」は、会社法の規程にそって監査報告に書かなければならないのは何なのかという側面から導き出された概念である、と説明されています。この説明だと「重大な欠陥」=取締役の善管注意義務違反の場合ともいいきれれないニュアンスがありますが(だから前記脚注では「取締役の善管注意義務違反にもつながるものである」とされているのでしょう)、中心的なコンセプトは善管注意義務違反により「不正の行為又は法令もしくは定款に違反する重大な事実」(施行規則129条1項3号)があるときにはそれを書くということです。

ということは、監査報告書に記載すべき取締役の責任を発生させる善管注意義務違反があったかどうかを、結局は監査役が判断しなければならず、それをするには、取締役の善管注意義務の中身の理解をさけてとおれません。ところが、これが具体的事例の検討をするとなると、そうそう容易ではありません。

たとえば、会社において日常的に起こりうる軽微なものから重大なものまで幅がある法令違反行為はどうなるのでしょうか。

取締役の会社に対する責任(会社法423条、429条)を発生させる任務懈怠について、多数の学説は以下のとおり説いています(江頭・会社法第2版427~430頁、伊藤=大杉=田中=松井・会社法217~218頁など)。

①取締役の任務は法令を遵守して職務執行を行うことが含まれているが(会社法355条)、その法令とはすべての法令を含み、取締役が法令に違反する行為を行えば、会社に対する損害賠償義務が生じ得る。独占禁止法違反はここに含まれる。ただし、故意・過失による法令違反である。なお、すべての法令違反が会社に対する損害賠償責任を基礎づけるとは限らない、という立場もある。
② 業務執行上の判断に誤りがあった場合には、行為当時の状況に照らし合理的な情報収集・調査・検討等が行われたか、及び、その状況と取締役に要求される能力水準に照らし不合理な判断がなされたかったかを基準に考え、この基準を満たさない場合は過失があり、経営判断の原則は排除される。
③他の取締役・使用人に対する監督義務違反を含む取締役の不作為による任務懈怠については、過失責任とされる。
④内部統制システム構築義務については、その行為の当時、会社の置かれているビジネスの状況等から判断して重大なリスクに対応し、会社の損害を防止するため合理的に必要とされる最低限のリスク管理体制を構築する義務があり、過失によりこれを怠ったときは取締役はそれによって生じた会社の損害を賠償する責任を負う。

したがって、業務執行取締役がその職務執行中に法令違反を犯し、または、部下が法令違反を犯したとしても、法令違反行為について業務執行取締役に過失が認定されなければ善管注意義務違反はないことになります。また、内部統制システムの構築・運営に関しては、従来から存在するビジネスの執行を行うについて適用法令を識別し必要な遵守活動を行う合理的な内部統制が構築・運用されている限り、業務執行取締役も他の取締役も善管注意義務違反はないということになると思われます。ただし、新規のビジネスについて、法的リスクの洗い出しが甘くもれた結果、法令違反を引き起こした場合には業務執行取締役については善管注意義務違反が認定され得るが、業務執行取締役からの新規ビジネスの法的リスク等について説明を受けてその開始決議に賛成した取締役は善管注意義務はない(ただし、必要な情報をあげさせることがちゃんとできていないときは別と思われる)と整理できると思います。

ところで、取締役の善管注意義務については、任務懈怠とは過失と同一ではないという説もあります。この説をとられている葉玉先生のブログの解説が分かりやすいので(会社法であそぼ-善管注意義務)、それを引用したいと思います。

葉玉説によると、取締役の善管注意義務は

①取締役会等の意思決定機関における意思決定の場面
②代表取締役・業務執行取締役等の業務執行機関が意思決定機関の意思決定にもとづいて業務執行をする場面
③他の取締役が①②について監視する場面

で問題となりますが、任務懈怠は、取締役の①から③の権限の行使が
ア 会社法その他の法令・定款・株主総会の決議に違反する場合(逸脱)
イ 自己又は第三者の利益を図る目的又は会社に損害を与える目的で行使される
場合(濫用)
ウ 関連業界の通常の経営者を基準として事実に基づく判断が著しく不合理であった場合(著しく不合理な判断)
に認められるとされています。

そして葉玉説によればアの場合は、過失があろうがなかろうが任務懈怠になるとして、食品会社の代表取締役が、取締役会の決議に基づき、無許可で医薬品を販売した場合、代表取締役による販売行為は違法であり、任務懈怠となり、また、その販売行為は、取締役会の決議に基づくものだから、その取締役会の決議において賛成した取締役も、任務懈怠は認められるとしています。

他方、内部統制システムの構築は、ウの著しく不合理な監督権の不行使と言われないようにするために行うもので、具体的にはその企業の規模等に応じて、適切な内部統制システムが構築され、かつ、そのシステムが機能していることを監督すれば、個々の取引について具体的な監督を行っていないとしても、監督責任を負わないというものであると理解しています。

こういう理解ですと、たとえば会社が新規ビジネスを立ち上げて業務を執行するにあたり、知っておくべき法律を知らないで違反を犯した場合にはアであって、その新規ビジネスの開始に賛成した取締役も職務執行を行った取締役も全員任務懈怠で、善管注意義務違反があったということになります。故意・過失は葉玉説では問題になりません。ここでの疑問点として、監査役もその注意を怠ったということで善管注意義務違反を免れないということになるのかという点がありますが、それはちょっと横におきます。

他方、既存のビジネスについて法令違反を起さないように内部管理体制を構築し、適用法令のチェックやその遵守のための手続や組織を構築していた場合は、監視にあたる取締役には任務懈怠はないが、業務執行取締役はその内部統制運用に不備があって法令を見落として違反を犯した場合には、任務懈怠があることになると考えられていると思いますが、葉玉説では、既存ビジネスの開始に賛同し決議に参加した取締役はすべて任務懈怠があったということになりそうです。

葉玉説の理解がどこまで正確なのかあまり自信がないですが、どうも葉玉説では、任務懈怠に過失の要素を持ち込まないと、法令違反がおきた事案では取締役の善管注意義務違反が認定されるケースがふえそうです。

しかし、会社を運営していく上で多数の法令を完璧に守らなければ、業務執行取締役は常に、「●●の業務執行取締役については●●法第○条の遵守が業務執行担当部門でできなかったという点において任務懈怠があった」と監査報告書で指摘されなければならないというのは、行き過ぎのように思います。

以上、相当長くなりましたので、続きはさらに別に書きたいと思います。

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