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2008年12月に作成された記事

2008年12月28日 (日)

DIP型会社更生手続の運用の導入発表

東京地裁では、会社更生法の運用にDIP型が導入されることになりました。倒産実務に与える影響は大きいと思われるので、ご紹介したいと思います。

NBL895号に東京地裁民事第8部の部総括判事の難波孝一氏をはじめとする同部の判事諸氏が発表された、「会社更生事件の最近の実情と今後の新たな展開ー債務者会社が会社更生手を利用しやすくするための方策:DIP型会社更生手続の運用の導入を中心に」という論文が、DIP型会社更生手続の運用導入の背景、DIP型会社更生手続の運用をするための要件、保全段階での運用、更正手続開始後の運用、更正計画認可後の運用、その他会社更生手続を利用しやすくするためのその他の方策について詳細に論じております。

会社更生手続は担保権や租税債券等の優先権のある債権を手続の中に取り込み、組織再編成も含む手段をとることができる強力な会社再建手続であるにもかかわらず、近年は利用が非常に少なくなってしまいました。東京地裁での受理件数は平成19年で8件、平成20年は11月30日まで18件です。東京地裁では、会社申立類型(第1類型)、大口債権者申立類型(第2類型)、民事再生事件との競合類型(第3類型)に分けて処理をしています。債権者申立て事件で民事再生事件との競合類型は、債権者の一部が経営陣に対する不信感をもっているか、再生計画に賛同できないようなケースです。

論文は、会社更生事件処理の印象として、①瀕死の重傷もしくは危篤状態になって申立ててくるがもう少し早期に申し立てれば打つ手もあったと思える、②保全管理人、管財人に選任される弁護士は法律問題のみならず経営問題にも通暁しなければならないので、適任者が限定され、また管財人となっている弁護士にかなり無理を強いている、③申立て件数が少ない、と述べています。

脱線しますが、②の点は、弁護士業界の「倒産村」と呼ばれる倒産実務家の中でも、ごく少数の会社更生事件を8部お気に入りのごく限られた弁護士が交代で回しており権益化しているという声もあったので、これを裁判所側からマイルドに表現したものと思いますし、また、弁護士が経営問題を扱う限界を裁判所は感じていたのだなぁと興味深く思いました。

さて、紹介を続けます。会社更生事件について利用件数が少ない原因として、論文は、①会社更生事件が経営陣の総取替えという運用であるので、最後の最後まで会社が生き延びる道をさがそうとして万策尽きて初めて経営を他に譲る決心をする経営者に対して、最初から会社更生の申立てをするよう弁護士が依頼者を説得することには相当の困難が伴うこと、②法的整理手続を利用すれば事業価値が著しく毀損されるという懸念がいまだ根強くあること、の2点を指摘しています。

しかし、会社更生手続の申立てに至った経営陣すべてが違法な経営をした責任があるわけでもないような時には、経営陣に事業継続させながらの会社更生もあり得るし、また、例えば経営状態悪化後に大口債権者から送り込まれた代表取締役が諸事情により法的手続の申立てを余儀なくされるような場合に、代表取締役に会社再建の意欲があり大口債権者の支持もあるときは代表取締役を交代させる必要はなく、別除権協定を締結できる可能性が低いことで民事再生手続が選択できないような場合には、会社更生手続を選択させることも可だし、民事再生手続から会社更生手続に移行させるようなことも考えられる、と論じています。

このような考慮から、「早い段階での法的整理手続の利用を促すことにより、事業価値の毀損を防ぎ、事業再建の確立を高めて利害関係人の満足を最大化するという見地から、会社申立ての事案(第1類型)において、現経営陣が自ら事業再建を手がける意欲があるときは、一定の要件の下で現経営陣に経営権を留保して事業を再建することを認めてはどうかと考える。」として、以下のような要件を提示しています。

