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2009年5月21日 (木)

業績の悪化と内部統制報告

3月末決算の公開会社は、いよいよ内部統制報告の作成ドラフト準備と監査人の内部統制報告評価の準備の両方について最終段階を向えていることでしょう。先月の日本内部統制研究学会シンポジウムの報告によれば、今までもっとも多い相談は何が重要な欠陥に該当するかという問題と内部統制報告書の記載のあり方だそうですが、これらについては当ブログでも何回かとりあげております。今回は、金融危機から発した世界的な不況の中で、問題になりそうな業績の悪化や大幅な為替変動と内部統制報告の評価について考えてみたいと思います。

内部統制の評価範囲については、重要な事業拠点の選定について売上高などを用いて金額の高い拠点から合算して、概ね3分の2程度に達するまでの拠点を重要な事業拠点として選定するのが実施基準に示された考え方でしたが、9月以来、売上げの大幅な減少を経験している企業が圧倒的に多い中、重要な事業拠点として対象とした事業部や海外子会社の売上に占める構成比が大きく変動していることも多いでしょう。為替変動も海外子会社の業績を連結でとりこむときに大きく影響していることでしょう。

「内部統制報告制度に関するQ&A(追加分)」問74は、①当初評価範囲として選定した事業拠点の売上高等の合計が概ね3分の2程度に達しなくなる場合に、これに達するまで評価対象に新たな事業拠点を加えなければならないのか、②仮に追加的に評価対象に加えた事業拠点の内部統制の一部について十分な評価手続を実施できない場合には、「やむを得ない事情」に該当するとしてよいか、③連結グループ全体の売上高が減少したため、当初の評価範囲として重要な事業拠点の売上高等の合計が8割を超えた場合、概ね3分の2程度になるまで重要な事業拠点の主要な勘定科目に係る業務プロセスを絞り込んでいいか、という三つの質問に回答しています。

①については、「経営者は、評価範囲を決定する計画段階で、前年度の売上高なども参考に当期の業績予測も一定程度考慮して評価範囲を決定することが適用であると考えられる。計画段階でそうした事情も考慮して適切に評価範囲を決定しているのであれば、全社的な内部統制が有効であることを前提として、一定割合を著しく下回らない限りにおいて、選定している重要な拠点をもって適切な評価範囲であると判断することが可能であり、当期の内部統制の評価範囲を見直す必要はないと考えられる。」としています。

この回答は、決算・財務報告プロセス以外の業務プロセスの評価範囲のことをいっていることに留意する必要があります。評価範囲の対象の前提としての事業拠点の選択についても前年度の売上高「等」を参考として概ね3分の2に達するまで重要な拠点として選択すると実施基準はいっていました。この回答は「等」について、前年度の実績だけでなく、当期の業績予測も「一定程度」考慮して評価対象を決めなさいといっており、そういう適切な評価範囲の決定を行ってることが条件になるとしているのです。ここまではどこの会社もあまり問題はないと思います。

ところで、当期の業績予測については、本年3月末で終了した事業年度については昨年10月~本年2月の間に業績予測を下方修正し開示した会社が多数あります。疑問なのは、当期の業績予測は一番最初のものだけをベースに評価範囲の決定をしていいのかどうかという点です。第2四半期末までの下方修正ならば、それをベースに評価範囲を拡張し事業拠点を追加しても、構築・評価はなんとかできるのではないかと思いますが、それ以後の修正ごとに評価範囲を見直して事業拠点を付け加えていかなければならないとすると、追加された事業拠点については十分な内部統制構築や評価手続ができないということもあるので、そこまでする必要はないという見解がありえます。

他方、評価範囲たる事業拠点の売上高が全体の売上高の例えば50%未満になってしまうような場合を考えると、業績予測の修正をした場合にはその都度、評価範囲も追加するとしないと、内部統制評価の意味がなくなってしまうから、こういう場合は業績予測の修正をした際に、評価範囲たる事業拠点を追加させ、十分な評価ができないときには「やむを得ない事情」に該当するとしてその事情を開示させたほうが、投資家にとってはよほど安心という議論も、なりたつでしょう。しかし、結局において十分な評価ができなければ、内部統制評価の意味がなくなってしまうということには変らないのであって、会社にそこまでの負担をかけて評価に向かわせるのはどうか、という反論が考えられます。

また、「全社的な内部統制が有効なことを前提として」と断っているのは、業務プロセスの絞込みは全社的内部統制が有効な場合であり、それが問題である場合には、評価対象を広げなければならないという原則があるので、全社的内部統制に問題がある企業は評価範囲として事業拠点を追加しなければならなくなる場合もあるということを意味しているものと思われます。

このように、このQ&Aは一見明確なようで、不明確な点が含まれています。

次に②についてですが、①の回答を前提として、新たに他の事業拠点を評価対象に加えたときには、当該事業拠点の「一部について十分な評価手続を実施できない場合、そのことをもって直ちに「やむを得ない事情」には該当しない場合があるが、その際にも、評価範囲の制約としてその内容を記載することになる。」としています。

内部統制報告書の評価の範囲に関する事項については、やむを得ない事情により十分な評価手続が実施できなかった場合には、その範囲及びその理由を記載すると内部統制府令上定められています(第1号様式・第2号様式の記載上の注意点をみてください)。この回答は、前段でやむを得ない事情に該当しない場合のことをいっており、「その際にも」のあとの文章の意味はやむをえない事情に該当しない場合にも、やむをえない事情に該当する場合と同様の開示をしなさい、といっているように見えます。「その際」の読み方次第ですが、これが「その場合」ならば「該当しない場合」という意味になりますので、当たり前のことをいっていることになりますが、そうでないとすると新しいルールを書き加えたことになります。

最後に③ですが、「概ね3分の2程度になるまで重要な事業拠点の主要な勘定科目に係る業務プロセスを絞り込んでよいか」というQ&A問74の質問そのものがわかりにくいですね。事業拠点の売上勘定に係る業務プロセスのどこからどこまでを絞り込むと売上勘定が3分の2になるんでしょう??

ともあれ回答は「重要な事業拠点における事業目的に大きく関わる勘定科目に至る業務プロセスについては原則としてすべてを評価の対象とするとされていることから、当該業務プロセスを絞り込むことは適切でない。」としています。

また、回答はこのようなケースの場合には、重要な事業拠点自体を一定の割合まで除外することも考えられるが、「当該超過の事実により、評価範囲の見直しをするときには、慎重に検討を行う必要がある。」といっています。その理由としては、既に当該事業拠点について当初の評価範囲に基づいて内部統制の整備を行っているものと考えられるからいまさら除外のは適切ではない場合もありうること、当初の評価範囲の決定にあたっては売上高等の指標以外の要素も勘案して決定している場合もあることを指摘しています。

しかし、絞り込みを認めたのは、US-SOXの内部統制整備の文書化の作業があまりに重かったことの反省にたったからであって、このような場合に除外も認めなくてもいいのではないかと思います。

以上、問74の回答はもう少し検討すべきだったのではないかと思う次第です。

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