« 米政府不良債権買取案に対する米国議会の議論に思うこと | トップページ | 米国金融安定化法成立で思う欧州と日本の対応 »

2008年9月30日 (火)

取締役の善管注意義務と経営判断の原則が本当に機能すべき場面

日曜日の晩に、内部統制ネタについて書こうと思っておりましたが、リーマン・ショックならぬフェラーリ・ショックに襲われて、ネタさえ忘れてしまいました。それにしてもホースをつけたままピット出口まで走ったマッサの姿に、まさに真っ青(おやじギャグ)。

それが少し回復いたしました本日、週間ダイヤモンド10月4日号を買ったところ、私とまったく同じ切り口で米国金融安定化法案を批判している記事をみつけました。なんとニフティのニュースにものっておりましたので、ごらんください↓。

http://news.nifty.com/cs/magazine/detail/diamond-20080930-01/1.htm

 

さて、前口上はこれくらいにして、前掲週間ダイヤモンドのトップ記事はMUFJと野村ホールディングスによる世界的金融再編への参戦についてでした。私個人としては、竹中平蔵さんと幸田真音さんの対談では経営能力についていまだに疑問視されていた日本の金融機関が、果敢な攻めを行う判断をしたことに、素直に拍手を贈りたいと思いますし、今後、世界市場での活躍を祈りたい気持ちです。

他方において、このようなタイミングにおいて極端に情報量が絞られており、しかも決断をするのに与えられている時間も極端に短い状況のなかで、巨額の出資や買収を決断するという仕事をするに際し、取締役が善管注意義務というタフな問題にどう向き合ったかに、とても興味があります。

取締役の善管注意義務については、おおむね以下のような理解が判例・通説といっていいかと思います(字体が違って恐縮ですが、私のロースクールの講義の準備ノートからのコピペです。下記の記述は経営法友会の「取締役ハンドブック」からほとんど引用させていただいております。この本、素晴らしいです)。

(ア) 取締役は業務執行にあたり、会社に対して善管注意義務をおっており、善管注意義務違反の業務執行行為により会社に損害が生じた場合にはその損害を賠償する責任をおう。

(イ) 取締役の業務執行は不確実な状況で迅速な決断を迫られることが多いので、善管注意義務が尽くされたかどうかは、行為当時の状況に照らし合理的な情報収集・調査・検討等が行われたか、および、その状況と取締役に要求される能力水準に照らし不合理な判断がなされなかったかを基準として判断される。

(ウ) 取締役に当該状況下で必要な情報収集等をへた事実認識や意思決定過程に不注意がなければ、取締役には広い裁量が認められる。


この原則の(イ)(ウ)の要件がみたされるかどうかが問題なのですが、実際の場面に照らしながら、どの程度の情報の収集が必要かつ合理的なのかという点、また、当該情報をどのように分析することが通常要求される能力水準に照らし不合理な判断かという点を考えるのは、それ自体まったく容易な作業ではありません。

ところが、日本の判例では、(イ)(ウ)の双方について裁判所がしばしば踏み込んで判断しています。しかし裁判官が本当に判断できる能力や経験をもっているかというと、どうみてもそうはいえず、また裁判官も最近では買収に関して素直にそう認めていると思われますが、そのような謙抑的態度が善管注意義務の問題について取られ続けるかどうかは読めません。

今回の金融再編劇は、金融ビジネスと信用秩序、金融商品と信用市場、投資銀行業務の動向とリスク管理、企業価値と買収・投資対価、エクジットなどについて幅広い知識をもったマネジメントでなければとても判断できるものではありません。こういう事例をみると、いかに(イ)の要件について裁判所が判断をするということが問題であるということがしみじみ理解されます。

江頭謙二郎教授はその著書や論文の中で、日本の判例の考え方が米国で発達した経営判断の原則からかけ離れており問題であることを指摘されていますが、こういう生きた事例のもとで、あとずけで当事者でないものがあの時の判断は正しかったのかどうかということを論じることが、あまりにも取締役を萎縮させてしまうことになることがよくわかります。取締役の善管注意義務は取締役を免責するためのシステムであることの意味を、よくよく考えるべきであると思った次第です。

« 米政府不良債権買取案に対する米国議会の議論に思うこと | トップページ | 米国金融安定化法成立で思う欧州と日本の対応 »

会社法」カテゴリの記事

内部統制・コンプライアンス」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/1098026/24149710

この記事へのトラックバック一覧です: 取締役の善管注意義務と経営判断の原則が本当に機能すべき場面:

« 米政府不良債権買取案に対する米国議会の議論に思うこと | トップページ | 米国金融安定化法成立で思う欧州と日本の対応 »