  1. 現経営陣に不正行為等の違法な経営責任の問題がないこと
  2. 主要債権者が現経営陣の経営関与の反対していないこと
  3. スポンサーとなるべき者がいる場合はその了解があること
  4. 現経営陣の経営関与によって会社更生手続の適正な遂行が損なわれるような事情が認められないこと。

以下、保全段階での運用、更正手続開始後の運用、更生計画認可後の運用、進行スケジュールが論じられています。詳細は論文をお読みいただければと思いますが、重要なのは、以下の点だと思います。

第一に更生計画認可決定まで標準で6ヶ月を想定していることです。また、終結決定まで3年を標準としていることも、5年、10年が当たり前の世界の常識をくつがえすものです。

第二に、従来の会社更生手続のベテラン弁護士たちの役割の変更です。すなわち、DIP型会社更生手続が開始されると、従来は申立てで関与が終了していた債務者会社代理人である弁護士が、その後も債務者会社の法律的助言者として関与を続けるということになる一方で、従来は保全管理人、管財人として選任されていたベテランが今度は監督役として関与し、かなりの役割をおうとされていることです。

例えば、論文では、申立て後に、弁済禁止等の保全処分とともに監督命令及び調査命令が発令され、会社更生事件にかかわった経験をもつ弁護士が監督委員兼調査委員に選任されること、保全処分の内容として、監督委員の同意を要する債務者会社の行為を指定すること、FA契約の締結を明示的に監督委員の同意を要する行為に指定すること、更生手続開始決定と同時に調査命令を発令して、保全段階における監督委員兼調査委員が改めて調査委員に選任されること、調査委員が管財人の報告書や貸借対照表等の当否や更生債権認否の当否を調査し裁判所に報告すること、管財人の要許可行為について調査委員の意見を重視することなど、会社更生のベテラン弁護士が管財人をしっかりと監督するための運用を提言しています。FA契約を要同意行為とするというのは、民事再生でFA契約が通常は要同意行為とされていないことに比較して、大変重たいことであろうと思います。

第三に、上場を維持したままのDIP型会社更生手続の構想が指摘されていることです。すなわち100%減資をしない更生計画案を許容し、上場規則において上場廃止の例外とされている、①法的倒産手続の申立て時に再建計画が開示され、②当該再建計画が裁判所の認可を得られる見込みがあり、③上場株式を全部償却するものでない場合で、④再建計画開示後1ヶ月間の上場時価総額が10億円以上を維持する場合等の4要件をみたすことにより、法的手続による事業価値の毀損を防止するという構想です。これは、大変大きな提案ではないかと思います。

この論文が掲載されているすぐのあとに、倒産法実務家の重鎮である多比羅誠、須藤英章、瀬戸英雄各先生が論文をかかれ、全面的にこの提案を支持されています。

さて、私のいいたいことをまとめましょう。

ごく少ない会社更生事件を職人芸的な限定された数の弁護士が処理する時代が終わろうとしています。そのかわり、DIP型会社更生手続により、経営権を握り続けることが問題がないと思われる経営陣が手続のヘゲモニーを握り、債務者会社代理人である弁護士の意見が重たくなりますが、ベテラン弁護士を監督委員・調査委員に配置することで、経営陣、さらには代理人弁護士の行動をチェックするという新たな構造の手続が始まります。

しかし、経営陣や代理人弁護士のバランス感覚、公平公正さがないと、申立て受理後に大口債権者との対立や大口債権者間の対立を招来する可能性もあるでしょう。このような事態に至ったときは、経営陣が変わっていないことによりまとめることが大変になることも想定されます。ベテラン三弁護士が、DIP型会社更生手続きにおいては、裁判所が法律家管財人なしに企業再建のコントロールタワーとして十全な機能を発揮するためには、裁判所書記官を含めた司法業務の組織的なサービス体制の検証が必要であるとその論文で指摘しているのは、監督委員・調査委員があくまで更生裁判所の補助機関に過ぎないことからくる限界を意識しているのかもしれません。

