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2008年9月18日 (木)

AIGとリーマンはなんで取り扱いがちがうのか?-米当局の迷走ー

AIGに対する850億ドル(9兆円)の公的資金を使った融資による救済(政府がその約80%の株を取得できるオプション付き)が決まりました。AIG破綻のリスクがあまりにも大きいというのが、その理由であると報道されています。たしかに世界120カ国で事業を展開するAIGの破綻は、すさまじい影響があるでしょう。ですからこの決断は正しいと思いますが、なんでリーマンとちがうのでしょうか。

米国のアナリストの中にはAIGのこのような救済が節操がないと批判し、バーナンキFRB議長は何がシステミック・リスクなのか、明確に説明する必要があるとしています。例えば下記の記事をご覧ください。

http://jp.reuters.com/article/businessNews/idJPJAPAN-33801120080917

確かにポイントはそこにありますが、私はAIGを救済したのが問題ではなく、リーマン救済に公的資金を使わない決断をしたことが大問題であったと思います。ここにはシステミック・リスクについて、認識が不足していると思えるからです。リーマン・ショックによる市場の混乱があまりにも大きかったので、AIGについては公的資金を導入しなければ、米国発世界恐慌が現実化すると考えざるをえなかった.....それが今回のAIG救済劇の実体ではないでしょうか。

昨日、ブログにかいたリーマンのデリバティブ取引のエクスポージャーは、インターバンク間取引については、デリバティブ取引の有担保化が進んだためと、多くのデリバティブ取引がリーマンのインザマネー(つまりリーマンの勝ち)であるために、心配したほど大きくはないようです。市場関係者と話しましたが、デリバティブ市場の動きには、大きな影響がないようです。この点、CNNMoney.comによりますと、ベアー・スターンズの場合にはデリバティブのエクスポージャーが9兆ドルもあったのに対して、リーマンはその10分の1であったとしています。それが正しいとしても9000億ドル、100兆円です。1997年11月の日本の金融危機の際には、日本の金融機関のバブルの負債が100兆円とも150兆円ともいわれていましたが、それに匹敵する規模です。

http://money.cnn.com/2008/09/15/news/companies/why_bear_not_lehman/index.htm

もしリーマンがアウト・オブ・ザ・マネーであったら、公的資金導入なしでチャプター11に追い込むことなど不可能だったでしょう。リーマンのエクスポージャーはイン・ザ・マネーであったから、公的資金導入なしでも市場は耐えられると、米当局は読んだのではないでしょうか。

しかし、この読みはすでにサブ・プライム危機が市場に与えている心理的影響を、まったく軽視したものであったと思います。リーマンのチャプター11申請が発表されて以来、全世界の市場は暴落しました。ポールソン財務長官の楽観的なコメントとは逆に、市場は大変な混乱に陥ったわけです。日米欧の中央銀行が市場に供給した短期資金は1日で36兆円にものぼります。日銀は、本日も短期金融市場に3兆円の緊急流動性供与を行っています。ロシア証券取引所MICEXとロシア第2位の取引所RTSは、ついに取引停止に追い込まれています。米当局は、リーマンのような国際的投資銀行の破綻の影響をアンダーエスティメートしていたのではないでしょうか。

http://www.worldtimes.co.jp/news/bus/kiji/2008-09-17T191035Z_01_NOOTR_RTRMDNC_0_JAPAN-338043-1.html

日本市場を例にとって、リーマンのチャプター11が市場に与えた影響について見てみましょう。

本日の金融ファクシミリ新聞によると、短期金融市場ではリーマンによる無担保コールとCPの残高はなかったとされています。また、先にのべたとおり、日本のデリバティブ市場において、リーマンを相手とするデリバティブ取引の一括清算による金融機関の連鎖倒産の恐れは語られていません。

しかし、日銀が3兆円も流動性供給をしても、無担保コール市場は日銀の誘導目標の0.5%を上回る0.55%から0.70%程度で推移したといいます。20bps高い金利で調達しなければならないという事態は、金融機関同士が相手方のクレジットの状態に相当の疑心暗鬼になっている証拠でしょう(かつてのジャパン・プレミアムが想起されます)。

また、ブルームバーグは、日本の金融機関のリーマン向け融資及びリーマン発行の社債で回収不可能になる可能性があるものが約2500億円と報じています。この内訳は大手8行で1367億円、地銀32行で673億円、生保6社で993億円、損害保険会社5社が約150億円(ただし1社は未公表)ということです。地銀の中には、71億円も引っかかっているところがあります。

http://www.bloomberg.com/apps/news?pid=90003017&sid=aRq7Rbv7jqGA&refer=jp_japan

これに加えて、16日に民事再生の申立がでた系列企業サンライズファイナンスとリーマン・ブラザーズ・コマーシャル・モーゲージの負債総額は7484億円であると報道されています。内訳は負債はサンライズが3640億円、コマーシャル・モーゲージは3845億円で、両者のビジネス上、資金調達は日本の金融機関によるローンと思われます。この負債総額はほとんど証券化される前の不動産物件やSPCに対するローンであるとすると、どの程度担保物件がとられているか疑問ですが、債権譲渡登記や不動産登記がなされていなければ担保権は対抗できませんから、これらの手続きが終了していなければ全額が再生債権ということになります。

http://www.bloomberg.com/apps/news?pid=90003017&sid=adCh.UIFv32Y&refer=jp_japan

以上に報道された日本の金融機関のすべての債権が回収不能としても、1兆円にみたないので、この程度なら日本の金融機関全体としてはリスクを飲み込めそうですが(地銀についてはあぶないと思われるところがでてくるとしても)、それでも市場は先にのべたとおりの反応をおこしているわけです。それは、相手方の信用リスクに対する懸念が引き起こしている信用収縮にほかなりません。ここでは、リーマン・ショックにより、大きな規模での信用収縮がはじまっているのです。

このような信用収縮が全世界の市場でおこり、米当局の「想定の範囲内」にまったくおさまらなかったために、AIGについては当初公的資金による救済を拒否していたFRBも、公的資金による救済に踏み込まなければならなくなったのではないでしょうか。

バブル崩壊のときに日本が手本とすべきとされたのは、S&Lの破綻のときの米国の手法でした。その時に、レッスンとして学んだことは、破綻状態の金融機関を長く生かしておくと後の処理が高くつくということ(日本はバブル崩壊後7年も当局がほっておいた)、また、早期処理については、思い切った公的資金の導入を含んだ措置が必要、という2点でした。今回の米当局は、日本に示した2つのレッスンを十分に生かしているとはいえず、また、さらに、その後のITの進歩や金融工学の発達によってリスクの所在が不明になった事態に、市場がいかに不安を抱え急速な信用収縮をおこすのかという点についても、認識が不足していることを示してしまったと思います。

これから、みんな覚悟して生活する必要がありそうですね、よほど大胆な勝負ができる人以外は。

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