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2008年12月20日 (土)

社外取締役と社外監査役の役割の議論はどこから出発すべきか

TOSHI先生がブログで経済産業省の企業統治研究会の第1回議事録要旨についてコメントされているのを読んで、早速拝見してみました。

そもそも企業統治研究会は何を研究するのかといいますと、設立趣旨にはこう書いてあります。

『ここ数年の買収防衛策の議論に見られるように、近年のグローバリゼーションの進展に伴い、企業統治の在り方全般の改善について大きな問題となっている。日本経済が安定的に成長し、将来にわたって持続的に繁栄していくためには、社会経済的に望ましい企業統治の在り方について、真摯に検討を行う必要がある。具体的には、特に適正な少数株主保護などの観点から、社外役員の導入などの議論が必要である。

このような観点から、コーポレート・ガバナンス向上に向けたルールの在り方全体について検討を行うべく、経済産業省経済産業政策局長の研究会として、「企業統治研究会」を設置する。』

この設立趣旨からは、次のようなことがいえると思います。

第一に、この研究会の多くのメンバーが企業価値研究会に参加していたという点を踏まえ、少数株主保護という視点を特にうちだしているという点は、研究会のめざす方向を端的に示しているということです。特に、この点は、最近、日本経済新聞に報道された、法務省が第三者割当を取締役会の権限だけでできるのではなく、株主総会の決議にかからしめる方向で検討するということと(その報道の真偽はともかくとして)方向性を一にしているということが非常に興味深いと思います。

第二に、少数株主保護の観点からの社外役員の導入などの議論を特に行うという、日本の上場会社ではいまだ進展しているとはいえない社外取締役や社外監査役の導入という方向性を押し出している点を、注目すべきであると思います。また、金融庁で長く開示制度の改正と内部統制報告制度導入について担当され、今も市場課長としてわが国の資本市場の問題点をつぶさに観察しつつ立法にあたっている池田唯一氏がオブザーバーとして入っているので、研究会でどのような分析や意見が提示されるのかが注目されます。

この点について補足しますと、上場企業で経営状況がよろしくない会社が、安易な第三者割当増資や新株予約権の第三者割当を行うという事例が増加している現状があります。しかも、その第三者割当先が反社会的勢力であると疑われるような先である場合もでてきています。私の知る限り、反社会的勢力は小さな上場企業だけでなく、一部上場のかなり大きな企業にさえ共生者を通じてアプローチをしている事例が散見されます。これは証券取引等監視委員会の現在の最大にして最重要な関心事でありましょう。経験上、そのような企業は、ガバナンスに問題があることが多いと思われます。経営トップの監視がそこでは最大のテーマです。

また、証券取引等監視委員会が有価証券報告書審査を行い、重要な事項について虚偽の事実を記載しているとして課徴金制裁を受ける事例が毎月のように報告されています。この事例のパターンには、売上の水増し、前倒し計上、循環取引、子会社株式減損評価の不適正処理というような経営主導としか思えないようなものがかなり含まれており、この面からも日本の企業に対するガバナンスの状況については、西武鉄道事件の際の金融庁の有報自主点検要請に対して山のように訂正報告書が出てきた状況からどれくらい改善しているのかが疑問視されている、といっても言い過ぎではないと個人的には考えています。

こう考えてくると、研究会の検討課題も「ずばり」という印象をもちます。以下がその検討課題です。

(1) 我が国における企業統治の現状と課題
(2) 解決しなければならない課題
  ① 日本企業一般、特に上場企業に対する社外役員の導入の適否とその在り方
  ② 親子上場における社外役員の独立性とその在り方
  ③ その他コーポレート・ガバナンスに関する事項
(3) 将来的に解決しなければならない課題
(4) 規制の在り方として、ソフトローとハードローのいずれを選択するかの検討