最近、清水直先生の「プロが語る企業再生ドラマ」を読み、企業再建にかける熱意や公平公正な処理を心がけながらも、従業員への細かな配慮をされて再建を推し進める姿勢に感動しました。清水先生は、特にこの本の中で、最近、倒産処理にかかわる弁護士に法律を振り回して利益を主張しているだけで公平公正の観点がない者がいることを指摘し、そのような弁護士に対して強い批判を加えています。DIP型会社更生手続に関与する弁護士は、清水先生の指摘に十分留意する必要があるでしょう。

2008年12月24日 (水)

アーバンコーポレイションの事業再生計画案にみる財務情報の適正性への疑問

アーバンコーポレイションの事業再生計画案が発表されました。↓

http://www.urban.co.jp/news_contents.html?id=875

事業再生計画案の格子は以下のとおりです。

①極東証券の子会社であるFEインベストメントが中央三井信託銀行の支援を受けながら、受け皿となる株式会社を設立して、そこがアーバンの不動産流動化事業を譲り受ける。

②株式会社広島ベンチャーキャピタルが100%出資する広島アメニティ株式会社が、広島銀行の支援を受けながら、広島事業を譲り受ける。

③再生債権の弁済は、平成21年10月末日までに第1回弁済(再生債権の元本及び開始決定前の利息・遅延損害金の合計額が200万円以下の再生債権者に対しては全額、200万円超の再生債権者に対しては200万円+200万円を超える部分に対し7.5%の確定弁済)を実施し、第1回弁済実施後1年以内に原則として事業譲渡対象資産以外の全ての資産の売却を完了したうえで、第2回弁済(最終弁済)を実施する。弁済率は、第1回弁済と第2回弁済との総額で、最大で元本等に対して15%程度の見込み。弁済原資については、事業譲渡代金、その他の資産の売却代金および手元資金等を充当する予定。

①②の譲渡金額については発表がありません。民事再生手続は手続の透明性、公正性が命であり、債権者に配布される再生計画案にはきっと譲渡金額がでているのでしょうが、この会社については、倒産前からさまざまな芳しからぬうわさが流れ、総会屋とおぼしき人間が株主総会で社長を攻め続け、さらに最後は重大な不開示問題を引き起こしたことを考えると、他の事業主に引き継いで流動化ビジネスを続けて行くならば、譲渡代金くらいは株主に対して開示してもいいのでは、と思うのは私だけでしょうか。

特に民事再生の場合は、共益債権や優先債権に弁済したあとで、なお清算配当率を超える弁済が再生債権者に対して可能であるか否かを検討しなければなりません。清算配当率は15%以下という事前の説明があればともかく、15%という弁済率に納得する債権者と株主がどれだけいるのか疑問に思います。

アーバンが民事再生申立の日である2008年8月13日に発表している平成21年度3月期第1四半期の決算短信(すなわち本年4月1日から6月30日までの数値)によると、連結ベースでの数値は以下のとおりです。

流動資産 4380億600万円 固定資産 387億2700万円

資産合計 4769億2200万円

流動負債 2449億2800万円 固定負債 1535億8500万円

負債合計 3985億1400万円

資本金   190億7300万円 資本剰余金 211億5000万円 

利益剰余金 195億8500万円 自己株式 2億4300万円

その他で

純資産合計 784億800万円

民事再生申立までの1ヶ月と13日でどれくらい資産劣化が進んだのかわかりませんが、この数値からすると営業譲渡をして弁済率が15%ということになるというのが、私にはまったく理解ができません。

すなわち、この会社は倒産前1ヶ月ちょっと前の6月30日現在のB/Sでは、資産が負債を上回っている状態であったのに、その主要な資産を営業譲渡すると負債に対して15%しか配当できないというのです。

ところで、アーバンの発表によれは、2008年7月31日現在で、

負債総額は2558億3200万円

ということです。(http://www.urban.co.jp/news.htmlの2008年8月19日のリリース参照)

