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2009年2月 2日 (月)

内部統制報告書の記載内容は法定記載事項を満たしてるだけでいいか?(1)

前回の記事の最後に、大和総研の方が、内部統制報告書の記載内容について「十分な情報開示といえるか疑問が残る」とコメントしておられる点について、検討したいと思います。

「財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するための体制に関する内閣府令」(名前があまりに長いですが、通常「内部統制府令」とよばれています)は、第4条で内部統制報告の記載事項を法定していますが、その条文の形式は、報告書の様式を法定し、内国会社については第1号様式、外国会社については第2号様式にしたがって内部統制報告書を作成すべきである、というふうになっています。

これにしたがって第1号様式、第2号様式とも記載事項を定めておりまして、以下の事項を書くことになっております。
①代表者の役職・氏名
②最高財務責任者がいる場合はその役職・氏名
③評価の範囲、基準日及び評価手続に関する事項(評価範囲の決定手順・方法など。評価対象の絞り込みを行っている場合には、重要拠点選定の指標と勘定科目等。十分な評価手続が実施できなかった場合は、その範囲及び理由)
④評価結果に関する事項
⑤付記事項(後発事象、期末後に実施された重要な欠陥の是正措置、米国基準の報告書の場合の記載方法など)
⑥特記事項(内部統制の評価について特記すべき事項がある場合には、その旨及び内容)

これらの事項のすべてについて、各様式の「記載上の注意」がさらに細かく内容について定めておりまして、上記の括弧内の記載は、そのうちから特に重要なものを掲げたものであり、詳細はこの「記載上の注意」を見なければなりません。

このうち③については、(ア)「財務報告に係る内部統制は有効である。」、(イ)「評価手続の一部が実施できなかったが、財務報告に係る内部統制は有効である。」及び実施できなかった評価手続と実施できなかった理由、(ウ)「内部統制に重要な欠陥があり、財務報告に係る内部統制は有効でない。」及びその重要な欠陥の概要と期末日までに重要な欠陥が是正されなかった理由、(エ)「重要な評価手続が実施できなかったため、内部統制評価結果を表明ができない。」及び実施できなかった重要な評価手続とその理由、を記載するとされています。

日経新聞1月28日の記事は、大和総研の方のコメントの前に「報告書は監査証明書と似た形で紙1枚程度の簡単なもの。」と述べておりますが、紙1枚程度にまとめよ、とはどこにも書いてありません。記載事項は法定されているので記載がなければ、金商法違反です。記載事項の記載があるものの、それをどの程度詳しく書くかという問題は、法令違反になるかという問題とは別の問題であり、その判断は当事者に任されているのです。紙1枚程度となっているのは、八田進二先生や町田詳弘先生の著書、あるいは内部統制評価の本で、記載事項をカバーした骨だけのサンプルフォームが乗っており、そのことをさしているのではないかと思いますが、これはあくまでサンプルです。

開示書類の基本は、投資家をミスリードしないこと、記載事項の記載がそれが要求されている趣旨に照らして判断するのに充分な情報を与えていることですから、内部統制報告書が記載として充分かどうかは、まずその観点から検討されるべきです。大和総研の方のコメントは、投資家の目からみて、サンプルフォームの記載で十分なのか、という疑問なのでしょう。サンプルフォームは記載事項をつなげて書いた、いわば骨だけのものなので、そう感じるのも無理はないですが、法定要件は満たしていると思います。では、投資家の判断に供するのに充分役にたつのかどうかという疑問はどうでしょうか。

日本で最初に内部統制報告書を提出した中小企業信用機構株式会社の法務監査部長の南村博二さんは、週刊経営2899号に報告をよせておられます。この中で、南村さんは、内部報告書について、冗長な解説や感情を表現しないことに注意すべきだと指摘しています。同社はドラフトでは、「なぜその業務プロセスを選んだか、なぜその勘定科目が大切だとしたのかについて様々な点から論理立てて解説し、その上でテスト結果について解説し、代表者がなぜ当社の内部統制は大丈夫であるとの心証が得られたのかについて筋道を立てて説明をした」ようですが、やめてシンプルな内部統制報告書を提出したそうです。

その理由は2点ありまして、「網羅性を完璧に追及すればするほど、たった一つの見逃しや説明不足があってもその点がクローズアップされ、監査法人から不完全とされるリスクが高まるという現実」があること、「最も大切な部分だけを取り上げその点について詳しく論及はするが、その他の点については内部統制上重大な欠陥があるとの心証が形成されるにはいたらなかったとの記載であれば、記述されていない仔細な部分で仮にもしテスト不足という目に見えない瑕疵が存在したにせよ、問題にはされないであろうという現実」があること、が指摘されています。

たくさん書けば書くほど同じくらいの記述をしないと網羅的でなくなるという点はもっともであるし、書きすぎて内部統制監査において報告書の記載が不足しているとされる可能性があるならば書かないほうがいい、という考え方は理解できます。

特に、投資家にとってみると、内部統制に重要な欠陥があるかどうかが重要であるかどうかの結論部分が最大の関心事であるし、内部統制報告制度はまさに問題があれば開示しろという制度なので、それがないという経営者の評価について、監査人が無限定適正意見をつけている場合ならば、内部統制報告書に記載事項を詳細に述べさせる必要もないというのは、納得できる考え方ではないでしょうか。(ただし、私は内部統制監査の結論如何で内部統制報告の書き方が変わるべきだといっているわけではありません)。また、仮に内部統制監査報告書が限定付適正意見や不適正意見であるときは、内部統制監査報告書に限定がついた理由や、不適正と判断した理由を述べなければならないので、そちらのほうで理由が具体的に述べられれば投資家としては判断しやすいでしょう。ですから法定記載事項の骨だけを書いた内部統制報告書でOKで、むしろ内部統制監査報告書のほうが投資家にとって重要ということになります。

ただ、南村報告は、上記(ア)のケースのレポートであって、(イ)(ウ)(エ)のケースについての視点から書かれているものではないので、これらの場合について記載をどうするかは別に検討すべきです。

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コメント

中堅企業の担当のtonchanです。ご無沙汰しております。

 「内部統制報告書」の記載事項は私のような立場の人間にとっては最大の関心事です。今回の制度趣旨から担当者の立場で判断してもとも先生の意見に賛成です。大体、分厚い報告書には「アリバイ」以外に何の意味も無いと考えているからです。
「内部統制報告」制度のこれからの正しい方向は、財務諸表の信頼性を合理的に担保できていることを評価して報告することに尽きるように思います。当面は企業の制度に少し付加し、将来の大きな制度変更時には考慮すべきポイントとして加味できる状況にしていくことだと思います。
 いずれはこれが分かるような「報告書」を作成したいと考えております。残念ながら当面は時間が無いので、最も簡単な「報告書」例を参考にすることになると思います。(ザンネンです)

tonchanさん

コメントをどうもありがとうございます。ブログにはこのように書いたのですが、今年の3月に事業年度が終了する企業のうち、昨年後半に課徴金制裁を受けている企業の内部統制報告書がどうなるかに個人的には注目しております。特に、重要な欠陥がないという場合に一体どのように記載するのか興味深々です。時間がなく、ブログにはここまでしか書いておりませんが、さらに後半をまもなくアップしたいと思っておりますので、またぜひご意見をお寄せください。

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