(4)は結構強烈で、いざとなったらハードローで解決もあるよ、といっているのも同じかもしれませんね。

さて、第1回議事録を読むと、以下の4つの論点が提示されて議論されました。

  1. コーポレートガバナンスの在り方を検討する際の基本的視点と前提
  2. 日本企業のガバナンス形態における監督と執行の分離についての現状認識と将来
  3. 社外役員の意義・役割について
  4. 社外取締役導入のルール化について
  5. 「社外性」の要件の「独立性」への改訂について
  6. ルールの対象について
  7. ルールを定める際の手段の選択について
  8. コーポレート・ガバナンスを巡るその他のご指摘

たいてい、議事録は各委員の発言要旨を順番に書いているので、議事録を読んでも前後の一貫性がないこともあります。ガス抜きに使われることもあるので、そうなってしまうのですが、この議事録にもその傾向があります。だた、私が注目したいのは2の論点の議論で、ここは皆さんが、日本では取締役会は監督機関でなく執行機関であるという認識が強いという点と、投資家は取締役会に監督機能を期待しているという点で一致しているようです。

私も、日本の企業の権力構造や取締役会の構成からみて、取締役会の執行と監督の未分離というのは日本企業の最大の弱点であり、これを既存の取締役会を前提として、未分離のままで社外取締役のような執行を期待されない監督に重点を置くものをまぜていくのか、それとも分離を目指した方向で検討するのかを議論することが重要だと思います。

この点について、自分が上場企業の社外監査役を勤めている経験から、取締役会の監督について監査役が果たしうる役割は、取締役会や経営会議に参加し発言することにより、かなりの影響を及ぼしうると感じております。疑問点や忌憚のない意見をいうことは私のもって生まれた性格ですので(ときには生活する上で災いをもたらすこともあります(笑))、発言をして疑問点をぶつけたり、取締役が検討すべきと思われる点を指摘することで、人的な組織をたいして与えられていない監査役であっても、ガバナンス機能の向上に寄与できるという気持ちが非常にしております。つまり「発言する監査役」は、監督機能が期待される社外取締役と同じくらいの役割が果たせるのではないか、ということです。

このような社外監査役の機能について、私も会員となっておりますNPO特定法人社外取締役ネットワークで研究をしてみようという話があり、私も楽しみにしているところです。

今後の企業統治研究会の議論に注目したいと思います。

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コメント

とも先生、こんにちは。ご紹介ありがとうございます。いつも拝見しております。(ホンダの件は先生の思い入れがよく伝わってきました)

社外ネットで社外監査役に関する研究を検討している・・・・という情報は存じ上げませんでした。江頭教授を座長とする「有識者懇談会」のほうでは、(会計監査人選任権、報酬決定権など)会計監査人の独立性強化のための監査役制度についての議論がなされているようで、いくつかの視点から「監査役制度」が検討される、というのはたいへん興味深いものと感じました。この企業統治研究会のとりまとめについては本当に注目されるところなんですね。
内部統制に関するご意見を含め、また当ブログでも参考にさせていただきます。

TOSHI先生

コメントをどうもありがとうございます。先生のブログにはいつも啓発されております。

企業統治研究会がどのような議論を展開するかは本当に楽しみです。ただ、そこの力点はどうも社外取締役ではないかと思います。社長が生殺与奪の力をもつ取締役設置会社における取締役会の現実の権力構造を無視して議論はできないものであり、企業不祥事の温床のひとつはこのような構造を変えるインセンティブが経営者にはないことにある、と感じておりますが、果たして研究会の皆様がどの程度その点について感じておられるのかが、私の関心事であります。

監査役は、この点、かなり高い独立性を保障されていますが、いかんせん、たいした組織をもちません。先生が講師として参加された日本監査役協会の神戸大会の資料を拝見しましたが、私には、できないことを一生懸命完璧にやろうとしようとしている資料だらけのように見えました。ただ、実務をするうちに、監査役会にもう少し組織と力を与えたら監督機能の強化は可能ではないか、という考え方に変化してきており、私自身驚きの考え方の変化ですが(笑い)、この方向で少し考えてみたいと思っております。

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