この15%といえば、たった383億7480万円です。倒産1ヶ月ちょっと前に4700億円を超えていた資産は実は約8%の価値しかなかった(正確にはその後の劣化も考慮しますが)というわけです。

いくら100年に一度の金融危機が襲ったといっても、すべての資産価値が6ヶ月間で10分の1以下になったなんてこと、どうやって説明するのでしょうか。4700億を超えていた資産が、しかも有機的一体的に譲渡されるのに、なんでこんな数値になるんでしょう。清算価値と継続価値の差はあるとはいえ、私にはこの数値の激しい乖離は合点がいきません。倒産だからしょうがないね、というレベルの問題ではないように思います。投資家は、本当に裏切られたという思いではないでしょうか。

企業が継続していることが有報の前提とはいえ、ちょっとの間で継続価値と清算価値との乖離がここまで激しいようなことがOKならば、およそ有価証券報告書とか決算短信なんて倒産の場面ではあてにならないということになりませんかね。この会社の財務諸表の信頼性をどう考えればいいのでしょうか。もっとも、監査人だったあすざ監査法人は、この四半期レビューについて民事再生申立てを理由に意見表明をしていません。そういえば、最近のモリモトのケースでは民事再生申立て前にレビュー意見の表明がされませんでしたね。

以下は一般論です。中小企業の破産ならば、粉飾はしばしば見られます。しかし、上場企業の民事再生手続では、再生申立のベースになる財務諸表をもとに再生計画が練られる必要があり、その適正性は再生手続の前提となっているはずです。倒産直前の財務諸表からみて、粉飾が強く疑われるケースでは経営者を交代させて民事再生をすすめるべきですし、損益計算書やB/Sとの乖離があまりに激しければ、監督委員は再生債務者の財産評定に依拠せずに独自に調査すべきでしょう(いずれにしても監督義務はありますし)。その場合に財産評定が適正なものであって、清算価値が再生計画案を下回ることは確かだということになれば、そもそも再生債務者の財務諸表は適正たっだのかが疑われるのであって、監督委員は役員の損害賠償査定事由の観点からもこの点について厳密な調査が必要ではないでしょうか。そうでないと、上場企業の再生でもっとも大きな影響を被る株主=機関投資家・一般投資家は納得できないと思います。

倒産では債権者に対する透明性と説明が重視されますが、公開市場で株式を取得した投資家も大きな影響を被るのですから、上場企業の再生手続の中では、投資家に対する配慮があってしかるべきであろうと思います。

継続中の事件について、あれこれいうのは控えるべきですし、私も粉飾があるのではないかと主張しているわけではないですが、直近の財務諸表との落差があまりにも大きい再生計画案であり、かつ15%という配当見込率という驚きの発表なのですから、きちっとした説明をお願いしたいと思う次第です。

2008年12月22日 (月)

私立大学はまじめにデリバティブ取引の損失の原因に向き合う気はあるのか?

全国の主な私大18大学が今年3月の決算時に有価証券の含み損を抱えており、その合計額は計688億円に上るということが、読売新聞で報道されております。下記のリンクをご覧ください。

http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20081221-OYT1T00041.htm

約225億円の含み損でダントツ1位になった慶応義塾大学について、この報道が伝えるところによると、収入を安定させる目的で株や投資信託、仕組み債などに分散投資しているといい、有価証券の取得額も1250億円と、23大学中で最も多いとのことです。慶応の広報室は「市場環境の変化で含み損が膨らんだ。長期保有が原則なので、現実の損失にはなっていない」と説明したというのですが、いったいこのコメントは何なのでしょうか。

私が思いますに、このコメントは、①保有有価証券やデリバティブ取引の時価会計の意味を否定しているに等しく、②信用リスクをとっているということの理解がなく、③適切なヘッジを行っていないことの言い訳にしかずぎず、④有価証券に多額の投資をするについてどのようなポートフォリオ構成を選択したのかの説明になっていない、という点において、無責任かつ認識の低さをあらわすものでしかありません。

