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2008年12月28日 (日)

DIP型会社更生手続の運用の導入発表

東京地裁では、会社更生法の運用にDIP型が導入されることになりました。倒産実務に与える影響は大きいと思われるので、ご紹介したいと思います。

NBL895号に東京地裁民事第8部の部総括判事の難波孝一氏をはじめとする同部の判事諸氏が発表された、「会社更生事件の最近の実情と今後の新たな展開ー債務者会社が会社更生手を利用しやすくするための方策:DIP型会社更生手続の運用の導入を中心に」という論文が、DIP型会社更生手続の運用導入の背景、DIP型会社更生手続の運用をするための要件、保全段階での運用、更正手続開始後の運用、更正計画認可後の運用、その他会社更生手続を利用しやすくするためのその他の方策について詳細に論じております。

会社更生手続は担保権や租税債券等の優先権のある債権を手続の中に取り込み、組織再編成も含む手段をとることができる強力な会社再建手続であるにもかかわらず、近年は利用が非常に少なくなってしまいました。東京地裁での受理件数は平成19年で8件、平成20年は11月30日まで18件です。東京地裁では、会社申立類型(第1類型)、大口債権者申立類型(第2類型)、民事再生事件との競合類型(第3類型)に分けて処理をしています。債権者申立て事件で民事再生事件との競合類型は、債権者の一部が経営陣に対する不信感をもっているか、再生計画に賛同できないようなケースです。

論文は、会社更生事件処理の印象として、①瀕死の重傷もしくは危篤状態になって申立ててくるがもう少し早期に申し立てれば打つ手もあったと思える、②保全管理人、管財人に選任される弁護士は法律問題のみならず経営問題にも通暁しなければならないので、適任者が限定され、また管財人となっている弁護士にかなり無理を強いている、③申立て件数が少ない、と述べています。

脱線しますが、②の点は、弁護士業界の「倒産村」と呼ばれる倒産実務家の中でも、ごく少数の会社更生事件を8部お気に入りのごく限られた弁護士が交代で回しており権益化しているという声もあったので、これを裁判所側からマイルドに表現したものと思いますし、また、弁護士が経営問題を扱う限界を裁判所は感じていたのだなぁと興味深く思いました。

さて、紹介を続けます。会社更生事件について利用件数が少ない原因として、論文は、①会社更生事件が経営陣の総取替えという運用であるので、最後の最後まで会社が生き延びる道をさがそうとして万策尽きて初めて経営を他に譲る決心をする経営者に対して、最初から会社更生の申立てをするよう弁護士が依頼者を説得することには相当の困難が伴うこと、②法的整理手続を利用すれば事業価値が著しく毀損されるという懸念がいまだ根強くあること、の2点を指摘しています。

しかし、会社更生手続の申立てに至った経営陣すべてが違法な経営をした責任があるわけでもないような時には、経営陣に事業継続させながらの会社更生もあり得るし、また、例えば経営状態悪化後に大口債権者から送り込まれた代表取締役が諸事情により法的手続の申立てを余儀なくされるような場合に、代表取締役に会社再建の意欲があり大口債権者の支持もあるときは代表取締役を交代させる必要はなく、別除権協定を締結できる可能性が低いことで民事再生手続が選択できないような場合には、会社更生手続を選択させることも可だし、民事再生手続から会社更生手続に移行させるようなことも考えられる、と論じています。

このような考慮から、「早い段階での法的整理手続の利用を促すことにより、事業価値の毀損を防ぎ、事業再建の確立を高めて利害関係人の満足を最大化するという見地から、会社申立ての事案(第1類型)において、現経営陣が自ら事業再建を手がける意欲があるときは、一定の要件の下で現経営陣に経営権を留保して事業を再建することを認めてはどうかと考える。」として、以下のような要件を提示しています。

  1. 現経営陣に不正行為等の違法な経営責任の問題がないこと
  2. 主要債権者が現経営陣の経営関与の反対していないこと
  3. スポンサーとなるべき者がいる場合はその了解があること
  4. 現経営陣の経営関与によって会社更生手続の適正な遂行が損なわれるような事情が認められないこと。

