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2009年1月27日 (火)

金融危機の構造と新たな規制体制

わが国の金融政策立案に大きな影響を与えている慶応義塾大学の池尾和人教授が、週間金融財政事情1月5日号で、今回の金融危機について、市場型間接金融が重層的に連鎖した構造(シャドーバンキングシステム)が規制外であったことにより、事態を悪化させたという分析をされております。「行き過ぎた市場型間接金融の蹉跌」という表題のこの論文は短いですが、原因の分析と今後の金融規制のあり方を簡潔に述べております。以下、備忘録ですが、要約します。

池尾論文は、アメリカのサブプライムローン市場のメカニズムから説明します。それは市場型間接金融の重層的構造であるとして、以下のとおり解説されています。

  1. サブプライムローンをオリジネートしてMBS(住宅ローン債券担保証券)を発行する。
  2. RMBSのシニア、メザニン、エクイティとトランチされたもののうち、メザニンを集めてCDOを組成して売る。それでも売り切れない場合は「CDOスクエアード」(CDOを集めて組成したCDO)にして売却する。
  3. それらCDOはMMFや金融機関が投資ビークルとして設立しているSIV(Structured Investment Vehicle)が購入するが、そのためにSIVはABCP(資産担保コマーシャルペーパー)を発行するか、レポ市場でCDOを担保に資金調達をする。

今回の金融危機の発生のメカニズムは、この重層的な市場型間接金融が、次々に崩壊して発生したとして、その一連の現象を以下のとおり説いています。

  1. ABCPの買い手やレポ市場の資金の出し手は、情報劣位者(=規模のより小さい金融機関など)であって資産価値を源流をさかのぼって評価する能力はないので、格付けなどの「市場の上部構造」に依存しているが、上部構造が信用できなくなって不安に駆られると、取り付けを起こす。
  2. ABCPの買い手がいなくなると、SIVの資金繰りを支援するため、その親銀行がABCPを購入する。レポ市場で証券化商品が担保として受け入れられなくなり、BNPパリバ傘下のファンドの払い戻し停止を契機に、レポ市場が事実上消滅する。
  3. 価格が見出せない事態が起こる(価格発見機能の喪失)。
  4. 破綻する金融機関の増加にともないCDSの支払いが増加。プロテクションの売り手である金融機関の経営が一挙に悪化する。
  5. このような市場の機能不全が銀行チャンネルに負担をかけ、信用収縮を起こして実体経済へ影響が及ぶ。

そしてその原因として、ノーベル経済学賞を受賞したアンドリュー・マイケル・スペンスの分析を引用し、以下の要因を指摘しています。

①不完全で分断された規制、

②世界的な不均衡、

③過度の金融緩和、

④情報の非対象性、

⑤商品の複雑性に起因するカウンターパーティリスクの顕在など

②③はマクロ経済政策の話であるが、アジア金融危機により、アジア・ラテンアメリカ諸国が外貨準備に対する需要を拡大させたため、大半の新興経済諸国が貯蓄過多となる一方、米国経済の期待成長率が高く、米国への投資により高い収益性を享受できるという期待から、米国のみが唯一の投資超過国となったが、その米国は過去20年間ボラティリティが低い平穏な時代を過ごしていたため、リスク感応度が落ちていた、と論じています。

また、④⑤が市場型間接金融のダークサイドが露わになったもので、これを原因として、エージェンシー問題、すなわち依頼者のために最善を尽くすといいながら、自分の利益だけを追求するような行動、具体的には投資銀行やヘッジファンドが投資家に隠した形でリスクテイクし、見かけの収益性を高くし、巨額の報酬をえるという利益相反問題があらわとなり、また、金融技術を乱用し、リスクを管理するまたはリスクを減らす手段であるのにリスクを隠す手段として使い、投資家にはリスクをとっていないように見せかけてきたと、資本市場の仲介者を強く非難されます。とりわけCDSについては、実質保険なのに、準備金を積まずに全部収入にしたと指摘しています。

こうした分析から、規制上の手当てとしては、エージェンシー問題のコントロールを目的としたレバレッジ規制、報酬規制、市場の上部構造の再構築を目的とした格付け会社規制および会計基準が論点となるとされています。論文ではふれていませんが、ヘッジファンド規制もこの一環となると思われます。

池尾論文の原因の指摘については、すでに金融当局の動きがでています。①は規制のあり方の問題で、米国で規制当局の組織改変という形ですでに動き出しています。日本でも、金商法制定の議論の過程で、コモディティデリバティブの規制及び商品先物の規制について、金融庁と経済産業省と農林水産省との綱引きがありましたが、この問題も今後さらに議論されることになるでしょう。1月24日の日経新聞夕刊で報道された、ガイトナー財務長官がヘッジファンドの登録制を復活させて監視下におくという動きも、当然の成り行きということができるでしょう。

池尾論文の①から⑤の原因分析は、いずれも金融審議会金融分科会で議論されている課題と直結しております。まさに今、グローバルな規制のあり方とともに日本の規制が変化をふたたびおこす時代に入ってきており、規制のグローバル的平準化もますます進行するでしょう。

ただし、私が池尾論文で賛同できないのは、CDSを準備金を本来必要とする金融商品であると断言している点です。池尾教授のような専門家でも、CDSの誤解があると思います。CDSは金利スワップなどの他のリスクヘッジ商品と本質的に変わるものではありません。ただ、CDSのカウンターパーティリスクが軽視されていたこと、CDSの濫用的使用によりリスクの不透明化をおこしたことが根本的原因であり、準備金とすべきものを全部収入にしたといって非難するのは、よくあるマスコミのCDS悪人論と同じであると思います。問題はリスク管理やリスクのトレーサビリティであって、商品そのものではないと思います。

この点については、ぜひクレデリの専門家であるDangerously Beautifulのdbsbさんのご意見を聞いてみたいところです。

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コメント

とも弁護士さま、ご指名(?)ありがとうございます。早速池尾論文を読んでみますね。

dbsbさん

読んでいただけて光栄です。コメントをよろしくお願いします。

とも弁護士さま、CDSやSIVなどについての誤解はありますが、大学の先生にしてはとてもまともな論考という印象を受けました。ブログで題材に使わせていただきました。

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