このような発言がでれば、民間企業の株主は怒り出しますが、大学ならばそれも許されるというわけでしょうか。この発言が、慶応義塾大学の理事会の真意を表すものでないことを心から祈るものであります。

今回多額の損失を出してしまった私立大学の管理体制と理事会の認識については、文部省は徹底的に洗い出すべきでしょう。もっとも文部省にリスク管理がわかる人間がいるかどうかが問題ですが、その道の専門家を招集してでも行うべきです。

今回の金融危機では、専門家のファンドマネージャーを雇って運用していたハーバード大学は多額損失を出した責任をとらせてファンドマネージャーを解雇しているといいます。日本の大学は、専門家を雇うことさえしておらず、そもそも論としてそんな体制で多額の投資を行っていいのかということからして考え方を改めないと、本当に民事再生申立の悲劇を招くことになりかねません。大学当局者は真摯に今回の事態を招いた原因に向きあうべきです。

2008年12月20日 (土)

社外取締役と社外監査役の役割の議論はどこから出発すべきか

TOSHI先生がブログで経済産業省の企業統治研究会の第1回議事録要旨についてコメントされているのを読んで、早速拝見してみました。

そもそも企業統治研究会は何を研究するのかといいますと、設立趣旨にはこう書いてあります。

『ここ数年の買収防衛策の議論に見られるように、近年のグローバリゼーションの進展に伴い、企業統治の在り方全般の改善について大きな問題となっている。日本経済が安定的に成長し、将来にわたって持続的に繁栄していくためには、社会経済的に望ましい企業統治の在り方について、真摯に検討を行う必要がある。具体的には、特に適正な少数株主保護などの観点から、社外役員の導入などの議論が必要である。

このような観点から、コーポレート・ガバナンス向上に向けたルールの在り方全体について検討を行うべく、経済産業省経済産業政策局長の研究会として、「企業統治研究会」を設置する。』

この設立趣旨からは、次のようなことがいえると思います。

第一に、この研究会の多くのメンバーが企業価値研究会に参加していたという点を踏まえ、少数株主保護という視点を特にうちだしているという点は、研究会のめざす方向を端的に示しているということです。特に、この点は、最近、日本経済新聞に報道された、法務省が第三者割当を取締役会の権限だけでできるのではなく、株主総会の決議にかからしめる方向で検討するということと(その報道の真偽はともかくとして)方向性を一にしているということが非常に興味深いと思います。

第二に、少数株主保護の観点からの社外役員の導入などの議論を特に行うという、日本の上場会社ではいまだ進展しているとはいえない社外取締役や社外監査役の導入という方向性を押し出している点を、注目すべきであると思います。また、金融庁で長く開示制度の改正と内部統制報告制度導入について担当され、今も市場課長としてわが国の資本市場の問題点をつぶさに観察しつつ立法にあたっている池田唯一氏がオブザーバーとして入っているので、研究会でどのような分析や意見が提示されるのかが注目されます。

この点について補足しますと、上場企業で経営状況がよろしくない会社が、安易な第三者割当増資や新株予約権の第三者割当を行うという事例が増加している現状があります。しかも、その第三者割当先が反社会的勢力であると疑われるような先である場合もでてきています。私の知る限り、反社会的勢力は小さな上場企業だけでなく、一部上場のかなり大きな企業にさえ共生者を通じてアプローチをしている事例が散見されます。これは証券取引等監視委員会の現在の最大にして最重要な関心事でありましょう。経験上、そのような企業は、ガバナンスに問題があることが多いと思われます。経営トップの監視がそこでは最大のテーマです。

また、証券取引等監視委員会が有価証券報告書審査を行い、重要な事項について虚偽の事実を記載しているとして課徴金制裁を受ける事例が毎月のように報告されています。この事例のパターンには、売上の水増し、前倒し計上、循環取引、子会社株式減損評価の不適正処理というような経営主導としか思えないようなものがかなり含まれており、この面からも日本の企業に対するガバナンスの状況については、西武鉄道事件の際の金融庁の有報自主点検要請に対して山のように訂正報告書が出てきた状況からどれくらい改善しているのかが疑問視されている、といっても言い過ぎではないと個人的には考えています。