以下、保全段階での運用、更正手続開始後の運用、更生計画認可後の運用、進行スケジュールが論じられています。詳細は論文をお読みいただければと思いますが、重要なのは、以下の点だと思います。

第一に更生計画認可決定まで標準で6ヶ月を想定していることです。また、終結決定まで3年を標準としていることも、5年、10年が当たり前の世界の常識をくつがえすものです。

第二に、従来の会社更生手続のベテラン弁護士たちの役割の変更です。すなわち、DIP型会社更生手続が開始されると、従来は申立てで関与が終了していた債務者会社代理人である弁護士が、その後も債務者会社の法律的助言者として関与を続けるということになる一方で、従来は保全管理人、管財人として選任されていたベテランが今度は監督役として関与し、かなりの役割をおうとされていることです。

例えば、論文では、申立て後に、弁済禁止等の保全処分とともに監督命令及び調査命令が発令され、会社更生事件にかかわった経験をもつ弁護士が監督委員兼調査委員に選任されること、保全処分の内容として、監督委員の同意を要する債務者会社の行為を指定すること、FA契約の締結を明示的に監督委員の同意を要する行為に指定すること、更生手続開始決定と同時に調査命令を発令して、保全段階における監督委員兼調査委員が改めて調査委員に選任されること、調査委員が管財人の報告書や貸借対照表等の当否や更生債権認否の当否を調査し裁判所に報告すること、管財人の要許可行為について調査委員の意見を重視することなど、会社更生のベテラン弁護士が管財人をしっかりと監督するための運用を提言しています。FA契約を要同意行為とするというのは、民事再生でFA契約が通常は要同意行為とされていないことに比較して、大変重たいことであろうと思います。

第三に、上場を維持したままのDIP型会社更生手続の構想が指摘されていることです。すなわち100%減資をしない更生計画案を許容し、上場規則において上場廃止の例外とされている、①法的倒産手続の申立て時に再建計画が開示され、②当該再建計画が裁判所の認可を得られる見込みがあり、③上場株式を全部償却するものでない場合で、④再建計画開示後1ヶ月間の上場時価総額が10億円以上を維持する場合等の4要件をみたすことにより、法的手続による事業価値の毀損を防止するという構想です。これは、大変大きな提案ではないかと思います。

この論文が掲載されているすぐのあとに、倒産法実務家の重鎮である多比羅誠、須藤英章、瀬戸英雄各先生が論文をかかれ、全面的にこの提案を支持されています。

さて、私のいいたいことをまとめましょう。

ごく少ない会社更生事件を職人芸的な限定された数の弁護士が処理する時代が終わろうとしています。そのかわり、DIP型会社更生手続により、経営権を握り続けることが問題がないと思われる経営陣が手続のヘゲモニーを握り、債務者会社代理人である弁護士の意見が重たくなりますが、ベテラン弁護士を監督委員・調査委員に配置することで、経営陣、さらには代理人弁護士の行動をチェックするという新たな構造の手続が始まります。

しかし、経営陣や代理人弁護士のバランス感覚、公平公正さがないと、申立て受理後に大口債権者との対立や大口債権者間の対立を招来する可能性もあるでしょう。このような事態に至ったときは、経営陣が変わっていないことによりまとめることが大変になることも想定されます。ベテラン三弁護士が、DIP型会社更生手続きにおいては、裁判所が法律家管財人なしに企業再建のコントロールタワーとして十全な機能を発揮するためには、裁判所書記官を含めた司法業務の組織的なサービス体制の検証が必要であるとその論文で指摘しているのは、監督委員・調査委員があくまで更生裁判所の補助機関に過ぎないことからくる限界を意識しているのかもしれません。

最近、清水直先生の「プロが語る企業再生ドラマ」を読み、企業再建にかける熱意や公平公正な処理を心がけながらも、従業員への細かな配慮をされて再建を推し進める姿勢に感動しました。清水先生は、特にこの本の中で、最近、倒産処理にかかわる弁護士に法律を振り回して利益を主張しているだけで公平公正の観点がない者がいることを指摘し、そのような弁護士に対して強い批判を加えています。DIP型会社更生手続に関与する弁護士は、清水先生の指摘に十分留意する必要があるでしょう。

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