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2008年9月23日 (火)

米政府不良債権買取案に対する米国議会の議論に思うこと

以下の記述は、弁護士としての職分をこえておりますが、素人の個人的感想としてお読みいただければと思います。

米政府の不良債権買取案は、発表当初はダウの反騰をよびましたが、それと同じくらい月曜日はダウは下がりました。世界の株式市場でも株価は下がっています。原油先物市場に急激な資金流入があることを見ると共に、ドルの価格が下落しています。市場は、米国政府案に対してポジティブなサインを出していません。

今回の米政府の対応は、極力、金融機関に対する直接の資本注入は避け、そのバランスシート上、価値が下がり続けている不動産関連ローンと証券化商品をとっぱらってやるというものですが、考えれば考えるほど、スキームとして足りないのではないかと思ってしまいます。

もともと今回の危機は、基本的には急速な資産劣化による取引相手の財務状況に対する懸念から発生しています。相手方の信用リスク懸念の急激な高まりにより、取引が成立しなくなったり、スプレッドの急上昇がおこっているのです。これは、基本的には取引相手方にリスクを十分に取れるだけの資本があれば、解消される性質のものです。

また、証券化商品は、信用リスク懸念により本来デフォルトする可能性が少ない優先部分についてもプライスがつかないために取引が成立しないのであって、アンダーライング・アセットであるモーゲージのパーフォーマンスが若干悪くなったとしても、その大部分はプライスがついて然るべきものでしょう。だから証券化商品のパーフォーマンスよりも、本当は取引相手の信用リスク懸念のほうが問題としては大きいのではないかと思います。

そうだとすれば、まず必要なのは信用力に懸念が出ている金融機関への資本注入なのではないか、と思えます。いまの市場環境では、だれも資金を出してくれない状況であるから、公的資金による資本投入が必要になるわけです。月曜日に銀行株を中心に価格が急激におちたのは、金融機関に対する信用懸念が相当強いことの証明でしょう。

この点、共和党政権は、政府が資本注入してエクイティをもつことを極力回避する戦略をとり、不良資産買取でバランスシートを改善するだけで切り抜けようとしているとしか思えません。この案では、リバース・オークション方式で、安い値段で買取を申し出た金融機関の資産から先に買うというのですから、金融機関はここで損失をだすことを覚悟しなければなりません。今自分のところで評価している価格より安くださないと、買い取ってもらえないリスクがあるのです。そうなった場合には、その損失が大きいと、当該金融機関の財務情報の信頼性に疑問符がついて株価の急落により市場からアウトを宣告されかねず、それを恐れて、適切な価格で申し出しないリスクがあります。金融機関が痛んでいれば痛んでいるだけ、そのリスクは大きいと思います。

民主党の第三者機関による査定の要求は、この点からすると理由がありますが、他方、オークションによって資本注入をできるような権利が自動的に政府に与えられるとすると、もっと躊躇する機関が増えると思います。日本の98年のときの状況を思い出してください。どんな金融機関も政府の介入を極端にきらいました。米国ならば、いっそうそうであると思います。

ですから、私は破綻状態に陥った金融機関を公的管理におくS&L危機のときのようなメカニズムの復活が必要であると思います。私の記憶が正しければ、破綻認定された金融機関は接収され、その組織は連邦の特殊な金融機関の一部とされ、RTCが公的な管理人として入っていき営業を続けるという仕組みでした。水曜日にRTCの職員が現れて全資産を接収し、翌週月曜日には営業はストップせず継続されていくが、何ヶ月かの間に資産をどうするかという決定をして処理方法を決めていくというものでした。そして、バルク・セールで資産を売っていきましたし、一部は証券化して市場に売却しました。

破綻認定された金融機関が特別公的管理のような仕組みのもとで管理下におかれ、政府資金で資本注入をし、あるいは第三者の資本注入を行うことによって、取引をする相手方が信用リスクについて恐れる必要がなくなれば、すくなくとも当該金融機関の保有する証券化商品の優先部分について正常な市場メカニズムが働いてプライスがつくようになり、流動性が回復していくのではないでしょうか。そのような状態に、はやくもっていかないとバルク・セールも証券化も不可能で、米政府のバランス・シートの悪化のみをまねいてしまうだけとなります。買取の規模が大きいほど、流動性が回復しない市場環境で買取をつづけていけば、今度は米国債の格付け引き下げという事態が起こってきてしまうでしょう。これも日本が経験したことです。

こう考えると、リスクが少ない商品が正常なマーケット・メカニズムによりプライスがつくようにするためには、資本注入なしで買取だけでやるのは無理であると思わざるを得ないのです。

モルガン・スタンレーはMUFJが資本参加をするようですが、他の何百とある金融機関はそうもいきません。ワシントン・ミューチャルのような大きい金融機関は、公的管理にもっていく、資本注入を強制的にやる、というような思い切った仕組みを作らない限り、信用不安の根本を押さえ込むのは無理であると思います。それが日本のバブル処理からえた教訓ではなかったでしょうか。

また、資本注入をしたあとどうなるかも、日本にいい例があります。新生銀行の再上場によるリスクテイカーたる投資家の大きな利益を代表例とする、海外資本が得たリターンについては数多くの事例を米国民に示せます。CNNによれば、米国民は政府資金の投入は必要だと感じているが、その結果としてどの程度の負担が国民に発生するかを非常に懸念しているといいます。日本が経験したことは彼らを説得するには十分すぎるものであると思いますが、いかがでしょうか。

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コメント

アメリカは、日本の「失われた10年」をよく研究し教訓にしていますよね。そして、判断が異様に速い..日本も見習いたいところです。日本の風土では難しそうですが。

エントリーとは直結しなくて恐縮ですが、よく「救済」というニュアンスで報道されるのは、あまり正確な表現ではないですよね。
破綻した会社を助けてやる、というよりも、金融システム全体のために強力な管理下に置かれる。本来潰れるべきものだが生命維持装置を付けて機能だけ生かされる、というニュアンスが正しいと思っています。

とも弁護士さま。先日は書込みありがとうございました(ですよね?)。わたしは溜池では勤務経験がなくお目にかかったことはないと思いますが、共通の知人はたくさんいると思われます。法律に関しては素人ですので、こちらでいろいろと勉強させてください。よろしくお願いします。

溜息山王さん

どうも書き込みありがとうございます。こちらこそ、溜息山王さんのブログでは大変勉強させていただいております(リンクを張らせていただいております)。クレデリの話題の深さでは日本一のブログだと思います。マーケットに一番近い情報源として今後とも引用させていただければと思います。今後ともよろしくお願いいたします。

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