こう考えてくると、研究会の検討課題も「ずばり」という印象をもちます。以下がその検討課題です。

(1) 我が国における企業統治の現状と課題
(2) 解決しなければならない課題
  ① 日本企業一般、特に上場企業に対する社外役員の導入の適否とその在り方
  ② 親子上場における社外役員の独立性とその在り方
  ③ その他コーポレート・ガバナンスに関する事項
(3) 将来的に解決しなければならない課題
(4) 規制の在り方として、ソフトローとハードローのいずれを選択するかの検討

(4)は結構強烈で、いざとなったらハードローで解決もあるよ、といっているのも同じかもしれませんね。

さて、第1回議事録を読むと、以下の4つの論点が提示されて議論されました。

  1. コーポレートガバナンスの在り方を検討する際の基本的視点と前提
  2. 日本企業のガバナンス形態における監督と執行の分離についての現状認識と将来
  3. 社外役員の意義・役割について
  4. 社外取締役導入のルール化について
  5. 「社外性」の要件の「独立性」への改訂について
  6. ルールの対象について
  7. ルールを定める際の手段の選択について
  8. コーポレート・ガバナンスを巡るその他のご指摘

たいてい、議事録は各委員の発言要旨を順番に書いているので、議事録を読んでも前後の一貫性がないこともあります。ガス抜きに使われることもあるので、そうなってしまうのですが、この議事録にもその傾向があります。だた、私が注目したいのは2の論点の議論で、ここは皆さんが、日本では取締役会は監督機関でなく執行機関であるという認識が強いという点と、投資家は取締役会に監督機能を期待しているという点で一致しているようです。

私も、日本の企業の権力構造や取締役会の構成からみて、取締役会の執行と監督の未分離というのは日本企業の最大の弱点であり、これを既存の取締役会を前提として、未分離のままで社外取締役のような執行を期待されない監督に重点を置くものをまぜていくのか、それとも分離を目指した方向で検討するのかを議論することが重要だと思います。

この点について、自分が上場企業の社外監査役を勤めている経験から、取締役会の監督について監査役が果たしうる役割は、取締役会や経営会議に参加し発言することにより、かなりの影響を及ぼしうると感じております。疑問点や忌憚のない意見をいうことは私のもって生まれた性格ですので(ときには生活する上で災いをもたらすこともあります(笑))、発言をして疑問点をぶつけたり、取締役が検討すべきと思われる点を指摘することで、人的な組織をたいして与えられていない監査役であっても、ガバナンス機能の向上に寄与できるという気持ちが非常にしております。つまり「発言する監査役」は、監督機能が期待される社外取締役と同じくらいの役割が果たせるのではないか、ということです。

このような社外監査役の機能について、私も会員となっておりますNPO特定法人社外取締役ネットワークで研究をしてみようという話があり、私も楽しみにしているところです。

今後の企業統治研究会の議論に注目したいと思います。

2008年12月 6日 (土)

子会社・関連会社の内部統制の「重要な欠陥」と親会社の評価(2)

ずいぶんと時間がたってしまいましたが、前回の続きの原稿がずっとドラフトで眠っていたので、掘り起こしてみました。こんどは関連会社のケースを検討しようとしているわけですが、自分でもわからないことだらけで、むしろ皆様のお知恵を拝借できればと思います。

関連会社とは連結財務諸表規則に定義されていますが、要約すれば、以下の要件を満たすと関連会社となります。

① その会社の議決権の百分の二十以上を所有している場合、

②その会社の議決権の百分の十五以上、百分の二十未満を所有している場合であって、かつ、(イ)役員等を派遣して、その者がその会社の財務及び営業又は事業の方針の決定に関して影響を与えることができる役職(代表取締役、取締役又はこれらに準ずる役職)に就任していること、(ロ)その会社に対して重要な融資を行つていること、(ハ)その会社に対して重要な技術を提供していること、(二)その会社との間に重要な販売、仕入れその他の営業上又は事業上の取引があること、(ホ)その会社等の財務及び営業又は事業の方針の決定に対して重要な影響を与えることができることが推測される事実が存在すること、のいずれかに該当する場合

③自己の計算において所有しているその会社の議決権と、出資、人事、資金、技術、取引等において緊密な関係があることにより自己の意思と同一の内容の議決権を行使すると認められる者及び自己の意思と同一の内容の議決権を行使することに同意している者が所有している議決権とを合わせた場合(自己の計算において議決権を所有していない場合を含む。)にその会社等の議決権の百分の二十以上を占めているときであつて、かつ、②の(イ)から(ホ)までに掲げるいずれかの要件に該当する場合

関連会社の定義はよく読む機会がないですが、こうやって見ると結構広いですね。このなかから重要な拠点として対象とされる関連会社の選択をするわけですが、その方法については、Q&A問5に解説があります。要は財務報告に重要な影響をあたえるような場合、たとえばその関連会社との取引がかなり大きくその取引の会計処理が財務報告に重要な影響を与えるときは対象にするということです。

関連会社の内部統制の評価について、Q&Aの問21は、「全社的な内部統制の評価を中心として、当該会社への質問状の送付、聞き取り、あるいは当該関連会社で作成している報告等の閲覧等適切な方法により評価を行うとしている(実施基準II2(1)①ロ)。また当該関連会社の規模、業務内容に鑑み、当該関連会社における虚偽記載のリスクが大きい場合には、当該関連会社における重要性の大きい業務プロセスにかかる内部統制の評価も必要となるときもありうる。」としています。

たとえば循環取引が多発している業界について、売上の実在性、在庫管理の業務プロセスについて関連会社の内部統制を評価対象にするということは、たいへん重要なんだろうなと直感的に思います。 関連会社の規定のしかたをみていると、実はここを意図的に狙って書いているという感じがします。関連会社との取引の売上を水増しする、前倒しする、循環取引をする、というような事象は過去たくさんおきていますし。

しかし、関連会社が上場している場合にはもっと話がややこしくなるのではないでしょうか。上場している関連会社ならば、それ自体が内部統制報告を提出しなければなりませんから、その内部統制報告をもらうということになるのでしょうが、たとえば双方の会社が3月末日が評価期日である場合には、関連会社の内部統制報告書はまだできあがっておらず、関連会社に内部統制報告書のドラフトでいいから見せてください、評価について問題となったところを教えてください、といっても教えてくれるでしょうか。子会社でもない関連会社が、そうそういうことを聞いてくれるとは素直に思えません。

もし見れないとなると、自ら関連会社を評価するということになりますが、そんなことは実務的に不可能でしょう。そうすると、ともかく日頃から関連会社と内部統制構築評価について情報交換をしておくということになるのでしょうか。

しかし、関連会社が、「わが社の不備はここ、重要な欠陥はここ」、なんていう未公開情報を出してくれるとも思えませんし、万一、財務報告の作成過程に重要な欠陥があったりすれば、それはインサイダー情報にもなりかねないわけですから、そういうケースでは情報交換も無理ですね。情報をだしてくれるならば、秘密保持契約を結ぶのは無論、チャイニーズウォールで内部統制評価部門を完全に囲ってしまうという方法も考えれます。自社の有価証券売買部門や他の者には情報が伝達されないので、たまたま関連会社の株券の売買を行ってもインサイダー取引に該当しないようにするという工夫は必須です。

情報交換に応じてくれる関連会社が、重要な欠陥の除去に取り組んでおり、内部統制報告について期末には重要な欠陥があったけれど提出日までに不備くらいにおとす、あるいは完全に除去する作業を行っている場合には、内部統制報告も最後の瞬間まで確定したものが出てこないことになりますね。これをまっていては、関連会社の評価などとても間に合わないことになりかねません。

こうしてみてくると、上場会社である関連会社の内部統制の評価そのものを認識するのがすこぶる難しいと思われますが、皆さん、どう工夫されているんでしょうか?

2008年12月 5日 (金)

ホンダF1撤退に、空を眺めて涙をこらえる

500億円という年間チーム予算がとても合理化できない、ということなのでしょう。ホンダがF1撤退を決定しました。経済環境の激変といえば、それはそうなのですが、大きくなった会社に機関投資家やファンドの目は厳しく、3年くらいさきの将来の収益予測をベースに考えればとても合理化できないということなのでしょう。投資家に説明がつかない、これが現在の決断の背景でしょう。経営陣は根性なし、とけなしてしまえばそれまでですが、そう話は単純ではなさそうです。こんな環境でも、ROE10%の要求という強欲なファンドがいっぱい存続するかぎり、経営陣は後ろ向きにならざるを得ないという側面が否定しきれません。そんな要求の内容を投資対象企業にばらまくファンドもあるのです。

トヨタが参戦する前は、日本の多くのファンにとってF1といえばホンダでした。スーパーアグリの撤退をつらい思いで聞いた多くの日本のF1ファンたちにとって、この撤退のニュースは打ちのめされる思いでしょう。私もかなりきています。スーパーアグリのほうがつらかったですが。亜久里さんのただただ前向きな姿勢が、スーパーアグリの撤退をさわやかな思い出に変えましたが、今回のホンダの決定はただただ苦いだけです。

たしかにHRF1は大きな問題をかかえていたと思います。エアロをバイクと同じと見誤った開発の失敗、英国化されたチームとホンダ本社との思惑のいきちがい、ニック・フライを頂点とする官僚の突出、バリチェロという高い買い物と佐藤琢磨の能力の評価ミス、などなど、あげたらきりがありません。しかし、それ以上に、現在の全世界の今後の売上予測を、100年に一度の大不況、金融マーケットの混乱を前に、冷静に見積もれば500億もつかってられないほど深刻だったということでしょう。

他のチームにとっても対岸の火事ではありません。フェラーリなどは、もっともこの不況で影響を受けます。レースを続けていくにしても、FIATの現状では撤退があっても不思議ではありません。バーニー・エクレストンも欲をこえている場合ではないのです。彼は今でもF1開催をしたいと持っている国などいくらでもあると思っているようですが、そんな国はいくつのこっているか、冷静に考えたほうがいいです。もう年なんだから、別れる奥さんにいくら渡すのはいやだ、なんていっていないで、F1をどう残すのかに残る余生をささげてほしいです。そうすれば彼は永遠に記憶されるF1の功績者となるでしょう。今ならば、F1を金儲けのすばらしい道具にしたてたというレベルでしか記憶されません。

ホンダの撤退はあらためてモータースポーツが存続しうる環境を知らしめました。しかし、モータースポーツの真髄に触れた者はその魔力に勝てるわけもありません。スピード、冷徹、激高、興奮、強欲、戦略、熱狂、戦術、最新技術、信頼、友情、憎しみ.....人間社会のすべてをぎゅっと凝縮して飲み込み、華やかな2時間のドラマにしたててF1はなりたってきたのです。我々を捉えてはなさない魅力は、予算が小さくなろうが、規模が小さくなろうが、おろかなアイデア(ワンメイクのエンジンとか)をとらなければ、きっと生き続けられるにちがいありません。ですから、F1よ、生き続けろ、と祈らずにはおれません。

さらにバトンが放出されたら、今、琢磨君が進めているトロロッソのシートのオッズも変わってくるのではないかと心配になります。バトンにうらみはございませんが、私としては絶対に琢磨君にシートをとってもらいたい、彼のあの成長した走りをトロロッソで見たい、そして表彰台にのぼる彼がみたい、という思いでいっぱいなだけに、不安になる展開であります。今年のストーブリーグはまったく目がはなせなくなりました。

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